DAY 4 (1)
このネタどうなんだろ、と思いますがとりあえず姫子回!
宜しくお願いします!
皆へのプレゼントを購入した翌日。
講習を終えると朗太は姫子宅へ向かっていた。
なぜなら姫子の母親である妃恵に呼び出されたからだ。
昨夜突然姫子から『ママが呼んでるんだけど……』と連絡が入ったのだ。
待ち合わせの姫子の家からほど近い時計台の前まで来るとよく見知った亜麻色の髪の少女がマフラーを巻きなおしながら寒そうに立っていた。
「よ……、来たわね」
朗太の姿を認めると姫子は小さく手を振った。
見れば恥ずかしさからか頬にわずかに赤みが差していたが、強がるようにその口調は硬い。
「う、うん。遅れて悪い」
朗太もまたこれから妃恵と会うとあって緊張していた。
「講習が長引いちゃってさ」
「気にしなくて良いわ。悪いわね呼び出しちゃって」
「良いよ。それに、そりゃ来るだろ……」
言葉少なげに返し、朗太は生唾をごくりと飲み込んだ。
「……妃恵さん絡みなら」
恥ずかしい気持ちをおして、姫子の顔をちらと盗み見る。
妃恵の呼び出しとあってかその表情は優れなかった。
再度、既にEポストでも確認したことを繰り返す。
「……妃恵さんからは、何も話聞いてないんだよな?」
「うん、全然。アンタが来たら話すの一点張り。というか、本当に何も用事無いのよね」
「うん、まぁ帰ったら復習はするけども……」
「なら良いわ。ママも大した用事じゃないから、用事があるならそっち優先するように言ってたから。じゃ、行くわよ」
二人はすぐに姫子の家へ歩き始めた。
数分も歩くとすぐに天を衝くように伸びるタワーマンションに辿り着く。
蛍光色の光が灯るエレベーターに乗り込み、備え付けられたボタンを押す。エレベーターは音もなくぐんぐんと天上の世界へと昇り始めた。
気分はラスボスの魔王が潜む空間に向かう勇者である。
「ま、出たとこ勝負ね……」
「だな……」
姫子の呟きに小さく返した。
そして数分もしないうちに朗太は姫子の家にお邪魔していたのだが、
「あ、来たわね凛銅君! 久しぶり、さ、入って入って」
二人を出迎えたのはなにやらやたらと機嫌のよい妃恵であった。
「「????」」
その様子に姫子と顔を見合わせ居間に上がり込むと、なんとテーブルの上に置かれていたのはお茶菓子と急須。
「え、あ、その……」
「さ、食べて食べて」
動揺する朗太に妃恵は愛想よくそれらを薦め、言われるがままにそれらをかじり雑談したのち「で、あの……今日はどういった……」と朗太が恐る恐る切り出すと「そ、そうね。その話ね。じ、実はあなたたちに相談があってね」と妃恵は頬を赤らめ居住まいを正した。
その様子に何を言い出すのだろうと朗太が訝しんでいると妃恵は告げた。
「実はわ、私、再婚を考えているのだけど……」
「ハァーーーーーーーー?!?!?!?!?!」
瞬間、姫子が眦をかっぴらき叫び、ガタッと立ち上がった。
その勢いで椅子が豪快に後ろにひっくり返る。
「ママそんな話全っ然してなかったじゃない!! それに私は嫌よ! パパなんて要らないもん! ママだけで良いわよ!」
「そういうわけにもいかないのよ。それにこれはあなたのためでもあるわ。あと、そんな急に再婚する気も無いわ。まだお相手だって見つかっていないのだし」
「え!? 相手見つかってないの?! 一体どういうこと?! ママは何を言っているの?!」
「お、落ち着け姫子……。と、とにかく座ろう。な……?」
朗太は倒れた椅子を起こし、興奮する姫子をなだめすかせて座らせた。
しかしこの反応も無理もない気がする。
自分だっていきなり親が別居するなんて話など聞かされた日には仰天するだろう。
「知っているでしょ姫子も。お母さまが私を再婚させようとしているのは」
「おばあちゃん?! まぁそれは知っているけど」
「でしょう。最近、それが特に酷くてね。色々とお相手を見つけてくるのだけど、正直面倒なのよ」
「で? それがどうして再婚する気になる話に繋がるの??」
姫子は眉間に深いしわを寄せる。
「再婚の話に繋がるというか、いえ、もともと再婚は考えてはいたのよ。それも、そうね……。姫子、あなたが大学生になって、社会人になる手前とか、社会人になった後くらい出来たらなってね。勿論、良い人と巡り合えたら、だけど」
「そ、そういうこと……?」
