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4つの告白(2)



「は?」



 ――鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのは、きっとこういう顔のことを言うのだろう。

 それが朗太の質問に面食らった大地の顔を見た朗太の感想だ。


 そして――


「おい、朗太お前、いい加減にしろよ……?」


 大切な親友はがっくりと項垂れ手すりに手をつきそう言った。

 理由は分からないが、明らかに失望していることは分かる。


「お、おう……」


 朗太が動揺しながら控えめに返すと、その様子に「しゃーねー」と大地は嘆息し、髪をかき上げると「で、どうしたん?」と尋ねた。


「朗太がそんなこと聞くの珍しいじゃん」


 ◆◆◆


 それから朗太は大地にこれまでのあらましを話した。

 姫子を助けようとして何度も姫子の家に通ったこと。

 姫子の母親と何度も話し合ったこと。

 それらを話した。

 下方からはテニスをする女子の喚声が響き、校舎からはざわざわという生徒の話声が響いてきていた。


「デコチューねぇ。茜谷さんも焦らすなぁ……」

 

 朗太が姫子のキスの下りまで話すと大地は困ったように頭を掻いた。


「で、朗太は茜谷さんに好きな人がいるかどうかが気になりだした、と」

「ま、まぁ……そう言えなくもない……」


 身も蓋もないが、ド直球に言えばその通りなので、朗太は頷くしかなかった。身を焼かれるほど恥ずかしかったが、何とか首を縦に振る。


「朗太がねぇ~。一昔前じゃ考えられなかったな」

「べ、別に好きとかそういうのじゃないぞ?!」

「ふーん、まぁならそれはそれで良いんだが……」


 否定する朗太を大地は軽い調子で流した。


「で、茜谷さんに好きな人がいるかどうかだが……」


 そして大地が中空を見つめ姫子の秘を明かそうとし、朗太は固唾を飲んだ。

 その答えこそが朗太が求めていたものだ。

 大地は校内一の情報網を有している。

 彼ならば朗太が知らない情報を知っているに違いない。

 だからこそ朗太は大地を頼り、期待と不安が入り交じり心臓の鼓動を速めその答えを待ったのだが


「俺から何か言うべきことじゃないな」

「ええー教えてくれないのかよ?! 」


 まさかのお預けをくらい朗太は憤慨した。


「仕方ねーだろ朗太。誰かの肩を持つのはフェアじゃないんだからさ」

「フェア? は??」


 意味が分からない、朗太は口元を歪める。

 すると「やはり言わない方が吉だな」と大地は首肯し

「だがなぁ朗太。お前は分かろうと思えばいつでも分かる位置にいたはずだ。俺から言えることはそれだけだ」

 というと朗太を残し去って行ってしまったのだった。


「よーく考えろ朗太。お前なら分かる」


 そんなセリフと共に廊下と屋外階段を隔てる扉は閉まった。


 ◆◆◆


「はぁ~~~~~~~~」



 おかげで、何も、事態は進展していない。

 5限。朗太は机に突っ伏し何度目か分からないため息をついていた。

 姫子は自分のことを好いているのか。

 その答えをずっと探していた。

 だが一向に答えは出なかった。

 これほど悩まされると、もういっそ本人に直接確認してみればいい気もしてくる。

 あのデコチューの意味、何? ハハッ。と。

 何お前俺のこと好きなの?? と。

 

 そう冗談混じりに聞いてみれば良いのだ。


(いやでもそれは流石にダメだろ……)


 しかしそれはさすがにデリカシーが無さすぎる気がした。

 しかもこの上なく卑怯な気もした。

 ならいっそこちらから告白してしまえば良いとも思うが、もし振られれば今の関係には戻れないし、まして今現在自分が姫子のことが好きなのかどうかも分からない。

 こんな状態では告白は出来ないし、しても迷惑なだけだし、相手にも失礼だろう。


 となると朗太は動きようがない。


 とにかく朗太には、朗太にとって必要な情報が不足していた。

 

 もっと確たる、100人中100人が同じ回答を得るような言葉が、態度が欲しかった。

 だがそんな行為や態度を受けているようにも思えず、朗太は動けない。

 

