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沖縄修学旅行(12)



「これで分かったか、俺の空回りっぷりが」

 その日の夕刻だ。朗太たちはホテル一階にあるゲームセンターにいた。昨日姫子と風華が戦っていたレーシングゲームの筐体である。そこに朗太・姫子・蝦夷池は身を収めていた。一応ゲームもするが、誰もゲームに集中してはいない。

「まざまざと見せつけられたわよ……」

 姫子はコーナーを攻めつつため息を吐いた。

「俺が茜谷と凛銅を頼った理由が分かっただろ?」

「ま、まぁ......」

 頷く朗太。

「だから聞こう......」

 筐体の反射で蝦夷池が顔を曇らすのがちらりと見えた。

「俺はどうしたらいいんだ……」


「どうしたらって……」

 姫子もハンドルを切りながら困り果てていた。

「どうしようもないわ。どうしても仲良くなりたいんだったらこれからも話しかけなさい」

「そうか」

「き、気持ちは分かるぞ……」

 切り捨てる姫子とは違い朗太は理解を示していた。

「気になる相手と話すのは、緊張するよな……」

「凛銅……」

「ま、まぁそれはそうかもしれないけど……」


 姫子は顔を赤くしながらこちらをちらりと見ていた。


「それが恋愛でしょ。誰もがそうなのよ。自分だけ楽しようとするなんて虫が良いんじゃないかしら」

 画面に目を向ける姫子はそこではないどこか遠くを見据えているように見えた。

「た、確かに」

「だからね、答えは一つよ。不格好でも何でも良いから頑張って話しかける。良いこと? それしか道はないわ……!」

 姫子は自分に言い聞かせるように言うとアクセルを踏み込み朗太たちの車を抜き去った。


 その言葉が姫子の生きた言葉であっただろうか。

 ゲームが終わると「分かったよ」と晴れやかな顔で蝦夷池は席から離れていった。それに続き朗太も席を離れようとしていたのだが「ちょっと待ちなさいよ」と顔を赤くした姫子に服の袖をちょいつまみで止められていた。


「あ、アンタ、どうせ暇でしょ。付き合いなさいよ」

 都合のいいことに周囲にはあまり人がいない。多くは最終日とあって砂浜へ出かけているようだ。風華も「あ、ちょっと私は凛銅君と一緒の方が」と言っていたが、「まぁまぁ皆で写真撮りましょうよ」とE組の女子に攫われていってしまっていた。

 こういう条件下だと姫子も素直になるらしいことは昨夜で知ったことだ。

「い、良いけど……」

 先刻の会話が脳内に蘇る。朗太は顔を赤くしつつ頷いていた。


 それから朗太はエアホッケーやメダルゲームなどをしていた。エアホッケーをやるというので「だ、大丈夫なのか」と先日のショートを思い出し朗太は動揺したが「ふ、風華が居なければ大丈夫よ」と姫子は強気の様子。実際に実力は戻りつつあり朗太をコテンパンにしていた。意識しすぎていたのは朗太の方かもしれない。

 また姫子はどさくさにまぎれて


「も、もし今日も夜部屋に来てくれたら歓迎するわ。他の奴は追い出すから……」

 と顔を赤くしながら髪をくしくし触り朗太を誘ったが「……いや用事がある」と朗太はにべもなく断っていた。

「そ、そこは行くっていうところでしょ……」

「いや、スマン、今日は最終日だから男だけで話すって前から予定があって」

「そうですか、フン!!!」


 朗太が断ると露骨に姫子はへそを曲げた。

 その後、わらわらと浜辺から生徒から戻ってきてしまい、朗太たちだけの時間は終わりを告げる。不機嫌な姫子は風華と合流し「あ、私も断られたよ」「あ、アンタもなのね……」と話していたし、朗太も友人に呼ばれその場を後にしていた。


「ハハハ、だから茜谷さんと一緒にいたのか」

 そして、その夜、朗太はベランダで大地と駄弁っていた。

 海に面したベランダには磯の風が流れ込んでくる。

「それに(まもる)(蝦夷池のこと)の件だけど、それは響いたんじゃないか? 今の茜谷さんそのものだ。感じ入ったような顔をしてたんじゃない?」

「うん、まさにそんな顔してたな」

「だろうね」

 潮騒が耳にここちよい。

 その響きは、世界はこんなにも平和だと朗太に囁きかけているようだった。

 朗太が波音に癒されていると大地はぽつりと言った。

「ま、朗太もさっさと決めないとダメだよ」

「うん、分かってる……」

 見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。

 自分は誰が本当に好きなのだろう。

 朗太はもう何百回目か分からない自問を投げ掛けた。

 事実、暇さえあれば考え続けている。

 だが、未だに自分でも分からない。


「こう見えて考えてはいるんだよ……」

 だから朗太は俯きつつ自己弁護でしかない呟きを残していた。

「でも考えれば考えるほど自分の気持ちが分からなくなる。纏が近くに居れば纏のことでドキドキするし、風華も、姫子も同様だ。自分でも最悪だと思うけど、そうなんだ。ずっと考え続けてはいるのだけどいつも何かを掴む前にいつも煙になって消えていく。ずっとそんなのの繰り返しだ。いつまでもこのままじゃいけないって、分かってはいるんだけど……」

