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中間テスト(1)



信じられない。



始めてその話を聞いた時の感想はそれだった。


クラスのアイドルであり学園一の人気者。

茜谷姫子がどうやらクラスの冴えない一男子凛銅朗太に惚れているらしいという噂を聞いた時は。

そしておりしも自分は件の少女、姫子と交友があった。

だからその噂をふと耳にしたその日、実は自分はそれとなく姫子に聞いてみようとしていた。

しかしだ。


『朗太は風華のことは好きじゃないッ……! 分かったらさっさとクラス()に帰りなさい!!』


聞くまでもない事態が起こった。

隣のクラスの白染風華という少女が凛銅にちょっかいを出し姫子は業を煮やし、目くじらを立てて怒りだしたのだ。

隣のクラスのヒロインであり、姫子と同様、学園を代表するヒロインである白染風華がなぜか凛銅に気があるかもしれないことにも勿論度肝を抜かれたが、実際に面識がる姫子がそうだと知った時の衝撃はそれ以上だった。


だからなのだろうか。

その話に対し自分は半信半疑だった。

明かにそういう意味しかないであろう、姫子や風華の嫉妬し合いを目の当たりにしても、いまいち信じきれない自分がいた。


だからこそ偶然先日、緑野翠とかいう少し変わった女子生徒の友達作りに協力して欲しいと言われ放課後召集された際、自分は聞いてみた。


「てゆうか姫子マジなの?! 最近、色々噂になってるけど?!」


それに対し


「ホ、ホントよ……」


顔を赤らめもじもじする姫子の愛くるしい姿に


「キャ――――!! ホントに!?」


と思わず自分は身もだえてしまった。

その後、詳しい話を聞くべく学校から程近いレストランに入り駄弁っていたところ

件の事件の原因、姫子が凛銅に惚れた理由は


「あ、あの、実は……」

「う、うん」

「く、くじ引き裏で操作したことあったでしょ……?」

「あ、あぁあったわね。津軽君とかが共謀してたやつでしょ。わ、忘れるわけないじゃない……」

「で、も、申し訳ないんだけど、あの時の遠足で私をアイツが守ってくれたのよ……?」

「あ、あぁそういえば柚子がそんなこと言ってたわね?! 凛銅君が一発殴られたんだっけ?」

「そ、そう。で、実はあれ、私が原因だったんだけど……」

「えぇマジ?!」

「う、うん……。でもね、ろ、朗太は、それを知っても気にしなくて良いって言ってくれたのよ。そ、それで……」

「す、好きになっちゃったって言うの……?」


コクコクと姫子は頷き、自分は知ったのだ。


姫子が凛銅を好きになったのは、くじ引き操作で、『自分を』瀬戸基龍と同じ班にするための事件がきっかけだという事実を。

つまり、


……私が原因じゃない……!!!



