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これから始まる物語について(2)




 決着をつける。

 三学期の初日、そんな決意を抱きながら朗太は登校していた。

 冬のひんやりとした大気は引き絞った弓の弦のように張り詰めていて、これから始まる厳しい人間関係を予感させた。

 彼女たちには悪いが、この学期で決着をつける。

 だが彼女たちにも、その自覚はあったようだ。


「せんぱ~いッ」


 朝、生徒たちに交じり校舎への道を歩いていると背後から甘ったるい声が聞こえてきてドシンと小柄な少女が自分の肩にぶつかった。

 見なくとも分かる。纏だ。

 目線を下げると人形のように整った顔立ちの少女が朗太の腕に腕を絡めていた。


「おはようございます!」

「お、おはよう……」

「今学期も宜しくお願いしますね!」

「よ、よろしく……」


 纏の溌溂とした調子に押し負け、自然と朗太の声音は弱弱しいものになった。

 決着をつけるなど、どの口が言えたことか。

 先ほどの決意などどこへやら。

 朗太は顔を真っ赤にし黙り込んでいた。

 やはり朗太の冷静な意識を吹っ飛ばすぐらいの魅力を彼女たちは有しているのだ。


「おはよう凛銅君!!」


 それからも彼女たちとの遭遇は続いた。

 纏の絡んできていた手をなんとかほどくと、前方から声が飛んできた。当然この体育教師が放ちそうな快活な声音は風華である。

 顔を上げると朝の日差しのなか、女神と見紛う美少女(朗太比)が立っていた。


「お、おはよう風華」

「うん、おはよう凛銅くん! 久々だね」

「え、久々? おとといも会ったよね?」


 不思議な風華の物言いに朗太は眉を顰めた。

 実は朗太たちは一昨日、風華の姉である蘭華(らんか)の誘いで日帰りで格安スキー場に行っているのだ。当然そこでは散々な騒動が起きていたのだが、ここでは多くは割愛。


 かいつまむと、例えばぐいぐい来る蘭華に風華、姫子、纏だけではなく朗太もタジタジになったり――

 流石格安とだけあり雪国のキッズたちの練習場としてカチカチに踏み固められたゲレンデに「これもう殆どコンクリじゃない!」と風華はリフトから降り立つや否やよよよと崩れ落ちパシンパシン地面を叩き嘆き悲しんだ後、「ま、せっかくのスノボーボボーボボだし落ち込んでいる暇ないか!」と気を取り直すと、「凛銅くん、気をつけて! 転ぶとケツ持ってかれるよ!」と注意を飛ばしズサーッと雪を蹴散らし滑走しだし、

「ケツって……」

「女の子らしさの欠片も無いですね……」

「てゆうかスノボーボボって……」

「先輩、あんなののどこが良いんですか?」

 とげんなりと言われたりしていた。


 とまぁそんなわけでつい先日も風華には会っていて、朗太は不思議そうな顔をしたのだが、浦島太郎のように時の経過は個々人の感性に依るところが大きいらしい。


「うん、そうだね。でも私からしたら1日会わなかったら久々だよ。凛銅君に1日会えなくて私は寂しかったぞ?」

「そ、そうか……」

「寂しくて死んじゃうかと思った」

「ウサギですか?」


 風華の大げさな物言いに横に立っていた纏から冷静なツッコミが入った。


 それから二人と話していると、目の前で昼食の予定がバッティングしだした。

 相手のことなどお構いなしの二人に朗太が慌てふためていると同時に後方から「おはよう。また騒がしいわね……」と姫子が現れる。


「アンタたち、また言い争いしているの?」

「うん、そうだけども」

 その問いにこともなげににコクリと頷く風華。

「姫子もカマトトぶってないでさっさと素直にならないと、どうしようもなくなるよ」

その痛烈な一撃に姫子のこめかみに青筋を立たせていた。


 気炎を吐きつつ姫子は言う。

「うっさいわね……。 私の教室よ……! アンタたち、来んじゃないわよ……。うるさいから」

 姫子は昼休みに教室に来ようとしている二人に牽制をし出した。

 それはズゴゴゴッという効果音でも付きそうなほどの迫力で、朗太が固唾を飲んでいると

「フ、そうこなくちゃ」

「正体現しましたね……」二人は気丈にもそれぞれ言い返していた。ここだけバトル空間すぎる、朗太は当事者だというのにどこか部外者のようにそう思っていた。


 案の定、昼休みは騒々しいことになっていた。


「風華、アンタのこと私、呼んでないけど?」


 4現が終わるや否や現れた風華に姫子がF組のドアの前に立ち腕を組み仁王立ちし、通せん坊。その姿から放たれる圧たるや名ゴールキーパーの姿を彷彿とさせる。だが、風華も負けていない。


