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沖縄修学旅行(8)




本日2話投稿しています。こちらは2話目です。













 

(なんだ……?)


 それはバスに乗り国際通りへ行こうとした時だった。


「てゆうか(めぐみ)、パーカーどうしたの?」

「あれ? 腰に巻いていたんだけど……」


 前方を歩く東雲グループの女子たちがざわつき始めたのだ。

 どうやら同じグループの錫ノ音(すずのね)が腰に巻いていたパーカーをどこかに落としてきたようなのだ。


「おい、マジか。もうバス出ちまうぞ……」

 同じグループの男勝りな話し方をする山吹(やまぶき)が眉を顰める。実際にもう朗太たちは同園の敷地から抜け出していて、視線の先にはエンジンをふかし待機するバスがある。 

 それを見て朗太は、しゃーなし諦めるしかないと思っていたのだが、どうやらそう簡単に諦められるものでもないらしい。

 彼女たちは額を寄せ合って何事か話し合っていた。


「なんでだ」

 事情を知っていそうな姫子に尋ねると姫子は肩を竦めた。

「確か昨日皆で同じ柄の奴を買ったのよ。首里城の城下町のお店でね。んで今日の夕方浜辺で全員それ着て写真撮ろうとか言ってたわ。だから一人だけ無くすのは嫌なんでしょ?」

 姫子は山吹が羽織る藍色のパーカーを顎しゃくった。

「あれよあれ。間違いないわ。あれをみんなで買ってたわ」

「なるほど」

 姫子の説明を聞いて朗太は合点した。

 つまり、昨日彼女たちは城下町のお土産屋さんでお揃いのパーカーを買った。

 そして錫ノ音は今日それを羽織ってきた、が、この暑さだ。邪魔でそれを腰に巻いていたところ不注意で落としてしまった。しかし自分だけそれを無くしてしまうのが残念だし、今日の夕方浜辺でお揃いの服を着た写真を撮ろうと言っていた。だから困っているわけだ。

 最悪連絡だけしておけば発見し次第郵送してくれかもしれないが、間違いなく今日の夕方には間に合わないし、明日届くかも微妙だろう。そうなってくれば彼女たちの一緒に写真を撮るという約束は果たされない。

 だから彼女達としては今この場で見つけたいわけだ。


「よし」

 状況を理解すると朗太は七浦を探した。すると七浦も朗太を探していたようだった。

 顔を合わせるとすぐにパーカーの件が出てきた。

「あれ、だよな」

「おう、一緒にパーカー探してやったほうが良いよな」

「うん、まぁ」

「でもこの園内にあるか? 平和祈念公園とかも行ってるぜ」

「確かに……」

 言われてみればその通りである。何も落としたのはおきなわワールドとも限らない。平和祈念公園などの、これまで寄った場所で落としたかもしれない。そしてもしここに無いのなら無駄骨になってしまう。

「でも、たしか……」

 言われて朗太は記憶をたどる。すると今日の映像が蘇って来た。平和祈念公園やひめゆりの塔での記憶や、バス道中での記憶が蘇ってくる。その中での錫ノ音の格好を思い出す。仮にも依頼の関係者なので彼女たちに注意は払っていた。そして思い起こしていくとこのテーマパークについた時は錫ノ音はまだパーカーを巻いていたことを思い出した。言われてみれば確かに、錫ノ音は腰にパーカーを巻いていた。

