これから始まる物語について(1)
お久しぶりです!
これより三学期編を開始します。
プロローグ的な奴なんでとても短いです!
◆◆◆
手を伸ばしても届かない人がいる。
その人の話を聞いた時、胸がときめいた。
自分とはあまりにも違う在り方。
高貴で、誇り高く、非の打ち所のない人格。
こんな人がこの世にいるのかと思った。
いてくれるのかと、その存在を喜びつつ、その実在を疑った。
だがその高貴な人物は、噂通り実在し、その姿を実際に目の当たりにした瞬間、胸が高鳴った。
『あ、あの、先輩!』
だから自分は、その人の横に立とうとしたのだ。
『私も一緒に――』
その横に並び立ち、自分も彼女の活動の一部になる。
それを夢見て、その人にその許可を得ようとしたのだ。
しかし答えはノーだった。
『ごめんね。今私にはパートナーがいるの』
その人は恥ずかしそうに顔を朱に染めて首を横に振った。
まさか自分の願いが叶わないとは、思ってもみなかった。
自分が切り捨てられるなんて、信じることが出来なかった。
これまでの人生、思い通りにならないことなど一度も無かった。
欲しいと思ったものは、いつだって手に入った。
特に学校というコミュニティでは、かしずくように、異性は自分の欲しいものを差し出した。
だがこの相手は、自分の欲しいものを与えてくれないという。
『じゃ、じゃぁ……、その名前を教えてもらっても、良いですか……?』
食い下がった。納得できなかったのだ。
すると相手は顔を真っ赤に染め上げた。
それはまるで恋する乙女そのもので、その姿に暗い炎をメラメラと燃やしていると、少女は呟いた。
『え、えっと、その名は――』
その時聞いた名前を、自分は許す気になれない。
◆◆◆
「なんだ……?」
やけに強い視線を感じ、朗太は振り返った。
見ると通路の一角に男子たちの中に一人だけ女子が混じる集団がいる。
先ほどの敵意の籠った視線はその集団から放たれたとしか思えない。
だがそこには和気あいあいと話す男女しかおらず、先ほどの尋常ならざる敵意の視線はいったい誰が発したのか見当がつかない。
朗太が訝しんでいると横の大地に背中をはたかれた。
「なんだ朗太。今度は蒼桃さん狙い?」
「蒼桃?」
「そ、この前言ったろ? 蒼桃瞳。纏ちゃんの対を為す女の子。『二天使』の片割れだよ」
「あー、じゃぁあの男子の中央にいる女子が蒼桃なのか」
二天使。青陽高校特有の馬鹿げた名前だ。
一年次の有名な美少女の二人を指すその言葉。
向こうのピンク色のカーディガンを着用した茶髪の少女がそのうちの一人だという。遠目だが、確かに美人かもしれない。周囲の男子が寄り付くのも当然のような気がした。
「ちな、言ったように、お前らの一件で人気急上昇、信者爆増中だ」
「俺たちの一件て……」
その話は先日聞いた。
朗太が憮然とした表情をしていると「おーい!」と遠くで誠仁が手を振った。
「早くしろよ朗太、大地ー!! 早く行かないとどやされるぞー!」
遠くで学ラン姿の男が手を振り叫んでいる。
その姿に大地は苦笑した。
「行くか朗太。ぐずぐずしてると『藤黄』がうるさいぞ」
「だな……」
朗太は、今ほどの視線に釈然としないものを感じつつ、教室への道を歩き始めた。大地は言う。
「なんで合唱コンクールってあんなにも女子がマジになるのかね」
「さぁ、なんでだろうね」
朗太は短く返した。
物語は一度、三学期初日、冬休みが明けたその日に立ち返る。
三学期編、開始。
というわけで、短めなプロローグでした! なんも進んでねぇ…… 明日も更新します……!
それと告知ですが大変ありがたいことに、本作がコミカライズしていただけることになりました。
詳しくは活動報告をご覧ください。




