コミカライズ第6話掲載&漫画発売間近! 短編
コミカライズ発売間近&本日コミカライズ第6話掲載に伴い、本日短編を投稿します!
本編は9/20より再開します。
短編なのでカウントは停止です。
夏休みの、とある日のことである。
「ねー、お兄ちゃん、ここの問題はどう解くの?」
「ねー、お兄ちゃん、漢字ドリル代わりにやってー?」
朗太は風華宅で風華の妹たる華鈴と華蓮の面倒を見ていた。
風華に妹の宿題の面倒を見て欲しいと頼まれたのだ。
姫子が、である。
その姫子に連れられて風華宅にやってきているのだ。流れで当然のように一緒に纏もやってきていた。だが、今この家に三人はいない。
買い物に行ってしまったのだ。
自分を一人置いていくとはかなり信用されているなと思うが、本当に自分はそれくらいの信用は勝ち得ているらしい。
「凛銅くん! 変なとこ見ちゃダメだよ!」
と念押しするだけで風華はさっさと出ていってしまった。
「朗太! 絶対ダメよ!」
「先輩! おかしなことしたらすぐ分かりますからね!」
むしろ残りの二人の方が警戒しているようで、姫子と纏からはハラハラしたものが感じられた。
となれば今この畳の上にちゃぶ台が置かれた六畳一間には、朗太と華鈴と華蓮しかいなくて、華鈴と華蓮は何を隠そう風華の妹だ。妄想の中では未来の義妹である。
基本子供にはまともな対応を見せる朗太だが、特段優しくしてやらねばなるまいと考えていた。
将を射んとせばまずは馬からである。
馬である彼女たちには、やはり優しくしてやらねばなるまい。
――とはいえ
「ねぇお兄ちゃん、ここ、ここの解き方!」
「ねぇねぇ、漢字ドリルーー!」
この二人が未来の義妹であるのなら、見境なく優しくしすぎるのもどうだろうか。
せがまれた朗太は勝手に、義兄視点で考えていた。
良くないんじゃないだろうか、と。
甘やかしすぎるのは良くないのではないか、と。
考えているうちに朗太は将来的に義兄になるのなら、長期的な視点で関わる必要があるという結論に達した。
「だ、だめだぞ華鈴、宿題は自分でしないと」
優しさの中に厳しさも混じる態度を見せる朗太。
だが……。
「えーでもー!」
「でも?」
「ダメ?」
か、可愛い……。
キュルンという効果音でも付きそうな笑みを見せる風華シスターズに朗太はほだされそうになっていた。
風華と同系統の遺伝子情報・塩基配列の下作られた個体であるところの華鈴と華蓮はやはり朗太的には尋常ではなく可愛く見えるらしい。なんだろう、やはり宗教画の中の天使などとダブって見える。
「(いけそうなんだけど……)」
「(そうだね……。風華ねぇの言う通りチョロそう)」
朗太がフリーズしていると二人はこそこそ話していた。そして
「ねぇ、おねがい!」「おねがいお兄ちゃん!宿題代わりにやって!」と、今度は語尾に星マークやハートマークでも付きそうな、殊更にあざとい口調で頼み込む。それに途端に朗太も正気に戻る。あざとすぎるものは時に人を冷静にする効果があるものである。
「それ誰から習ったんだ」
「風華ねぇと姫子さん。ね!」
「うん、いざってときはこういうのも使えるって」
「あいつら何教えてんだ」
明らかに余計なことを教えている二人に朗太は溜息を吐いた。
このままでは華鈴と華蓮が耳年増になりかねない。
その後も華鈴と華蓮は宿題を続ける。朗太は彼女たちのサポートを続けた。
しかし時間もだいぶ経ち彼女たちの集中力も切れたようだ。
「飽きたー」
「もうむりー」と、宿題を投げ出しそのまま畳に寝転び始めた。
仕方ない。
こういうときは気分転換するに限る。少しくらい遊んでも風華も許してくれるだろう。
「じゃぁ休憩で」
「やったー!」
朗太の号令で二人はそそくさと机から旅立った。
何をするのかと見ていれば彼女たちはテレビの前でゲーム機の前に集まる。
昔ながらの、朗太が小さいとき使っていたような年季の入ったゲーム機がそこにはあるのだ。
「まだクリアしてないんだよねー」
「今日こそはこの面クリアするんだー」
彼女たちは言いながらカセットにフーフー息を吹き掛けガチャンと差し込み電源を入れた。
ピローンという電子音とともに画面に表示されたのは某超有名、配管工のオッサンが怪物に攫われたお姫様を取り返すゲームだった。
「お兄ちゃんやったことあるの?」
朗太の表情で妹たちは察したらしい。朗太が頷くと二人は顔を見合わせた。
「じゃぁ分からないところあったら教えて!」
「分かった。分からないところがあったら聞いてくれ」
朗太は快く了承した。
言うではないか。将を射んとせばまずは馬からと。
勉強以外でも役立つ気さくなお兄さんを演じる格好の機会である。
朗太はいつでも質問に答える気概で妹たちと画面を見続けた。
脱落したら交代のようで「あー華鈴だめだよー」「いやこれでいいんだって」とか言いながら、交代を繰り返し進めていく。
だがしばらくすると進むのに行き詰まり、同じ場所で何度も脱落し始め「ねぇおにぃちゃん聞いて良い?」と尋ねてきたので、遂に出番かと、遂に自分の価値を刷り込むチャンスが来たのかと、朗らかな笑み、完璧なアルカイックスマイルで応じたのだが
「クッパーはチーピ姫さらって何するの?」
……想像以上に答えづらい質問来たなコレ。
朗太は固まった。
え、あ? え??
