コミカライズ7話掲載 短編!
読者の皆様、コミカライズの購入ありがとうございました。
去る9/24に本作が発売になり、書店にこの作品があって本当に夢のようでした。
幻冬舎コミックス様、漫画家のGUNP様、編集者様、そしてなにより応援して下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。
本日は、コミカライズ更新日なので短編の更新をします。
本編は練り直している最中なのでしばしお時間を頂けると幸いです(かなり困っている)
なおコミカライズ7話には、ついに、ついに……! あの少女が登場します!
めちゃんこ可愛いので見てみて下さい!
よろしくお願いします!
共学高校では男女間の対立が発生することは多々ある。
「話は分かった」
これもその一つだった。
7月の、うだるように暑い日のことである。
「じゃぁ決めようか。エアコンの温度設定を……!」
教壇の上にはいつになく真剣な表情をした誠仁がいた。
その一言でクラス中に緊張が走る。
即座に男子が手を上げる。
「はい! 設定温度は26度にすべきだと思います!」
「イエー! 良いねーー!!」
先陣を切った男子に周囲の男子から喝采が上がった。
だがすぐに女子が手を上げ対抗した。
「あり得ない! 設定温度は28度にすべきよ!」
「そーよそーよ!」
反論する女子にすかさず周囲の女子も追従する。
「てかなに男子! 環境に悪いでしょ!? 26度って寒いんだけど!?」
「何が環境だよ! 俺たちは暑いんだよ! 俺たちのことはどーでもいいよかよ!」
「そうだぜー!!」
女子の意見に男子たちが言い返す。
そして既にカオスといって差し支えのないこの混沌の中
「てかエアコン寒いって婆ちゃんかよーー!!」なんて余計な要素でしか構成されていない軽口をいう輩がいて
「はぁ〜〜〜〜!? なにいってんのコイツ?!」
「わけわかんない!」
とみるみるうちに女子たちの怒りのボルテージがあがっていく。
「やばいわね……」
「だな……」
そのような喧騒に包まれる教室にて、朗太と姫子はちらりと目を合わせた。
朗太と姫子はこの時隣の席であった。教室の後方である。
周囲がうるさいので、普通の声量で話したところでさして注目も浴びない。
「何が原因なのよ。私帰ってきたらすでに争っていたけど……」
「あぁそれな……」
喧嘩は瞬く間に始まった。
その現場に偶然居合わせなかった姫子からすると不思議で仕方がないだろう。
「実は……」
朗太は姫子に事の事情を説明し、当時のことを回想していた。
事の発端は些細なことだった。
「さーむっ! 何これ! 温度上げて良い?」
「いいよいいよー」
と休み時間、女生徒がエアコンの設定温度を上げた後、偶然トイレから帰ってきた男子が何も知らず
「あっつ。温度下げるぞ。良いべ?」
と、温度下げただけである。それがきっかけであっさりと火が付いた。
「ふっざけんじゃないわよあんた!」
「え!? なになになになになになに?!」
とあっという間に問題になった。
その結果、「なら女子は服多く着りゃいいだろ」「それでも寒いのよ!」
というお決まりの言い合いを経て
「じゃぁいいよ! 脱いでやるよ!」
「あぁそうだよ! 脱いでやるよ!」
「ぎゃぁぁぁぁアンタたちなんてもん見せんのよ!」
「暑いんだから仕方ねーじゃねーかよ」
「そうだろうよ。俺たちに服を着せたいなら温度を下げろよ」
「なんなのよ! その北風と太陽の逆バージョンみたいなのわ!」
と言い合いがみるみる加速し
「おいおい落ち着け」と誠仁が仲裁に入るも、全く話がまとまらず争いは他の男子女子も巻き込み延焼し始め、仕方なくクラス会議を開くに至ったのである。
しかし一向に場は収まる気配はない。
男女は会議の場でも激しく言い合っていた。
「凄い荒れようね」
「ほんとな」
些細ないざこざでここまでこじれるとは……、もともと火種はあったのだろう。
