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ディズネイパーク編(5)


 正午が過ぎれば腹が空く。朝早くから動けばなおさらだ。


 シンデレルァ城を後にしばらく。

「カレー、で、良いんだよね……」

「うん!」

 腹をすかせた朗太たちは昼食を食べに来ていた。

 入ったのはホーム食品の提供するカレー屋である。昼食どこにする? と話題にしたら「安いところ!!」と風華が威勢よく答えたのでここになったのだ。


「ム、それでも高い……!」

 だがその価格帯は風華の予算からすると高いらしい。

 注文の列に並びながら店の上部に掲げてられているメニューを見て風華は難しい顔をしていた。「あと飲み物を買う予定で帰りの電車代がこれくらいだから……」と、ひぃふぅみぃと小銭をチャリチャリ鳴らし数え始める。そして「あ! ポークカレーなら食べれる!!」と、なんとか食事にありつけることが判明すると風華はパッと顔を輝かせた。

「「「……………………」」」

 その悲喜こもごもな様子に朗太たちがいたたまれない気持ちになっていると(本人があっけらかんとしているのがそれを加速させるのだ)

「夢の国価格ですからね。こればっかりは仕方ないです」と纏が毅然と総括し

「だな」「それはそうね」と朗太と姫子も続いた。


 頼むとすぐにカレーはトレーに載せられてきた。このあたりとてもシステマチックで素晴らしい。効率化は命。そんなことを考えながらテーブルに向かうとテーブルでは風華が「なんと! ここではお水が無料!!」と嬉しそうにぐびぐびと水を飲んでいた。フータロー君かな? と思いつつ席に着く。そして後からやって来た纏たちが席に着けば食事は開始なのだが……

「美味しそうだね……。チキン……」

 食事を初めて数分。風華が今にも涎を流しそうな感じで朗太のチキンカレーをぼーっと眺めていた。

「い、いるか……?」

「え、いいの!!?」

「い、良いけど……」

「ありがと~~~凛銅君! 愛してる!」

 鮮やかな愛の告白を朗太に浴びせフォークを朗太のチキンを突き刺す風華。だが次の瞬間「イッタ!!」と顔をしかめた。

「大丈夫か……?」

 その急変に告白された胸の高鳴りも一瞬で消え失せぎょっとする朗太。

 一方で姫子と纏は訳知りブスッとしながら腕を組んでいた。

「ふん、当然よ」

「そうです。当然の報いです」

「でも何も足踏むことないじゃない! 机の下でって性格悪いわよ! あ、でもチキン美味しい……。幸せ……」

 どうやら机の下で足を踏まれたらしい。可哀そうに、と思うと同時に、すでにフォークに刺していた朗太のチキンを口に運び甘美な笑みを浮かべる風華に、朗太も姫子たちも、何も言えなくなってしまった。

 

 それから食事が一段落しようとしているころ、丁度店の外が騒がしくなり始めていた。多くの客が喚声をあげながらスマホを構えているので、何がしかのキャストが来ているらしい。このような光景はディズネイでは良くある。すでに今日も同じような光景を数回目にしている。

