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筋肉トレーニング推進部(1)



筋トレ部。

正式名称、筋肉トレーニング推進部。

その名の通り筋トレを行うことを部活の『目的』に据えている部活である。

大会に出るなどの目標はない。

ただただ己の筋肉の増強し続けることを至上命題にしている部活で


「ウゥ……ッ」

「ハァ……ッ」


部室から常に如何わしい声が聞こえてくることでも有名な部活である。

何も知らない一年生女子が部室の脇を通り過ぎ


「キャーーーー! なにここーーー!!」


と悲鳴を上げることが毎年の風物詩にもなっていたりする。


「ここが我らが巣だ……」


ついに自分もここに来てしまったか……。


昼休み、朗太は体育館と学習棟を繋ぐ渡り棟二階にある筋肉の根城に連れてこられてしまい恐々としていた。

まだ筋肉の魅力など知る由もない朗太の心には恐怖しかない。


朗太が怯えていると


「で、ここにいるのが、我らが筋肉の民たちだ」


すぐに部室のドアは開いてしまった。


「部長ぉぉぉぉぉぉ!!」

「待ってましたよぉぉぉぉぉぉ!」

「いよいよ連れてきてくれたんすね……」


中にいたのは8人の筋肉の民たちだった。

皆部長より細いとはいえ、明らかに朗太より密度の高い肉体をしている。


それを見て朗太が身をこわばらせていると


「まぁ話を聞いてくれ」


部長は奥の応接スペースをゆびさした。


◆◆◆


灰色の部室にはダンベル、腹筋ローラーなどが無造作に転がっており壁際のマットの敷かれた区画にはベンチプレス、懸垂機などが置かれている。

低い本棚の上には無造作に雑誌・ターザンが積まれ、壁に掛けられた強化月間表によると今の集中強化骨格筋は腹斜筋らしい。


と、朗太が指さされた奥のソファに座り茶を啜りながら周囲を窺っていたのだが


「こ、これ何茶ですか……?」

「普通の茶だ」

「あ、そうすか」

「プロテイン入りのな」

「ブッ」


早速朗太は噴き出した。

まさか客人の筋肉を勝手に増やそうとしてくるとは夢にも思わなかった。

しかし相手は朗太の反応などお構いなしに


「申し遅れたな。俺は筋肉トレーニング推進部、部長の3年E組頭蓋田武(ずがいだたけし)だ」


何事もなかったように前に座った頭蓋田はスッと手を差し出してきた。


そしてぎこちなく握手を交わすと頭蓋田は筋トレ部の窮状について語りだした。


「実は、この部活、何故か人気が無くてな……」


曰く、去年までは筋肉トレーニング推進部、通称筋トレ部は部員合計15名の小規模部活だったらしい。

しかし年度末、三年生が学校を去ってしまい筋トレ部の人員は合計9名。

10名以上の部員がいないと部活から同好会に格下げされてしまうので、新年度、彼らは校内のいたるところでパフォーマンスをし部員を増やす試みをしたのだが結果0。

部員は増えず先日生徒会から同好会への格下げの勧告がなされた。

だが今月中にでも部員を一人でも増やせば解決するので今まで以上にハイペースでパフォーマンスを行ったが、いくらやっても集まらない。

困った彼らは現在姫子とタッグを組み無償で生徒の悩みを解決している朗太を頼った、というわけらしい。


「いやどういうわけか人気がないんだ」

「特に女子から」


口々に不満げに愚痴る。

そしてそれを聞いた朗太はというと――


(そのパフォーマンスのせいだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)


