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合唱コンクール(4)


「というわけで津軽を呼んできたぞ」

「一体何なんだよマジで……」


 その日の放課後、合唱コンの練習を終えたあと、朗太達は津軽を呼びだしていた。場所は屋上へ続く階段の踊り場である。

 屋上を遮るドアの窓から差し込む日差しが薄暗い廊下を仄かに照らす。

 津軽は不審そうに渋面を作っていた。

 

「アンタに用があったのよ。実はね……」

 壁に背を預ける姫子はつらつらと状況を説明していた。


◆◆◆


「なるほど、ね……」


 数分後、状況を把握した津軽が一息ついていた。


「今度はお前らは藤黄の希望で動いているってわけか」

「ま、ただ楓の要望に沿うだけじゃなくて、楓の態度の改善と男子の態度の改善の双方向で動いているけどね」

「で、その藤黄の態度を変えるためにも、俺に江木巣に部活じゃなくてクラスの練習を優先するように言って欲しいってわけか」

「そういうこと。彼女を大事にしろとか言えば楽勝だろ? それに実際問題部活より練習の方が優先だ。それに同じバスケ部の津軽も練習を優先している」

「俺は基龍(きりゅう)に言われているからそうしているだけだが……」


 言われた津軽は朗太をちらと見た。

 そしてうーん、と考え込む。

 何かを天秤にかけているようだ。

 だが彼が何をかけているのか朗太も姫子も分かりかねる。

 ただただその悩む姿を眺めていると折り合いがついたのか津軽は目を上げた。


「分かったよ。江木巣に言ってみよう。これはクラスのためだからな」

「ありがとう津軽!」

「サンキュー津軽」

「別にお前たちのためにしているわけじゃない」


 朗太たちが軽い調子で礼を言うと津軽は目を伏せた。 


「これは俺のためにやるんだ」


 ◆◆◆


 津軽への依頼が上手く行った一方、難航した依頼もあった。


「瀬戸君はダメだったわ~~」


 翌日の昼休み、姫子はグデッとテラスに備え付けられた机に崩れ落ちていた。

 横の席では依頼人である藤黄が紙パックのジュースをすすっている。

 男子の行動変容を促すミッションでは藤黄を同席させているのだ。

 そうした方が、津軽⇒江木巣⇒遠州⇒藤黄経由で藤黄へアプローチがあった際、効果が高いと踏んだからだ。

 男子が藤黄の意図に沿って行動を変える。

 同時に遠州から男子の評価を上げるような言葉が入る。

 何だ、男子も良いところあるじゃない、と思い易いのではないかと朗太も姫子も思ったのだ。


 そしてこれより姫子が瀬戸に話を付けに行くというので朗太と藤黄が屋外テラスで待機していると、交渉失敗した姫子が帰ってきたというわけだ。


「取り付く島もなかったわ~~」

 

 がっくりと姫子はうなだれた。


 話を聞いてみたところ、比井埼たちに練習に出るように働きかけて欲しいと頼んだところ、『俺はそういうことしないから』の一点張りだったらしい。

 しかも極めつけは『これっていつもの茜谷さんの『活動』って奴? なおさら手助けする気にはなれないな』とにべもなく断られてしまったらしい。


「というか」

 

