ディズネイパーク編(4)
というわけでデート回です。
色々ごちゃまぜの施設です。
というわけで朗太は津軽とは定期連絡を取りあうと約束だけして、早速ディズネイパークの目玉アトラクションの一つであるジェットコースターのあるアメリカの西部開拓時代をモチーフにしたエリアにやってきていた。
で、ここで何をするかといえば――
「的当てかよ!」
「何よ、意外と面白いのよ」
姫子はキャストからライフルを受け取りながら唇と尖らせた。
朗太たちは客がわらわらと並ぶジェットコースター(ビッグシャンダーマウンテン)を無視し、横にひっそりと建つ小さい施設に入ったのだった。
「選択渋すぎないか??」
「もうファストパスは取ってるんだからそれまでの時間潰しよ。それに、ここだって結構凝ってるのよ」
姫子は愚痴を言う朗太の意見を即座に切り捨てた。
確かに、言われて見回してみれば、流石はディズネイ。ただの的当てでも内装は凝っている。
西部開拓時代の雰囲気を醸す酒場にバーテンダーやカウボーイを模した人形が立っていて酒場の至る所に無数の的が並んでいる。それを電子信号の放たれる銃で射貫くようだ。無事当たっていれば的が明滅する。看板には10発中10発命中させると銀色のバッジが貰えると書いてあった。ボーナスの的に当たれば金色バッジ。初めて来たが、時々客が着けているバッジはここが供給元だったのか。
そんなことを考えていると風華や纏などは「久々にやりますかー」と意気込んでいて、肩をグルグル回していた。
その様子に、そうそうバッジなど貰えるわけがない、と朗太はたかをくくったのだが
「なんで……?」
あっさりと3人とも全弾命中させて見せ朗太は驚愕した。
「いやなんでって言われても……」
当てて当然という風の三人は、むしろ朗太に尋ねられて困惑していた。
「こんなの簡単じゃないですか先輩」
「うんそうだよ。リラックスすれば当たるよ凛銅君」
その常軌を逸した物言いに、おかしいのはこの子達の方だと朗太は確信するが、何とも悔しい朗太である。「ちょ、ちょっと待って」と待ったをかけてその後数回トライする。しかし全弾命中など土台無理な話で
「ホラ行きますよ先輩」
「もう一回、もう一回。今度は上手く行きそうなんだ」
「無理よ。お金勿体ないから次行くわよ」
「そうですよ先輩。時間も勿体ないですよ」
「そんなに欲しいなら私のバッジあげるよ凛銅君」
といった具合に施設から引きずり出されていた。
「パチンコにハマる彼氏を持つ彼女の心情ってこんな感じなのかしら……」
朗太の服の袖を掴み連れ出しながら姫子はぼやいた。
それから朗太たちは早乗りできるチケットを事前に取っていた乗っている座席が何度も急上昇・急降下を繰り返し、浮遊感が楽しめるアトラクションに来ていた。
そしてこのディズネイの特徴の一つに、どのアトラクションも背景が作りこまれているというものがあり、この施設は収集家の大富豪が原住民から無理やり取り上げた品物の中に呪いの人形があり、その人形に呪い殺されるというものなのだが、その演出で待ち時間に飾られていた人形が一瞬のうちに消失するものがあり
「あれどういう仕組みなんだろうな」
「不思議よね」
「スマホで調べてみる?」
とストーリーそっちのけで仕掛けに頭を使いだす上級生三人に「ロマンの欠片も無いです」と纏は溜息を吐いていた。
「キャアアアアアアアアアアアアア!!!」
「いてぇよ!!」
怯える姫子のせいで朗太が痛い目を見たのは言うまでもない。
その後、スピッツと話せるスピッツエンカウンターで風華がはいはいはいはい! と手を上げまくるもシカトされ、アマゾンクルーズでガイドの人の話の振りにノリノリで対応し「もうここの人になっちゃえば良いのに」と纏がぽつりと呟いたのち、
「私がコスモヒーローであることを教えてあげるよ!」
朗太たちは宇宙から押し寄せる敵を回転する座席に乗りこみ光線銃で撃ち抜くブヮズライトイヤーのコスモブラスターにやってきていた。敵を倒すごとにポイントが入り、最終ポイントにより称号が与えられるのだ。風華の言うコスモヒーローとはその最高位である。結構人気な施設でいつも長蛇の列ができている。
「宇宙の平和は私が守る!!」
「フ、調子乗ったこと言っちゃってますよ姫子さん」
「そうね、ぶっ倒してやるわ!!」
3人は大いに意気込んでいた。そして座席割は朗太&風華、姫子&纏になり――
「ちょっと凛銅君!! 右! 右に回転して!! よし、分かった! 役割を分担しよう! 私が打つ人! 凛銅君は私の運転手! 分かった!?」
「ちょ、さすがに横暴だろ!」
