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ディズネイパーク編(9)

微調整で時間がかかってしまいました。

遅れてすいません。



5




「依頼?」

 朗太は訳知り顔の姫子に問い返していた。

 視界の先では「サイフ落としちゃったの」「お兄ちゃんお願い。一緒に探して」と華鈴と華蓮が袖をひっぱり津軽を引き留め「だからなんで俺?!」と戸惑う津軽がいた。「キャストいるじゃん!」という津軽の声がここまで聞こえてくる。

 それら会話を聞きつつ姫子は頷いた。

「そ、これが『依頼』なのよ」

「お兄ちゃん」「お願い」今も向こうでは津軽を華鈴と華蓮が引き留めている。

 これが、『依頼』。

 この風景には何者かの作為が潜んでいる。

 それは、華鈴と華蓮がいるのを知った際に、姫子が言っていた『依頼』という言葉と重なり、予期はされてはいた。

 しかしまさか本当だとは……。

 朗太が恐れおののいていると「ひー、上手く行ったよー」と風華がへとへとになりながら戻ってきた。

「お疲れ風華」

「ちび達に説明するの大変だったよ~」

 姫子が風華を労っていると、視界の先では大きく溜息をついて「仕方ねーな……。ちょっと待ってろ」と駆け寄るキャストを手で制し津軽がスマホを取り出していた。何をするかと思えば朗太のスマホに着信が入る。


「朗太か? 良く分かんねーけどガキに絡まれちまってよ」

「の、ようだな……」

 離れた場所からではあるものの、その様子を目の当たりにした朗太の声は自然と恐る恐るのものになった。しかし事情を知っていそうな朗太の様子を津軽は取り違えのんきに話し続ける。

「? あぁ、さっき言ったか。でな、なんかガキが財布落っことしたようでよ。一緒に探して欲しいらしいから一緒に探すわ」

「良いのか?」

 朗太は思わず聞き返してしまっていた。

「……蒼桃探すって言ってたじゃん」

 すると津軽は「いいよ」と軽く笑い言った。

「それに、『あいつ』もきっとそうするだろ?」

「……」

 あいつとはきっと蒼桃のことだ。

「だから連絡だけ入れておくわ。無事ならそれで良いよ」

 そうして通話はぶつりと切れる。

 視界の先では津軽が「仕方ねーな、で、いつから無いんだ」と華鈴と華蓮に尋ねどこかへ向かい出していた。

 

「はぁ~~~~~~」

 その光景を遠目に見て、姫子たち三人組が大きく息を吐く。

「息が詰まったわ……」

「生きた心地しなかったですよ……」

「ホント、私がどきどきしちゃった」

 どうやら津軽は彼が気が付かないうちに重大な決断を下したらしい。

「説明、してくれるか……」

「あぁ、それは『あたし』から説明しよう」

 朗太が尋ねると背後から声がかかった。振り返るとそこにいたのは、整った目鼻立ちをした金髪ギャルであった。蒼桃瞳だ。

 津軽とデートをしていた、ウェスターランドへ向かったはずの蒼桃が立っていたのだ。その手には明かりを灯す、スマホが握られている。スマホは壊れてもいなそうだ。


 さすがにここまで来ると朗太も驚きはしなかった。

「頼んだ」

「モチ」

 朗太が促すと蒼桃は頷く。

 モチって……。

 朗太が蒼桃の軽いノリに呆れていると、蒼桃は事情を話し始めた。 


 そして、モチ、という新しいんだか古いんだか良く分からない余裕ぶった態度をとった蒼桃だが、とある事情で姫子さん達には手伝ってもらっていた、と語った後、「えー、で、あれだ、何でこんなことをしたかというと」と、真相を明かそうとする段になると顔を赤くししどろもどろになった。


「そ、その、つまりだ、あいつはなんていうか、あたしの言うこと聞かないっていうか、自分で考えて意見言ってくれたりしたから、その、良かったんだよ!」と心底恥ずかしそうに語っていた。

 

 つまり要約すると、実は蒼桃も津軽のことを悪いと思っていなかった、ということらしい。

 蒼桃はいくつかの事情が重なって大量の信者を抱えていた。

 だからこそ、その中で自分に対し意見を堂々とぶつけてくれる津軽は新鮮だった、というわけだ。

 だが……


「付き合うってなると話は変わる」

 恥ずかしさで顔を赤くするも一転、話が進むと蒼桃は渋面を作り俯いた。

「あたしは、きっと付き合っても今の活動を続けてしまう……! だから、それでも許してくれるのか知りたかった……! 好きになった後にダメになるのは嫌だから……。だから……」