 話が終わった後姫子は恨めしそうに朗太を睨んだ。


「凛銅もいるんだろ? とか言われたわよ。何アンタたち仲悪かったの?」

 初耳なんだけど、と姫子は問う。

「ハハハ……」

 朗太は苦しい笑みを浮かべた。


 ――きっともっと悪いんだろうなぁ、と思う。

 もう決定的に反りがあわないのだろう。

 それをお互いに分かっている風がある。

 だから高一の時から同じクラスだというのに一言も口をきかなかったのだ。


「高一の時も同じクラスだったが、その時も話したことないぞ。まぁ別に他のクラスでも話したとは思えんが」

「そう。反りがあわないのね」

「そんなとこだろうな」


 あっさりと朗太が白状すると、姫子は大体の関係性を察する。

 実際に当たっている解釈なので姫子の理解に朗太は肯定した。


「歌も下手なのに、作戦も足を引っ張る……」


 一方で藤黄はジトッと朗太を非難するように見ていた。

 いや何よりあなたの態度も男子が反発する原因になっているんですよ? と喉まで出かかっている言葉を飲み込むのは大層難儀であった。だが――


「いやお前も原因なんだぞ?」

「なによ?!」

 結局口に出ていた。朗太は藤黄が火花を散らす。


 その口論も終えると会話はクラスの中心人物であり学年一のイケメンの瀬戸トークに移る。


「というか瀬戸君ってなんだかんだ影薄いよね。なんてゆうかあまり積極的に前に出てこない感じだし」

「そうそ、それは意外なのよね。あまり周囲に関心が無いって感じで」

「今時って感じよね。浮世離れしているっていうか。それも女子人気引き上げてる要因なんだろうけど」

「まーそれはあるかもね。今も愛梨とかは狙っているんだっけ?」

「他にも何人も狙っている子いるよ。でも誰とも付き合わないよね。どういう子がタイプなんだろー」


 これまでの彼の言動から察するに彼のタイプはきっと緑野のような清楚系だと言いたいのを朗太は必死にこらえた。


 ◆◆◆


 上手く行けば、上手く行かないことがあり、だと思えば、やはり上手い事回ることもあるものだ。


「フルヤはなんとか説得できたぜ」


 放課後、津軽は練習が終わると朗太と姫子に話しかけてきた。


「これでフルヤは練習に出るはずだ。俺のミッションはこれで終わりで良いんだよな」

「えぇ、ありがとう」


 バッグを肩に背負いながら姫子は言う。

 三々五々、練習を終え皆が部活やら自宅に帰っていた。

 あとは練習に参加するようになったフルヤをダシに遠州に働きかけ、藤黄に男子の好感度が上がるようなコメントをして貰うだけだ。

 あとは姫子の仕事である。

 そこで姫子はチラとクラスを見て「それともう一つ頼みたいんだけど……」と声を潜めた。


「津軽から比井埼君たちにアプローチしてくれない?」


 すると津軽はクラスを見て、そして朗太をサッと見て顔をしかめた。


「それって基龍(きりゅう)にも言ったことだろ……」


 ジトっとした目で朗太を見た。

 彼の逡巡が、朗太には分かるような気がした。


「いや悪い。これ以上は関われない。基龍がお前らの活動手伝うのあまり良い顔しないからな」

「そう……」

「それに……」


 そこまで言うと津軽が急に言い淀んだ。

 恥ずかしそうにポリポリ頬を掻くと、あらぬ方向へ目を逸らし顔を赤らめた。

 その様子に姫子と朗太がいぶかしんでいると呟いた。


「俺個人としても、色々と、今回の件は思うところはあった。手伝いたいという気持ちと、手伝いたくない気持ち。でもクラスを見ていたら手伝わなくちゃならないなと思って手を貸した。でもそれもここまでだ。ここで終わり。あとはそっちで何とかしてくれ」


 つまり津軽なりに様々な葛藤の中で今回の件は手を貸した。

 これ以上は無理だということだ。


「ありがとう津軽」

「気にすんな茜谷」


 姫子が礼を言うと津軽は身をひるがえした。


「じゃ、頑張れよ朗太」


 


 ――そして瀬戸や津軽の助けも借りられない。

 となれば当初の作戦通り動かざるを得ず


「私が説得に行くかしらね……!」


 姫子がゴキゴキと手を鳴らした。

 上手く行くのかな……?


 朗太は酷い剣幕の姫子を見て先行きを案じた。



 男子が殺されませんように。


 朗太は祈った。









次話の投稿は3/18(月)、コミカライズ開始前日を予定しています。

次々話の投稿は3/19(火)コミカライズ開始日に出来れば、と思っています。

宜しくお願いします。



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1巻と2巻の表紙です!
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