「そうか」

「うん」

 だからとにかく、自分はもう考えるしかない。

 それは朗太が自分なりに出した答えでもあった。


「いろんな人から好かれるなんて俺からすると羨ましいと思ったが、苦労もあるのか」

 そう言うと大地はくるりと部屋の方を向く。すると時を同じくして「「おおおおおお~~~~~~!!!」」と部屋が湧いた。

 何だと首を伸ばして見るとそこには金髪の美少年、椋鳥歩がいて

「来ちゃった!」と朗太の顔を見ると歩は、はにかんだ。



 修学旅行、最終夜、それは修学旅行という学生生活最大の祭りの終わり。中には異性の部屋に突撃をかまそうとする者もいたが、朗太たちは男だけのパーティーをする予定だった。

 小学生時代皆がやっていたTVゲームを持ってきてそれを夜通しやるつもりだったのだ。高砂(たかさご)桑原(くわばら)がゲームを持ち込んでいた。

 思うに、修学旅行の一番の楽しみはこういう瞬間にあると思う。

 というわけでお祭りの最後を飾る宴は始まり


「全くけしからん奴らだ。どれ俺にコントローラーを寄こしなさい」

「悪い奴だなクラス委員長」

「誰も問題にしなければ問題にならないからな、日十時(ひととき)

「おー、わるー」

 全員で画面に向かい胡坐をかいていた。6人いるので負け抜けの二人交代制である。


「ぼ、僕も入って良いの?!」

「良いに決まってる」「他の血が入るのは歓迎だからね!」

 動揺する歩に画面と真剣ににらめっこしながら日十時は答え、自分の番ではなかった春馬が場所を開けていた。

「だが手加減はせんぞ歩」

「朗太……」

 朗太の言葉に歩は安堵の表情を見せる。だが気遣いの時間はそこで終わり

「おいーーーーーーーー!! 大地おまっ! して良いことと悪いことがあるぞ!」

「ハッ、あんなタイミングでジャンプする方が悪いのさ」

 4人は早速容赦のない戦いを繰り広げ始めた。そこの戦いの中の美学やルールはない。ただ生き残るために、今自分が握るコントローラーを明け渡さないためだけの闘争である。

「ハハ、凄い戦い……」

 本気の攻防に歩も呆れ笑いを漏らしていた。



「ふぅ……」

 それから数時間後の深夜二時過ぎのことだ。

「疲れた......」

 朗太は眉間を揉みながら隣の部屋のベッドに腰かけていた。トイレに行った帰り、いい加減目に疲れが溜まってきて休んでいるのである。ドアを開放して繋がった隣室からは今も大地たちがゲームをしているのが聞こえてきた。誠仁は途中から爆睡してしまったが、残るメンツは未だに元気である。

 歩も自然と溶け込んでいた。

 というより歩は社交性が極めて高い。

 整った外見があるからか、相手も大概歩には優しく、歩の物腰も柔らかなので誰とだってあっという間に仲良くなってしまうのだ。

 桑原や高砂たちは歩とゲームが出来て嬉しそうにしていた。

「おいおいやるな~」とか「やったな椋鳥!」とか言いながら楽しそうにゲームをしていた。なぜ他の男に倒されると苛立つくせに、歩のような綺麗な子に倒されると喜ぶのかはいまだに謎である。

 と、朗太が嘆息を漏らしていると

「やっほー」

 隣の部屋から歩がやってきて手を振っていた。どうやら歩も休憩に来たらしい。歩は朗太の横に自然に腰かけた。


「目が疲れちゃって」

「だな」

「普段から画面には向かい合っているはずなんだけどね。でも目で追うものが動くと疲れるよ」

「それは大いにある」

 小説を書く時の目の疲れとゲームの目の疲れは別種である。

「ていうか椋鳥、意外とゲーム強いんだな」

「うん、一人っ子だけどよくゲームはしていたから」

「そうなんだ」

「うん、そ」

「てゆうか歩は今日どうしたんだ。突然来たけど」

 尋ねると歩は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「じ、実は今日は朗太と話しようと思ってさ」

「話?」

「うん、話。最近朗太大変そうだったからさ、全然話せてなかったじゃん? だから話に行こうかなって思ってさ」

 自分とこちらを交互に指差し言う歩は、最後には顔を赤くした。

「創作の話。ダメだったかな......?」

「い、良いけど」

 潤んだ瞳に見つめられてダメと言えるわけもなかった。それに、修学旅行の最後くらい、そういった話をしてみるのもいいかもしれない。

「やった!」

 朗太が同意し歩は笑顔をはじけさせた。 

 