男子も女子もお互いに対し不満を募らせていたのだ。
それが先の一件で一気に顕在化したのだ。
親友の舞鶴大地も男子サイドの論調なのか、暑さでワイシャツを脱ぎ捨ていて、それを見咎めた紫崎に小言を言われていたりして、救いようがない。
「わ、分かった! と、とりあえず中断! まずはお前たちでもう一度話し合え」
しばらくすると会議は一度中断になった。
多くの生徒が一時撤退、一度休憩で、教室から去って行く。
男子は男子で、女子は女子で、仲間内で意見を固め直すのかもしれない。
「どうしたらいいかしら?」
「え、なに? なんかする気なの?」
人口密度の減った教室で考え始めた姫子に朗太は仰天していた。
「そりゃそうよ。このままじゃマズいでしょ」
「ホント妙なところで優しいよな……」
朗太は呆れると姫子は「私はいつでも優しいでしょ」と嘆息を漏らしていた。
「でも俺たちでなんか言って効果ある?」
しかし話し合い始めるも朗太は自身の力に懐疑的である。首をかしげる。
東京遠足の時もそうだったが、このようなクラス内での話し合いではクラス内での立場やパワーが重要となる。
姫子はカースト上位だが、朗太ははっきりとそうではない。
朗太が何か言ったところで羽虫が耳元で飛び回る程度で、ペシンと、はたかれて、いなされて終わりになるかもしれない。
しかし姫子は違う意見のようだった。
「今回は別に津軽達も裏で何もしていないでしょ。何とかなるんじゃない?」
「そうか」
「お、また何かやろうとしてんの?」
朗太が頷いていると大地がえっちらおっちらやってきた。
紫崎に言われて懲りたようだ。再びワイシャツをちゃんと着直している。
「頼むよ、やってられん」
時を同じくして誠仁もやつれたようにやってきた。
どうやら誠仁も疲れ果てているようだ。
「じゃ、じゃぁさ」
それもあって朗太は一つ提案した。ヒントは自身の中学時代であった。
「設定温度は両者の折衷で27度にして、男子は廊下側、女子は窓側にしたらどうだ? そうすりゃ多少はマシだろ」
エアコンは廊下側に設置されている。
中学時代の朗太のクラスでは夏場のみエアコンの付近に男子が固まって座っていたのだ。そして、それは妙案だったらしい。
「ナイスアイデアかもしれんな」
「あーそれなら無難かもしれない」
朗太の案は即座に誠仁と大地の二人に受け入れられ、誠仁により次の会議で取り上げられることになった。
だが。
誠仁や大地が去った後のことだ
「アンタ、いいの!? この席じゃなくなって!?」
朗太は顔を赤くした姫子に問い詰められた。
朗太が不思議そうな顔をすると姫子はわたわたしながら、恥ずかしそうに言う。
「い、いや、この席! 後ろの席だし、そ、それに……、……私の隣なのよ……?」
「あぁ……」
言われて朗太は姫子のいわんとすることを察した。
確かに朗太と姫子は仲がいい。
この隣の席になってからもまぁよく喋っていた。
朗太としてもこの席はかなり良い席だ。
仲の良い奴が近くにいて嫌な奴はそういまい。
そんな気の置けない相手はあっさりと、確定で離れ離れになるような提案をすれば、相手が自分のことを実は嫌ってはいたのではないかと勘違いしてもおかしくはないだろう。
これは言葉足らずな自分の落ち度だった。
しっかりと説明すべきだろう。
「いやそういうわけじゃないんだよ」
どういうわけかを省略し朗太は言う。
「俺も確かにこの席面白かったよ。仮にも姫子の隣だし。でもさ」
朗太は姫子と目を合わせた。
「どうせ放課後も会ってるし別に良くないか? トータルで会ってる時間からすれば誤差じゃない?」
「ま、まぁ」
意図しないからこそ自然と出た、珍しく割とデレ気味の朗太のセリフに姫子は赤面し髪を梳いた。
「アンタがそういうのなら良いけど……」
その声は最後消え入るように小さかった。
その様子に朗太が脳内でクエスチョンマークを浮かべていると
コイツ……!
と周囲から不評を買ったのは言うまでもない。




