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金糸雀纏(1)



金糸雀(かなりあ)(まとい)――?」


朗太は久方ぶりにあったその人物に驚くと同時、その少女と出会った当時のことを思い出していた。


金糸雀纏との出会いは別段珍しいものではなかった。


『金糸雀纏です。よろしくお願いします』


中学時代、後輩としてこの少女は同じ部活に入ってきたのだ。

比較的女子部員の少ない部活だった。

この可愛い顔をした女子部員の入部に当時多くの生徒が色めいていたものだ。

多くの生徒が纏に恋していた。

そしてその後朗太が部活を辞めた後も色々絡んできた少女である。

というより部活を辞めた後の方がよく絡んできたような……


遠い昔の話である。


「めっちゃ久しぶりだな纏! てゆうか青陽にしたんだ?! 言ってくれれば良かったのに」


朗太はむき出しになりつつあった胸筋をしまい手を広げ歓迎した。

だが纏は朗太の信愛の証など掃いて捨てるように無視すると


「先輩を驚かせようと思ってたんですよ。それと一体なにやってたんですか?」

「見てくれ中学時代とは見違えるほどムキムキになったろ?」

「いえ、全然変わってません」

「なん、だと……!?」


朗太は困惑した


変わって無い、だと?

あんなに筋トレしたのに??

洗脳済みの朗太は目を剥いた。


一方で


「え!? なになにこの可愛い子?? 朗太知り合いなの!?」


横合いにいた姫子は纏とこちらを何度も往復して見、驚嘆していた。


「俺の中学時代の後輩だ。同じ部活に入ってきたんだ。な?」

「そうです! 先輩とはそういう関係なんです」

「纏とは古い付き合いだよ」

「朗太さんとは付き合い長いですね」

「し、しかも、、下の名前呼び?」


姫子は自分と纏を指さし「う、嘘でしょ……」顔面蒼白で狼狽えていた。


何ショック受けてんだ。

朗太は嘆息した。


一報で纏も気になることがあるようで


「て、てゆうかこの人、茜谷さんですよね? 『二姫』の……。どういう関係なんですか?」

「あぁここ最近こいつの手伝いしてるんだ」

「え゛」


瞬間、纏が石化したのが見えた気がした。

朗太の言葉に纏は真顔で固まった。

そして――


「え、嘘ですよね?」


ニッコリと作り笑いで朗太を下から覗き込んだ。


「嘘じゃないぞ?」

「え、そういうの良いですよ~。要らないですって~。先輩がぁ~こんな美人に相手にされるわけないじゃないですか~?」

「助手としては相手にされてるぞ?」

「だから~流石に冗談でも笑えないって言うか~? 有り得ないこと言わなくて良いんですよ~?」

「だから本当だって」


朗太が念押すとしばらくうっそ~やだ~っと手をヒラヒラ振り笑っていた纏は


「うそだぁぁぁぁぁ!!」


頭を抱えて唸りだした。


「わわわわ私がいない一年の間に何があったの~~~!? そんな馬鹿な!? これじゃぁ健気に同じ高校に来た可愛い後輩にメロメロ作戦が台無しじゃないッ! そんなの酷いよぉ~~~」


どうやら話を聞いてみると纏は何がしかの策があったらしい。

しかし、それが自分が姫子とつるみだしたことで打ち砕かれた、と。


「何を言ってるか良く分からないが、姫子とつるみだしたのは2年に入ってからだぞ?」

「秘密で入学したわ良いものの結局ビビって足踏みしているうちにそんな事態に?! そんな~~~!!」


可哀そうに思い朗太が打ち明けると纏はガシガシ~と頭を掻くと天を仰いだ。


「ビーナス姫子のファッキ〇アシスタントがまさか先輩だなんて……!」

「俺裏でそんな呼ばれ方してるのか!?!?」


いくら何でも酷くない?!