「うん、思い出した。錫ノ音はここ来るまでパーカー巻いていたよ」

「よく覚えているな……」

「い、一応依頼の関係者だからな……。見てはいる……」

「そうか、それなら話が早い……」

 朗太がおきなわワールドで落としたことを指摘すると七浦も意思が固まったようだ。ごくりと生唾を飲み込むと七浦は東雲たちに話しかけに行った。

 状況が状況なので、東雲たちも七浦に素直に事情を説明していた。

「おいどうした」「あ、七浦……」といった具合に話が進む。

 そしてそれを聞いた七浦は先導していた教師に事情を説明しに行っていた。

 ここからは遠くて詳しくは聞こえないが揉めているらしい。

 身振り手振りで説得を試みているが教師は首を縦に振らない。

「なんか管理しきれなくなるのがダメらしいよ」

 朗太が首を伸ばしてその様子を見ていると、七浦の話を聞いていた七浦の友人の幸田が説明にやってきた。

「自分たちはここに残って見つかり次第タクシーで追いかけるって言ってもダメだってさ」

「そうか」

 安全管理上、教師の目のとどかない場所に生徒を残すことには同意しかねるのは無理からぬことだろう。

 それは仕方がない。

 ならどうするか、朗太は考える。

 視界には2台のバスとうろうろする生徒たちとこちらに寄って来る風華がうつった。それを見ていて朗太は閃いた。

「あ、じゃぁさ」

 というより、当たり前過ぎる帰結である。

「行きたい奴はE組のバスに乗って行けば良くない?」

 確か助手席をだせば合計55人まで乗れると言っていた。

「あー……ナイスアイデアかもね」

 朗太の案を聞いた幸田も頷いていた。

「確かバスガイドさんも助手席出せば55人くらいまで乗れると言っていたよね」

「うん。それに余剰15人しか乗れないが、東雲グループと比井埼グループは大所帯だ。(東雲5人比井埼7人)ここに俺と姫子と少なくとも俺の周囲の例の4人(大地・誠仁・高砂・桑原)の男を足せばもう18人だ。別に25人も無理な数字じゃない」

「だね、そうだね。それが良いよ」

 朗太が言うと幸田はこくこくと頷いていた。

 男女仲を考えて空気を読んで残留を選んでくれる男子も少なくないはずである。

 と、ここまで話が進んでしまえばあとは誰が提案しに行くかで


「で、これを誰が提案しに行くかだけど……」と朗太が言うと

「あ、じゃぁ私が行くよ」と近くにまで来ていた風華が挙手していた。

 2Eのバスを借りる算段を勝手につけているのだ。朗太などの2Fの人員では角が立つ。


「頼めるか?」

「ほかならぬ凛銅君からのお願いだからね、それくらい楽勝だよ!」

 正直風華が視界に入ったから思いついた策ですでに風華の協力を得ることは織り込み済みなのだ。順序が逆になってしまったことに申し訳なさを覚えつつ依頼すると風華はまかせろとガッツポーズを作っていた。

 そんな風華にほっと胸をなでおろしていると、風華は早速トテテと走っていき、七浦たちに加わると熱弁をふるった。

 そしてしばらくすると――

 

 ――仕方がないとでも教師も思ったのだろうか。

 教師同士で額を寄せ合い話し合うと、どこかに携帯で連絡を入れた後一つ大きなため息をついて


「じゃあ、国際通りに行きたい人はEクラスのバスに乗って――」とF組の生徒に声をかけはじめた。


「や、でもちょっとこれは悪いよ!」

 それを受けて、今まで仲間内で話していて周囲の流れに欠片も気が付いていなかった東雲たちは慌てていた。無理もない。自分たちのしょうもない落し物のためにクラスの多くの人の時間を奪うのだから。

 だがそれら引っ込み思案を「大切なんだろ?」の一言で七浦が打ち払った。


「なら一緒に探してやるよ。当たり前だろ」

「七浦……」

 東雲たちの瞳に流星が走ったようだった。

 七浦の男前のセリフに東雲たちは感銘を受け彼女たちの瞳はキラキラと輝いて見えた。

 しかも他の多くの男子も――きっと空気を読んだか、損得勘定を働かせたのだろう――めいめい捜索隊に加わり始める。

 結果E組のバスに同乗したのはどうしても買いたいものがあるという一部女子だけになり、彼女たちをつれたバスが去ると

「じゃぁ探すかー」と皆で錫ノ音のパーカーを探し始めた。

 比井埼ですら空気を読んで黙って残っている。

 この男子たちの行動に東雲グループに属する女子たちは大いに感動したようである。

 その様子を見つつ朗太と姫子は目を合わせ


「じゃぁ俺たちも探すか……」

「そうね」

「これで見つかんなかったらつまんないからな」

「ほんとよ」と戦列に加わったのだった。

「ホントしょうがないわ」と姫子はガシガシと頭を掻いていた。


 それから探すこと約30分、無事パーカーは見つかった。

 曰く、トイレのものかけにかけてあったらしい。


「あ、ありがとう皆……! それとご迷惑おかけしました……!」

 駐車場で錫ノ音がぺこりと頭を下げると「気にすんなよー」と男子たちの輪から声が上がる。

 こうして遅ればせながら国際通りに向かうバスの車内の空気はようやく和やかなものになったのだった。


 









解決方法、しょぼくてスマン

次話は5/7(火)に投稿する予定です。宜しくお願いします!



   

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1巻と2巻の表紙です!
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