 というわけで朗太は創作談義に華を咲かせていたわけだが――


「おはよう、朗太」

「おはよう姫子って、ファ?!」

 カーテンの隙間から白い日差しの差し込む薄暗い部屋で私服の姫子が自分の顔を覗き込んでいて朗太は瞠目した。どうやら朝のようだ。しかも早朝である。周囲はけだるげな空気に満ちていて、さすがに疲れたのだろう、大地たちもゲームをやめて隣の部屋で寝ているようだった。隣の部屋からは彼らの寝息が聞こえてきた。

 だがそんなことよりも重要なのは今ここに姫子がいることで

「どう、気分は」

「なぜ姫子がここに?!」


 こちらの容態を尋ねる姫子に朗太は尋ね返していた。しかもよく見ると部屋の奥には「ハハハなんのことかな」「アンタねぇ! ネタはあがってんのよ!」何か言い争う歩と風華がいて、朗太が起きたことに気が付くと風華は目くじらを立てた。


「ちょっと凛銅君! ホントにモーおかしなモテ方するのやめてよね!」

「え、どういう……」

 自分はいつの間にか歩と話すうち寝てしまったらしい。3時くらいまでは記憶があるのだが。そして起きたら姫子たちがいて、なぜか怒っている。

 時計を見ると朝の五時過ぎだった。

 状況についていけていない朗太が狼狽していると姫子が先の朗太の問いに答えた。

「嫌な予感がして来たのよ! そしたら風華と出くわしてね、来たら案の定だった!」

 姫子は犬歯むき出しにし歩を睨む。

「アンタねぇ! いい加減にしなさいよ!」

 とにかく状況がカオスである。朗太は怒鳴る姫子に恐怖する。しかも同時にスマホが唸り

『おはようございます、先輩……』と纏から明らかに寝起きっぽいメッセージまで届く。

 一体何が起きているんだと、いきなりの展開に恐々としていると


「ハハハ、ごめんよ」

 二人に散々に言われた歩は謝り、だが次の瞬間瞳がキラリと輝いた。

「だけど、朗太、僕は『いつまでも』朗太の友達だから。何かあったら僕を頼ってね」


「というわけで『君たちとは違って』僕はこれからも朗太の友達だから、これからも宜しくね」


()()()()

 その一言をことさらに強調し二人に言うと歩は部屋から去って行った。


「全く油断も隙も無い……」

「朗太、魔除けは持った?」

「魔物扱い?!」

「凛銅君、今日なんか奢って……そうじゃないと収まりつかない……」

「お、おう……」

「私もよ、朗太」

「わ、分かった……」


 そして朗太はなぜか彼女たちに貢ぐことを約束させられていた。

 ちなみに風華に至っては肩で息をしていた。

『私もですよ……先輩』

 盗聴機でもつけられてんのか。

 そのあとすぐに送られてきた纏からのメッセージに朗太は慄いた。








本日、コミカライズ3話目が更新されています! めちゃイケメンの津軽と瀬戸が登場します! 群青も可愛いので読んでいただけるととても嬉しいです。宜しくお願い致します。

それと次話、修学旅行編最終話ですね! かるーく物語を動かす予定ですので、こちらも宜しくお願いします。

次話投稿は5/24(金)を予定しています!



それと今回の話ですが「ま、朗太もさっさと決めないとダメだよ」からは、もう少し突っ込んだバージョンとして、下記のようなものがありました。一応載っけておきます。


ーーーー


「ま、朗太もさっさと決めないとダメだよ」

「うん、分かってる……」

 見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。

 ~中略~

 だが、未だに自分でも分からない。


「ひょっとしたら朗太は全員が好きだから困ってるんじゃない?」

 朗太が黙っていると大地は言葉を続けた。

「そ、そうかもしれん……」

「そこは否定して欲しかったな……」

 朗太があけすけに答えると大地は呆れているようだった。

「いや、否定できないから肯定しただけだよ」

 しかし朗太なりに考えあってのことである。

「こう見えて、考えてはいる。でも考えれば考えるほど自分の気持ちが分からなくなる。纏が近くに居れば纏のことでドキドキするし、風華も、姫子も同様だ。自分でも最悪だと思うけど、そうなんだ。ずっと考え続けてはいるのだけどいつも何かを掴む前にいつも煙になって消えていく。だからそう言っただけ」

「そうか」

「うん」

 だからとにかく、自分はもう考えるしかない。

 それは朗太が自分なりに出した答えでもあった。


「いろんな人から好かれるなんて俺からすると羨ましいと思ったが、苦労もあるのか」


ーーー


こんなんですね。

正直どっちの方がマシなのか分からない。


とにかく次話投稿は5/24(金)です! よろしくお願いします!



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1巻と2巻の表紙です!
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