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旅行4日目(2)


全7日で予定を組んだ京都旅行。

4日目にしてプチ心霊現象に見舞われた朗太たちだが、概ね旅路は順調であった。


「昨日はここで休んじゃったけど、今日京都入りしちゃえば大体予定通りよ!」

「そうですね! さっさと京都に向かいましょう!」


支度を終え一階へ降りてくると風華と纏が気合を入れていた。

二人はどうにも早くここから脱出したいように見える。


「あ、来たわね朗太。ちょっと遅かったじゃない」


京都旅行4日目。朗太たちの京都旅行は丁度折り返しを迎えていた。


「あ、いや、ちょっと準備に戸惑ってな」


まさかここにきて幽霊が怖くて準備に手間取ったとは言えない。

朗太が言葉を濁すと姫子は不思議そうに小首をかしげた。

そうしてビジネスホテルから出ると強い日差しが照り付けていた。

セミがしきりに鳴いている。


「今日は一段と暑くなりそうね……」

「まぁ自転車移動最終日だし良いべ」


ムッとする湿度と強い日差しに手で影を作りながら憂う姫子を朗太が一蹴すると四日目の旅は始まった。


といっても4日目の行程など、これまでに比べると大したことなどなかった。


「昨日よりずっと車が増えて来ましたね!」

「場所と時間だろうな。昨日はここ来たときは夜だったし」

「確かにそうかも! 気を付けてね凛銅君!」

「先輩、こけちゃだめですよ!」

「手間かけんじゃないわよ朗太!」

「いや大丈夫だから!! 車通り多くなった瞬間すっころぶほどおっちょこちょいじゃないから!!」


大型トラックなどがびゅんびゅん行き交う普通の声量ではまるで聞こえない国道で朗太は大声で言い返していた。


そして自転車を進めること小一時間。ついに運命の瞬間は訪れた。


「見てあれ!!」

「おぉぉ!! ついにか!?」

「京都入りです!!」

「ここまで長かったわね!」


ついに道路の上に『京都』と書かれている青文字の標識が姿を現したのだ。

それはつまりようやく朗太たちは京都府に入れるということであり、その標識の下を下をくぐった瞬間、朗太の胸の内から熱いのものがこみあげてきた。


ようやく、ようやく、京都に入ることが出来たのだ。


『……おっはよー』

『……おはようじゃなくてコンバンワじゃないですか?』


朝の四時、まだ日も登らぬ暗い早朝に中野サンプラザ前に集まったのが三日前。


『……死ぬ……!』自分は汗をダラダラと流しながら箱根峠を越し


『なんでずっとおんなじ景色なんだー!!』

『そりゃ別にここに住んでいる人はチャリダーを楽しませるために住んでいるわけではないからですよ』

静岡ではとんでもない愚痴を吐きつつも、いつまでも代り映えのしない民家の立ち並ぶ街並みを駆け抜けた。

そして二日目には


『風華アンタ何とか言いなさーい!!!』

『知らなかったのよもー!!!』


自分たちは二日目に山登りは無い宣言を受けた直後山登りをさせられ


『やばいやばいやばいやばい……!!』


豊橋より名古屋市に向かう道中では疲れ&坂道&向かい風(強)のコンボを食らい心が折れかけ


『これよりケツカバー争奪戦を開始します』


ビタァン!とメンコのようにケツカバーを地面に叩きつけられたかと思ったら

追い剥ぎ姫子に強引にケツカバーを奪われそうになった。


三日目は


『ここが最後の山だから頑張って凛銅君!!』

『分かった……!』


三日目でボロボロの体に鞭打ち鈴鹿峠越えを行い


『山……?』

『山、ね……』


左折先が山とだけ書かれている道路案内標識に唖然としつつも軋む肉体を押して進み続けた。

その結果――


「皆お疲れ!! 京都入りです!!」


自分たちは今京都府の大地を踏みしめている。

朗太たちは『京都府』の看板の下をくぐり次第すぐ近くにあった道路の隅の空いた安全なスペースを発見すると自転車から降りお互いをたたえ合っていた。


「やりましたーー!!」


これまで纏は朗太と争うほど辛そうに自転車を進めていた。

感動も一入であろう。

纏は額の汗をぬぐいながら晴れ晴れとした笑みを浮かべた。


「纏、頑張ってたもんね、お疲れ」

「いえいえ姫子さんや風華さん、それに先輩の助けがあったからですよ! ありがとうございました!」

「いやー纏ちゃんも頑張ったって。それに凛銅君も、姫子もね。皆頑張ったわ。というわけで」


風華はそう言って手を掲げた。それに得心し朗太たちもまた手を掲げる。そして――


「「「「おつかれーーーーー!!!!」」」」


四人でハイタッチした。パチンッと手が打ちあう音がまばらに響く。

皆が満面の笑みであった。


「じゃ、写真撮るわよ!!」

「皆、集まって!! 凛銅君も! ホラ、近く来て!」

「お、おう……!」

「皆さん、カメラに視線合わせて下さいね。では私の合図で行きましょう。行きますよ~」


纏がチーズというと姫子が伸ばしていた腕の先で器用にシャッターボタンを押す。

そうして取られた写真には旅を共にした四人が皆綺麗に映り込み達成感に満ち溢れた笑みをしていた。風華が乱暴に残りの三人に覆いかぶさるように抱き着いている。


この写真は、きっと人生の中でも大切な一枚になるに違いない。


「じゃ、再出発するわよ~」


姫子の掛け声で再び自転車に跨り京都府の中でもその中心街、京都駅周辺を目指し自転車を漕ぎだす四人。

町並みはまだそれまでと大差のない、特徴のない田舎道で、観光バスなどが多く行き来し観光客らしい人もちらほらいたりするものの、京都入りしたという実感はあまりなかったのだが


(お……)


明確に京都に入ったのだなと思う瞬間が訪れた。

それは朗太にとって歩道がただのコンクリートから石畳に切り替わった時だった。

あるところを境に道が急に舗装された石畳に変わったのだ。

同時に下がりがちだった視線を上に上げるといつのまにか周囲には背の高いビルが増え始めていた。


「あと少しね風華!」

「そうね姫子!」


前では姫子と風華がそんなことを言いながらチャリを進めていた。

そしてしばらくもしないうちに中心街に入ってきたのかそれまで以上に観光バスやらタクシー、そして観光客が増え始め、


「到着です!!」

「やったー!!」

「ようやくね!!」

「ここか……」


朗太たちは京都駅、駅前にまで訪れていた。

バスロータリー前では一日乗り放題の乗車券を購入した観光客がそれぞれの目的地域のバスの前で長蛇の列をなし、駅の入り口では駅に入る人と出る人が多く行き来していた。

近くの噴水では、何十もの噴水が一斉に飛び上がり、横に落ちたり、左右にはねたり水のショーを演じていた。それはさながらイルカのショーを見ているようだ。


そしてその場で再度写真を撮った朗太たちは


「じゃ、宿へ向かうわよ!」


昨晩のうちに探しておいた今日から三日泊まる宿へ向かいだし


「で、そのあとは京都観光ですね!」

「そうよ、早くいかなきゃ! 清水寺に!」


荷物をフロントに預け次第京都の町へ繰り出したのだ。


こうして朗太たちの京都観光は始まった。







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1巻と2巻の表紙です!
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