心中で叫んだ。

当初感じていた恐怖などとうの昔に吹っ飛んでいた。

なぜ自分たちが周囲から忌避されているのか全く自覚がない。

そんな彼らに朗太は突っ込みたくてうずうずしていた。


これまで朗太は偶然にも一度たりとも目撃したことが無いが彼らが校内で突然行うパフォーマンスはすさまじい話題をかっさらっていた。

突如海パン一着の筋肉隆々の男たちがぞろぞろ現れ無数のポーズを決めて去っていくのだ。

曰く彼らの思惑では


「俺たちの筋肉を見せられなぜ魅入られないんだ……」


新入生を筋肉洗脳し部員にする予定だったようだが完全に方向性を間違っている。

普通にアレは引かれていた。

見たことは無いが相当なものなんだろう。


『あれはやべーわ朗太。朗太も一度見といた方が良いぜ?』

『す、凄かったぞ朗太……』


彼らのパフォーマンスに偶然遭遇した大地と誠仁が、大地は呆れて笑い、誠仁は怯えるようにして昼休み帰ってきたことも記憶に新しい。


「てゆーかなぜ普通に勧誘しないんすか」

「それが前年度から部長をしている頭蓋田さんの新方針なんすよぉ!」

「筋トレ部の俺達が筋肉で語らずどうするってね! かっこいいでしょう!」

「よさないかお前たち。だが、凛銅君。筋肉で語るのが我々だ……」


恥ずかしそうに後輩を諫める頭蓋田に朗太は頭を抱えた。

これじゃ話にならない。

また彼らの目には女子生徒から人気が無い事にも不可解に映るようだった。


「なぜ我らの肉体を目にし、意識が保てるのだ……。普通ならこの鍛え抜かれた肉体を見れば卒倒、もしくは涎を垂らし顔を赤らめ寄ってくるものだろう」


と心底不思議そうに眉をひねっていた。


朗太は溜息をついた。


なりま界隈でも昨今では頭を撫でられたヒロインがポッと顔を赤らめ主人公に恋に落ちる通称『ナデポ』は忌避されているというのに、なぜこいつらの脳内では行動こそ違えど同じ方向性の思考回路がまかり通っているのだろう。

『ナデポ』は良い所もあるし朗太も好きだが今は余り流行っていない。

モリポか? 筋肉もりもりでポッと顔を赤らめる通称モリポなのかそれは?


そうだ。今度こういうキャラを小説に出してみようと朗太は決意した。

もしかすると人気が出るかもしれない。


またそうしながら朗太は、ここまで話が通じないなら何を言っても無駄だろうなと思いつつ――


「パフォーマンスで部員を募るという方向性を変えないというのなら、じゃぁまずはそのパフォーマンスを見せてくださいよ」


そう心に冷たい風を吹かせながら頼んだのだが、


瞬間待ってましたとばかりに9人の部員が服を脱ぎ捨ててそのしなやかでありながら逞しい肉体を直近で目の当たりにし思った。


……いや正確には、思って()()()()のだ……。


かっこいい――、と。


そう、信じられないことに朗太も筋トレ民になる素養があったのである。


そして朗太がモリポしている傍らで次々と彼らは


「ハァッ! フッーーン!!」

「ヘァッ! ハァーーン!!」


と次々と自らの筋肉が最も強調されるポーズを決めていき、それらを見た朗太はふと自分の体を見ると


(なんだこの脆弱な肉体は……ッ)


信じられないとばかりに目を剥いた。


筋肉洗脳の闇が朗太に迫る。

それだけの筋トレ民としての素養があったのだ。

そして朗太は思う。


なんだ俺の体はこんなに脆弱だったのか?!

なんだ普通の人よりそこそこ筋肉がついているとはいえ、彼らに比べたら小枝のようではないか――。と。


そうだ。

朗太は思い出した。

東京遠足の時、自分は津軽の兄達に殴られた。

あの時だって、自分が筋肉隆々だったら話は違っていた。

あんなにも無様に殴られることはなかったに違いない。

全てはこの貧相な肉体がもたらした恥辱――


その後も九名の筋肉の民たちはポーズを決め続ける。

それらポーズはどれもまるで宗教画の一枚のように神々しいもので


「ど、どうだった、凛銅。我らの筋肉カーニバルは」


と汗をぬぐいながら部長に尋ねられると


「――入ります」


思わず答えていた。


「俺も筋肉の民に加えてくださいッ!」

「ヨッシャーーーー!!歓迎だぜーーーー!!!」


朗太は温かく筋肉の民たちに迎え入れられた。


こうして凛銅朗太は筋トレ部に入部したのだった。







と、いうわけで本作の主人公が謎な部活に入ってしまいましたが既定路線です。

小説第一の朗太のキャラはぶれないのでご安心下さい。

周囲の反応編は次話です。

宜しくお願い致します。



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1巻と2巻の表紙です!
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