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進路相談と球技大会(3)









 桔梗にアドバイスをした翌日。桔梗は学校を休みだしたらしい。

 

 2年A組の生徒たちが「美波(みなみ)どうしたんだろ?」「さぁ、風邪でも引いたんじゃない?」と話すのがふとしたタイミングで廊下から聞こえてきた。

 しかしそれもそのはずで――その噂話を聞いたのと時を同じくしてタイミングを見計らったように桔梗から朗太へメッセージが来た。それは今現在彼女は原稿に取り掛かっていて学校を休んでいるという旨のメッセージだった。


『し、死ぬ……! (;'∀')』


 という文面がメッセージの末についていた。

 

 彼女は夢に向かい動き出したらしい。

 なら良い。

 朗太はスマホから顔を上げた。

 なぜなら今何より大事なのは自分の心配だからである。

 

「朗太、今少し時間を貰えるか?」

 

 と、朗太が口数少なく考え込んでいると放課後、廊下を歩いていると誠仁に声をかけられた。彼の纏う雰囲気で彼が大切なことを話そうとしていることが嫌でも窺えた。


「せ、誠仁か……。別に良いけど……」

「良かった。立ち話もなんだ。そこのテラス席にでも行こう」


 誠仁は屋外に備え付けられたテラスをあごしゃくった。二人して仕切りをまたぐ。


「寒いな」

「まぁ冬だしな」

「だがもうすぐ春だ」


 テラスにある白い安っぽいプラスチック製の椅子に着きポッケに手を突っ込むと誠仁は空を仰いだ。

 何とはなしにその視線を追い、外へ目をやる。風景は未だ木が寒々とした姿を晒していたりと依然冬そのものだが、大気は前のような底冷えするようなものではなく仄かに暖かいものが混じっていて、冬が徐々に終わりつつあることを朗太にも感じさせた。


「悩んでいるな。進路と、恋愛のことで」

 しばらく景色を眺めていると出し抜けに誠仁は語りだした。

「ま、まぁ……」

「だが俺がなんとかしてやれるのは進路の方だけだ。進路、どう考えている」

「進路、か……」

「浮かない顔だな」

 誠仁は朗太から視線を外すとやはり遠くを眺めた。

「何か一つ片付くだけで一気に道が拓けることもある。どうだ、俺に相談してみないか。文系と理系、で悩んでいるんだろ?」

「まぁそうだけど……」

「どう考えているんだ朗太」


 その言葉の節々から誠仁が心から心配してくれているのは明らかだった。

 心配してくれている友人。

 黙っているのは、不義理か。

 ふと、そう思った。

 別に朗太の抱える事情を知って笑うような奴でもないのだし、と。

 だから、朗太は自身の秘を明かすことにした。


「実はな……」


 それから朗太は語りだした。

 小説を書いていること。

 将来、小説家になりたいこと。

 もしくは物書きに成りたいこと。

 それで進路を理系にするか、文系にするか、どちらにするか悩んでいること。

 

 あらかた話し終えると聞いていた誠仁はすぅーっと大きく息を吸った。


「そうか」

「あぁ」

「そんなことで悩んでいたのか。……というかようやく言ってくれたな」

「……知っていたのか?」

「まぁな。これでも親友だ。なんか書いているのは見ていれば分かる。だがまさか、そこまで具体的な悩みだとは思わなかったが。弥生(やよい)も心配するはずだ」

「弥生……?」

 いきなり出てきた妹の名前が出てきて問い返す。

「そうだ。弥生からも兄が進路のことで悩んでいるようだったら相談に乗ってやってくれと頼まれていたんだ」

「そうか。それで……」

 そういえば、いつぞや弥生が誠仁と連絡を取っていた。あの時の自分の話とはこういう話だったのか。

 弥生の遠回しな思いやりに温かいものを感じつつ朗太は尋ねた。

「で、じゃぁ進路についてアドバイスをくれ。俺はどうすれば良いと思う、誠仁」

「うむ……」

 誠仁は顎に手をやり考え込んだ。

「正直、まさかここまで具体的な悩みだとは思わなかったからな……。朗太、茜谷さんたちの進路は聞いたのか?」

「進路? そりゃ姫子の進路は知っているが、他は……」

 姫子の進路では過去にひと悶着している。

 彼女は心理カウンセラーになりたいのだ。

 しかし風華や纏の進路となると

「知らない、な……。そういえば」

「そうか。ならまずは残りの二人、白染と金糸雀さんの進路を聞いてみたらどうだ?」

「どうして」

「なんだそんなことを聞くのか」

 誠仁は軽く笑った。

「あの三人はこの一年俺たちより近くにいたろ? 近くの人間の進路の考え方は足しになるはずだからさ。俺は警察官、大地は経済学部だ。他の人の進路よりは参考になるだろ?」

 それは確かに言えていることだった。

 実のところ誠仁や大地の性格・嗜好と進路選択は朗太にとって大いに考える上での資料になっていた。

「だからさ、白染や金糸雀さんに聞いてみるのはどうだ。それでもし何の役にも立たなかったのなら俺のところに来い。俺がビシッと良いアドバイスをしてやるさ」

「そうか……」

 サムズアップし胸を叩く親友に朗太は思わず脱力した。

 こういう底抜けて明るいところが誠仁の良いところだ。

 それに……

 言われてみれば彼女たちの進路は確かに気になった。

 彼女たちの悩みが継続している状態でわざわざこんなことを聞きに行くのは相当マズい気もしたが、もうここは嫌われること前提で、聞きに行こうと思った。

 彼女たちは将来何になろうと思っているのだろう。

 この一年、誠仁や大地よりも近くにいた彼女たちの進路。

 風華と纏。

 そういえば纏は最近調理部に入ったと言っていた。


 なら……


 確か、調理部の活動日は今日だったはずだ。

 

 朗太は誠仁と別れると調理部の部室になる調理実習室へ急いだ。








 コミカライズ発売まであと2日!

 明日も投稿します!

 それと本編とは全く関係ないのですが、短編を投稿してみました。


『人生追憶録~もし未来の世界で人生のデータが保管されるなら~』


 5000文字いかないくらいの短編の中でもかなり短い部類の短編です。

 しょうもないSFです。

 下部にリンクあるのでもし良かったら読んでみて下さい。



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1巻と2巻の表紙です!
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