朗太は拳を握った。

ファッキ〇は良くないよ。ファッキ〇は。

言って良い事と悪いことがある。

酷すぎて笑っちゃったよ。


と、朗太が呆れていると


「え、何その子?」


背後から固い声が聞こえてきた。

振り向くと


「あ、白染?」


そこには天使がいた。

白いシャツに緑色のハーフパンツに身を包んだ風華がいたのだ。

風華は女バスの活動中、何がしかの用事で学習棟に用があったらしい。

背後には数名の朗太も知らない女子生徒を引き連れていた。

そして朗太が衣服の先から延びる白い手足が妙になまめかしいその姿に昇天しそうになっていると風華は心底驚嘆し大きく瞳を開いていた。


「あ、いや…中学の後輩の、金糸雀纏だ」

「ふーん、かなりあさん……?」


朗太がいぶかしみつつ紹介すると値踏みでもするように風華は纒を眺めた。


「随分と、仲が良さそうだけど」

「そーなんですよー仲いいんですよー」


纏の先制攻撃が風華に入る。


「そりゃそうよ」


だがそれを遮る形で姫子の言葉が挟まった。


「だってこの子、朗太を追ってこの高校に入学したんですもの……」

「え? 嘘でしょ!?」


それを聞いてこれまでの不穏な空気をかなぐり捨て風華は息を飲んだ。


「凛銅君モテるの!? 信じらんない!?」

「何より傷ついた!!」


想いの人の手酷いコメントに朗太は叫んだ。


「あ、アンタ、自分を棚に上げておいて何言ってんのよ……」

「や、ま、まぁそうだけど……、でも姫子。いや、これは?! 有り得なくない!? いいの!? 凛銅君で?」

「や、だからアンタも……」

「あぁ、そうか……! や、私はがっちりハマった感があるから良いのだけど、いやちょっとこれは……」


風華はどうしても纏が自分を追って高校に来たことが受け入れられないようだった。

正直、これほど悲しい事態はない。

酷くない?

朗太は問答する。

好きな子から『凛銅君がモテるとか信じられない』とか酷くない?


と、朗太が心の中で涙を流していると


「てゆうか嘘でしょぉ……?」


うげぇ……っと纏は絶句していた。


「『二姫』の茜谷さんが出てきたと思ったら今度は白染さん……? こ、これって天変地異の前触れじゃ……」


皆さん、俺に辛らつ過ぎませんかね?


朗太はいつのまにか自分のものと主張するようにこちらの腕に身を絡ませる纏をげんなりと見下ろした。

だが事は朗太の知らないうちに推移して


「ま、後輩かなんだか知らないけど凛銅君は渡さないわよ纏さん! なんたって凛銅君は私に骨抜きにされてるんだから!」


思いっきり本性をこともあろうに想いの人に衝かれ朗太は赤面した。

対し


「は? 何言ってるんですか?」


速攻でけんか腰。

纏は眉を顰めるが


「フフフ」


ではそれを証明しましょうとばかりニヤニヤ笑いを風華に至近に寄られて、朗太は顔を赤く染めざるを得ない。

そしてそんな朗太を見ると


「あーあーあー!」


いけないんだーとでも言いそうな口調で口をあんぐり開け


「ど、どーいうことなんですか先輩ッ!」


こちらをなじり始めた。

どうしたもこうしたもない。

一目惚れだ。

だからこそ、こんな会話は恥ずかしすぎるから辞めて欲しいと朗太は頭を抱えているとそんな朗太の気もしらで


「フフフ、これが先輩の魅力よ?」

「だ、だからそれが何ですか!? 負けませんから諦めませんから!! 勝負ですよ風華先輩!」

「ふふ、宜しくね纏さん……」


纏がきゃんきゃん子犬のように喚き、風華は猫型美少女らしく不敵にほほ笑んでいた。


そしてそんな光景を見た姫子は


「最悪よぉ……、こんな展開……」


自らの運命を呪うように頭を抱えポツリと呟くのだった。


「なんでこんな面倒な奴好きになっちゃったんだろ……」




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