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旅行7日目(1)

「おはよ」

「おはよーっす」

「最終日ですね、今日も楽しみましょう!」

「そうだね、最後まで楽しもう!」


7日目。旅の終わりにややナイーブになりながら朗太が一階へ降りてくると、食堂の前には既に朝の支度を整えた姫子たちがいた。

彼女たちは今日も張り切っているようである。

集まった四人はそろってまばらに客のいる食堂に入った。


「風華、あんた欲張りすぎよ」

「そうですよ。そんなに食べられるんですか?」


そして風華はというと最後のバイキングということでしこたま自分の皿に食事をよそって皆を驚かせていた。


「最後のバイキングだからね。食べられるだけ食べないと……!」


京都で何度も体験した欲望を消し去るご利益の効果はまだ出ていない様子である。

風華はバイキングテーブルと自分の席を何度も往復しそのお腹に容量一杯の食料を詰め込んでいた。


「うーーっぷ、もう食べられない……」

「そりゃこんだけ食べればおなかも一杯になるでしょ……」

「く、苦しい……」

「そりゃそうですよ」

「でも……」

「でも?」

「幸せ……!」

「「「……………………」」」

「ホラ行くわよ風華」

「いつまで休んでるんですか行きますよ風華さん」

「早く行くぞ白染」

「あーちょっと待って!! 休憩! 休憩させて!!」


容赦なく朗太たちがテーブルから立つと、三人を風華は必死に呼び止めた。


「う……! 血も涙もない……!」

「アンタががめついからいけないのよ……」

「でそう……」

「だ、出すなよ……」

「出すわけないじゃない! 勿体ないじゃない!」


それから朗太たちはロードバイクに跨り京都西部の嵐山方面に向かったのだが、道中風華は必死に込みあげる吐き気と戦っていた。

風華は腹に溜め込んだ食材を全て自分への栄養にしようと時折口元を抑えていた。


「にしてもこれで自転車漕ぐのも最後ですね」

「だな。感慨深いもんだ」


朗太たちはそれまでの道中を思いながら正式名称、妙徳山華厳寺みょうとくざんけごんじ、鈴虫寺へロードバイクを飛ばした。

市バスが活発に行き来するものの、国道一号を走り抜けた時を比べればなんてことはない。朗太たちは車道の隅を走り続けた。

そして――


「着きました!」

「既に凄い人だな……」


目的地に到着。

『鈴虫の寺』と書かれた将棋の駒のような形の看板の横を通り過ぎ境内に入ると、中はすでに多くの観光客が参拝していた。

鈴虫寺で人気なのは鈴虫説法と呼ばれる説法だ。30分くらいの説法を説いてくれるのだがこれがとても面白いらしい。今日も鈴虫説法目当ての参拝客で混雑しているようだった。

だが早朝ということもあり朗太たちはさして待つこともなく書院に入り説法を聞く流れになった。通された書院の奥には鈴虫の入った飼育箱が鎮座していた。木々の置かれたその箱の中で鈴虫が鳴く。鈴虫は本来10月くらいになるとほぼ息絶えてしまうが8代目の住職が30年近い歳月をかけ研究した結果、一年中鈴虫の鳴く環境を整えたというのだから驚きである。


