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4つの告白(7)




(ておーーーーーい!!)


 風華とデートをした日の夜のことだ。


(何やっちゃってんだ俺-----!!)


 朗太はベッドの上でのたうち回っていた。


 風華に、告白されるかもしれないとは、思っていた。


 風華という憧れの女性とデートとあってどうしても高揚感のようなものも感じていたのは事実だが、その裏で、もし本当に告白されたらどうしようという懸念が常にあったのも事実だった。

 

 そしてもし告白されたら、自分はきっとあのように言うであろうとも思っていた。


 何となくそうなるだろうとは思っていたのだ。



 だがそう思うのと、実際に言うのとでは訳が違った。


(本当に何やっちゃってんだ俺―――――――!!!)


 自己嫌悪で朗太は身をよじっていた。

 目を閉じれば蘇る。

 艶やかに輝く風華の瞳が。

 涙をこらえ震え不自然にびくついた肩が。


 あんなの、泣いたも同然だと思う。


 だとしたら朗太は女性を泣かせたわけで――

 

 最悪じゃないか……


 朗太はため息を吐いた。


 別に女性を泣かしたことに今更どうこう思う人間ではない。

 だが、やはり、風華は特別だった。

 風華は朗太の中で最も特別な人間の一人なのだ。


 そんな少女を悲しませた事実は朗太を落ち込ませるには十分だった。

 今も、動物を見て無邪気に笑う彼女が、下らない話で笑う彼女が、そして時折優しい視線で自分を見ていてくれていた彼女が、脳裏にこびりついている。

 そんな彼女は自分を好いていて、だからこそ自分は彼女を悲しませた。


「はぁ~~~~~~~~~~~~」


 朗太は仰向けになり、長い息を漏らした。


 いっそ、先ほどの話を無しにしてしまえば良いとも思う。

 そんなに落ち込むのなら、さっきの話なんて無しにして、付き合わせて貰えばいいのだ。

 仮にも自分は風華のことが好きだったのだから。初めて恋愛的な意味で好きになった人物なのだから。初恋の人なのだから。

 ならこんなにもありがたいことはない。

 千載一遇のチャンスとはまさに今のようなことを言う。

 なんなら万載一遇、億在一遇といっても足りないと思う。

 この後何万回と自分の人生を繰り返しても風華に好かれることはないように思う。

 それほどの幸運を自分は手にしたのだ。

 付き合ってしまうのが一番良いに決まっている。

 こんな風に、風華を悲しませて悲しいだなどとのたうち回るくらいなら、そうしてしまえば良いのだ。そう出来るのだから。

 しかしなぜ自分がなぜそうしないのかと言えば――


 ――朗太は知っている。


 3人からの好意の可能性を知り、自分の内心が滅茶苦茶になっていることを。

 

 自分の心の内が分からなくなっている現状を。


 だから自分はあのような決断を下したのだ。


 自分は風華の事情より、自分の事情を優先したのだ。

 

 自分に悲しむ権利は無い。


 この日は眠れなかった。






「おい凛銅、遅刻だぞ」

「すいません」


 翌日、朗太は遅刻し2限目から出席していた。

 理由は通学途中に風華と会いたくなかったからだ。

 どんな顔をして彼女と接すれば良いか分からなかったからだ。

 風華と会うのが気まずくて問題を先送りにしたのだ。

 普段遅刻しない人物が目を赤くし遅れて教室に入ってきて教室が僅かにざわついた。

 その朗太に注目する人物のなかには当然姫子もいて、姫子はショボくれた朗太をまじまじと眺めていた。

 

