合唱コンクール(1)
話を進めるために本日二話投稿します!
こちらは一話目です!
宜しくお願いします!
突然だが、都立青陽高校は1月の第四土曜日に近くのコンサートホールを貸し切り合唱コンクールを毎年行っている。
各クラスは学年ごと指定の課題曲と自由曲を歌い、音楽の教師と彼女が依頼した協力者など、ごく少数のものが審査員を務め、各学年ごとに最優秀賞と優秀賞を選び出すのだ。
そしてこの合唱コンクールというイベントは、多くの学校でもそうであるように、青陽高校でも往々にクラス内の不和をもたらしていた。
なぜかといえば、多くの説明は不要だろう。
生来、女子は花や歌といったものに興味をもつ傾向が強く、男子はそれらを女々しいものと決めつけ幼少期毛嫌いする傾向があり、高校生になってもその印象が抜けきらない者も少なくない。そのようなお題目を高校生の男女共同四部合唱の総合得点で競おうというのだから、それでクラスの仲をより一層深めようなどというのは荒唐無稽としか言いようがない。
むしろ男女の仲を引き裂くべくして爆誕したイベントと見た方がより現実に即している。
男子は練習をサボり、女子は怒り、男子は開き直り、女子は泣き、男子は慌て、女子は呆れる。中庸を貫く男子とて一歩踏み間違えれば、やれ事なかれ主義だの八方美人だの真面目系クズだのとその他派閥のメンバーに陰口を叩かれる。
合唱コンクール、それは近年共立校において誰も得しないイベントとしてその座を不動のものにしている感もある。
冬休みが終わると朗太たちの学園もその忌まわしき因習へと動き出していた。
12月の中旬から練習は開始されているのだが、年が明けてイベントが間近に迫り練習が本格化したのだ。
最終授業が終わるや否や、各クラス、各パートごと学校のいたるところに散らばりそれぞれ与えられた課題曲と自由曲の練習をし、校内にその混ざり合いモザイクになった歌声を響かせていた。
そして各パートごとに練習し、いざ音を合わせようという時に事件は起きた。
「なに? 今日も比井埼くんたちは休みなの?!」
合唱コンクールの取り仕切っている2Fの狂犬こと藤黄楓はクラスメイトの不在に目を剥いた。
男子の担当であるテナ・バスのなかに人員の抜けがあることを発見したのだ。
「全くどうなってんのよ!」
2Fの狂犬こと藤黄は腕を組み、欠員を出した男子グループに言い募る。
「今日は見たところ欠席は、比井埼くんに、井関くんに七浦くん! 昨日も5人欠席したし一昨日は6人も! やる気あんの?!」
男子たちに言い返す者はいない。
気炎を吐く藤黄に言いたいように言われていた。
別にひるんだわけでもなく、ただこのような状態の彼女に何を言っても火に薪をくべる結果にしかならないことを彼らも長くはない人生経験でも察しているのだ。
「今日いない比井埼くん、井関くん、七浦くんに至っては一月に入ってこれまで一回しか練習来たことないよね。大丈夫なの?」
藤黄の友人である少女が心配そうに眉を顰める。それに「どうなのよ幸田君?!」と、藤黄は比井埼たちとよくつるんでいるやんちゃな印象を与える幸田に詰め寄った。
対し幸田は困ったように「ハハハ」と乾いた笑みを浮かべると「また来るように言っとくよ……」とだけ言ってこの場を乗り切っていた。
「どういうことなの学級委員長さん?!」
「ハハハ、すまん……」
そしてついには藤黄の気炎はクラス委員の朗太の親友たる宗谷誠仁へ回る。
誠仁は辛そうな顔をしていた。
「なんせ、校内活動優先とは言うが、守られていないのが実態だからな」
「そうだけど、ルールはルールでしょ!」
「ま、まぁそうだが……」
