ディズネイパーク編(3)
入場ゲートは人でごった返していた。
列が幾重も伸び、興奮ぎみな話声がいたるところから聞こえてくる。ゲートの先からは楽し気な音楽が響く。津軽と蒼桃は列の少し離れた場所で何か話し合っていた。Eポストにサムズアップのスタンプが送られてくる。今のところデートは順調そうだ。
「で、アンタはどういう対策をしてきたの?」
こちらは気が付かれないだろう、などと考えていると姫子が話しかけてきた。
「そりゃ待ち時間見れるように事前に公式アプリもダウンロードしたり、昼飯の予約を入れたり色々だよ。あと他には、ホラ、ディズネイって待ち時間がしんどいっていうじゃんか? だから待ち時間対策とか、他には……、あ、適度に休憩を挟むように、とか」
「きょ、教科書的な感じね……」
つらつらと解説する朗太に姫子はウゲッと顔をしかめた。
かわって会話を聞いていた風華が口を開く。
「待ち時間対策って何したのさ凛銅君?」
「話すネタ考えとくようにいったり、とか、だけど……。何も考えず飛び込むのは危険すぎるかなって」
「ハハ、まぁ、そうだろうね」
「でしょうけど、それだけですか」
「まぁ大体そんな感じだけど……。あ、でも心理テストとかのアプリは入れておくように言ったぞ」
「心理テストにまで頼りだしたら大分ピンチな気がしますが……」
返す言葉もない。
朗太は黙り列がはけていくのを待った。
園内に入ると賑やかな音楽に迎えられた。アーケードの下に無数のお土産屋さんが並ぶ。中には走らないでとキャストがボードを掲げているのにも関わらず駆け出す子供もいたりして、辺りは結構騒然としていた。声も張り上げないと聞こえない。津軽達がどこへか向かうのを追いながら姫子は怒鳴るように言った。
「で、どーするの朗太!?」
「え、どうするって??」
「一緒にいるの?? って聞いているの!」
姫子は前方の二人と自分たちを指さし言う。
「あの二人とずっと一緒に行動するの??」
「いやそれは不味くないか?!」
朗太も怒鳴るように言い返していた。
「見つかる可能性がある!」
「そうよね! ……なら!」
姫子はちょいちょいと朗太を通りの隅に導くと顔を赤くし胸に手を置き言った。
「私たちと一緒に回りましょう!」
「え!? いやでもそれは流石にマズくないか?!」
「何でよ!」
朗太の否定的な言葉に姫子は憤慨した。
「言ったじゃないアンタ。一緒に居たらバレる可能性があるって。なら離れていた方が良い。なら別行動でも問題ない。違う!?」
「ま、まぁそりゃそうだけどさ……」
「それに津軽は瞳と付き合いたいんでしょ?! ならずっとアンタにおんぶにだっこじゃだめでしょ! アンタこれからずっとついて回るわけ」
通りの隅に寄ると普通の声量でも会話が出来るようになっていた。声のトーンを落とす。
「ま、まぁそりゃそうだが……」
横目で二人がひらけた場所に出ていくのを捕らえる。
「でもそういう感じでサポートしてやったこともこれまであるような?」
「それはそれ。これはこれよ。ディズネイにいるんだから楽しみましょうよ!」
姫子の説得に「そうですそうです」と纏が頷く。しかしそれでも朗太が煮え切らないでいるととどめを刺すように、「こういう時大事なのは凛銅君の気持ちだよ!」と風華が正論のような、正論ではないようなことを言った。
「凛銅くんはどうしたいの!?」
「いやそりゃ本音で言ったら皆で回りたいけど……」
それに顎に手をつき真面目に考え込む朗太。そうしながらちらりと津軽達が今まさに視界から去ろうとしている方向を見ると、その様子に姫子は溜息を吐いた。
「アンタが津軽に固執しているのは分かったわよ。なら津軽に確認して見なさいよ。私たちと遭遇したから応援に来れないって。でもいざってときはみんなで助けるって言っているって。そう言ってみなさいよ」
「わ、分かったよ」
となれば聞くしかない。姫子が監視するような視線を感じるがとりあえずそのことをそのまま津軽に伝えてみる。するとすぐに返事はかえってきて
「良いってさ」
いいんかい。
あまりにあっさりした返事に朗太は脱力してしまった。
となればもう決まったようなものである。
「じゃ、決まりだね」
ディズネイを手配してくれただけで十分だ、というメッセージの届く朗太の画面を覗き込み風華が満面の笑みを浮かべた。
「私たちの都合で悪いね凛銅君! でもその分楽しませてあげるよ! 行こう凛銅君! レッツゴー!!」
「そうです! 先輩! 楽しみましょう!」
「依頼はいざってときは協力してあげるから、私たちほっぽって任務にうつつ抜かしたらただじゃおかないわよ!」
こうして朗太は三人に先導され、津軽達とは別の方面へ向かい出した。
向かう先も風船をもったキャストや客でごった返している。
今日は忙しい日になりそうだ、と朗太は思った。
次話は5日後の7/3(水)に投稿する予定です!
宜しくお願い致します!




