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DAY 8 (1)




 

お待たせしました!

初詣回!ひいては冬休みラスト回です!

宜しくお願いします!










 というわけで朗太たちは初詣に来ている。


「先輩のお母さんはやっぱりこの時期忙しいんでしたっけ?」

「あぁ。三が日は暇だけど、その後はラッシュだな。書初めの課題がさ」

「あーあったねー。そんなの」


 神社へ続く道は、人で賑わっていた。

 車道は交通規制が敷かれ着物を着た人などで溢れかえり、渋滞が通りの先、階段を上った先の神社の境内まで、延々と続いている。

 彼らの頭上には、霧なのかもしれないが、彼らの汗が蒸気になったとしか思えない白い蒸気が時折光の加減で見えた。


 なぜこんなにも今朗太がいる場所が混んでいるかといえば――


「にしてもやっぱり湯島天神は混みますね!」

「だな」


 朗太たちがやって来たのが学業祈願で有名な湯島天神だからである。

 1月1日。元旦とあり、受験を迎える子を持つ親がこぞってやってきている。

 纏は梅の花が描かれた赤い着物を着ていた。

 無論、姫子や風華もいる。


「正直ここまでとは知らなかったわ……」

「うん、ね。もうちょっと早く来るべきだったかもね」


 姫子はこの人ごみにやられて顔を曇らせて、ハハハと笑いつつ風華も眉を下げ辛そうにしていた。纏もまた「二年連続で来ている私よりずっとマシです……」と連続での参拝に辟易していた。


「にしても寒くないのか纏」


 朗太は、ふと纏の格好に首をかしげた。


「え? 何でですか?」


 纏は大きい瞳をくりくりさせ不思議そうな顔をする。


「あ、いや、着物だし、この気候だし、寒くないのかなって」

 今日は今年度一番の冷え込みになると予報ではいわれ、早朝は都内も五度を下回っていた。それで寒いのではないかと思ったのだが、纏は対策済みらしい。


「大丈夫ですよ? 私、下に色々着込んでいるんで」

「うおっ……」


 やおらぴらりと着物をめくり、その胸元に折り重なる衣服を朗太の見せてみせた。朗太は突然露になった纏の胸元に仰け反っていた。


「ふふ、驚きました?」

 初な反応を見せる朗太に纏はほくそ笑む。


「纏の肌が拝めるかと思いましたか?」

「あ、いや……」

「先輩、心配していただきありがとうございます」


 朗太の心のうちを悟っている纏は朗太の言葉など関係なく話を進めた。


「先輩、似合ってますか?」

「に、似合っているよ……」


 朗太が震える声で返すと「フフ、ありがとうございます」と纏は微笑んだ。


「チッ」

「…………」

「なんで今日は着つけなかったのかしら」

「そりゃアンタ。元旦からママにそんなこと手伝わせられないからよ。着付けに行くのも面倒だし。それに風華、アンタ着物持ってないでしょ」

「……確かに」


 こちらの会話に、私服で来た風華と姫子は明らかに苛立っていた。

 だがしばらくすると、ビコーン! と風華は何か閃いたような顔をして、トテテと朗太の真横に駆け寄ると、わずかに朗太たちが並ぶ列が前進した時だ。


「あ、イッターい。ぶつかる~!」


 後ろの人にぶつかったかどうかも定かではないが、そんなこと言いながらボスッと朗太のダウンの上にその身を重ねてきた。

 その異様な光景に朗太が瞠目していると、同じく白のダウンジャケットを羽織っていた風華はチロリと目を上げて朗太の表情を確かめた。


「どう?」

「……どうと言われても……」

「ドキドキした?」

「い、いや、……防寒着が、厚すぎて……」

「フーン、つまんなーい」

「ちょっとアンタたち、邪魔になってるわよ!」


 下らない会話をしていると姫子からお叱りの言葉が飛んだ。

 

 それから朗太たちは境内に入ると、投げ銭状態の賽銭箱に小銭を放り込み学業成就を祈願した。


 そして参拝が終わればとりあえずこの一画から離れるとなったのだが――


「あ、美味しそう!」


 神社周辺の屋台から漂う良い匂いに風華が釣られ足止めを食らい、プチ事件が発生した。


「アンタ、お金勿体ないわよ……」

 すかさず苦言を呈す姫子。だが風華は姫子を無視し屋台に駆け込み注文する。


「おじさん! たこ焼きひとつー!!」

「お! 別嬪さんだねー!! こいつは一つおまけだー!!」

「キャーーー! おじさん大好きー!!」

「ハァーハッハッハー」


 屋台からは気前の良い声が響いた。

 

 しかし調子が良かったのもこれまでで、その後も食べ歩きを続けた風華は飲食スペースで「た、食べ過ぎた……」とお腹を抱えるはめになり、「ホラ見たことですか」と時間を浪費させられた纏から殊更に冷たく対応されていた。