「いやいや、姫子には用ないから。用があるのは凛銅君だから。良いよね、凛銅君?」

「朗太に用があるは分かったけど、誰が入って良いって言ったのかしら?」

「アラ、姫子に許可がいるのかしら」

「いるでしょ、私の教室なのだから」


 バチィッと二人の間で電撃でも炸裂しそうなほど強烈に視線が交錯する。

 その二人のバトルに冷や汗をかいたのが何を隠そう朗太だ。

 これまで以上に場所を選ばず戦うようになった二人に困惑しつつも「あ、あの……、ちょ、二人とも場所を変えよう」ととっさに反対側のドアから廊下へ抜けだしたのだが

「あ、先輩だ」

「あ、纏だ」

 弁当箱を持った纏とばったり出くわした。

 本当に纏は教室にやってきたのだ。

 思わぬ遭遇人物に朗太がきょとんとしていると、血相をかく朗太と、ドアの前で口を尖らせる風華と、仁王だつ姫子を見て、纏は状況を理解しポンと手をついた。

「あ、風華さん話通してくれたんですか? ご苦労様です。で、じゃぁ先輩、こんな気性の荒い野蛮人たちほっといて私とお昼食べましょう」

「ちょっとアンタは待ちなさい?!」


 姫子から悲鳴染みた叫び声が上がった。


 そのような経緯を経て4人は人のあまり来ない屋外テラスで昼食をとっている。

 周囲の目が無ければ何とまぁ仲睦まじい。

 周囲の目が無ければ彼女たちも既成事実を作る必要が無くなるからなのか、それとも冬休みと地続きの空気になるからか、彼女たちは衝突を控えつつ自然体で会話していた。 


「風華、さっきからアンタ何見てんの?」


 姫子はテーブルに置いた譜面を見つつ難しい顔をしている風華に尋ねた。「ん?」と箸を口にくわえたまま固まっていた風華は顔を上げる。


「これ? これは今度私たちのクラスでやる自由曲の譜面。ソロパートあるから」

「結局アンタ、ソロパートすることになっちゃったんだ」

 青陽高校は合唱コンクールは学年共通の課題曲と各クラス自由選択の自由曲があり、その総合得点で各学年ごと最優秀賞と優秀賞を出すのだ。

 その自由曲のソロパートを風華は任されてしまったらしい。 

 以前から話を聞いていたらしい姫子が訳知り顔で頷くと、そうなのよ〜〜っと風華は顔をしかめた。


「クラスの女子があれよあれよでね。あっというまにはめこめられちゃった」

「ひぇ~~悲惨ですね~~」

「まー歌うの好きだから良いんだけどね。正直めんどう」

「はー……。で、でも凄いな。俺からすると他人から歌うようにせがまれるなんて信じられないよ」


 これまで幾度となく合唱コンクールで辛酸を嘗めてきた朗太がたまげていると、風華はフフッ、とほくそえんだ。


「フフ、これは私の伸びやかな歌声と、エロい衣装で凛銅くんはイチコロだね」

「えッ……?」

 予想外の場所から飛んできた誘惑に仰天し、風華のいうエロイ衣装を勝手に想像し固まる朗太。すると

「ホントこの人ただでは起きないですね」

「もう全てが落とし文句の前置きとみるべきね」

「ふふ、良いじゃなーい」残りの二人は言い募り、風華は歌うように言いひらりと躱す。


「てゆうか衣装て、この前のスノボ旅行で顔パンパンだった奴が何言うのよ」

「あ、あれは標高が高かったから!」


 だが次の瞬間には痛いところをつかれ風華は顔を真っ赤にしていた。


「標高て」

「ポテチの袋ですか風華さん……」

「む、浮腫む日だったのよ! 悪い!? 姫子や纏ちゃんだって浮腫む日ぐらいあるでしょ!」

「まぁ、ありますけど」


 風華のあんまりな言い訳に纏は慄いていた。

 