喫緊の問題ではないと分かり姫子も相当安堵したようだ。
毒気が抜かれたように肩を落とした。
「なら、ま、まぁ私はお父さんが増えるくらいなら良いとは思うけど……」
「あなたがそう言うだろうことは分かっていたわ。その点は私も姫子と同じ気持ちだから安心して? で、問題はね」
妃恵はおずおずと切り出した。
「どうやったら良い人と巡り合えるのかしら?」
「「はい??」」
何言ってんだコイツ。
そんな思いを胸に抱きながら姫子と朗太は固まった。
二十以上年の離れた大人の女性からの恋愛相談に、完全に気後れしていた。
同時に朗太は特に思う。
今日誘われた理由コレ?! と。
確かにこれは他に用事があるのならそちらを優先するように言うだろう。
「しゃ……社内恋愛とか、どうすか……?」
口の中を干上がらせながら朗太は言葉を絞り出す。
しかし「ダメね……」妃恵は首を横に振った。
「凛銅君、私が社内でなんて呼ばれているか分かる?」
「い、いえ……知らないすけど……」
「陰険メガネよ」
「……」
「ママ……」
妃恵のまさかの蔑称に朗太は言葉を失い、姫子も憐れむような視線を送った。
「同期や上長にもフリーなのにはろくな男もいないし、部下の男性陣からは総じて恐れられているわ。社内恋愛は無理ね。何より私のような職位の者が社内恋愛などし出したら皆溜まったもんじゃないわ」
「そ、そうすか……」
確かに、言われてみればその通りかもしれない。
「な、ならスポーツジムとか、出会いがあるとかよく言いますよね……。出会い目的で入ることに、問題はあるかもしれませんが」
「あ、でもそれは朗太、無理よ」
朗太の提案に姫子は首を振った。
「何でさ」
「ママ、運動からきしだし。ね、ママ」
「そうね。大昔、走り幅跳びで両足で着地出来なくて教師に叱られたのは良い思い出ね」
「走り幅とびで叱られるとかあんのか?!」
緑茶をズズーと啜る妃恵を朗太は驚愕と共に見ていた。
「ま、人には色々あるのよ」とかすました顔で言っているがこの人、意外とポンコツである。
その後姫子が「セミナーとかは?」と提案するも「もう一通り目ぼしいところは参加しているわ」と却下され、朗太が「じゃぁ趣味でなんか」と言うと「仕事が趣味ね」とのことでお話にならない。
また「てゆうかママ、例えば4年後に結婚だとしても今から動き出すって早すぎない?」と姫子が問うと
「何も付き合ってすぐに結婚というわけでもないから大丈夫よ。そもそもすぐに良い人に会えるとも限らないし、出会えたとしても姫子に会わせて問題が無いか確認して、その他もろもろ問題なくてようやく再婚。身体の相性だってある。早すぎることなんてないわ」などと言い放ち
「「身体の相性?!?!」」
うぶな、まだうら若い二人の若者を赤面させていた。
完全に朗太と姫子の二人にはまだ早すぎる話題である。
二人揃って(何言ってんのこの人?!?!)と混乱し
「ママ、いきなり何言ってんのよ!?」
姫子は速攻で突っ込んでいた。
「アラ、当り前じゃない。あ、何もお付き合いする前からそういうことはしないわよ」
「そ、そりゃそうだけど……」
相手との温度差に辟易する姫子。
「付き合った後ならあるんすか……」
一方で朗太は朗太でショックから意味不明な呆れ方をしていて
「そりゃあるでしょう、凛銅君」
「そうよ、当たり前でしょ朗太」
と彼女たちに言われ「そ、そうか……」そんなもんなのか……と認識を改めているとふと目が合った姫子に「てゆうかアンタ私に何言わせてんのよ!!」とひっぱたかれていた。
どうやら付き合ったらそういうこともあるということを肯定してしまったことが恥ずかしいらしい。
「この変態!」と姫子は憤っていた。
姫子の平手は痛かった。
それからも色々としっちゃかめっちゃかになりつつも妃恵の婚活への提案をする朗太と姫子。
だがどれもいまいち反応が芳しくなく、次々に案が却下されていく。
しかし話し合うこと約30分。
考えあぐねた末朗太が「じゃ、じゃぁ、婚活サイトとか……」と、安易な案を上げると「それは良いかもしれないわね」と妃恵が食いついた。
実はその案は余りにも安易なことと姫子の親を婚活サイトに登録させることに忌避感もあり避けていたのだが、意外と本人的には好感触らしい。
