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東京遠足(5)




「振られたそうよ?輝美」


 それから数日後の放課後のことだ。

 夕陽の差し込む教室。

 赤に染められた静謐な空間の窓辺に亜麻色の髪の少女が腰かける。

 朗太は姫子に呼び出されたのだ。

 そして何かと思えば姫子が告げたのは瀬戸基龍に告白すると言っていた群青輝美の結果報告で


「そう」朗太は興味なさげに嘆息した。


「そうって、やけに淡白ね。もしかして、分かってた?」

「そりゃ遠足翌日の輝美の様子を見てればな」


 遠足翌日、輝美は教室で下を向きうつうつと座りつくしていた。

 前日までは瀬戸と同じ班になれて溌溂としたオーラを発していたというのにだ。

 遠足で仲をさらに深め、そのまま告白すると息撒いていた少女のその様子を見れば結果など分かるなと言う方が……


「無理あるだろ」

「ま、まぁね……」


 朗太が肩を竦めて言うとその様を思い出し姫子もげんなりと声を落とした。


「それに」


 朗太が驚かなかった理由は他にもある。


「瀬戸が群青を振ることは最初から分かり切ってたことだろ」


 そう、瀬戸が輝美を振ることは明々白々だった。

 何より朗太は言いたい。


「それにお前だって分かっていたんだろ?」と。

「そ、そりゃぁね」


 姫子は頷いた。

 しかし、姫子からすると朗太が気が付いていたことは予想外らしい。「ふ~ん」とむっつりと唇を尖らせ尋ねた。


「いつから気が付いていたの?」

「わりかし、最初からだな」

「どうして?」

「群青と瀬戸はもともと同じ班になる予定だったんだろ? だってのに瀬戸の友達の津軽はクジで班を決めると言い出した。あの辺りからだな」


 もし本当に瀬戸が群青輝美と同じ班に成りたいと思っていたのなら、津軽の暴走を止めようとしたはずだ。

 しかし止めなかった。

 全てが終わったあとで輝美にEポストで

『津軽が勝手なこと言い出してゴメン』と言うに留めた。


 と言うことは瀬戸が輝美を好いていないことなど火を見るより明らかで


「だから俺は確認したんだ。どんな結果になっても良いんだなっ、て」

「あぁ、そういうこと」


 朗太の言葉に姫子は首肯した。


 朗太は瀬戸と同じ班に成りたいという輝美に言っていた。


『何としても群青は瀬戸と同じ班になりたいんだな』

『う、うん……!』

『どんな結果になろうとも、だよな』

『う、うん。まぁ……』


 と。

 あの会話は輝美が振られる未来を見据えて行われたものだったのである。


「ふ~ん、そうだったのね……」


 姫子はむっつりと唇を尖らせつつも感心していた。

 対し朗太も言いたいことはある。


「で、茜谷こそ何でこうなることが分かったんだよ。てことは他の理由で気が付いたんだろ?」


 姫子が展開を読めた理由である。しかし――

「そんなん見てれば分かるでしょ」

「わ、分かるんだ……」


 事も無げに姫子が言い朗太は眉を下げた。

 流石は昨年何十人という男子を振り倒したという伝説を持つスーパークイーンなだけある。

 恋愛関係には人並外れた洞察力を持つようだ。

 朗太が呆れていると、姫子は呟いた。


「つまりアンタは輝美が振られることを分かっていてその介添えをしたってことか……」

「まぁ、そうなるな」


 確かに悪趣味ではあるだろう。

 しかし朗太にも言い分はある。

 なぜなら輝美はそれを望んでいた。

 瀬戸と同じ班に成ることを。

 だから、それを助けた。

 それは――


「別に悪い事じゃないだろう?」


 朗太がバッサリ言い切ると姫子は複雑な表情をしていた。


「まぁ良いか悪いかすぐには判断つかないところね…」


 その言葉を最後に二人の間に沈黙が落ちる。

 しばらくすると姫子は出し抜けに尋ねた。


「で、津軽との話はついたの?」

「あぁ、津軽との話はつけたよ」


朗太は先日のことを思い出した。


◆◆◆


「……と、言うことがあったんだが、どう思う?」


遠足の翌日。

朗太は放課後、津軽と対峙していた。

西棟と東棟をつなぐ連絡通路。

生徒たちのロッカーが延々と並ぶ三階の廊下で黒髪つんつん頭の少年と相対する。


「……ッ」


朗太が昨日の遠足で不良に絡まれ津軽の名前を出したら逃げていった事を告げると津軽は苦悶の顔を浮かべた。


「あれは津軽の兄だと俺は思うのだけど、違うか?」


 朗太が尋ねるが津軽は答えない。

 しかし歯を食いしばるその表情が全てを物語っていた。

 だからこそ、事を解決するのは簡単だった。

 逃げ道を作ってやればいい。


「もし認めるのなら、事をおおごとにはしない」


 仮にも茜谷も暴言吐いてたしな。あいつも原因みたいなもんだ。


 そう朗太が言うと、肩の重荷を下ろすように津軽は大きくゆっくり息を吐き出した。


「……すまなかったな」

「やっぱりあれは津軽が絡んでたのか」

「あぁ、だが」

「男たちの暴走は絡んでいない、だろ? 最初は茜谷に良い所を見せたかったとかそんなんだろ?」

「そうだ……」


 その沈痛な表情は嘘をついているようには見えなかった。

 心底落ち込んでいるように見えた。

 なら話が早そうだ。朗太は気まずそうに佇む津軽に言う。


