DAY 3 (2)
というわけでプレゼント購入回です!
宜しくお願いします!
結論から言うと朗太の予測通りだった。
二人は自分がいるのでわざわざここまで来てくれたらしい。
なぜそれが分かったかと言えば、なぜこんな場所にいるのか、と問われた風華が胸に手をやり声を大にし白状したからだった。
「なぜってそりゃ纏ちゃんと凛銅君が一緒にいるからだよ!」
「ハァー? 部活はどうしたんですか? まだ試合あるんですよね?」
「その部活の練習が終わったからここまで駆け付けたんじゃない! 姫子にも行かないって誘われてたし!」
「ということは姫子さんが原因ですか!?」
「私!? い、いや私はこいつにプレゼント買わすのに丁度いいと思ったからよ……!」
問い詰められた姫子はしどろもどろになりながら言い訳をしていた。
言葉に詰まる姫子をジトッとした目で見る纏。だが姫子がそれ以上纏に追及されることは無かった。
「というか凛銅君! 纏ちゃんが可愛いからって鼻の下伸ばしてなかったでしょうね!」と風華が朗太を問いただしていたからだ。
何とも返答しづらい問いに朗太が窮していると
「先輩は終始私の魅力の虜でしたよ!」と纏はすかさず言い放ち、
「そんなわけないでしょ!」
「じゃーなんで聞いたんですかねー?」と言い合いになっており、纏も姫子の苦しい言い訳に切り込む暇が無かったのだ。
会話に参加していなかった姫子は、九死に一生を得たというのに、ギロリと朗太を睨んでいた。
それからどうなったのかというと、流れで本当に彼女たちへのプレゼントのお返しを買いに行くことになっていた。
姫子の口から出まかせのようなセリフが実現したことになる。
嘘から出た真のような展開に「ろ、朗太、大丈夫? 今日はウィンドウショッピングでも良いのよ」と姫子は心配していたが、急な流れでプレゼントを買いに行くことになり最初こそ「わ、分かった……」と戸惑った様な返事をしていた朗太も、彼女たちにまともなお返しをしようと決意を新たにしていた。
お返しすることを躊躇うなんて最低じゃないか、もうここは、彼女たちが何が欲しいのか一生懸命考えお返しをするのが一番良いに違いない、と思い直したのだ。
「大丈夫、大丈夫、今日はお金持ってきているから」
朗太が意気込み言うと、それは纏にも奇異に映ったらしい。
「先輩、大丈夫ですか? 三人分ですよ。お金……」と、朗太の財政状況を案じていた。だがそれも無用の心配である。
「大丈夫だ。凛銅銀行は潤っている」
「なんで潤ってんのよ……確実に去年のアンタよりイベントごと多いでしょ……」
明らかに帳尻の合いそうにない朗太の返事に眉を顰めていた。
確かに言われてみればその通りだが、これにも明確な理由があり「きっと去年より小説用にお金使ってないからだな」と言うと纏は驚いていた。
「そんな沢山小説買ってたんですか?」
「あ、いや……そうじゃなくて」
とんでもない勘違いをしている纏に朗太は首を振る。
「旅行は小説に良いからな。一人で色々旅したりしてた」
「「「…………」」」
朗太の無駄な出費に三人揃って閉口した。そして
「なんて無駄な経費」
「意識だけは一人前」
と姫子と纏は口々に言い放ち、手厳しい正論を叩きつける二人に風華はハハハと乾いた笑い声を上げていた。
「まぁそれはそれとして、先輩、本当に安価なもので良いんですからね?」
「うん、私も何でもいいよ!」
「ま、心がこもっていればなんでも良いわ」
その後も三人は口々に言う。
大丈夫だと説明したのに、いまだに朗太の財布を心配してくれているらしい。
本当によくできた人間たちだと思う。
だがだからこそ金銭面での上限など設けずお返しをしてあげたいと思うのが人間というものである。
朗太は、彼女たちのためになるものを買おうと決意を新たにしていた。
それから少し時間が経ったころのことである。
「見て、クマのグーさん! 可愛い!!」