案の定、実の母親が婚活サイトに登録するのを目の当たりにすることに抵抗がある姫子にドゲシッと机の下で足を蹴るが、当の妃恵は「じゃ、早速登録して見ましょうか」とか言って、さすが大企業を上り詰めただけある、早くもノートPCを開き始めた。行動力の権化である。
おかげで焦ったのは、自分の不用意な発言で事態が進んでしまった朗太と、実の母親が婚活サイトに登録し始めた姫子だ。
たまらず姫子が制止に入っていた。
「ママ本気?! そこってマジで結婚するための人が登録しているサイトなのよ?! お遊びで登録して良い場所じゃないのよ?!」
「本気よ本気。プロフィールのところに四年後辺りに結婚希望とか書いとけばいいんでしょ?」
だが妃恵は姫子の気持ちなど歯牙にも掛けない。手ごろなサイトを見つけると「あら、職業なんて書き込むの? そうね、じゃ、ここに会社名を入れて、役職? 取締役っと。年収も? じゃぁこれくらいね」などとつらつらと個人情報を書き込み始め、出来上がったのは思わずモザイクをかけたくなるような、社会的地位の暴力であった。
「「………………」」
むしろこんな経歴見せられたら引いて誰もマッチングしないのではないかと二人は押し黙る。もしくはおかしな人間ばかり釣れそうである。
そんなツッコミどころ満載のプロフィールにどうコメントしたものかと朗太が脂汗を流していると「ちょっと貸して! ママにはもう任せられない!」と姫子がそのPCを奪い去り部屋の隅へ逃げ込んだ。
そしてローテーブルの上にPCを置き、「え、ちょっと、ここはボカすでしょ……。私の性格? ママの性格か。どぎつ……、いやこれはどうぼかせば……」などと額にしわを寄せ思案を巡らせ始めた。
その表情は真剣そのもので、その様子に妃恵はくすくすと笑みを漏らしていた。
「良いんですか? 姫子が全部書いちゃいますよ?」
「良いのよ」
『理想の家族像? お互いに支え合って……』と呟く姫子を遠目に見つつ尋ねると妃は穏やかな口調でそう言った。
「だって『これ』を見るのが目的だったんですもの」
「え?」
予想外の返事に朗太が問い返すと妃恵はさらりと真実を告白し始めた。
「凛銅君、姫子と一緒に生徒の悩みを解決する活動をしているんでしょう? だから、どんなものか気になってね」
「え、ということは再婚って話がそもそも……、ウソ……?」
朗太が信じられないという面持ちで尋ねると、妃恵はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「フフ、嘘じゃないわ。でもまだまだ先の話よ。こんな性急に動く気はないわ」
「マジすか……」
とんだ食わせ者である。
朗太は思わず大きな息を吐き、椅子の背もたれにグデッとその身を預けた。
妃恵は姫子の活動をこれまで下らないものとして一蹴していた。
だがきっと先日の転校騒動の件で見直すこともあったのだろう。
姫子の活動に興味を持ち、自らがダミー依頼をすることでその活動風景を覗き見たというわけだ。
「ま、凛銅君とどういう絡み方をしているのかも知りたかったしね~」
「そ、そうすか……」
朗太は思わず口をついて出そうになる余計な一言を抑え込むので精いっぱいだった。
その後朗太はブツブツと何やら真剣に考え込みこちらの会話など耳に入っていない姫子にネタばらしをした。
「姫子ーー」
「なによ!」
「再婚の話、嘘らしいぞーー」
「サイテーーーー!!!!」
真実を知ると姫子は妃恵に食って掛かっていた。「大体ママは!」とか「やることなすこと非常識すぎ!!」だのなんだのまくしたて妃恵は眉尻を下げ微笑みつつその口撃をいなしていた。
「あ、あと凛銅君。今日良かったらうちで夜ごはん食べていきなさいよ」
そしてそれら騒動が済むと朗太は姫子宅で夕飯を頂くことになり
「あんまジロジロ見んじゃないわよ……!」
「お、おう……」
なぜか朗太は姫子の自室にいた。
心臓が高鳴る。もしかしたら聞こえてしまうんじゃないか、というほどに。
妃恵にまんまと丸め込まれてしまったのだ。
「姫子、夕飯は私がササッと作っちゃうから凛銅君とお部屋で遊んでなさい?」と妃恵は言い出し「ちょっとママ!」と柳眉を逆立てる姫子を無視し動揺する朗太に「凛銅くんも興味あるんじゃないの?」なんて追撃を加え
「えぇ?!」
「ママ!」
「無くはないですけど……、それは……」
