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沖縄修学旅行(5)



「語り部は迫力があったなぁ」

「あそこまでつぶさに覚えているもんなんだな」


 その夜、ホテルの一室で朗太と誠仁は荷を整理しながら語らっていた。

 夕飯を食べた後、講堂に集まり平和教育の一環で沖縄戦の体験者の話を聞いてきたのである。

 体験者の語る話は、ふとした声音や言葉尻の表現でもって鮮明に朗太たちにその情景を思い起こした。

 普段授業で舟を漕ぎがちの生徒も聞き入っていたようで、それでも腹が満たされうとうとしだす豪の者には背後や隣の生徒からかなり強めのどつきが与えられていた。


「明日はひめゆりの塔に、ガマだっけか」

「それと平和祈念公園だな。慰霊碑がたくさんあるらしい」

「そうか……」


 平和教育はまだまだ続く。何も朗太たちは遊びに来たわけではないのだ。

 この状況下で、男女仲の修復を推し進めるのはさすがに不味い。無理のない範囲で、機会があったらちゃんと対応するくらいに留めている。

 いずれにせよ今日の反応を見るに無理に話しかけたところで意味は無さそうであるのだが。


「これが『オーシャンビュー』って奴なのかー」

「綺麗だねー」

「つっても波の音しか聞こえないけどな!」

 ベランダからは興奮気味の高砂と桑原の声が聞こえてきた。

 仕切りドアが解放され二部屋が一つとなった朗太たちの部屋は海岸に面しているのだ。彼らが開けたベランダに通じる窓からは、寄せては返す波の音が響いてきていた。


「出たよー。湯もまた溜めてるー。次は誰入る?」

 二人して盛り上がる高砂たちを眺めているとバスタオルで髪を拭きながら大地がバスルームから出てきた。それを見て高砂がそそくさと部屋に戻ってきた。

「次、次俺で良いな? てかトイレめっちゃ行きたいんだよ」

「? 良いけど隣の部屋のトイレ使えばよかったんじゃないか?」

「あ」

 入浴中はバスルーム併設のトイレが使えないと思い込んでいた日十時の勘違いに笑いが起きていた。


 5人が代わる代わる入浴しているとそれだけでそれなりの時間がかかる。(片方はトイレ用になった)

 朗太が最後に入浴し終わった頃には既に消灯時刻の22時をとっくに回っていた。

 とはいえ本当に消灯するわけもなく朗太たちの部屋では煌々と明かりが灯っている。友人たちの元気声がバスルームまで漏れ聞こえてくるあたり、彼らはまだまだ寝る気はないらしい。