「比井埼くんたちには私からも言うけど、宗谷君からも言っておいてね!」
藤黄はつっけんどんに言い放っていた。
そしてこのような少女が仕切るとなれば練習の空気が良いわけがない。
「男子テナ! 半音高い!」
「バス、もっと伸ばす!」
「凛銅君! 音痴!!」
こんな感じで音を合わせようものならビシバシ指示が入り、しぶしぶ練習に参加している男子たちも面白くない。当然、名指しで注意を受けた朗太も面白くない。
「凛銅君! なんで調子っぱずれなくせにそんな声量は大きいの!? 自己主張が激しい! 抑えて!!」
なんなら生来の中途半端に生真面目な性格から藤黄筆頭に怒る女子たちの雰囲気を察し――完全に風見鶏、朗太が欠員分まで補充するかのように声量を普段の約1.1倍にして歌っていると厳しい非難が藤黄から入る。
「凛銅君、なんでこの楽譜からその音程が出てくるの?! 楽譜読める?!」
「読めます」
「読めてないのよ!!」
しょんぼり言い返す朗太を非難する様はまるで口から火でも噴きそうであった。 またここまで言いように言われている朗太だが周囲から助けの手はない。
姫子たちの一件があれば当然である。
なんならそれが原因で男子たちがすさみ、より現場が荒れている感もあるのだ。
朗太に救いの手を差し伸べる者はいない。
親友の大地も誠仁も大見え切ってフォローしづらいようだ。
「まぁまぁ」と誠仁が藤黄をとりなしていた。
朗太がびっしばっし指摘されるのを周囲の男子も女子も呆れるような目線で見ていた。
とにかくこのように2Fは最悪の空気の中合唱コンクールを迎えていて
「なぁ、春馬」
「なんだ、ろーちゃん」
「藤黄のどこが良いの?」
「そりゃろーちゃんには分かんないだろうなぁ」
ぼろっくそに、味噌っかすに言われた後、朗太は友人であり一緒に別荘にも行った仲の桑原春馬と屋外テラスでコーヒーを片手に話し込んでいた。
別荘に行った際、藤黄楓のことが好きだと言っていた春馬は当てつけのようにいう朗太にフェンスに背をもたれさせ大きく息を吐いた。
「あぁ見えて可愛いところがあるんだよ。何だかんだ、何にでも真面目だし」
まぁ確かに真面目だろう。朗太は頷いた。
今日の昼だって譜面を見ながら各パートごとの音程を確認していた。
真面目過ぎてなんにでも噛みつき、狂犬とすら呼ばれだしたのだ。あの凶暴さも自身がクラスを纏める役である裏返しであるのだから可愛げはあるのかもしれない。
だが実際に対面してみると「全く男子は~~」などと偉そうな指摘が入り面白くないことこの上ない。
春馬からのフォローがあってもダメだった。
練習のあと朗太はため息を吐く。
「全く何なんだよも~~」
「ハハハ、気にしちゃダメだよ朗太」
「にしても藤黄は本当に怖いもの知らずだな」
「ご、ごめん……」
「なんで春馬が謝るのさ?」
「そりゃ大地。いや、なんか悪いなって思ってさ」
「別に春馬のせいじゃないだろ……」
「だな、春馬のせいじゃないし、もし春馬のせいならあの狂犬をとっとと手懐けてくれ」
朗太は親友の大地、誠仁、そしてそこに桑原春馬と高砂日十時を交えくだを巻いていた。
そして女子は女子にも言い分はあり、中でも現状に懸念を覚えたのが2年F組の合唱コンクールを取り仕切る藤黄であり、
「朗太、依頼よ……」
数日後の放課後。姫子に呼び出され人の出払った教室に行くと件の藤黄が立っていて、同じクラスの男子に頼むのが恥ずかしいのか藤黄は頬を朱に染め言ったのだ。
「どうしたら合唱コンクール上手く行くのかしら?」
「いやいや……」
朗太は原因の一つである少女に苦言を呈した。