「生まれそう……」

「生まれるて……」


 女子とは到底思えないセリフに姫子は眉尻を下げる。


◆◆◆


「やっぱりこういう日はカラオケ超空いてるね!」


 それから風華の腹痛問題が解消されると、朗太たちはカラオケにやってきていた。

 偶然4人揃って夕方まで暇なので、カラオケにでも行こうということになったのだ。

 都心の街並みは普段よりも閑散としていて、うら寂しい道は歩いているとすぐに目的地に着いた。やはり今日のような日は親戚一同でカラオケをしに来た陽気な家族や、朗太たちのような酔狂な客しかいないらしい。待つことも無く広い部屋に朗太たちは通され、すぐに風華が自慢の伸びやかな歌声を披露し、それに負けじと纏が熱唱し始める。

 また歌唱力でやや劣る姫子が恥ずかしそうに歌を披露し、歌い終わった後チラチラこちらの反応を窺うので


「なによ!」

「う、うまいぞ……ちゃんと……」

「ドヘタのアンタに言われたくないわよ! ホラ、アンタの番よ!」


 不憫に思いフォローに入ったのだがなぜか怒られた。心配されるのが癪に障ったらしい。

 またマイクを渡された朗太が歌を披露すると、当然場は凍り付き


「ハハ、ハ、笑顔が引き攣る……」

「相変わらずですね。いっそ芸術的です」

「朗太、前から思ってたけどアンタ音楽の評定いくつ?」

「音楽と体育だけは実は2取ったことある。……五段階評価な」

「十段階評価じゃなくて良かったわ……」

 皆が苦言を呈していた。


 その後も朗太たちは4人サイクルで歌い続ける。

 その中で風華は、全く懲りていない、「ドリンク飲み放題にしたんだから飲まなきゃ損だよね!」とドリンクサーバーへ何往復もし、纏も纏で、何曲か歌うと普通に歌うことに飽きたのか「先輩、デュエットしましょう?」と提案していた。


「俺とデュエットて、正気か?」

「告白した後なのに、そこまで明白に自分の歌唱力に自信が無いのは見ていて不憫になります」


 朗太のネガティブな自己評価に眉尻を下げていた。

 だが朗太が拒否するも流れで朗太と纏はデュエットすることになり、マイクを持った纏が、「私と先輩の相性の良さを皆さんに見せつけてあげます!」などと纏が姫子と風華に向かって言うので、場はあっという間にデュエットの点数を朗太と自分の相性に置き換えバトルする戦場と化した。


「へぇ、歌では特に負ける気がしないけど……」

「単体ではそうかもですね。でもデュエットなら話が違います!」


 メラメラと闘志を燃やす風華に対し纏は余裕綽々だった。よほど自信があるらしい。


「辛口採点でもアベレージ93点の私の力をもってすれば、先輩と息を合わせることでそこそこの点数を叩き出せるはずです!」 


 そう言って纏は気合いを漲らせ朗太と歌を披露したわけだが、結果は


43点。


「……」


 纏は目元をぴくぴくと痙攣させながら愕然としていた。


「先輩、私に何か言うことありますか?」

「……す、すまん」


 自分が混ざることで点数を50点近く下げてしまい朗太は身の置き場が無かった。

 一方で水を得た魚のように元気になったのが風華だ。纏からマイクを受け取りながら意気揚々悦に入りながらマイクに言っていた。 


「ふ、化けの皮がはがれたね纏ちゃん! 凛銅君がそんな音程取るの難しい歌、うたえるわけがないのよ! 凛銅君の場合、音程が出来る限り変わらないのが良い! そしてそれを選ぶのも腕の見せ所よ! 見てなさい、これが私と凛銅君の相性の良さよ! 行くよ、凛銅君! あ、ぜんっぜん、音程変わんない曲選んだからね! 安心して大丈夫だよ!」

「お、おう……」

 

 何だろう、嬉しいのか悲しいのか良く分からない。

 思いやっているようで罵倒しているとしか思えないその言葉にぎこちなく朗太は頷いていると、曲は始まった。そして出てきた点数は――


33点。


「……」


 風華は表示された点数に、んー? なんだこれー、機械の故障かなー? と呟きながら笑顔で固まっていた。


「あの、凛銅君」

「ご、ごめん……!」


 朗太は平謝りすることしか出来なかった。

 そして最後の姫子だが、姫子は「ん!」と隣のトト○のカンタ式、恥ずかしそうに頬を紅潮させながらよく恋人同士で歌うような曲を指定してきた。


「わ、分かった……」


 どうやら曲調などを無視し一緒に歌いたいものを選択したらしい。

 朗太は気後れしながらマイクを取り、歌う。だが、出てきた点数は――


29点。


「はぁ~~~~~~~~~」


 姫子は心底失望したという風にソファーにどっかり座り込み、腕をその背もたれの上端に伸ばし、足を組んでため息を吐いた。


「……俺死んで良いか?」


 姫子にしても辛口採点で80点以上を叩き出していた。

 そのような彼女たちとデュエットし酷い点数を叩き出し朗太は身が焼かれるようだった。

 だが肩をすくめ落ち込んでいる朗太に風華は笑いながら、「でも歌下手なのも面白いね」などとと言うが、これが一度良い印象を持った相手は他の要素も良く見えるという、ハロー効果という現象であることを朗太は知っていた。