「てゆうか大地、紫崎さんとどこまで行ったの?」


 すると、朗太がドライヤーで髪を乾かそうとしている時に、それは聞こえてきた。

 来た。

 春馬が大地に問うや否やこれからの成り行きを予期し、朗太はそそくさと髪を乾かし始めた。

 これから修学旅行定番、夜の恋愛話に突入するに違いない。

 そこで誠仁の好きな人を確認するのだ。

 自分は弥生からの依頼がある。

 いやでも鼓動が早くなった。

 朗太は大急ぎで髪を乾かしつつ出力の弱いドライヤーの雑音の先から届く友人たちの会話に耳をすます。


「どこまでって……」

 大地は困ったような声をあげていた。

「言わなきゃだめなのか」

「あぁ、ぜひ話すべきだな大地。俺たちは親友として知る権利がある」

「そ、そうなのか……」

「おう」

 暫しの沈黙が挟まる。

「き、キスくらいまでは」

 おおーと残る3人がわいた。

「ホントか~~」

 だが暫くすると日十時がちゃちゃをいれだした。

「ホントだホント。てか日十時に春馬も今は実際のとこどうなんだよ」

 日十時は群青輝美を、春馬は藤黄楓をそれぞれ好いている。

「あぁ、それな」

「それね」

 聞かれて日十時と春馬はさもありなん答えていた。

「承知の通り全く進んでいないな」

「だねー」

 その声音には屈託は無い。

「群青さんとは時々連絡とってるが、あまり芳しくないように思う」

「藤黄さんも右に同じ」

「そうか。でも行動に起こさんと何も変わらんぞ」

 さすが自分から告っただけある。

 先駆者の言葉に「だよなぁ」と日十時たちはため息をついていた。

「どうにかしねーとな」

「そうは思っているんだ」

「そりゃそうだろ。なんか手はないか。先輩」

「や、俺に案はないが、朗太ならその二人と繋がりあるぞ」

「えなんで?」

 大地からのアドバイスに日十時は聞き返していた。

 一方で雲行きの怪しくなり始めた会話に朗太は眉を顰めた。

「群青さんは今年度はじめの東京遠足の時かな、多分。あいつ、あまりはっきり言わないから分からんけど。藤黄さんはこの前の合唱コンクールね」

「なるほど。じゃぁ今度頼んでみるかなー」

「………………」

 余計な仕事が増えそうな予感に朗太は顔を強張らせていた。ドライヤーを切り素知らぬ顔で皆の元へ戻ると誠仁が心底不思議そうな顔をしていた。


「お前たちやっぱ恋愛してるんだなぁ」

「いやおまえさぁ」


 まるで他人事な様子に皆が脱力していた。

 

「誠ちゃん、結構モテるじゃんさ……」

「そうだぜ。そこまでいくと嫌味になるぜ誠仁?」

「どういうことだ???」

 しかし意味の分かっていない誠仁は眉を吊り上げ逆切れしていた。

 その朴念仁すぎる姿に朗太たちは黙る。

 実際に今日だって誠仁はクラスの女子二人によく声をかけられていたのだ。彼女たちが誠仁に熱を出しているのは皆が良く知るところではあった。

 しかし彼は気が付かない。


「じゃぁ話変わるけど、誠仁好きな人っているの」


 皆が黙っていると純粋無垢な誠仁に春馬が水を向けた。

 向けられた好意に気が付かないなら、誠仁から伸びる好意の矢印はどうなのだろうと思ってのだろう。

 そしてそれこそが朗太の求める問だった。

 朗太が息をつめ誠仁の返事を待っていると誠仁は言い放った。


「いやないな」


「俺はまだ誰かを好きになったことは無い」


 朗太はゆっくりと、大きく息を吐き出した。

 普段の誠仁を見ていればよく分かることだが、実際に口に出されると印象が違う。ついでに言えば流れの良く分からない問いに誠仁は若干苛立ち気味だ。

 となると今の言葉に嘘は無さそうだ。

 そしてこうなってくると自分の時と同じように下手に彼女たちの好意に気が付いて誠仁がなびかないようにした方が良い。


「まぁ人はそれぞれだからな」朗太は無理やり話を逸らしていた。そして


「で、実は俺も気にはなっていたんだが誠仁」

「なんだ」

「お前、女子中学生は好きか?」

「お前は何を言っているんだ」

 朗太のぶっこみに誠仁は青ざめていた。


 そして恋愛話に首を突っ込めば朗太に火の手が回らないわけもなく「ていうかお前はどうなんだよ朗太!!!」と日十時に怒鳴るように言われていた。

「俺……?!」

 言われて目を丸くする朗太。そして「あ、あの…………」となんて言ったものか逡巡したのち「見ての通りだ………………、何か異様なモテ期が来ててすまん……」と自身の現状を白状していた。

 がっくりと肩を落とす朗太に追い打ちを仕掛けようというものはいない。「ようやく気が付いたのか」「道は長く険しかった」などと言い合うと春馬と日十時は

「なんか散り際の線香花火みたいだよね今のろーちゃん」

「あぁ、刺されないようにしろよ朗太……。で、さっさと決着をつけるんだ。それが唯一お前が生き残る道だ」

「生き残るって……」


 刺されるなど生き残るなど日十時の物騒な物言いに朗太は眉を下げた。

 だがそれが冗談にも思えず朗太は黙るのだった。

 

 それからしばらくすると、皆、他の部屋へ移動し始めた。

 大地は他クラスの友人の元へ、日十時と春馬は同じクラスのもとへ、そして誠仁も意外なことに他のクラス委員仲間の元へ去って行ってしまった。

 消灯時刻を過ぎていて他の部屋への移動はご法度なのだが、そこまで監視も厳しくない。

 

 そうして朗太が一人ポツネンと自室に取り残され、どうしようかと途方に暮れた矢先だ


「よいしょっと」


 半開きにしてあったドアが開き風華がやってきた。



 










朗太が使用していたドライヤーは誰かが持ち込んだ高級な奴で音があまりしない奴という設定です。

次話投稿は4/26(金)予定です! ただ次話ちょい修正中なので時間がかかるかも……! 宜しくお願いします!


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1巻と2巻の表紙です!
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『夕飯を食べた後、講堂に集まり平和教育の一環で沖縄戦の体験者の話を聞いてきたのである。  体験者の語る話は、ふとした声音や言葉尻の表現でもって鮮明に朗太たちにその情景を思い起こした。  普段授業で…
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