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風華END



「分かっていました。私の恋が実らないことは」

「そうか……」

「いるだけ辛いです……! 早くどっかにいってください!」

「悪い……」


 纏は目に涙をためると声を張り上げた。


「ゴメン!」


 一方で姫子に頭を下げ謝罪すると、顔を上げた瞬間、パシーン!! と頬をひっぱたかれた。


「サイテーよアンタは!! もうホントサイテー!!」


 しかし、その気勢も風船から空気が抜けるようにあっという間になくなっていく。


「もう……、もう……」


 姫子の手が目元に伸びた。


「どっか行きなさい……」





「お、凛銅君だ。どした?」


 こうして朗太は風華と対面していた。場所は体育館の裏手である。

 部活中の風華は時々そこで休んでいるので訪れたのだ。

 予想はあたりで風華は一人でいて、頬にもみじを作る朗太に目を丸くしていた。


「どしたって……」

 風華と付き合いたいから断ってきたと言ったらダサすぎるだろう。

「いや、あの、色々あって、その」

 朗太は適当にごまかすと頭を下げて手を差し出し、叫んだ。


「お願いします!! 白染! 俺とどうか付き合ってください!!」

「えぇぇぇぇぇ!?!?!」


 言われた風華は仰け反り驚いていた。

「え、ホントに?! 私で良いの??!?」

「ハイ、お願いします!」

「いやでも普通は姫子とかでしょ?! 姫子ずっと凛銅君の隣にいたんだよ?!」

「……」

「それに纏ちゃんだってずっと凛銅君のこと知っているんだよ?!」

 そこを突かれると答えづらい。

 朗太は頭を下げ手を差し出したまま動かなかった。


「それでも私ってこと」


 沈黙は肯定の証だった。

 

「そうか……」


 驚嘆する風華は顎に手を当てた。


「罪なものね、私の魅力は」


 なんだろう。この判断で良かったのか一気に疑問が湧いてきた。

 いや疑問を沸かせられるような立場ではないことも重々承知しているけども。

 朗太がガバッと顔を上げる。すると目の前には瞳に光るものを溜めた風華がいた。


「でも……」


 風華の瞳から一筋の涙は落ちた。


「うん、ホント良かった……」


 完全無欠。天真爛漫。

 どこまでも明るくて暗いところを一切見せない風華。

 だがもしかするといつもそうあるべく無理をしていたのかもしれない。

 その一筋の涙は、その後震えた声色は、それを予感させるものだった。


「これから宜しくね、凛銅君。こんな私だけど……」

「うん」


 胸に飛び込んできた風華の体は小刻みに震えていてとても華奢だった。







 呼ばれたのは放課後の教室だった。

 そこでは風華は今度のバスケの試合の日程を説明し

「来てくれるよね朗太くん?!」と目をキラキラ輝かせた。

 反応からして大方の予想は出来ているだろうに。

 行くことを伝えると風華は大層喜んだ。



 そして――


「風華頑張れー!!」


 週末、朗太も遠征し風華のバスケの試合の応援に入る。

 朗太の掛け声に風華もピースで返した。

 会場の同じ青陽高校の女子1年生からは朗太へ不審な視線が送られた。

 そう、風華はもう高校3年生なのだ。


「1年生びっくりしてた。私と凛銅君が付き合っているって知って」

「だろうな~。どう考えてもおかしいもんな~」

「う~ん、凛銅君の良いところ、一杯一杯あるんだけどなぁ~」

 帰り道夕日を背後に朗太と風華は歩く。

 試合帰りである。


「そうか、沢山あるのかー」

「うん、あるよ一杯。でも彼女の私が言うのもなんだけど凛銅君の良さは一見すると分かりづらいんだよ」

「え、そうなの?」

 これまでに誰にも指摘されたことのないことに朗太は仰天していた。

「うん、例えば凛銅君がよくする親切は一見すると分からないんだよ。相手からありがとうって言わせないような、相手が気が付かないとありがとうって言えないような優しさなんだよね」

「う゛……」

 確かに自分はそんな立ち回りを無意識のうちによくしているかもしれない。

 単に相手に感謝されるのが気恥ずかしいだけなのだが。

 他人に言葉にされて分かるが、これほど面倒くさい人間もそういないかもしれない。

 

 自身の行動を客観視し朗太が顔を青くしていると、風華は相好を崩した。

「でもま、その凛銅君のめんどくささとか分かりにくさってのは私にとっても好都合なんだけどね」

「何でよ」

 どう考えても彼氏はハイスペックなほうがいいだろうに

 朗太が口を尖らせると風華はヘヘッと笑みをもらした。


「そりゃまぁ、取り合いにならないからね。これからもずっと私のものだぞ、凛銅君」


 風華のストレートな台詞に朗太がドキりと顔を赤くする。

 すると、風華がにやにやいやらしい笑みを浮かべた。


「あ、凛銅君恥ずかしがってる可愛い〜〜!」

「ちょやめ」

「凛銅くん、大好きだぞ!」

「やめて!」


 一杯喰わされたような、負けたような気分になり恥ずかしい。

 朗太は顔を赤くしながら風華から目をそらした。


 そうしながらこの天使が自分のそばで満足してくれている幸運を噛み締めつつ、

 これからも飽きられないよう人として魅力を増すよう朗太は努力することを誓うのだった。

 この望外な幸運が少しでも長く続くことを願って。



 fin




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1巻と2巻の表紙です!
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