そう、それがここ最近、かつて姫子にくじ引き操作を依頼した『群青輝美』の悩みである。


自分の下らぬ恋心のせいで茜谷姫子という超絶美少女の人生を大きく変えてしまったのである。

それが彼女にとって好ましい事かそうでないかは自分自身にも分からない。

だが前年度、姫子が自分はこれまで恋心なんてものを自覚したことはない。

そう公言しているのを自分は耳にしている。

つまりそんな茜谷姫子という少女の背中を押したのは間違いなく自分であり、責任を感じ、朝の教室で今日も群青輝美は教室で姫子と凛銅の会話に聞き耳を立てていた。


もし自分が姫子の恋路を助けられるのなら、助けてやろうという意気込みである。

しかし、だ。


「ねぇ、アンタ。昨日の話読んだわよ?」

「お、どうだった?」


朝、生徒の集まり切らぬ教室にて偶然にも早く来た両者は言葉を交わす。


「どうもこうも、あんなことで女の子が主人公のこと好きになるわけないじゃない」

常識ガバッてんじゃないわよ、と姫子は言う。

「ええええ!? そうなん?!」

「あったり前でしょ! 何で女の子が男の子にエビフライ貰っただけで好きになるのよ!? アンタの女性観どーなってのよ!?」

「いやだって俺の妹、エビフライ貰うとめっちゃ喜ぶぞ?!」

「だからって好きにはならないでしょ! 何アンタの妹はエビフライでアンタに恋してるわけ?!」

「い、いやそれはないけど……」

「でしょ!? なら無理ある展開でしょ!?」

「そ、そうすね……」

「はい、分かったなら宜しい。心優しい姫子さんからのフィードバックは以上でした」


二人はよくこんないまいち内容のつかめない会話をしている。自分には何を言ってるのか分からない。

だが、ただ一つ確信が持てることがある。


「はぁ……」


凛銅は心底残念そうな顔をしていた。

この凛銅朗太、天性の美少女である茜谷姫子のことを何とも思っていない、ということである。

時折姫子の攻勢で顔を朱に染めたりすることは見かけたりするが、相当鉄壁のガード。いや、いわゆる『ニブチン』なのだろう。


生徒の中には


「おはよう姫子!」

「あぁおはよう。関浦くん」

「今日も綺麗だね」

「ハイハイドーモ。褒めてもなんも出ないわよ」

「フフフ、その反応が欲しいだけさ」


と隙あらば姫子に声を掛けに来る男子も少なくないというのにだ。

多くの男子が顔を赤く染めながら姫子に話しかけに行くというのに、


色々と指摘されたことが堪えたのだろうか。


「はぁ、やってらんねーな……」


凛銅は愚痴をついていた。

姫子に話しかけられてここまで浮かない顔をする男子はこの学園できっとこの凛銅朗太だけだろう。


「はぁ~、そうか女子はエビフライじゃ好きにならないのか……」


と心底残念そうにつぶやきながらトイレに向かっていた。


そりゃそうでしょ。馬鹿じゃないの? と言い出したくなるのを堪えるので精いっぱいだった。


こんな男のどこが良いのだろう。

輝美は姫子の胸中を探る。

確かに時に頭の回転が速いこともあるようだが……。


全くもって不思議である。


そうして不思議に思っているうちに中間試験はやってきた。

都立青陽高校はここ最近の多くの高校がそうであるように前期・後期の二期制だ。

春夏冬休みはあり日程は多くの高校と同じだが、その期間は大きく前期と後期に分けられ、大きなテストは年に4回あり、その第一弾目がやってきてしまったのだ。


この時期になると自分は毎年憂鬱になる。


しかし姫子はというとそこまで苦ではないらしい。

噂によると頭はとても良いらしい。

日々生徒の悩みを解決してるだけあり、その前評判はとても納得できた。


そして他方、凛銅はというと――これもまた、意外と頭が良いらしい。

曰く、『俺は座学だけは出来るから』。

以前に教室で姫子に自慢げにそう言っていた。


そして周囲の評判を聞いたところ(姫子の関係で嫌でも聞こえてきた。主に悪口で)、本当にそうらしい。


運動神経壊滅ガリ勉野郎。

メガネなしガリ勉眼鏡。


そんな風に言われていた。


そして数日後、テストが終わってみると


「どうだった朗太、数Ⅱは」

「なんだよ大地」

「良いじゃん、どうせ良いんだろ? 結果は?」

「93点。クラスじゃ3位かな」

「ほー。まぁいつも通りか」

「まぁそんなところだ」


「おい朗太、化学はどうだったんだよ?」

「今度は誠仁か……。これは調子よくて97点だった」

「おぉやるねぇ。順位は?」

「これは何か一番ぽいな。普段は4番とかなんだけど」

「ほう、じゃぁ本当に調子よかったんだな」

「だろうな」


と、どうやら本当に頭がいい。


嘘でしょ?


思わず自分の下に返ってきた答案を見返した。

仮にも青陽高校は進学校。

自分だって頭は割と良いはずなのだ。

しかし結果はというと


(ど、どれも凛銅君の10点以上下……)


エビフライで女子に好かれると勘違いしていた男に負けるなど到底受け入れがたい事実であった。


と、自分が無情な現実に打ちのめされていると、現国の後の休み時間のことだ。


「で、朗太。現国の結果はどうだったのよ?」


凛銅の机に件の姫子がニヤニヤしながら寄って行くのを見かけた。

対し凛銅の方は気まずそうである。

満面の笑顔の姫子に顔をしかめるとそっぽを向いていた。


「は、83点……。クラスじゃ5位……」

「ブプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


瞬間、こらえきれないと言った調子で姫子が噴き出した。


「あ、アンタ! 理系より文系の方が出来ないんだ!? こりゃ傑作ね!!」


姫子は腹を抱えて笑い続けた。

対し露骨に凛銅は嫌な顔をした。


うーわ、姫子にそんな酷い表情見せる奴普通いないよ。


その極悪人そのものの表情に思わず眉が下がった。

だが凛銅は


「で、お前は? どうだったんだよ? 姫子さんは? 全く俺のことをそんなに笑うなんてたいそうな点数をお取りになったんでしょうな~~!?」


とねじ曲がった性根を隠そうともせず姫子を煽り


「プックク。ほら見なさいよ。私、100点!! こりゃ私が投稿した方が人気出るわね??」


と満点の答案を見せびらかされ


「くっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそくっそ」


と『くっそ』と言い続けていた。


うわぁぁぁぁぁぁぁぁ、めっちゃ『くっそ』って言ってるよ……。


だがそんな凛銅に姫子はよくもわるくも満面の笑みを向けていて――



本当に、この男のどこが良いのだろう。


群青輝美の悩みは、今日も尽きないのだった。






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