「試したってわけか。津軽を……」

 朗太が恐る恐る尋ねると蒼桃は悲し気にコクリと頷いた。

 つまり蒼桃は津軽がどこまで困った隣人に寄り添える人間かを調べたのだ。

 自分という好いている人間と目の前の困った人を天秤にかけさせて。

 そしてその上で

「今からあたしが今日したことを打ち明ける。それでもあいつがあたしと付き合ってくれるのなら、あたしは大歓迎だ」

 とのことだ。

 彼女は津軽と付き合いたいらしい。

 そのために彼女は姫子たちを頼ったのである。

 蒼桃は石橋を叩き割らんという勢いで津軽を試すために、姫子たちに相談したのだ。

 その結果は先ほどの朗太たちが目にした光景である。


 結果はもう出ている。


「じゃぁそういうわけだから」

 蒼桃は緊張で顔を強張らせながら津軽の元へ向って行った。

 そして――



 目の前に蒼桃が現れて津軽は瞠目していた。

 と、同時に彼は周囲をきょろきょろと見回した。

 いつの間にか蒼桃が現れると同時に波が引くようにいつの間にか華鈴と華蓮がいなくなっていたからである。

 蒼桃が現れ、彼女たちが消えた。

 そのことで津軽は大体の事情を察したらしい。


「あぁ、そういうことか」

 少し黙ったのち、目を伏せ、津軽はそう呟いた。

「悪かった」

「どこまで仕組まれていた」

「今の子供たちは完全にあたしの仲間だ。で、あとはあたしが消えたところだ」

「つまり、朗太は部外者ってことか」

「あぁ、そうだな。あいつが絡んでいることはあたしも後から知った。あいつには悪いことをした」

「そうか、それは良かった」


 津軽はほっと息を吐き出した。

 胸をさするその様子は、心底安心しているようだった。そこに、蒼桃は挿し込んだ。


「で、あの……、こんなことをしておいてアレだが、津軽、あたしはアンタと付き合いたい。……あたしは、アンタが欲しい」


 その言葉はまるで時を止めたようだった。

 あまりの緊張で物陰に隠れてその言葉を聞いていたこちらまで心臓が止まるような思いだった。

 津軽の返事はすぐには来なかった。

 辺りの喧騒がまるで遠のいたように感じる無言の間だった。


「ハッ、これじゃ嬉しいのか、悲しいのか分かんねーな」


 しばらくしたのち津軽は軽口を叩き頭をかいた。


「一応確認だ、蒼桃は俺のことを良く思ってくれているんだな」

「あぁ……」

 蒼桃も神妙な顔つきで頷いた。

 それで津軽も決心がついたらしい。

「分かった、なら良い。付き合おう」

 津軽は蒼桃の手を差し出した。そして蒼桃がその手を握ると津軽はその手を強く握り返し蒼桃を一睨みした。

「で、俺がお前を性根を矯正してやる」

 言われた蒼桃は綻んだ。

「あぁ、宜しく頼む」


 ――もしかすると、この未だ問題を抱える蒼桃を救うのが彼の仕事なのかもしれない。握手を交わす二人を見てふと朗太はそう思った。



 それから朗太たちはホーンテッドペンションに乗っていた。

 姫子がどうしても乗りたいと言ったのである。

 席割は姫子と朗太、そして風華に纏、華鈴に華蓮である。後方から華鈴と華蓮が騒ぐのが聞こえてくる。


「実は瞳から相談されたのよ。津軽で良いかなって」


 ゴーストたちの営みが繰り広げられる空間を滑るように進むカートに乗りながら姫子は事の経緯を説明していた。


「ま、もう殆ど心は決まっている様子だったけどね。でも『活動』のこともあったからあいつは私に相談した」

 周囲をゴーストがぐるぐると踊り狂う。

「それで?」

「悪いけど、正直悩んだわ……。東京遠足の件もあるし……。でも津軽を見ていたら、その背後にアンタがいることに気が付いた。その上、津軽があれよあれよと瞳をディズネイに誘い込んだ。それでピンと来たわ。アンタが津軽を手助けしているって」