「今回は誰でしょうか?」

「分かんないわね。こっからじゃ着ぐるみも見えないけど」

 それもあって今度は誰だろうと揃って店先の大群に視線を向ける四人。すると、長い金髪を編み込んだドレスを着た女性が観衆の中にいるのが見えた。

「あ、塔のてっぺんのラプンツウェールのキャストよ!」

「そうですね。だから見えなかったんですか」

「着ぐるみ着ていないものね。にしても綺麗」

「ホント綺麗ですよね」

「うん、凄い凄い。ほれぼれする」

 突然現れた金髪の美人に目をキラキラさせながら感嘆の息を漏らす三人。それに、ふーんと感心したような、していないような微妙な顔をしていると、風華が目をしばたかせた。

「え、もしかしてその反応! 凛銅君知らないの? 塔のてっぺんのラプンツウェール!?」

 まさか、反応だけでバレるとは……。風華の観察眼に朗太は驚嘆した。

「う、うん。実は。ピンポイントで知らない……」

「へー嘘。珍しいー」

 その事実は彼女たちにとっては結構意外だったようで三人とも物珍しい目で朗太を見ていた。

「じゃぁ『ラプンツウェール!』も知らないんだ」

 風華は唇を尖らせ鼻にかかったような声を出した。どうやらキャラの声真似をしたらしい。しかし

「誰それ」

 そもそも似ていなかったらしい。姫子からクレームが入る。

「どちらかというとアナユキのオリャフみたいな口調になっていましたよ」

「あの悪女の物真似よ! ラプンツウェール呼ぶときこんな感じじゃない! それにオリャフは『焼き肉食べたいなぁ~』、でしょ!?」

 クレームが入り今度はオリャフなるキャラの声真似をした。だが……

「そんなこと言わなくないですか?」 

「それこそ誰よそれ」

「え」

 思い違いで違う物まねをしてしまったようで、風華はしばし考え込むと言った。

「……私かも」

「アンタか」

「自分が出て来ちゃいましたよ……」

 生産性皆無の会話に纏たちはがっくりと肩を落とした。

「風華さん、焼き肉食べたいんですか……?」

「うん、食べたいね……。6人家族だと年に一度くらいしか行けないから……」

「そ、そうね。それは大変ね……」


 そんな心底下らない会話を繰り広げながら食事を食べた後のことだ、


「朗太、津軽は無事なの?」

「あ、お、おう。多分。今さっき昼飯食い終わったって連絡来たし」

「そう。なら良いんだけど。何か困ったことあったら伝えるように言っときなさいよ」

 朗太たちは席を立ち

「ていうか姫子たちは大丈夫なのか、依頼」

「あ、あーー、えーーと。それは、うん、大丈夫よ」

「?」


 言い淀む、何とも腑に落ちない反応の姫子をいぶかしみつつ朗太は外へ出たのだった。











短くて申し訳ないです。

風華の金銭面に合わせた結果こうなりました。

別にモチベが低いわけではないです。

実は今回、金銭面度外視したバージョンもありまして……、そっちの方を書いていました。

そっちもこの後書きの下の方に載せておきます。もし暇な方がいましたら読んでみて下さい。

次話投稿は7月14日(日)を予定しています。

あ、あと今月はコミカライズの更新は無いようです。

宜しくお願いします!


















































ディズネイパーク編(5)ゴージャスバージョン







 正午が過ぎれば腹が空く。朝早くから動けばなおさらだ。


 シンデレルァ城を後にししばらく。

 朗太たちは西武開拓時代をモチーフにしたエリアにあるポリネシアンヌレストランにやってきていた。

 ディズネイパークの中でも比較的高価格帯に分類されるレストランだ。予約が必要でもあり、そうなってくれば気になるのがなぜ予約が取れていたのかであって

「なんで予約出来てたんだ?」

「ま、まぁ色々あるのよ……」

 朗太が素朴な疑問をぶつけると姫子はそっぽを向き言葉を濁した。 

「すごい、流石ですね。瞳は!」

「うんうん! ここ全部もってくれるって瞳ちゃんお金持ちなの?!」

  朗太そっちのけで盛り上がる二人を見て朗太が再度姫子に尋ねる。

「なんで蒼桃の名前が出てくるの?」

「だからまぁ……それは色々あるのよ……私たちも断ったんだけどね」

 スタッフに通されたテーブルに着くと姫子はやれやれと手を広げた。

「まぁ、それはそれよ。楽しみましょ朗太」

「やーよーこそー皆さん! 今日は皆さんをお待ちしていました~~!!!」

 客全員が席に着くと会場に設えられた舞台でキャストの男性が伸びやかな声で歌うように言った。


 ポリネシアンヌレストランは完全予約制の、回ごとに客を総入れ替えするレストランだ。料理が振舞われている最中にミッチーマウスやミチーマウス、スピッツといった人気キャラが席まで会いに来てくれ、最後、ちびっこたちは召集をかけられ舞台の上でミッチーたちとダンスが出来るというアトラクションを提供しているため、必然時間ごとに総入れ替えする必要があるのだ。

 それもあって当然、予約が必要なほど人気になり、勿論お値段も他の園内の店よりも高めになる。

 で、そのお高めの料理の味だが――


「うま!!」


 とても美味しく風華は運ばれてきた前菜を一口、口に運び目を輝かせた。

「うそ! 思っていた以上に美味しいんだけど……」風華は口元を手で隠しながら感嘆を隠し切れずにいた。

「はい、ここの料理は園内の中でも美味しいですよね! 後から来る料理にも期待して良いですよ!」

「やった! しかも纏ちゃん見てこのメニュー! 飲み物飲み放題だって!! 早く、早く頼まないと! ジュース飲む!」

 風華は慌ただしく配膳されていた果汁ジュースを飲み干していた。だがその途中むせこんだ。

「アンタ慌てすぎよ……」

 姫子はやれやれとその背を撫でた。

 そんな騒がしい食事をしていると会場の隅がざわつきはじめた。見るとミッチーマウスが席の前までやってきて客の前でわちゃわちゃ動き、客が歓声をあげて一緒に写真を撮っている。