「なに!?」
「い、いや何でもない……」
朗太は風華が打ちやすいようその座席を回転させる任を拝命されていた。まさかの分業制である。
「うわぁぁ、悪魔がいます」
「どっちが倒すべき敵か分かったもんじゃないわね……」
「ヨッシャ―!! 一万ポイントー!!」
残り二人がドンびいているのにも構わず風華はガッツポーズをしていた。
それから朗太たちは子供たち用エリアであるツーンタウンに後ろ髪引かれる纏を引き連れピノキヲの冒険という名のアトラクションにやって来ていた。
「こういう昔ながらの乗り物好き」
「ピノキヲってどんな話だっけ?」
「木の人形が本物の人間になるまでのストーリーでしょ? で、木の人形に命が宿るのを見たコオロギが案内役になって――」
低速のトロッコがガシャコガシャコ言いながらレールの上を走るアトラクションを待ちながら朗太はうろ覚えでストーリーを語る。すると「全然甘いです」と厳しい顔の纏が話に割り込んできた。
「先輩、知識が全然浅いです。そもそもピノキヲというのは子供向けの新聞に連載されていたもので、当時のものは今の感覚だと相当残酷なものでした。コオロギも死にますし、ピノキヲも死んで連載が終わります。で、当時の――」
べらべらとうんちくを語りだす纏。朗太たちは驚愕した。
「な、なんか始まったわよ……」
「纏ちゃんがこうなるのは珍しいね……」
「お、落ち着け、纏……」
「聞いていますか先輩!?」
「き、聞いています……」
朗太はオタクと化した纏の知識の捌け口になった。
そしてそれは普段映画を見た後の自分の姿に重なるものであり嫌でも朗太に自省を促し「纏がこうなると朗太が常識人化するのね……」と意外な立場逆転に姫子は感心とも呆れともつかないため息を漏らしていた。
その後シンデレルァ城で写真を撮るべく列に混ざり並んでいると姫子に尋ねられた。
「弥生ちゃんと時々来るって言っていたけど、普段アンタ待ち時間何してんの?」
「小説書いているな。スマホあればどこでも出来るし」
「えぇ……」
その常軌を逸した時間の有効活用方法に姫子は顔をしかめた。
「アンタ、妹とはいえそれはないでしょ……弥生ちゃん可哀そうよ……」
「そ、そうか……。弥生もそれで良いって言っているんだけどな……。あ、でなきゃカップルとかの会話聴いている……。時々面白い会話してたりするし……」
「うわー……」
姫子はますます顔をしかめた。
「というか津軽君の調子は?」
変わって風華が口を開いた。
「大丈夫みたい。でも蒼桃の歌の趣味は聞かれた……。V系であっているよね……」
「そうね。具体的にはテンプルノイズだけど」
それは今女子中心に人気を集めているヴィジュアル系バンドである。
「ありがとう。伝えておくわ」
伝えるとしばらくしてサムズアップマークが届いた。聞かれて結構時間が経っているが、役には立ったのだろうか。
もしくは礼儀で感謝している風のスタンプを返しただけかも、と心配していると、『女子が好きな場所とか知らない?』とメッセージが送られてきた。そのまま姫子たちに振ると「女子なら誰でも好きな場所なんて無いわよ」と割と真っ当な返事が来る。
「あー、でも瞳はミッチーマウス好きなんですよね? なら私、隠れミッチーの場所たくさん知っていますので教えてあげますよ」
それは願ってもないものだった。まさかそんな有用なものを知っているとは思ってもいなくて、朗太は聞いた情報をそのまま伝えると津軽は大いに喜んでいるようだった。
「今、どんな感じなの?」
「予定通り、アトラクション回っているって。特に問題ないってさ。今から予約していたレストランで飯食うらしい」
ただ一点気になることと言えば――
朗太は言いながら、入場を待っている時に見た蒼桃の姿を思い出した。
――蒼桃が頻繁にスマホを気にしているらしいことくらいか。
実は待っていた時や津軽といる時も蒼桃はスマホを頻繁に気にしているようだったのだ。津軽も気にしているようで『俺たちもあまり連絡とらない方が良いのかな』と聞いてきているほどだ。
結局、緊急時以外はトイレに入った際などに連絡は済ませるようにというルールで済ませたが、それ以降も蒼桃はスマホをよくいじっているらしい。
だがそれは突き詰めれば、その人個々人の考え方次第だ。
人前でスマホをいじるのを良しとするか、否かという問題で、別に悪気はないのかもしれない。
だが果たして、付き合っても良いと思う男の前でスマホをいじるだろうか……。微妙な気がしてならない。
うーん、と朗太は唸った。
次話投稿は7月8日を予定しています!
宜しくお願いします!