 このように、派手で賑やかなやり取りが三学期幕開け早々起きており、そのカオスな光景に流石に周囲の人間たちも何かを察した。

 二学期末の辺りから醸成された空気が三学期開幕早々のスタートダッシュで明確に意味づけられたのだ。

 好意をこれまで以上に隠さなくなった彼女たちに、もう彼女たちの好意は明確に朗太に伝わっているのではないか、といった噂が流れたのだ。


 おかげで――


「アンタたちのせいで私は振られ女よ! どーしてくれんの!?」


 人の去った放課後の教室で姫子は悔し気に地団駄踏む。

 姫子凛銅君に告ったのよね? と面と向かって友人に聞かれたのだ。

 適当にはぐらかしたものの姫子としては相当屈辱だったわけである。

 

「まぁこんだけみんなの前で戦えば誰でも気が付きますよ」

「そうよ、姫子のきっての希望で肝心なところは伏せてるけど何となく分かるよね」

「私の希望って! 確かにそうだけど! でもアンタたちが学校では自重すれば良い話でしょ?!」


 顔を真っ赤にし恥ずかしがる姫子に申し訳なく思っていると矛先は朗太へ向いた。


「てゆうかこれもそれも朗太、アンタのせいだかんね!」

「す、すまん……」

「もうホント最悪よーーー!」


 身をよじる姫子。対し朗太は平謝りするほかない。

 だがその朗太の様子も酷い。

 朗太も周囲の男子から洗礼を受けているのだ。

 彼女たちの言い合いに何かを察した男子たちの多くは、当然腹を立て、朗太をはたいたりなんなり、半分これもう暴力なんじゃないのという仕打ちを与えたのだ。

「あ、わるーい、見えなかったわー!」とか言ってぶつかられたことも一度や二度ではないし、足を踏まれた回数など数えきれない。

 おかげで朗太の様子はというと、なんというか、ボロ…ッという感じになっている。 

 だが朗太とて彼らの気持ちは分かるし、朗太も自分がしたことがしたことなので受け入れるよりなかった。



 また親友に対する対処だが、3人と約束しておいて申し訳ない。

 大地は何かあったのかと面と向かって聞いて来たので、一度相談した手前、また大地が非常に信頼がおける相手だと知っているため真実を伝えてある。

 真実を知った大地は絶句し、その後呆れたような笑みを浮かべていた。

 それからというもの、彼は皆からヘイトを買う朗太とその周囲の間に入り上手くヘイトを断ち切らせる役目をしてくれている。本当に頭が上がらない。

 近いうちに、もう一人の親友、誠仁にのみは真実を伝えるかもしれない。


 何はともあれ、このように朗太たちの高校は波乱とともに三学期を迎えていたのだ。


 だがだからといって学校の行事がキャンセルされるわけでは、勿論ない。


 冬休みが明けると早々、朗太たちの高校は合唱コンクールが控えていて、すでに12月から練習はスタートしているが本番が間近に迫りより密な練習スケジュールが組まれており、校内では至る所で練習が行われていた。

 男女各パートごと集まり声を合わせる。

 だが合唱コンクールで男子は乗り気にならないのは恒例だ。

 それにより女子は眉を顰め

「(なんで男子あんなに不真面目なの??)」

「(てゆうか子供すぎ……)」などと陰口を叩き、男女の溝が往々にして表面化する。

 案の定、朗太の学年もそうであり、合唱コンクールが近づくにつれ男女の対立がますます深まっていて――




「ちょっと男子! 真面目にやってよね?!」

「つーかやる気ないなら出て行ってよ」

「なんなのその態度マジで」


 

 中でも朗太たちが所属する2年F組は特段に酷い状態になっていたのだった。


「つーか凛銅君音痴すぎ!!」


 練習にちゃんと参加し真面目に歌うも逆に他の男子と同じように朗太は非難されていた。


 合唱コンクール編 開始












 カオス!


 あと話が変わりますが山形県?の一部地方では『仲間に入れて欲しい』を『〇めて欲しい』というらしいですね。(風華の『はめこまれて』のセリフを受けて)意味が意味なので『私もはめて〇ださい!』みたいなセリフになります。

 心が汚れている私は職場で聞いた時は何事かと思いました。


 それと1章の内容を読み直していて不備というか至らぬ点が散見されたので、物語前半(一学期編まで?)は表現等の修正を行うと思います。大筋は全く変えないです。要はブラッシュアップですね。すでに遠足編まで修正を終えているので後日反映し次第お知らせしますね。


 次話更新は3/10(日)です。


 あ、あと前回お伝え忘れましたがコミカライズに合わせPNも変わります。

 玖太⇒雨ノ日玖作 です。宜しくお願いします!



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1巻と2巻の表紙です!
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