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沖縄修学旅行(2)



「おかえりー」

 

 その日、朗太がうつうつとした気持ちで帰宅すると、妹の弥生に迎えられていた。


「部活は?」

「今日は休みー」

 本来ならばまだ部活でもおかしくない午後四時すぎだが今日は無いらしい。

 弥生はリビングで座布団を抱え込むように寝転び、足をパタパタさせながら女性誌を読み耽っていた。エアコンがゴーゴーとうなり暖気を吐き出している。なんとも暇そうな光景である。朗太は呆れつつマフラーをほどき、こういう寒い日は温かい飲み物が欲しくなる。リビングの椅子に座り一息ついてポットに向かおうとすると、顔を上げた弥生と目があった。


「おにぃ、今度修学旅行だよね。準備進んでるの?」

 どうやら、弥生は聞きたいことがあるらしい。

 そんなことは雰囲気で分かった。

「小説のか? 出来てないから旅行中はお休みだな」

「小説じゃないよ。そっちは心配してないよ」

 様子見に軽いジョーク(ジャブ)を放つと弥生は目元をぴくぴく痙攣させドン引きしていた。

「旅行の準備そのものよ。服とか、歯ブラシとか、そういうの」

「あぁ、そっち? そっちの準備は大体済んでるぞ」

 これが本題なのだろうか。朗太は違和感を覚えつつ頷いていた。

 旅を楽しみにしている朗太は準備を万全に済ませている。

「そ、なら良いんだけど」

 聞くと弥生は視線を雑誌に戻した。

 だがしばらくするとまた口を開く。

「誠仁さんも楽しみにしてる感じ?」

「誠仁?」

 朗太が聞き返すと弥生は顔を赤くし頷いた。

「そ、誠仁さん。どう?」

「誠仁か……」

 言われて朗太はここ最近の誠仁の様子を思い浮かべた。すぐに思い出されたのは今日の昼休み、沖縄のガイドブックを熱心に読み耽る姿だ。その後熱っぽく沖縄の歴史を語っていたりもした。

「そうだな。うん、楽しみにしてると思うぞ」

「そう……」


 朗太が答えるとあまり気にしてない風を装いつつ弥生は目をそらした。だが、まだ話は終わっていないオーラはひしひしと伝わってはくる。


「てゆうか合唱コンでも話してたよな」


 それもあり朗太は気になっていたことをぶつけてみると、弥生の顔が固くなった。実はずっと前から弥生と誠仁のことが気にかかっていたのだが尋ねる機会がなかったのである。

 弥生は緑野の別荘で隠れ誠仁と出会い彼のことを好ましく思っていたようだが、その後はどうなのだろう。

 文化祭などを見るに、緩やかな交流は続いているような気もするのだが……。


「今も時々連絡とってるよ」

 しばしの間を置き、慎重に言葉を選び答える弥生。

「そ、そうか……」

「おにぃのことで相談したりすることもあるし」

「俺のこと?!」

 連絡を取っているのは予想の範囲内だったが、会話に自分の相談が上がっているのは予想外だった。

「何相談してんの?!」

「言わない。この調子じゃまだ気が付いていないようだし。言っても損するだけだし」

「そうか……」


 だが実妹にそこまでダメだしされると強く出られない。

 朗太はすごすごと引き下がり、朗太が口をつぐむと、やはり会話は終わった。

 だが依然弥生は聞きたいことがあるらしく、顔をむくれさせながら起き上がると朗太の前に座った。その顔はやはり赤い。


「な、なんだよ……」

「あ、あの……」

 恐る恐る朗太が問うと弥生は唇を尖らせた。

「ちょ、丁度、話の流れが丁度いいからお願いがあるんだけど……」

「お、おう……」

「今度の修学旅行で誠仁さんの気持ちを確かめて来てくれない?」

「はぁ?!」

 

 予想外の弥生の依頼に朗太は息を飲んだ。

 嫌でも分かる。きっとこれが本題だったのだ。

 顔を赤らめる弥生の様子から、朗太は直感する。

 まさか弥生からこのような相談をされるとは思ってもみなかった。

「お前マジでいってんのか?」

「マジだよマジ! ホラ! おにぃ、修学旅行って夜に、あるじゃん! あるって言うじゃん! どの子好きとか気になるとか! その時に誠仁さんが誰が好きなのか確かめて来てくれない?!」

「ま、マジか? そ、そりゃ、確かにあるが……」

 朗太は動揺していた。

「ど、どんな答えが出てくるか分からないぞ……? それに俺の前で本当のことを言うとも限らん」

もし弥生のことを好きでもそれを実兄の前で暴露するかと言えば微妙なところだ。

「それでもか……?」と伏し目がちになりながら念押しすると、「う、うん……」と弥生は頷いた。

「今はどんな情報でも欲しいかも……」


 そう言って顔を赤くし俯く姿は完全に女性のそれで、いつのまにか自分の妹が一人の女性として成熟し始めていて、朗太は何も言えなかった。


 結局弥生は誠仁が他の女が好きではない確証が欲しいらしい。それなら恋愛トークになれば誠仁の様子から総合的に判断できなくもないかもしれない。

 弥生からの依頼を朗太は承諾していた。

 そしてリビングから出て階段を登る道すがら、朗太はため息を吐いていたのだ。

 なぜなら、宗谷誠仁。身近にいながらも謎の多い青年である。

 それにしても……


「大人になったなぁ……」


 朗太は感慨深げに呟いた。


 

 そして数日後、修学旅行当日になり


「じゃ、元気でねおにぃ!」

「おう、行ってくる…」


 フン、朗太は鼻息一つ漏らしキャリーケースを転がし家を出た。

 冬の都心に朗太の引きずるキャリーケースの音が響いた。








次話は4/16(火)に投稿します!

次話ではようやく彼らが飛行機で旅立つます。

また4/16(火)は12:00にcomicブースト様にてコミカライズの2話目が掲載されるはずです。

クオリティは下書きをお見せいただいた時点で最高だったのでお楽しみに(#^^#)

朗太が姫子に礼を言いに行くシーンなどが描かれます。

見て貰えるととても嬉しいです!

宜しくお願いします!



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1巻と2巻の表紙です!
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