 確かに、姫子は自分のことが好きなんじゃないかとも思う。


 しかし、だ。

 朗太は自分を律する。


 とかく、恋愛に不得手な者ほど、異性のふとした行為に意味を見出そうとしがちだ、と。

 恋愛に不得手なものほど、異性のふとした行為に対し、もともと無い裏の意図を自分に都合がいいように探し出し、現実を歪めて認知しがちだ、と。


 これもそれなのではないか、と朗太は思ってしまうのだ。


 朗太は思い込みが激しい自覚がある。

 だから間違えを起こさないように、道を踏み外さないように、これまでも、どのような言葉も、態度も、深く考えず過ごしてきた節がある。


 その禁を破り考え直しているのだ。

 おかしな回答がはじき出されても当然のように感じた。


 とにかく朗太には彼に必要十分な情報が不足していて、その情報不足が朗太の動きを封じていた。


 そんなこんなで朗太は大した成果も得られず放課後を迎えており、


「なんか疲れてますね先輩」

「そ、そうか」


 ぐったりとしながら纏と帰路に着いていたのだが、そんな折纏に「そういえば先輩、クリスマス暇ですか?」と尋ねられたのだった。

 その問いに別に何の予定も無いので二つ返事でOKしようとすると


「あ、ちょっと纏ちゃん! ストーップ!!」


 背後からエナメルのバッグを背負った風華がバタバタ走ってきて


「凛銅君! クリスマスは私と過ごしましょ?!」


 なんて訳の分からないことを話し始める。


「はい?」


 意味不明な展開に朗太が思わず問い返す。すると理解していない朗太に風華は「だから私とクリスマスは一緒に過ごしましょって言っているのよ! 纏ちゃんも抜け駆けしない!」などと憤り始めた。


「何言ってんですか風華さん? こんなの早い者勝ちに決まっているじゃないですか??」

「だからって私はそれを許さないって話よ! 凛銅君は私とクリスマス過ごすんだから!」

「誰がそれ決めたんですかぁー? 風華さんの妄想ですよね~。それに先輩も降った雪をかき氷にして食べるようなクリスマスイブなんて嫌ですよね?」

「そこまで貧乏じゃないわよ! ロケット〇のムサシか!」


 そして二人は朝の時のようにギャースカ騒ぎ始めて


「じゃ、じゃぁ姫子の意見も聞こうじゃない?! 姫子はどう思うの!? 凛銅君のクリスマス!」


 姫子に話を振り始め、(え、姫子いんの?!)、と今更ながら朗太は姫子の存在を認知する。すると風華の背後にいた姫子は言うのだ。


「そ、そうね……朗太が誰と過ごすかは一考の余地があるわね……」と。


 頬を赤く染め恥ずかしそうに言う姫子はとても可愛らしかった。


「ほーら、姫子もそう言ってるわよ纏ちゃん」

 自身に同意する姫子の意見に得意げになり風華は言う。しかしそんな風華に纏はげんなりとしていた。

「風華さんは姫子さんが別に味方じゃないことを知っておくべきです……。敵が増えただけですよ……?」

「た、確かに……! で、でも最後に勝つのは私だから! 道中は関係ないわ!」

「その勝気は良いですけど……。じゃぁ何で決めるんですか?」

「そ、それは……、じゃんけん……?」

「えぇ……、じゃんけんで良いんですか……?」

「い、今のは無し! ちょっと姫子アンタも黙ってないで案を出しなさいよ!」

「わ、私に聞かれても……」


 こうして現場では当事者であるはずの朗太を他所に、誰が朗太とクリスマスを過ごすかの纏VS風華VS姫子の三つ巴の戦いが起こり始め、

 その様子を朗太は俯瞰していたのだが、


 姫子が来たことで緊張し、微妙に彼女と心理的に距離を置き、

 結果的に舌戦を繰り広げる彼女たち三人と距離を置き俯瞰していた朗太は思ったのだ。









(あれ、この状況おかしくね?)








 と。



 ようやく朗太は事の異常性に気が付いたのだった。










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1巻と2巻の表紙です!
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