 つまりよそよそしい朗太の行動を不審がっていた姫子は、その理由を依頼人サイドを観察して、偶然にも逆輸入するように判明したという訳である。そして――

「アンタが信用しているのなら、良いんじゃないかなって思った。そのことを伝えたら瞳から依頼されたのよ。申し訳ないけど、津軽の気持ちを確かめたいって。で、私は色々と考えた結果、瞳と一つ約束をして依頼を受けることにした。だから華鈴と華蓮がここにいるのよ」

 姫子は背後の二人を顎しゃくった。聞いてみると昼の三時から入れるチケットを蒼桃が手配したから彼女たちはいるらしい。華鈴と華蓮はディズネイに行けるとあって風華経由で持ち掛けられた相談に飛びついたというわけである。

 背後からは未だ彼女たちの喚声が聞こえてくる。


「でも津軽には悪いことしたと思うわ。それに、まぁアンタにも。言えなくて言わなかったんだけど、黙っていて悪かったわ」

「そうか……」

「ま、私はアンタが信用しているなら上手くいくんだろうなとは思っていたけどね。で、詳しく聞きたいのは私の方よ。繰り返しになるけど、どうして津軽を応援したの?」


 その言葉と同時に姫子のまっすぐな視線が朗太を捕らえた。

 その真摯な視線に、嘘はつけないことを悟った。


「事の発端は修学旅行のすぐあとのことだった。津軽から蒼桃と付き合いたいと相談を持ち掛けられた。で、蝦夷池の件もあって、俺は手を貸そうと思った」

『依頼者』に対する罪償いである。

「だから俺は津軽に兄との関係を確認した。で、その返事に加えて普段のアイツの態度から見てももう問題ないんだろうなって思った。これはさっき言ったよな」

 姫子がコクリと頷く。

「でも実はそれだけじゃないんだ」

 打ち明ける朗太の後方から「コラ! 流石に騒ぎすぎよ!」と風華が妹たちを叱り「まぁまぁここは騒ぐ場所ですし」と纏が宥めるのが聞こえてきた。

「俺は蒼桃にはパートナーが必要だと思っていた」

「パートナー?」

 意味不明な言葉に姫子が顔を傾げる。しかし朗太からすると当然のことだった。

「だって姫子も来年受験だろ……いつまでもこの活動は続けていられない。だけど俺はこの一年で痛感した。この活動は一人ではやりきれない時があると思う」

 朗太が無理なときは姫子が頑張り、姫子がダメなときは朗太が頑張った。

 そうして行ってきたのがこの活動だった。

「俺が入る前からやってきた姫子には姫子なりの言い分があるのかもしれないが、少なくとも俺は二人でやった方が楽だったんじゃないかと思う。だから姫子が引退した後のあいつをサポートしてやれる人間が必要だと思った」

「それが津軽だっていうの」

「うん、まぁ」

 姫子の問いに朗太は頷く。

「アイツも来年受験だろうが、恋人のためだ。一肌脱いでくれるだろう。津軽はそういう人間だと思う」

 朗太は華鈴と華蓮のために予定を変更した津軽を思い浮かべた。

「それに依頼をこなす、蒼桃のサポートをするっていう面でも津軽はこれ以上ないくらい適任だと思った。見たろ、あの合唱コンクールの時」

「合唱コンクール?」

「あぁ、あの時あいつは合唱コンの練習に参加していた。蒼桃の信者は右に倣えで練習をボイコットしていたっていうのにだ。あいつは蒼桃を好いていながら、あの時は瀬戸に言われたからと言っていたが、自分が正しいと思うことをした。それに今さっきだって蒼桃を叱ってやっていた。あんな人間は貴重だよ。前にも言ったが蒼桃には多分力がある。きっと俺や、姫子以上に。だがその分パワープレイをすることがある。だから姫子が去った後も、いや、姫子がいる時も、あいつのことを傍で見ている人間が必要だと思った。それが津軽なんだと思った」