「あれがグリーティングか……」

「そうです! あれがここの目玉です! 6人来ますよ!」

 そう、あれが噂に聞きしこのレストランの人気を押し上げているキャラと一緒に写真を撮れる『グリーティング』なるものである。

 驚異の盛り上がるを見せる客を妙に落ち着いた気持ちで眺める朗太をよそに纏は声を弾ませていた。

 というわけで数分後、朗太達の前にもネズミを模した某有名キャラクターやってきたのだが……

「なんか、よそよそしいわねアンタ……」

 わちゃわちゃ動くキャラを前に朗太がたどたどしい対応をしていると姫子が眉を顰めた。

「なんていうか、俺、こういう時どういう顔をして良いか分からないんだ」

 黒いネズミ型のキャラを前に困った笑みを浮かべ白状する朗太。

 多分こういう場面では、笑えば済むのだろうが、どうにも出来ないのだ。

 きっと人の視線が気になったり、プライドのようなものがあるのだと思う。

 小さい人間である。

「男の子あるあるですね。先輩、笑えばいいんですよ笑えば」

 シンジ君かな、思いつつ纏に促されにかーっと笑う。すると

「おおおう……」

 その不細工な笑みに纏は慄き

「結構きついものがあるわね……」

「凛銅君わざと変顔してる?」

「してないが」

 口々に残り二人にも酷いことを言われ朗太はぴしゃりと言った。

 

 写真を撮るとそのキャラクターは次の席に移動していき、解放されると朗太は自席に深く身を収めた。

 もうすでに疲れてきってしまった。

「あと5匹」

「アンタ怒られるわよ」

 その後も朗太はなんとかはりつけた笑みを作り乗り越えていく。

 とはいえ凄いと思う。

 朗太は目の前でわちゃわちゃと慌ただしく動く犬のキャラを見て思う。

「お鼻触って良いですか?」

「あ、私も、触って良い!? 良いの! やったー!」

「わ、私も、触って良い?」

 纏が思いきって尋ねた後、風華が私も私もと自分を指さし手を伸ばし、姫子も顔を赤くしながらおずおずと触る。女性陣はこのようにディズネイキャラがやってきてテンションマックスだが、男の方は朗太のようにやや冷めたというか、冷静な気持ちで俯瞰しているような奴も多いのではないだろうか。だが……

「!?」

 犬のキャラがこちらを振り返りその鼻を強調してくる。

「触れってことよ」

「そうです! 先輩も触ってください!」

「すべすべだよ凛銅君!」

 このように朗太も盛り上げようとしてくれるのである。

 その鼻を触ったのち写真を撮り、彼は次のテーブルに移っていく。

 これがプロか。朗太は感動していた。

 そして料理があらかた済めばダンスの時間となり

「壇上でダンスをしまーす! ちびっこは集まって~~!」という声が会場に響き渡りおもむろに纏が席を立ち始める。

「おい待て」

 そのまさかの挙動に思わず男友達に向けるような素の声が出た。

「何でですかその手を放してください先輩! スタッフが私を呼んでいます!」

「落ち着け! 確かにちびっことはとは言ったがそれは厳密には幼稚園とか小学生とかの子供のことだ! 高校生は多分含まれていない!」

「何でですか! 小学校だったらわずか4年前です! それに私の背格好だったらぎり小学生で通せます! 止めないでください!」

「自分で言っていて悲しくならないのか纏! 止めて姫子!」

「しゃーないわね。纏アンタ落ち着きなさいよ」

「良いじゃないですか~~こういう時くらいはっちゃけさせてくださいよ~~」

 纏はむりくり席に押し留められ半べそをかいていた。

 それからしばらくすると、ちびっこたちが登壇するとキャストと交じりダンスをし始める。

 で、その際見本となるように、壇上にミニスカを履いた美人の女性スタッフが躍っていたのだが

「見えそう……」

「ホントね」

「見えて良い下着履いているんでしょうけど際どいですね」

 と三人がしげしげとそのスカートの裾の辺りに注目し始める。


(うわぁ……始まったよこの感じ……)


 前傾しだす少女たちに朗太は顔をゆがめた。

 京都旅行の整形談義でもあった、謎の、女性ならではの女性が女性に向ける厳しい視線である。

 で、どうせこれで自分は知りたくもない真実を知らされるのだ、と思っていると


「先輩、見せパンの色はコスチュームと同じことが判明しました!」

 さっそく報告が上がってきた。

「そうか……」

 朗太はそれ以外何も言うことが出来なかった。

 キャストの人ごめんなさい。

 






こんな感じのネタを用意はしていた。








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