「じゃぁ良いじゃない。姫子も、いつも部屋は綺麗にしてるんだし、良いでしょ?」
と言った具合で勢いで朗太と姫子を部屋に行かざるを得なくしてしまったのだ。
「夕飯出来たら呼ぶねー」
妃恵はキッチンへ向き直りながら手をひらひら振っていた。
というわけで、朗太は緊張している。
「意外と……綺麗なんだな……」
とりあえず何か言わなきゃと思い、朗太は想像以上に片づけられた部屋にポツリと呟いた。フローリングには毛の短い円形の絨毯が引かれ、本なども所定の場所に配置されていた。目につく埃もなく床も散らかっていない。
そしてなにより驚きだったのが
「い、意外と女の子っぽい部屋なのね……」
思った以上に部屋が女の子女の子していることだった。
多分、口にしても大丈夫。そう思い朗太は率直な感想を述べた。
家具は白基調で統一され、ところどころに淡い色の雑貨が混ざる。ラックには白いレースが敷かれ、その上に写真立てなどが置かれ、ベッドの枕元にはクマやらなにやら複数の人形が鎮座していた。
この部屋に普段この姫子がいると思うと妙にどきどきした。
「女の子っぽくて悪かったわね……。それに、片づけくらい毎日するでしょ……」
強がるように姫子は唇を尖らせた。
「ま、座りなさいよ。朗太……」
◆◆◆
こうして朗太は姫子の部屋で床の上に正座しているのだが、二人の間に会話はない。最初こそ姫子の部屋に対し感想を述べたが、一度コメントした以上それ以上何も言うことは無かった。
この部屋でいつも姫子が活動していると思うと、肌はじりじりと焼けるようで、視界も明滅するようだった。
部屋からは仄かに姫子の匂いがして、それが朗太から平常心を尋常じゃなく奪っていた。
そんな落ち着きのない朗太に姫子は口を尖らせ言う。
「なによ……」
「いや、何でもないけど……」
「アンタ、風華の家も行ったのよね?」
「い、行ったけども……」
朗太は肯定する。
それは遠い夏の日のことだ。
朗太は姫子宅から風華宅へ梯子するという荒行をなしたのだ。
あのあと風華宅へ行ったことがバレ、姫子にとんでもなく怒られた気がする。
昔のことを思い出しつつ頷く。
「その時もこんなに挙動不審だったの……」
「ど、ど、どうだろ……」
姫子に言われてその時のことを思い出していた。
確かあの時も自分は、風華の部屋にお邪魔した時、あまりにも風華臭が濃くて昏倒しそうになった気がする。とにかく朗太は異性の匂いに弱いのだ。というより、弱いということを二つの事象で今知った。
「確かに、そうだったかも……」
朗太は肯定した。
そうしながら朗太は考えを進める。
いつのまにか風華の位置まで姫子も来たという訳で、その、以前まで欠片も意識していなかった少女の価値の変貌に朗太が顔を紅潮させていると
「ふーん。ま、良いけど……」
朗太の心の内を察したのか姫子もまた顔を赤らめつつ話を切り上げた。
「「…………」」
そうして訪れたのは、やはり沈黙。
「何か言いたいことある?」
「な、無いが……」
「ふ~ん、そ」
ちくたくと時計が時を刻む音がやけに大きく聞こえた。
それほどまでにこの空間が無音だということである。
それが朗太を焦らせた。
ここに至って、ようやく朗太は話のネタを探すべき部屋を再び見まわし始める。
すると二度目で多少は落ち着いてきたからだろうか、先ほどは気が付かなかったものを発見して、朗太はそれを指さした。
「あ、あれは……」
指さしたのは箪笥の上に立てかけられていた写真立て。
そこには朗太始め6人の高校生が浅草の風景を背景ににこやかに笑っている。
東京遠足に行った時の写真だ。チェックポイントで強制的に撮らされたのである。当時はそこまで仲良くもなかったのだが、偶然、朗太と姫子が仲良く笑いながら並んで映っていた。
「飾ってたのか……」
「そ、そうよ……。飾って何か悪い……?」
「い、いや……悪かないが……」
腕を組み言う姫子の口調にわずかな怒気が孕みそれ以上の深入りは危険と察した朗太が視線を他の場所へさまよわせる。すると今度は姫子のベッドにある人形群のいくらかが、一緒にUFOキャッチャーで取ったものであると気がついた。
「あの、これ……」
朗太が指さすと言いたいことを察した姫子がバツが悪そうに眉間にしわを寄せ顔をむくれさせた。
「そうよ、光栄なことに私の寝るときのお供の仲間入りしてあげてるの。なんか文句ある?」