「俺たちの望むことは一つだ。これ以上俺たちに近づくな。もし今後茜谷やその他俺の周囲の人物が学外で被害を受けたらまず第一にお前を疑う。そう兄に伝えておいてくれ」


 返事は無い。

 しかし沈痛な面持ちで俯く津軽を見れば答えは分かった。


 これにて会話は終わり。

 くるりと津軽に背を向けこの場を後にする。


「あぁそうだ。言い忘れてた」


 しかし一つ思い出し振り返った。


「くじ引き妨害しちゃってすまんかったな」

「!? アレはやっぱり意図的だったのか!?」

「群青に頼まれたんだよ。瀬戸と同じ班にして欲しいって。だから何が何でも群青を同じ班にしたかった。茜谷を奪ったのは偶然だ」

「そ、そうか……」

「だから今回はお互い様だな。あと、本気で茜谷狙うなら今度は正々堂々行けよな」


 言うだけ言うと渡り廊下に立ち尽くす津軽を残し朗太はその場を後にした。


◆◆◆


「と、いうことがあった」

「アンタ、何てこと言ってんのよ!」


 朗太が津軽との会話のあらましを説明すると姫子は頭を抱えた。


「え、何か問題あったか?」


 完璧な対応をしたと自負している朗太からすると姫子の怒りの原因が分からない。きょとんとしていると姫子が怒り狂った。


「そんなこと言ったらまた津軽が狙ってくるかもしれないじゃない! もう私が気が無いことくらいアンタも分かるでしょッ。もうその場で断っておいてよ!」

「や、でも俺は茜谷の気持ちは分からないし……、それに茜谷じゃないのに茜谷の代わりに断るってのはちょっと……」

「そんなのどうとでもなるでしょも~~」

「いやでもいきなり俺から言われても何の信ぴょう性も無いだろ……。まだ一応俺と茜谷の点は線で結ばれてないわけで……」

「いまだにそんなこと言ってるのはアンタだけよ! 私なんてここ最近何度も女子からアンタと出来てるのかどうか聞かれているわよ!?」

「なに!?」


 信じられない事態に目を剥く朗太。

 だが気が付いていないのは本人だけであり


「周囲の生徒も馬鹿じゃないってことよ……。全く、自分のことになると鈍感なんだから……」


 姫子はそんな自分には無神経な朗太にため息をついた。

 そして窓枠に腰掛け夕日で陰る姫子は言う。


「まぁいいわ、今回の件は本当にありがとう、凛銅」

「良いよ、気にすんな」

少し黙った後そう言うと、腕を組み口角を吊り上げ

恥ずかしそうに顔を赤らめ言うのだった。


「……あの、で、これはものは相談なんだけど、これから何か困ったときはあなたを頼っていいかしら?」

「いやそれは断る」

「ありがとうって、ええええええええええ!? 何でよアンタ! この流れは今後も手伝ってくれる流れでしょ!?」

「でも小説書く時間が無くなるから嫌だって言っているだろう!!」

「でもいいネタゲットできるじゃない!? やりなさいよ!!」

「いいや断る!!」


 それから朗太と姫子の押し問答は数分にわたって続いた。

 だが結局姫子は朗太を説得することができず息を荒らげながら姫子は


「これも、まぁいいわ。私が助手と言ったら助手なのよ。絶対に引きずり回してやるわ……」などと物騒なことを言い、


「それと凛銅、私のことは『姫子』で良いわよ? 私もアンタを『朗太』って呼ぶから」


ゼーハー……と息を整えながらとんでもないことを提案しだした。


「いや、そんなことしたら余計に周囲から色々聞かれるんじゃないか?」


さすがに自身の立ち位置が悪くなることが予想され顔を青くする朗太。

しかしこれまで長年周囲の雑音に耐えてきた姫子からするとそんなものを斟酌することなど甚だ面倒くさいもので


「いいのよそんなもん言わせておけば。これから色々と生徒の相談を一緒に解決していくのに苗字呼びだとよそよそしいでしょ?」

「いやだから解決しないて」

「解決するのよ?」


 朗太の懸念を一蹴し話は終わったとカバンを纏めつかつかと教室の出口へ向かい出す。

 そうして去り際「じゃぁまた明日ね『朗太(ろうた)』」と殊更に名前を強調し呼び「じゃぁな、『茜谷(あかねや)』」朗太が必死の抵抗。

 姫子を苗字呼びすると


「アンタねぇ~~」


 くるりとUターンしこちらに向かってきて、そのあまりの剣幕に怖気づいた朗太は――別に名前呼びはそこまで抵抗するものではないのだ――


「わ、分かったよ…。じゃ、じゃぁな、『姫子(ひめこ)』……」


どもりながら姫子を名前を呼びする。


名前呼びされた姫子はと言うと「フン、分かればいいのよ」と呟くと「じゃぁね! 朗太!」とご機嫌に言って去っていった。


「どうなるんだ俺の高校生活は……」


 教室に残された朗太は一人の呟いた。



 以上が、朗太と姫子が立場こそ違えどお互いなりまユーザーだと判明して起きた一連の事件の顛末である。


 そしてこの出会いが今後学園で様々な問題を解決していくきっかけになるのだった。





これにて第1部は終了です!

これまでありがとうございましたー(*- -)(*_ _)ペコリ

次話からは第2部です!今日中に投稿開始します!

宜しくお願いします!



2019.3/9 追記

2019.3/9に第一話からこの話数までの推敲を行いました。



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