朗太たちは東京近郊にある巨大テーマパーク・ディズネイランドのグッズが売られているディズネイストアにやってきていた。
なぜなら纏が大のディズネイ好きだからだ。
「あ、これ可愛いですね」
纏は熊のぬいぐるみを目を輝かせて見ていた。
まずは纏のお返しを買いにきたのだ。
纏がディズネイ好きなのは、言われなくても彼女の小物などからよく分かった。
クマのグーさんに、ドナルドジャック、そして最もポピュラーなキャラクター、ネズミのミリーマウスと、その彼女、ミリリンマウス。
纏の小物にはディズネイ関連の柄がよく入っていて、ディズネイ好きなど言われずとも分かることだった。
というより女性陣は纏に限らず皆ディズネイキャラクターに夢中のようだ。
このどこか甘い匂いのする、ふわふわした空間で彼女たちは他の女性客に交じり「見て見てこれ!」「かわいい~!」などと黄色い声を上げていた。
「あぁそれ、40年周年限定のシャツか」
「なによ朗太。知ってたの?」
朗太が話に割って入ると姫子が感心したように目をしばたかせていた。
「意外と詳しいですね。そもそも40周年だなんてことも把握してないと思いました」
「うん、ちょっと意外」
姫子だけではなく纏や風華も口々の朗太の意外な知識に驚き入っていた。
だが朗太からするとこれくらいの知識は知っていて当然だ。なぜなら――
「い、いや弥生が好きでな、よく一緒に連れて行かされた」
「一緒に?」
まさかの関係性に姫子たちは目を丸くしていた。
確かに無理はないと思う。兄妹で行くのは特殊だ。だがそれだけ弥生は好きなのだ。
「思った以上に仲良しなんだね」
「もともと普通に仲いいぞ。それに俺もディズネイ、嫌いじゃないしな」
主に、先人の創意工夫を学ぶ場として。
それと、『癒し』を得る環境として。
だからこそ朗太が語れるものも多少あり「シーで一番好きなのはタートルボイス」とか「それとランドにあるピノキヲみたいなちゃちぃ感じの奴も一周回ってかなり好き。あぁいうレトロな感じの奴良いよね」などとつらつらとディズネイの話をしていると
「あ、今度皆でディズネイ行くってのも良いかもですね」
「あ、良いね! 私も行きたい!」
「風華さん、お金大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫! またお年玉入るから!」
「あんたねぇ、お金は大事にしなさいよ」
などという会話が生まれ、今度4人でディズネイランドにいくことが確定していた。
プレゼントだが、朗太が選んだのはダフィーの描かれたポーチだった。
「纏、ダフィー好きでしょ? 多分、ディズネイキャラの中で一番」
「そ、そうですけど……。言いましたっけ?」
「いや。だけど見てれば分かるよ」
「そ、そうですか……。ありがとうございます」
纏は頬を紅潮させしりぼしょぼしょとお礼を言っていた。
その言葉は尻すぼみで、言い終えるころには空気に溶けて消えた。
そんな朗太と纏の会話を残りの二人がジトっとした様子で聞いていて
「後輩には優しい……」
「後輩たらし……」なんてことを商品を見ながら言うものだから
「いや別に特別扱いはしてなくない?!」と朗太は自身の正当性を主張していた。
それから朗太はスポーツ用品店にきている。理由は
「私へのプレゼントを買うためだね!?」
「そ、そうだけど……」
風華へのお返しを買うためで、一転風華は期待で目を輝かせていて、詰め寄る風華に朗太はたじたじになっていた。
「凛銅君、私なんだって良いよ! プロテインでもダンベルでもサポーターでも!」
「そ、そうか」
スポーツ用品なら何でもオッケーと喜ぶ風華。
そんな「何を買ってくれるんだろ~」と目をキラキラさせ期待に胸を膨らませる風華に朗太は思わず及び腰になってしまうが、実は朗太はすでに買うものを決めていた。
「にしても少し遠い店舗に来ました?」
「あぁ、うん」
だからこの店に来たわけで、数件の店舗を通り過ぎてたどり着いたショップに早くも纏は不思議がっていた。
