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白染風華(3)


「あいつとは何かと馬が合ったのよ」


 風華との仲を姫子はこう語った。

 放課後、風華が指定した場所でのことである。

 朗太たちは体育館2階のギャラリーにいた。


「アイツはアイツで大変そうだったからね。私たちはすぐに意気投合したわ」


 確かに美人同士で馬が合うことはあるかもしれない。


「そうなのか」


 朗太は姫子の話を聞きながらコクコクと首を縦に振っていた。


 眼下では女バスの生徒たちがダムダムとボールをつきミニゲームを繰り広げている。


 その中に白染風華も混ざり、艶やかな黒髪を振り乱しボールを追っている。

 白い体に黄色いゼッケンを纏い風華はコートを縦横無尽に駆け巡る。

 そして――


「あ、決めたわね」

「すげーな」


 美しいレイアップシュート。

 ボールはそこにあるのが当然かのようにゴールへ吸い込まれ、軽やかに風華は自陣で走り去っていく。

 その去り際、ズビシッと二階からコートを眺める朗太たちにピースサイン。


「なにあれ……」

「お、おう……」


 どうよ! と満面の笑みを浮かべて見せる。

 その天真爛漫な様にうへぇ……と姫子は渋い顔をするが、朗太は密かに胸をときめかせていた。


 そうこうしているとブザーが鳴りゲームは終了し数分間の休憩となる。

「休憩――!」という号令の後、コート上の女生徒たちはわらわらと体育館隅へ行き水筒を煽るように飲んでいた。

 彼女たちは噴き出る汗を補給するように勢いよくスポーツドリンクを飲み、キャッキャと黄色い声を上げていた。


「すげーな」


 そのザ・青春! という光景に朗太が感嘆の息を漏らしていた。

 流石、女子の運動する姿は映える。

 やはり男子ばかりの部活とは青春度が雲泥の差だ。

 そんなことを考えていると白染風華が階段を上がり朗太たちの佇む2階までやってきていた。


「どうだった!?」


 風華はタオルで額の汗を拭きながらストロー付きの水筒でぐびぐびとスポーツドリンクを啜っていた。

 その汗を流し肢体のあらわになった姿を目の前にし朗太が緊張していると、親しい間柄からだろう。姫子は腕を組むと憮然と言い放った。


「どうもこうもないわよ。相変わらず訳わかんない運動神経してるわねアンタ」

「フフフ、運動は楽しいからね。姫子も部活してみたらどう? 運動神経だって悪くはないじゃない?」

「いや私はパスよ。そういうの、性分じゃないから」

「群れるの嫌いは姫子らしいわね」


 風華はフフッと笑い、朗太をチラリと見た。


「だから驚いたのよ。あの姫子が凛銅君をお気に入りにしたってのが。あ、凛銅君、改めてましてこんにちは。白染風華です。こう見えてこのじゃじゃ馬の友達なの」

「り、凛銅朗太です……。よ、よろしく……」

「だからコイツはお気に入りでも何でもないって!」


 話を振られて朗太がぎこちなくお辞儀する横で姫子は顔を真っ赤にし叫んだ。


「どうだか? そうは見えないな~」

「それは貴方の目が節穴なの! こいつはそんなんじゃないったらないッ」

「というかお互いに良い人がいたら紹介し合おうって約束したわよね? あの約束は?」

「だから朗太はそんなんじゃないって言ってんでしょ!  勘違いしないで!」

「へ~じゃぁ私が貰っちゃっても良いの?」

「そ、それは……!」


 姫子はバッと朗太へ振り返った。

 そして話についていけない朗太が不満げに突っ立っているのを見ると声量を落としつつも語気を強めた。


「だ、ダメ…! 絶対ダメッ」

「プクク、ほらやっぱり。姫子は分かりやすいのよ」

「あ、アンタ……からかうんじゃないわよ! アンタが言うと冗談じゃ済まないのよ」

「なんでよ?」

「そ、そりゃあんたは美人だし……」

「ほー、姫子に言われるとまんざらでもないわね」

「そ、それに……」

「それに?」


 風華がオウム返しに尋ねると姫子は口に手を沿え声を潜めて続けた。


「こいつなんかよく分からないけど私の色気が通用しないのよ……」


 その事実にはさすがの風華も驚き目を丸くしていた。


「え、嘘でしょ!?」

「嘘じゃないわよ……! この前私がジュース飲んだ後の缶を渡してみたら普通にぐびぐび飲んでたし……」

「それ男子によっちゃぁ普通に青春の一ページに刻まれる奴よね……」

「フッツ―に飲んでたわ。ねぇ飲んでたわよね朗太、私のジュース」

「あぁそういやそんなこともあったな」

「ほらね」

「す、凄いわね、なんかこう、色々と……」


 途中で声量を大きくし会話する朗太と姫子の距離感に呆気にとられる風華。しかしすぐに笑みを取り戻すと上目遣いで姫子に尋ねた。


「ますます凛銅君ってのに興味出てきたな。姫子、ちょっと借りて良い?」

「だからダメって言ってんでしょ!」


 姫子は顔を真っ赤にし抵抗した。

 そうして散々ぱらからかわれ続けた姫子はというと少し拗ねつつも問うのだった。


「全く……。で、なんで私たちをこんな所に呼んだのよ?」

「依頼よ」


 すると風華は腰に手を当て事も無げに言った。


「実は今私が所属している女バスで問題があってね、是非姫子たちの手を借りたいのよ」


 そう、風華が自分たちを呼び出したのは何てことは無い。

 姫子が個人でやっているお悩み相談に依頼があってのことだったのだ。


 そうして出てきた話はシンプルだが、難儀なものだった。


「なるほど」


 話を聞いた姫子は総括する。


「つまりその女子バスケ部の元エース、藍坂(あいさか)さんが相手チームから酷いことを言われたことがきっかけで女バスを辞めると言っていると。でもインターハイの予選もあるからそれはちょっと困るし、バスケも好きなはずだから辞めさせたくない。だから――」


 風華は姫子と朗太を真正面から見据えていった。


「うん、本当に身勝手な話で申し訳ないのだけど、その子を立ち直らせてこの復部させて欲しいのよ」



 風華から出てきた依頼。

 それは心の折れた少女を励まし復部させることだった。


 


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