 好きな人に嫌われる覚悟で意見できる人間はそういないと思う。

 津軽は人間的に相当成長したのだと思う。

 しかしそれは何とも上から目線な判断で


「まぁこれだけ言うと俺も活動しか見ていないみたいに見えるが、アレだぞ、プライベートでも蒼桃には津軽みたいなやつが合うと思ったから俺は手伝ったんだぞ」

「フッ、そんな心配しなくて良いわよ」

 朗太が慌てて、補足になっているようななっていないような発言をすると姫子は軽く笑った。そして大きく伸びをした。


「そっかー、次の世代は瞳と津軽かーー」

「……い、嫌か……?」

「ううん。全然? でも上手く行くかしら?」

「さぁね。でもさっきの感じを見るに上手く行くんじゃない? ヤンキーとギャルっていう過激な組み合わせになっちゃったのがやや残念だが、でも俺たちの? って言って良いのか? とにかく、俺と姫子の後の世代がアレなのは納得感がある」

「なんでよ……」

「なんでだろうなぁ。形にとらわれないからかなぁ」

「フフ、なにそれ」


 朗太のぼんやりとした物言いに姫子はクスクスを笑った。


「てか蒼桃とした約束って?」

「それね。ホラ前にいつだか皆でディズネイに行きたいって話したじゃない。でもホラ、こんな状況じゃ誘ってもアンタ困っちゃうでしょ。だから瞳に頼んだのよ。相乗りさせてって」

「そんなことを……?」

「悪い?」

「いや悪かないけど」


 姫子たちは朗太が蒼桃をディズネイに誘い出だしたことを良いことに、そこに皆でディズネイに行くという約束を相乗りさせたのだ。その自分への思いやりに胸が痛くなる。

「おかしなきかたになっちゃったけど、こういうのも私たちらしくて良いかなってね」

 蒼桃との約束は相互の不干渉だった。


「あ、それでこれチョコね朗太」

「はい?」

「バレンタインデー近いでしょ。それよそれ」


 朗太が何も言えなくなっていると横で姫子がバッグから赤い包装紙に包まれた小包を取り出していた。


「ま、既製品だけどね。学校じゃ渡しちゃ大変でしょ」

「あ、ありがとう……」

「良いわよそんなお礼」


 初めて本命だと自覚して貰った本命チョコである。

 その闇の中にありつつも強烈な色を主張する、実重量以上に重さを主張する箱を受け取り朗太が顔を赤くしていると、その横では姫子が大きく伸びをしていた。

「あー色々あったから疲れちゃったわ」

 そしてそれに同意しようとすると、朗太の目をまっすぐ見て姫子は言った。

「でも、楽しかったわよ朗太」

「ッ!」

 

 その澄んだ瞳に不意打ちで見つめられて朗太がどきりとしていると姫子は告げる。


「それと朗太、瞳じゃないけど、私もアンタが欲しいわ朗太」


 姫子が言い終えるといつのまにかアトラクションは終わっていた。

 施設から出て朗太が赤い包みを持っているのを見咎めると風華と纏はバタバタと自分の荷物を漁った。そしてそれぞれ包みを取り出すとそれを朗太に渡す。


「あ、そうだ凛銅くん! チョコあげるんだった! ハイ、これ!!」

「私もあります! 先輩どうぞ!」

「お、おう……」


 びびりながらそれらチョコを朗太は受け取った。


 ――だが、こんな魅力的な女性たちから複数好意を寄せられる、ある意味、夢のような状況がいつまでも続くわけもない。

 この日を境に朗太は姫子と疎遠になる。

 夢の国から去り、夢が終わったのだ。

 園の外に出る。

 振り返ると闇夜に、夢の国が美しく浮かび上がっていた。


 朗太は直感する。ホワイトデーが期日。











 













 というわけで姫子の活動、継承完了です。

 津軽君は密かに育てていたキャラでした。蒼桃になんかあげたくなかったのですか彼はそれを望むようです。

 で、姫子の活動も片が付いたのであとは朗太たちの問題のみ!!

 物語の終局まであと少し!

 次章は『進路相談&球技大会編』です。とはいえ球技大会は賑やかしでメインは『進路』ですが。



あ、あと一応念のために補足ですが疎遠になった=振られた、とか、付き合わない、とか、そのような意味ではないです。姫子の場合、距離を取りそうだったのでそうしただけです。逆に姫子しかルートがないわけでもないです。

 次章は少し時間を置き再開します(現在展開を整理中)。8月後半か9月に再開予定です。裏で第3章の書き直しをしています。

 あ、あとコミカライズ更新日に何かしら短編を上げるかもしれません。

 宜しくお願いします!




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1巻と2巻の表紙です!
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