◆◆◆


「あーもう暗いね」

「だな」

「意外と長時間いたようですね」


 カラオケ店を出ると周囲は暗くなり始めている。

 今日という日も終わりに近づき、解散の時間が間近になっていたのだ。

「帰りましょうか?」

「そうね」

 それもあり時間も時間なので4人はとぼとぼと家路につき始めた。

 下らない雑談をしながら閑散とした道をえっちらおっちら歩く。

 だがそのまま家に直帰するということにはならず、「あれ?」「こんなとこに神社なんてあったんだ……」目の前に多くの人が入っていく神社が現れ4人は瞠目していた。そして――


「さっきは学業祈願だったし、それ以外のお願いをここでしていかない?」

「良いですね、それ」

「ま、そういうのも大切よね」


 まだ学業祈願しか出来ていないということで、本当の今年の願いを祈願するべく、4人はその敷居をまたいだのだった。


◆◆◆


「意外と、混んでいますね」

「な。地元の人が来ているのかな?」


 境内は多くの人で賑やかで、まっすぐ歩けないような状態だった。

 提灯の赤や黄色の光が揺らめく境内が、多くの参拝客で賑わっている。

 それでもなんとか4人は賽銭箱の前までやってきた。雨水や風で傷んだ、黒く染まった賽銭箱があり、その上に土色の鈴紐が垂れ下がっている。


「え、皆一緒にするの?」

「うん、良いじゃんそれでも。皆お賽銭は持った?」


 4人は面倒くさいからという理由で一緒に祈願することになり、面食らう姫子を余所に風華は着々と準備を進め「準備は良い? お賽銭持った?」「持ちましたよー」「俺も大丈夫だぞ」と4人が足並みをそろえると4人全員で同時に賽銭を投げ込み、ガラガラと鈴を鳴らし、柏手を打ち、揃って神に今年の願いを捧げた。

 風華が代表して鳴らした鈴の音が喧騒に交じり響いていた。


 そしてその帰り道だ。


「叶うと良いなぁ」


 打って変わって閑散とした住宅街を歩いていると、風華は夜空を見上げポツリと呟いたのだ。


「風華は何を祈願したんだ?」

「それを聞くの、凛銅君?」

「…………」


 不思議に思い朗太が問うと、風華の澄んだ双眸に捕らえられた。

 その瞳に見据えられて、彼女が何を願ったのか悟る。

 同時に自分が失態を犯したことも理解する。すると纏が言葉を引き継いだ。


「聞くなんて、空気が読めてないですよ、先輩」

「纏……」

「皆、願ったことなんて、決まっているじゃないですか?」


 纏の表情は憂いに満ちて見えた。


「言わなくても、分かりますよね。もう」

「あ、あぁ……」


 分かるとも。

 朗太は頷いた。

 先日自分は三人から告白を受けた。

 だがそれを自分は保留にした。

 なら彼女たちが願ったことなど、決まっているじゃないか。

 彼女たちは自分と付き合えることを願ったに違いない。

 

 それは、物言わぬ姫子の強がるような、だがそれでいて恥ずかしさから潤んでいる瞳からも明らかだ。


 そしてこの問題、いつまでも保留にしておけるわけがない。

 今でこそそのように思って貰えているわけだが、永遠に続くわけもない。

 だから、思う。


 三学期だ。


 三学期が終わるまでに全てに決着をつける、と。

 こうして朗太は決意を新たにしーー


 数日後、冬休みは終わりを告げたのだった。




DAY8 終


《冬休み編・終》









 

というわけで冬休み編は完結ですー。今までありがとうございました!


それと次話投稿時に何か発表できるかもしれないです。

だからまた来てね!


で、本編ですが、あとは"最終"三学期編ですね。

三学期編は合唱コンクール編から始まります。

ここまで着いてきていただけて感激です。ありがとうございました。

三学期編は作中でその感謝を示せたらな、と考えています。

で、ざっくりとした三学期編の方向性ですが、三学期編ではここまで温め(放置)続けていた二天使の片割れ、蒼桃(あおもも)に加え、津軽吉成(つがるよしなり)瀬戸基龍(せときりゅう)緑野翠(みどりのみどり)などなど、既存キャラが物語に関わり、物語自体が色鮮やかになる予定です。

力抜いて読んで貰えると嬉しいです。え、そもそも力抜いてる? なら良いんですが。


というわけで、一カ月以内にはまた連載再開出来たらなと思っていますので、宜しくお願いします。

では!



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