「実はここじゃないと売っていないものがあるんだ。あると良いんだけど」
言って朗太は店員にスポーツタオルが展示されている場所を尋ね、その用品店の隅の方にあったエリアへ足を向ける。
無数のスポーツタオルが在庫されたエリアには色とりどりの速乾性に優れた特殊な生地のタオルが陳列されていて、朗太がその商品棚をうろうろすること数分、ようやくお目当てのぶつを見つけるとそれを風華に差し出した。
それを見ると風華は目を輝かせた。
「あーこれ欲しかったんだ! この前ネットでバズってた奴だよね! 有名選手がデフォルメでプリントされたスポーツタオル!」
それは先日、SNSアプリで何故かバズッた、複数のバスケ選手の偉人がアニメ調にデフォルメされ描かれたタオルであった。今朗太たちが入店している系列の店舗でないと売られていないものらしく、飛ぶように売れていて場所によっては売り切れているらしい。
あるかどうか不安だったのだが、在庫していてよかった。実際に一番下の方に紛れてしか存在しなかった。
満面の笑みを浮かべ喜ぶ風華を見て朗太はほっと胸をなでおろしていた。
だが安堵の息を吐けるのは一時で
「今度試合の時これで汗拭うね!」
「お、おう……」
当り前な使用法なのだが、実際に言葉にされるとなぜかドキリとした。
「また妙な言い回しをしてこの人は!」
「あれ~なんのことかな~~」
一方で明確な意図をもって放たれた言葉に纏が噛みつき、風華が追撃をかわしていた。
ちなみにこのように風華へのプレゼントを事前に思案しているように、纏へのプレゼントも、当然その場でふと思いついたものではなく昨日の段階でディズネイストアで買うことは決めていた。
つまり姫子へのプレゼントももう決まっていてそこへ朗太は向かおうと思ったのだが、
「あれ、姫子は?」
風華の言葉に赤面しているといつのまにか姫子が忽然と姿を消していることに気が付いて、朗太はあたりを見回した。
「私も買い物とか言ってましたよ」
「そうか」
「あとで合流するともいってたよ」
「そうか」
朗太の言葉に喧嘩を取りやめ言う二人。
なら仕方がない。
朗太はそれから小物が売っている店でパスケースを購入していて、その後何やら紙袋を持ちつつ朗太達に合流した姫子にそれを差し出していた。
「姫子、ボロボロの奴使ってたじゃん。もしよかったらこれで」
一応、姫子が使っているパスケースがブランドものではないことも確認済みである。
そしてプレゼントを渡された姫子はというと、顔を赤くしまごついていて、しばらくし「あ、ありがとう」と何とか言うと「あ、あと私からは、これ……」と朗太に紙袋を差し出していた。
「え、なにこれ」
異様に分厚い物体に朗太が目を丸くする。すると「ゆ、有名SFの設定集よ……」と姫子は恥ずかしそうに答えていた。
「マジか! そんなのあるの?! ありがとう!」
朗太は望外の贈り物に目を皿のようにし驚いていた。
こうして4人のプレゼント交換は行われたのだった。
「アンタはこれでちょっとは勉強しなさい?!」
姫子は腕を組み顎を上げ、強がるようにそう言っていた。
◆◆◆
その日の夜のことだ。
姫子がリビングで朗太から渡されたパスケースに定期などを差し込み物思いに耽っていると
「あらどうしたのそれ?」風呂上がりで髪を拭く妃恵にその入手経路を尋ねられた。
「あ、いやちょっとね」
とっさにはぐらかす姫子。だが妃恵はその理由に大体察しがついているようで物珍しそうに姫子を眺めふぅんと相槌を打ち
「もし良かったら明日、凛銅君、ここに呼んでくれない?」
「え゛」
まさかの提案をし姫子を硬直させていた。
だがたじろぐ姫子に構わず妃恵は言うのだった。
「あなたたちに一つ相談があるのよ」
こうして、まさかではあるが、妃恵からの『依頼』が姫子に舞い込んだのだった。
DAY3 終
というわけで次話は姫子回です。
2/5に投稿します。
宜しくお願いしますーー。