別に朗太とて、不満があるわけではない。
だが姫子の想いを知った今、朗太が取った人形を枕元に置く心理が何となく分かるような気がして、気が気では無かった。
姫子がコレらを抱いて寝ていたんじゃないかと妄想する。
そしてその妄想は朗太の許容値限界ギリギリの妄想で
「あー……いや……」
朗太はリンゴのように真っ赤になり
「あ、ありがとう……」
「?!」
なぜかお礼の言葉を口にしていた。
一方でまさか礼を言われるとは思ってもみなかった姫子もまた顔を真っ赤にする。
そして二人が赤くなり黙っていると妃恵が「夕飯出来たわよ~」と二人を呼び、
「はい!」
「い、今行くママ!」
二人は脱兎のごとく姫子の部屋から逃げ出したのだった。
だがそれからも姫子と朗太の生き地獄のような時間は続いた。
なぜなら会話のネタに妃恵が姫子の普段の話をし続けていたからだ。
自分で作った食事を箸で摘まみつつ妃恵は言う。
「凛銅君のおかげで凄いのよ。うちの姫子は」
「な、なんか最近あったんすか?」
「うん、料理自分でするって言ってきかなくなってね」
「ママ!」
溜まらず姫子から制止する声が飛んだ。
しかし妃恵は構わず話続ける。
「とんでもないものが出来上がるから私から断ってたんだけど、最近じゃてこでも動かないわ」
「そ、そうですか……」
「う、上手くなろうってのよ。悪い?!」
姫子は恥ずかしさで涙目になりつつ朗太を問いただした。
だが悪いことではない。
それに朗太は覚えている。
クリスマスパーティーの際、姫子が自分のために料理を上手くなろうとしたと言っていたことを。
となれば朗太から文句を言えるわけもなく
「悪くはないけど……」
と呟くことしか出来なかった。
「昨日なんて羽根つき餃子作ったのに羽が無くなってただの餃子になってびっくりしたわよね~~」
「ちょっとママは黙って!」
姫子は顔を真っ赤にして叫んだ。
だが妃恵が止まることは無く――
「あと4月になってから凛銅君凛銅君うるさくてねぇ~。もぉ~食卓じゃ凛銅君の話題ばっかよ~」
「ママ、ホントにちょっと黙って!」
姫子は遮二無二止めにかかろうとしていた。
そんな風に三人で囲んだ食卓は大いに賑やかなものになり、帰り際タクシーが待つマンションの前まで送りに来た姫子の顔はリンゴのように真っ赤だった。
主に妃恵に余計なことを言われまくったことが原因である。
「マ、ママが色々と迷惑かけたわ……」
「ま、まぁ大丈夫だ。楽しかったし……」
散々母親にからかわれたからか、目を艶やかに輝かせる姫子になんとかそう言い返す朗太。
朗太とて、気まずいことこの上ない。
早々にお暇しようとしていたのだが、そんな時だ、朗太のスマートホンが震え出した。
見るとそれは妹の弥生からの着信である。
こんな時間に電話をかけてくるとは珍しい。
そう思いつつ通話ボタンを押すと、電話先から緊迫した弥生の声が聞こえてきた。
そして何を言うのかと言えば弥生は言ったのだった。
「お、おにぃ」
そう、今日という日は、冬季講座に行き、姫子宅に寄った。
ただそれだけで終わる日で無かったのだ。
「ばれた。おにいが纏さんたち家に連れ込んでいるの」
「……………………」
その言葉に心臓が凍り付いた。
その後、二言三言、言葉を告げると通話は途切れた。
弥生は共犯者だ。
きっと真実がばれて親から尋問されていて、その隙をついてこちらを思いやり電話をかけてきたのだろう。
「どしたの朗太」
弥生からの連絡に身を固める朗太に、何も知らない姫子は問う。
隠せることでもない。朗太は全てを白状するしかなかった。
「あ、あの……親にばれたらしい……」
「何が」
「姫子たちが俺の家に上がり込んでいることが……」
「えぇ?!」
姫子の表情が驚愕に満ちた。
だがもっと重要なことを朗太は告げなくてはならない。
なんとか言葉を絞り出した。
「だから今度、全員家に連れて来いって……」
「えええええええええええええええええええええ?!?!?!」
姫子の絶叫がマンションのホールに響いた。
こうして姫子、風華、纏の三名は、皆、朗太の家に召喚されることになったのだった。
DAY4 終
というわけで姫子回でした。
次話でついに?朗太の親と姫子・風華・纏の三人が対面します。
投稿は2/7になります。宜しくお願いしますーー。