 そして言った通り遅刻とは問題の先送りにしかなっておらず


「あ、凛銅くんだ! おはよう!」

「うお!?」


 休み時間、F組から出るとばったりと風華に出くわし朗太は慌てふためいた。

 見るといつも通り、元気な風華がそこにいた。


「し、白染?!」

「ん? どした?」

「あ、いや、なんでもない……」


 昨日の事などなかったように無邪気に首をかしげる風華に気勢が削がれる。

すると風華はそんな朗太を見て


「(心配しなくても大丈夫。私、そんなにやわじゃないから……)」


 耳元でそう囁いた。

 突然風華に近づかれて、朗太は弾けるように後ずさった。

 すると目の前には含み笑いをし強がる風華がいた。

 そう『強がり』だ。

 この言葉が強がりだなんてことはさすがに朗太も分かった。

 なぜなら昨日風華は泣きそうになっていたのだから。

 そもそも好きな人に振られて、答えを保留にされて、悲しくない人などこの世にいないと思う。

 つまりこの言葉は責任を感じているであろう朗太を慮っての言葉で、風華はそれを強がりで言えてしまうほど強いのだ。

 その気高さが同居した柔和な笑みに朗太は感じいっていると


「そんなことよりも凛銅くん……」


 風華はにこやかに笑いながらも、()()()()()()言うのだった。


「私の呼び方、何かおかしくない?」

「…………」


 朗太は表情のわりに弾まない声音に慄いた。

 何というか、声が笑っていない。

 そんな、表情とは裏腹な印象の声を出す風華に朗太が身をすくめていると「凛銅君、昨日約束したよね」と、風華は言葉を続ける。


「私のこと、これからなんて呼ぶんだっけ??」


 風華の頭部からニョキッと角が生えている姿が幻視された。

 

「分かってるよね??」


 その声音は明らかに姫子よりも優しいのに、姫子の数十倍怖いのだった。


「はい……」


 そしてこうなってしまってはどうしようもない。朗太は観念した。

 というより名字呼びが出てきたのも馴れのせいで、名前呼びが嫌なわけではないのだ。だから朗太はその名を口にしようとするが、


「ふ、ふ、ふ……」


 不慣れなせいでやはりなかなか言葉にならない。


 そんな朗太を「あれ、凛銅君、私のこと呼ぶんだっけ~~~??」と風華が煽り、余計に周囲の視線が集まり恥ずかしさが増す。

 だがこうなっては言うしかない。


「………………ふ、風華……」


 苦労すること数十秒、朗太はようやくその名を口にした。のだが……


「え、聞こえな~~い?」とそんな朗太を風華はさらにいびり


「ふ、風華! これで満足か!?」

「はい、よく出来ました~~~~~!!」


 朗太がやけくそになって大声でその名を言うと風華は一転、満面の笑みを浮かべた。その反転が恐ろしい。


「やれば出来るね! 凛銅くん!」


 そして朗太の頭をグッボーイとでも言わんばかりの勢いでしきりに撫で、それは多くのクラスメイトの目に触れることとなり――

 朗太と風華が名前呼びする仲になったという噂は、野火のように校内に広がって行ったのだった。


 風華が去ると教室は阿鼻叫喚に包まれ、殺気だった生徒に囲まれた朗太はというと、風華もはぐらかして去って行ったので、風華の名誉のためにも昨夕の出来事は隠し続け、ただ名前で呼ぶようになっただけだと話し続けた。


「先輩! これはどういうことですか!?」


 だが昼休みにもなると嘘ではすまなくなってきた。

 噂を聞きつけて纏がやってきたのだ。


 周囲の生徒に嘘を吐くのと纏に吐くのとではその重みが違う。

 どうしたものかと考えあぐねた朗太は風華に尋ねるしかなかった。

 するとEポストで返ってきた返事は、纏を人があまり来ない方の屋外テラスに呼び出すということで――


「じゃ、じゃぁ、ちょっといくぞ」


 朗太は纏を誘い、何故か当然のようについてくる姫子もつれて、屋外テラスへ向かったのだった。





「と、言うわけで私は凛銅君と動物園デートに行き、告白しました!」


 風華は屋外テラスに皆が集まるとじゃじゃーんという効果音でも付きそうな軽いノリでぶっちゃけていた。

 

「ま、保留にされっちゃったんだけどね!」


 ね! と同意を求められ朗太はぎこちなく頷いた。

 申し訳ないことこの上ない。


 それにより姫子と纏に衝撃が走っていた。

 付き合ったか付き合わなかったも重要だが、風華が朗太と付き合うために本当に本格的に動き出したという事実そのものが重要らしい。満開のひまわりのような笑みを零す風華とは対照的に周囲の緊張感は増していき


「そうですか……」


 しばらくすると悲し気な目をした纏は言うのだった。


「先輩は風華さんとデートに行ったんですね?」

「お、おう……」

「なら私とも一緒にデートに行きましょうか?」


 それは決意に満ちた、有無を言わさぬ口調だった。

 

「え……?」


 しかし言われた朗太は戸惑わざるを得ない。

 確かに風華とデートに行く前は、それが義務だとすら思ったものだが、いざ答えを保留にしている身の上になると異性と出かけるのに抵抗を感じたからだった。

 だが朗太が焦りながら風華をちらと見ると


「良いじゃん、凛銅君、行ってあげれば」


 壁に寄せられた勉強机に腰かけていた風華は軽い調子でそう言うのだった。

 

「纏ちゃん、行きたがっているんでしょ? なら行ってあげればいいじゃん?」と。


 こうして事態は決定したのだった。

 

 風華と朗太が話している間、纏はその光景をつまらなそうに見ていた。








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