「あ、お茶とお菓子だ! やった!」


鈴虫の音色の響く座敷で自席に座るとそこにお茶とお菓子があり風華が目を輝かせた。


「風華さん、それは茶礼というおもてなしなんですよ。もう少しありがたく頂いてください」

「うん、嬉しい! ありがとー!」


風華はさっそく包装をびりびり破いてお茶菓子に食いつき、その様子を見て纏たちはため息を漏らした。

その後拝聴した説法は時に吹き出してしまうほど面白おかしいものだった。

それでありながら、日常生活に気づきをもたらす様な内容でとても面白かった。


その後、朗太たちはお守りを買い(¥300)幸福地蔵菩薩の前で手を合わせる。

この幸福地蔵菩薩は草鞋を履いた珍しい地蔵であり、お守りを手に挟み、自分の住所とお願いを言うと叶えにきてくれるらしい。


「あと400円」

「…………」


サイフを覗き込み脂汗をにじませる風華に朗太は何も言えなかった。


「おつかいとか頼まれたときにちょっとずつネコババしなきゃ」

「やめなさい風華」

「風華さん、説法聞いていました??」


そしてとんでもないことを言う風華を皆が叱っていた。


だがこれで予定していた京都観光は全て終わりである。

多少なりとも予定が狂い参拝順が変わることもあったが、夜に詰め込むなどして無事予定していた寺社には全て行くことが出来た。


「帰るか」

「そうね」


朗太が言うと姫子が頷く。

朗太たちは鈴虫寺を出ると京都駅へ向かい、現地に着くと今日も駅周辺は観光客で混雑していた。

市内周遊バスの前で長蛇の列ができ、今もなお駅構内から多くの人が吐き出されてくる。

彼らは今日も観光なのだろうが、朗太たちは今日でおしまいである。


始まりがあれば、終わりもある。


朗太は哀愁を感じつつもカバンを背負い駅構内へ向かう。


「凛銅君、輪行袋(りんこうぶくろ)からサドルとか出てちゃいけないからサドル外さないとダメだよ」

「あと、外せるものは外したりして、出来る限りコンパクトにした方が良いですよ」


車内に持ち込む場合ルールがあるため朗太たちはテキパキとロードバイクの後輪を外すなどしてサイズダウンさせていた。

構内のほど近い場所で自転車を解体する朗太たちを周囲の人は珍しそうに見ていた。

だが輪行袋に収まれば準備完了である。朗太たちは輪行袋に収め切ると新幹線のチケットを買いその時を待った。


「……あと34円」

「「「………………」」」


お昼ごはんにマックを買うと風華の全財産のほぼ全てを使い果たしていた。

ネット上でよく目にした会話文を思い出す。

このような旅行でここまできっちり有り金を使い果たす人間など朗太たちは見たことがなかった。


「う……、もうお金無い……! でもマック美味しい……!」


風華は涙をちょちょぎらせながら購入したハンバーガーに食いついていた。


「……そろそろよ」


そしてそうこうしているうちに朗太たちが乗り込む新幹線がやってきた。

当り前だが乗り込むのはN700系のぞみである。


朗太たちは汗を流しながら自転車を車内に持ち込んだ。

ロードバイク4台分ともなると普通に大所帯である。

ロードバイクを持ち込むのはそれなりに骨が折れた。

だが無事に収めきり、他の客も入ると新幹線は出発し、朗太たちを心地よい揺れとともに東京へ誘い始める。


「本当に終わっちゃいましたね」


窓の外を風景が飛び去って行くのを眺めながら纏はぽつりと呟いた。


「そりゃぁね。なんでもいつかは終わるわよ」

「そ! そんなもんだよ。帰ったらお母さんたちに今回の写真をたくさん見せてあげよっと!」

「それは、そうしてあげなさい……。今回の旅行の功労者は間違いなくアンタの両親よ」

「俺も帰ったら弥生に色々写真見せてあげるかな」

「あ、そうだ。帰ったら宿題やらないと……」


風華と朗太が写真を家族に見せる算段をしていると、一方で纏は残っている宿題を思い出し肩を落としていた。


「分かんないとこあったら教えてあげるわよ」


朗太が窓の外を眺めていると姫子はそんなことを言っていた。


「というか先輩はこの旅を通して何か感想ありますか?!」


そして朗太が窓の外を見ながら物思いにふけっていると纏がそんなことを言いだした。

窓の外では3日半かけて朗太たちが汗水を垂らしながら通った県の風景が飛ぶように過ぎ去っていく。それはそれはものすごいスピードだ。

なぜなら朗太たちが3日半かけた距離をわずか2時間半もしないうちに走破するというのだから。

だからこそ、朗太は言うのだった。



「……新幹線は偉大」



「アンタ、感想がそれ?!」

「確かにそうですけど、まさかこのタイミングでそれをぶち込んでくるとは思いませんでした」


朗太の情緒もへったくれもない感想に姫子と纏たちは目くじらを立ていた。


その後、京都旅行で何が一番楽しかったかで4人は大いに盛り上がった。

そうしながら4人は心地よい揺れとともに東京へ運ばれ、こうして7日間に及ぶ京都旅行は幕を下ろしたのだった。












というわけで次話より本編を再開しますね。

こ、ここまでお付き合い頂きありがとうございました……汗

この物語を書くにあたって書きたいシーンが3つあるのですが、その2つ目を目指して書いていこうと思っています。

宜しくお願い致します。

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1巻と2巻の表紙です!
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