朗太は困惑する。
ダンジョンは? ダンジョンのクリア方法は良いの?
だが彼女としてはダンジョンのクリア方法などどうでも良いらしい。
「あ、そういえばそうだね華鈴」
「うん、今ふと気になってね」
「「ねぇ、クッパーは何する気なの?!」」
二人は爛々と目を輝かし朗太の顔を覗き込んでいた。
自分はなんと答えたら良いのだろう。
朗太は突如難問を突き付けられた。
朗太は考える。
そのものズバリを言うか? と。
いやそれはだめだ。
それをもう一人の朗太が否定する。
バレたら殺されかねない。もしくは社会的に抹殺されかねない。
そもそもお前この純粋無垢な生物に事実を教える勇気があるのか、と。
いや、無い。否だ。
なら、適当に見当違いなこといってはぐらかすか?
朗太は思いつく。
いやそれもダメだ。
だがそれももう一人の自分に否定される。
彼は言う。
なぜならこの二人は未来の義妹だ。蔑ろにできないではないか、と。
確かに……。
何が確かになんじゃという意見もあるかもしれないが、朗太としては義兄になることは確定事項のように扱われていた。となればただの逃げの返事をすることも憚られる。
朗太は悩む。
穏便な回答をするか、華鈴と華蓮を一人の人間として尊重し、当たらずも遠からずのようなことを言うかで。
どうする!
朗太は悩み、半分キレた。
なんなんだ、この子供はどこから来るのコウノトリが持ってくるのみたいな問いは!
答えらんねーよちくしょー!
だが現在進行形で華鈴と華蓮はつぶらな瞳で朗太を覗きこんでいて、
「あ、アレだよ……」
「クッパーはね……チーピ姫とね」
朗太は答えを捻り出した。
「あ、愛し合おうとしているんだよ」
「凛銅くん変なこと教えないで」
だが時を同じくして襖がガラっと引かれ風華が現れた。
「アンタ……」
「先輩……」
買い物を終えたらしく奥にはビニール袋を持ちドン引きしている二人がいる。
難題を寄せられて、彼女たちが帰ってきた音に気が付かなかったようだ。
「いやどーしろってんだよ!」
逆に朗太も切れた。すると朗太が完全な答えを寄こさなかったことを知った二人の矛先は姫子へ向いた。
「姫子さん教えて!」
「へ?!」
言われた姫子は顔を真っ赤にし固まっていた。
やはりこの問いは姫子でも即答できない類のものらしい。
しかしそこに纏が助け船を出す。
「それはね、華鈴ちゃん、華蓮ちゃん、クッパーはチーピ姫を『食べちゃおうとしている』んですよ?」
「それだ!」
纏の出した100点に近い答えに風華がズビシと指をさす。
そして「へーへー」感心している華鈴と華蓮に纏は言う。
「だからね、華鈴ちゃん、華蓮ちゃん、先輩に着いていっちゃダメですよ食べられちゃいますから」
えーー
お、俺の馬攻略作戦が……
華鈴たちの視線が外れた瞬間、纏がこちらを見てニヤリと笑う。
世の中、上手く行かないものである。
本日コミカライズ第6話掲載されています。
姫子が朗太に惚れる、例のシーンが描かれています。
朗太と姫子らしさが出ていてとても良いです。
あとネタばらし回はやっぱり良いですね!
今回のような人の嫌な感情が滲み出る回はやはり良い。
本編は9/20より再開します!
宜しくお願いします!
9/24に漫画も発売されます!