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くじ引き操作(1)



「なぜそうなる?」


 思ったことはそのまま口に出た。


「なぜってアンタが丁度良いと思ったからよ。実は今相談されている案件があるのだけどなかなか難しくてね。出来ればアンタに知恵を貸して欲しいのよ。アンタの小説読んだわよ。アンタそこそこ頭回りそうね」


 なるほど。


 それを聞いて朗太は膝を打った。

 つまり『私の悩みを解決してよ』というのは『姫子に持ちかけられた他人の悩みを解決するのを手伝ってよ』ということなのだろう。

 しかも理由が朗太の小説を読んで朗太の知性を見出したからと来た。

 つまり罵詈雑言を浴びせながらも姫子は朗太の知性を認めていたのだ。きっと朗太の小説から溢れ出る隠しきれない知性の光を垣間見たに違いない。


 ――なんだコイツ意外と分かっているな。


 罵倒しかしてこないからとんでもない奴だと思っていたが、もしかしたらこの茜谷姫子という少女、見るところがあるのかもしれない。

 しかし


「あ、勘違いしないでね。作品自体は正真正銘の『()()』だったから」


 すぐに罵倒が飛んできて早々姫子の評価は元の値に戻っていた。

 一瞬でもこいつのことを見直した俺が馬鹿だったわ……

 みんなもちょっとした甘言で他人を見直すと馬鹿を見るからしない方が良いですよ。

 朗太は心の中で世界に向かい余計なお世話なアドバイスを行いつつため息をついた。

 結局、姫子の印象が変わろうと変わるまいと、その相談主が姫子であろうとなかろうと答えは変わらないのだ。


「ごめん、それは無理だ」

 朗太はきっぱりと断った。

「何でよ」

「もともと俺はもっと何でもないことを助けるつもりだった。茜谷へ持ち掛けられた相談の解決なんて重大なミッションはとんでもない。それになにより俺にはそんなことをする時間はない」

「へーアンタの生活、そんなにタイトなの? でも部活入ってないよね」

「まあな。でも小説はやってる」

「ま、まぁそれはそうなんでしょうけど……。でもそれで余暇時間ないって小説に時間かかりすぎじゃない?」

「いやそうでもないよ。なんだかんだ時間かかるってアレ」

 

 朗太は自身の普段の努力を告げた。


「まずは設定を練る時間だろ? 次に他の小説を読む時間。寝る前に読むって決めているからな。あと日々映画を見る時間。映画の二時間尺は小説と相性良いからな」


 つらつらと日々の努力を語る朗太。ちらりと姫子を盗み見る。

 姫子は目を丸くしていた。

 その姿は、その道の険しさを知らなかった自分の認識の甘さを痛感しているように見えた。

 そしてそれは悪い気分ではない。

 朗太は饒舌になった。


「あとそうだな、俺の場合は、旅行に行ったりもする。感受性増強に旅行は良いからな。他にはネットや本屋で資料漁ったりとかな。あとナショナルジオグラフィッ〇とかNHLでやってる映像の世〇とかもよく見ている。なんか小説に良い気がするからな。とまぁ、こんな風に俺は余暇時間のほぼ全てをスターヒストリカルウォーズの展開・設定を練るために、品質向上のために使っているからな。余計な時間などない。常にアンテナを張り巡らし作品に生かせそうなネタを探している。これはいずれ傑作を生みだすために必要なことだ。しかも俺は学業も疎かにはしない。授業中のうちに大概のことを覚えるし、復習も必要最低限、課題も最速だ。そんな日常生活をTAS気味に生きている俺が、他人のために割く時間なんてあるわけないのさ」


 分かる? この大変さが?


 朗太は気分を良くし前髪をかきあげ、ハンッときざっぽく笑った。

 だが


「で、あんな駄作なの……?」

 

 いくらなんでも酷すぎませんかね?


 恐れをなして青ざめる姫子の指摘がど直球すぎて朗太は悔しさで唇をかんだ。


 ホント酷い女だよコイツ。

 こんな酷いこと言うことある?


 朗太は心の中で抗議する。

 しかし彼女の指摘を修正しブクマが伸びるという現象が起きた以上、彼女の読み手としてのセンスを否定する術を今の朗太は持たず


「クッ!」


三十六計逃げるに如かず。

こういう時は逃げるに限る。


「急に気分が悪くなった! 今日は帰らせて貰うッ!」


 颯爽と風を切り朗太はその場を後にした。

 だが、ドアを開き廊下へ出る直前だ


「ふ~ん、良いんだ? せっかくのチャンスを不意にしても?」

 そんなどこかからかう風な声が朗太の背にかかり、自然と足が止まった。


 せっかくのチャンスって、一体なんだ?

 朗太の脳内に疑問符が浮かぶ。

 そして立て続けに朗太の内心を見透かしたような姫子の呟きが届いた。


「傑作を作るチャンスを……」

「なんだと?」


 朗太は恥も外聞もなく振り向いた。


「ホーラ、食いついた」


 すると姫子はにんまり笑う。


「アンタ、今言ってたわよね。いつか傑作を生み出すとかなんとか?」

「ま、まぁ言ったが……」


 朗太が認めると姫子はますます笑みを濃くして、わざとらしく、これ見よがしに、頬に指をつきいかにも悩んでいる風を装い言うのだった。


「そっか~、なら残念だなぁ~。良い『小説のネタ』になるんじゃないかと思ったのだけど、凛銅君は手伝ってくれないのね? 残念だな~。いずれ傑作を生みだすために良い糧になると思ったのだけど、仕方ないわね。仮にも女子からの相談事だし、今後小説書くときに生きるんじゃないかって思ったんだけど、そっか~、手伝ってくれないのか~。あーぁ、残念」



「はぁ~~~~~~~~~~」


 対し朗太は心底呆れて、大きくため息をついた。


 何その誘い方、と。

 浅はかにも程がある。

 確かに俺はいずれ傑作を生み出すことを夢見て日々の生活を送っている。

 だがだからと言って、小説の糧になるからといって、ホイホイ何でもついていくような尻軽男でもないし、そもそもそんな安い言葉に釣られるほど馬鹿でもない。

 もしこの程度の煽り方で俺が乗ってくるのだと思っているようならこいつは俺を見くびりすぎだ。

 お前、俺にこれまでなんて言った?

 ゴミ? 駄作? それ以外にも色々言ったよな?

 そんな言葉を容認するほど俺のプライドは低くないんだよ。

 だから俺はなぁ


「ふぅ」


「話、聞こうか」


 本当に申し訳無い。

 欲に負けた。


 朗太は全ての感情を裏切り、ガラッと椅子を引き着席した。



「ちょろい」


 その姿に姫子はにんまりと笑う。


「笑うんじゃない」

「ハハッ、いやこんな主体性のない奴笑うしかないでしょ」


 こうしてこの日、朗太と姫子のタッグは結成されたのだった。













ジャンル『恋愛』なのに未だにヒロインがデレない事件……。

これから二つほど事件を経て姫子の恋愛矢印を朗太に向ける予定です!

本話から7話後の第10話と見込んでいますので、それまでは今しばらくお待ちください。

これからも宜しくお願いします<(_ _)>


あとナショナルジオグラフィックとか映像の世紀に効果があるかは知りません。


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1巻と2巻の表紙です!
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