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白染風華(2)



 誰かが言ったことによると、都立青陽学園には二人のクイーンがいる。

 一人は茜谷。

 亜麻色の髪の、すらりとした長い手足が特徴の美少女だ。

 そしてもう一人が白染風華(しらぞめふうか)

 黒髪、短髪。ぱっちりとした瞳を持つ白肌の少女だ。


 彼女達の存在でかつてこの都立青陽高校は荒れた。

 多くの生徒が告白をしたという伝説が残っている。


 男子の間でもどちらの方が美少女かで姫子派と風華派で舌戦が繰り広げられることもままあった。


 それほど彼女たちは圧倒的な美貌を有しており、朗太も初めて風華を見たときは驚いたものだ。

 だからこそ「お? 私のこと知ってくれているんだ嬉しいねぇ~」と、その圧倒的美少女が自分を覗き込んでいることを自覚すると朗太はフリーズせざるを得ず、朗太は当時のことを思い出していた。


 この白染風華という存在を認知した、あの日のことを。


 そう、あれはこの高校に入学してしばらくした後のことだった……


◆◆◆


「いやマジで美人なんだって!!」

「はいはい、もう良いよその話は」


 朗太は大地と話しながら昼休みの廊下を歩いていた。

 我が校の二大美少女を見に行くというのだ。

 だがその存在が非常に誇張されたものだと既に朗太は知っている。

 なぜなら既に大地に半分無理やり連れられ1年D組に在籍していた茜谷姫子を見に行ったのだが、前評判ほどでもなかったからだ。

 確かに見た時は凄い美少女だと思った。

 朗太自身、背筋に電撃が走るような感覚があったし、その周囲が仄かに発光してすら若干見えた。

 確かに、とんでもない美少女がいるようだ。

 ……だが大地が脚色しすぎていた。

 伝説的だのなんだの尾ひれをつけすぎていた。

 大地は散々『女神』だの『伝説』だの言っていた。

 さすがにそこまでではない。

 なので彼女と今から様子を伺おうとしている白染風華を巡って両陣で対立するなんておバカなことが起きているなんてことは信じられず、朗太は1年H組にいるという白染風華の美貌に対しても懐疑的だった。


「ま~大地が見てみろっていうから見に行くけどさ……、どうせ言うほどなんでしょ?」

 しかし冷めた反応をする朗太とは対照的に、大地はというと朗太を見返そうと必死だった。


「舐めたこと言ってんなよ朗太。マジでやばいんだって! 俺が姫子ちゃん派だから何とも言い難いが、すげー美少女ってことは確定だから!」

「ハイハイ、期待しておくよ」

 そうして朗太が肩を竦めながら明らかに気のない返事をしていたのだが、その時だ。

 当の1年H組のドアが開き、爆発的な光がクラスから放たれて見えたのだ。


(おかしいな……)


 それを見て朗太は訝しんだ。

 何故かH組の教室から ズォォア! と圧倒的な光が漏れて見えたのだ。

 思わず手をかざし目を細めてしまう様な光の洪水である。


 だがこれは目の錯覚だろう。


 日常生活の中でそんなまるで仏の後光のような、超新星爆発を思わせるような圧倒的な光を放つ人物など()()()()()()()()()()()


 だから朗太は何らかの目の錯覚、一瞬だけの光の悪戯だと早合点したのだが


 瞬間。


 天使降臨。受胎告知。


 爆光を放つ圧倒的な美少女が現れ


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 朗太は余りの眩しさに顔を覆い叫んだ。


「朗太?!」


 応じて親友の異変に大地が悲鳴を上げる。


 だが心配する友人に朗太は何も言うことができなかった。

 朗太は思う。


 あんな完璧な存在があるのか……、と。

 黒髪・短髪。ほっそりとした首筋につぶらな瞳。

 すっきりとした鼻筋に精緻な唇。

 抜けるような肌。

 全てが朗太オブベストに整えられており、その姿は後光が射さんばかり。


 それら圧倒的美貌で朗太はその場でフリーズしたように突っ立ていて、


「?」


 教室から現れた風華やその取り巻きの女子たちは朗太を不審な瞳で見ながら去っていったのだが、しばらくして朗太はポツリと呟いた。


「神……」

「神!? 大丈夫か朗太!?」

「あぁ大丈夫だ。だが……」

「だが、なんだ……?」

「目をやられた……」

「ほ、保健室に行こう朗太……」



 そのようなことがあったのが前年度の春。

 以降、朗太は風華へ仄かな恋心を抱き、だが――どうせ手を伸ばしたところで届くはずもない――当然のように行動は起こさずただ遠巻きに眺めるだけだったのだが


「お? 私のこと知ってくれているんだ嬉しいねぇ~」

 目の前で風華がコロコロと笑みを浮かべている。

 この光景は夢にこそ見たが、だが真剣に想像したことなど一度たりともなく


「え、な、え、どういうこと!?」


 フリーズから立ち上がると朗太は心臓を高鳴らせ慌てふためいていた。するとそこに背後から呆れた声が届く。


「アンタ、何朗太にちょっかいだしてんのよ?」

 見ると丁度女友達と購買から帰ってきた姫子がいて、朗太と風華を見て眉を吊り上げていた。


「ひ、姫子!」

「朗太も何情けない声出してんのよ……? 風華になんかされたの?」

「なんかされたって失礼ね……。ちょっと声かけただけよ?」

「本当? 朗太、アンタ何かされなかった?」

「い、いや確かに何もされていないが」

「ホラね、姫子、私は凛銅君に話しかけただけよ? 姫子がここ最近お熱の凛銅君がどういう男の子なのか知りたくてね」

「お熱じゃないわよ!」


 姫子は顔を真っ赤にし憤慨した。


「あ、アンタ! 訳の分からない勘違いしてんじゃないわよ!」


 まるで朗太にそう認識されることが非常に不都合であるかのように顔を真っ赤にし否定していた。


 そんなムキにならなくてもいいのにとも思わないこともない。

 だが一方でそんな姫子の内心も風華はお見通しなのか、まるで風華は相手にせず


「フフフ、そういうむきになるところも怪しいなぁ~。まぁいいや。姫子。私がここに来たのは他でもないわ。今日の放課後空いているかしら」


 軽く流すと本題を切り出した。


「……あ、空いているけど、何か用なの?」


 警戒しながらおずおずと返す姫子。


「フフフ、それはその時に言うわ? じゃぁ待ってるわよ。場所はEポストで連絡するわね」


 言うと風華の顔に薄い笑みが広がった。

 そして用が済んだのか風華はくるりと踵を返して廊下へ向かい出す。

 しかし途中で何か言い忘れたことを思い出したらしく振り返ると


「あ、そうだ! 凛銅君も一緒に来て良いから~!」


 そう言って、手を大きく振りながら「へへ」と朗太に満面の笑みを見せ去っていった。


「何だったのよアイツ……」


 その様に姫子は腕を組み渋面を作り、


「ろ、朗太、大丈夫か!? 顔が青いぞ!?」

「飲み込みかけのパンが詰まったんだ! 朗太ホラ、俺の麦茶を飲め!」


 パンをのどに詰まらせ死にそうになっている朗太の救命作戦が俄に始まっていた。

 朗太は誠仁の差し出す麦茶をゴキュゴキュと喉を鳴らして飲み喉に詰まりかけたパンを流し込んだ。





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1巻と2巻の表紙です!
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