徒花(5)
「なんか文句あるかって……あるに決まっているだろう……」
「あ、あるよなやっぱ……」
「あぁ、たんまりある」
時はまだ朗太と瀬戸との戦いの直後のことである。
水を打ったように静かな会場で朗太と瀬戸は言葉を交わしていた。
「まぁ良い。朗太、今更だが東京遠足の時、吉成が暴走してすまなかったな」
「今更!?」
約一年越しに津軽の一件を謝罪され朗太は泡を喰っていた。
「気にしてはいたんだよ。おかしなことをしているのは知ってはいたんだ。だが放置してた。後から聞いてみたらとんでもないことをしていてビックリしたよ。お前が止めてくれて良かった」
「いや、良いよ。気にしなくて。あのおかげで俺も色々な人と出会えたし」
色々な人。あの一件で姫子と仲を深めた。
それがきっかけで風華やそのほか多くの人とかかわりが持てたのだ。津軽には感謝したいくらいである。
「それに間違うことなんてよくある。俺も多分、これまで間違えていた」
「ハハ、それは俺もだな」
二人が指し示すのはきっとこれまでの二人の関係性についてだろう。
「でも失敗に意味を持たせられるのも人間だ。間違いを間違いのままにするのか、そこから人生の糧を得るかは人それぞれだ。ここから回収するしかないな」
「だな」
瀬戸の言葉に自然と首が縦に動く。
瀬戸はつきものでも落ちたような表情で微笑んでいた。
そして「そういや久々に弥生ちゃんに会いたいな」と呟いていた。
「それと俺も悪かった、東京遠足の件は」
「え、なんでだ」
「お前がその気がないと分かっていたのに、あいつ(群青)を押し付けた」
「あ~、あれな。アレはあの子にも悪い事したなぁ」
「付き合えないなら明確に断れよって思ってさ」
「? それは今のお前も同じだろう?」
「う……」
朗太はちらりとギャラリーの方を見上げた。
そこには、姫子、風華、纏の3人がいる。
「答えは出たのか、朗太」
瀬戸に促され自身の内面を覗き見る。
そこにはこれまで深い深い霧があった。
しかし、今見てみると何もない。
がらんどうの空間があった。
「あぁ、出たよ」
先日、誠仁は言っていた。
一つ問題が片付くと、一気に視界が開けることがある、と。
まさにその通りだった。
瀬戸との問題が肩が付き、頭の霞が取り払われたようだった。
自分にはあの三人の中に明確に好きな人がいる。
だから、朗太と瀬戸が二人の仲互いを無意味なものではないようにしたいと思うように、他の二人にとっても、この自分と関わった月日が無駄ではないことを心から祈る。
◆◆◆
それから月日は飛ぶように過ぎた。
桜が咲き、散り、胸に花を挿した生徒が校舎を去り、新品の制服に袖を通した生徒たちが校門をくぐる。
時は4月の初旬である。
新入生を迎え、朗太は校庭が一望できるベンチでたそがれていた。
横にはここ最近ようやく仲直りした瀬戸がいる。
「この選択で良かったのか朗太?」
「うん、これで良かったと思う」
もう何の迷いも無かった。
「数学得意だしな」
「そっちか……」
散々迷い倒した文理の選択。
結局朗太は理系を選択した。
小説は仕事をしながらも書ける。
小説家、物書きの夢を捨てる気は毛頭無いが、もっと長期スパンで目指していこうと決めたのだ。
しかし瀬戸が尋ねたのは違うことのようだ。
瀬戸は大きく溜息を吐いていた。
「僕は姫子さんたちのことを言ったんだが」
「え、あぁそれも後悔はないけど」
朗太が返すとそこに津軽がえっちらおっちらやってきた。
「おい朗太。お前こんなところで何しているんだ。彼女が探していたぞ」
「え゛」
朗太の表情が強張る。見るとEポストに通知が届いていた。
これはマズイ……。
「やば気が付かなかったわ……」
「お前、モトと逢引きしてて通知気が付かなかったとか言ったら怒られるぞきっと」
「逢引きて」
だが確かに数年来喧嘩をし続けた末仲直りした自分たちのことを一部生徒が変な視線で見ているという噂は耳にしていた。
「フ、下らない冗談だが、彼女の気持ちを考えると無視できないな。急げ朗太、あと彼女に宜しくな」
「わ、分かった……」
言われて朗太は駆け出した。
駆けながら朗太はこの一年を振り返る。
『これスターウォー〇のパクリですか?』
始まりは自身の小説に酷い感想を寄せられたことだった。
『私よ。なんか文句ある?』
あろうことかその感想を寄せた人物が茜谷姫子という同じクラスの生徒だった。
それから東京遠足の一件で親交を深め
『へ~君が凛銅君なのね』
自身が一目ぼれした少女、白染風華と出会った。
風華はバスケ部で問題を抱えていてそれをなんとか解決すると、稀代の問題児緑野翠が登場。彼女の依頼を解決し終えしばらくすると
『何しているんですか先輩……』
纏と再会した。
その後主だった事件でいうとE組F組の諍いを解決し、それから後から考えれば大問題が起きる前兆だった文化祭のクラス決めを行った。
一学期を終え夏休みに突入すると、姫子・風華・纏と多くの時間を共有した。
そして夏休みが終わると大問題、文化祭事件が幕を開けた。そこで自分は大立ち回りを演じ、一気にしょげ込んだ。
それから何とか生徒会選挙の依頼をこなすと、なんと姫子の転校問題が立ち上がり、姫子の母、妃恵さんとの出会いで自身の小説との向き合い方を考え直させられた。
それが済むと何と姫子・風華・纏の三人から好意を伝えられ、そうこうしているうちに冬休み・合唱コンクール・修学旅行・津軽の恋愛相談と矢のように時が過ぎていった。
浮き沈みの激しい一年だったが、かけがえのない一年だったと思う。
小説に関しては、今は目が出なかったが、いつの日か、この日々が意味があったと言えるようになると良いなと思う。
スターヒストリカルウォーズ
4月6日、完結。最終ブックマーク 1106
相手が待っている場所の近くまで来た。
怒っているのかなぁ、朗太ははらはらとしながらドアに手をかけた。
そうしながら思い起こされるのは付き合い始めることになった日のことだ。
記憶は立ち返る。
明日21時に3話+あとがき1話を更新し終わりです。
宜しくお願いします。




