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文化祭抗争(23)


LL:凛銅が動き出したぞ!!


朗太が駆け出すや否や、それは彼らのグループトークに投稿された。



輝一:マジで?!

卑弥呼:誰探してるの!?

LL:知らん! だが衣装ぱくったのは三年と決め打ちしているらしい

クジラ:凛銅はどこに向かっている!?

LL:知らんがとりあえず一階へ向かって行ってるぽいぞ!?

クジラ:お前は?

LL:凛銅を追ってる。お前は? もう衣装は666から受け取ったんだろ?!

クジラ:1階の自教室だ

LL:分かった! とにかく凛銅がそっちに向かっているからお前たちは逃げろ!



「まずいことになったな……ッ」


グループトークが映る画面から目を上げた久慈川は髪を掻きあげた。

文化祭の最終段階にいたり面倒なことになってきた。

ここで衣装を持っているところを捕まるとマズイ。


「凛銅が動き出してるらしい。どうする?」


脂汗を滲ませながら弁天原に問うと、横にいた弁天原は固まっていた。

190近い身長を誇る大男、弁天原一貴が真顔で微動だにせず佇んでいる。

考え込んでいるのだ。


「逃げるしかないだろう」


しばらくすると弁天原はそう言って立ち上がった。

いるのは3Aの舞台裏。

雑多に様々なものが詰め込まれた空間で弁天原は横にいた少女、同じく文化祭実行委員に所属する樺下(かばした)に文化祭実行委員長の腕章を渡し言う。



「しばらく頼んだ。樺下」

「任されたわ」


そうして一時的に文化祭実行委員長の業務は樺下へ移行され


「じゃぁ始めるか」

「あぁ」


弁天原一貴と久慈川修哉は動き出したのだった。


「学祭制覇を賭けた鬼ごっこを」


彼らは衣装の入った黒いバッグを持つと敵と距離を取るために学習棟の外へ飛び出した。

だがそこにアカウントLLからの連絡が入る。


LL:凛銅も学習棟の捜索は諦めたらしい! というかあいつ犯人を久慈川と弁天原に絞ってるらしいぞ!? 3年にお前らがどこに行ったか聞きまくってる!



「マジか……」



そのメッセージを見て久慈川は顔をしかめた。

だがこれまで自分たちがしてきたことを考えれば彼が自分たちを疑うのも頷けた。


そして久慈川が保有するアカウント:クジラを通して仲間に自身の位置のガセ情報を流すよう指示しようとしていると


LL:凛銅が東門方面へ向かってる! お前ら逃げろ!!


というコメントが更新された。

だが自分たちは東門付近ではない。そこから少し離れた東門を覗くことが出来る駐輪場だ。

そこで彼らは一つ閃く。

実際に凛銅がどのように動くか見て見よう、と。

駐輪場に身を潜め顔だけを覗かせていると東門へ駆けていく朗太が見えた。




◆◆◆


「いねぇ……」


一方で朗太は東門付近へたどり着くと顔を苦悶に歪めていた。

衣装を奪ったのは三年生達で、こんな大胆な計画は三年生の学祭制覇を目論むグループトークの中で醸成された。

そして証拠物になってしまう衣装なんていう重要なものは3年のボス・弁天原と久慈川の手に渡っているに違いない。

そこまでの推理は良かった。実際に3年に聞いたところ弁天原と久慈川が学習棟から出ていった事は確からしい。

実行委員長と副委員長である彼らが出て行くというのは相当のことである。

彼らに何かがあったことは明白であった。

つまり今朗太がすべきことは彼らが持っている衣装のバックをなんとか奪い返そうとすることであり、朗太は決め打ちで、いざとなれば校外へすぐ出て行ける学習棟から最も近い東門へ来たのだが、見当違いだったらしい。


ちくしょう。


朗太は息を上げながら周囲を見回した。


◆◆◆


一方で疲弊する朗太を見て笑みを濃くしたのが久慈川と弁天原だった。


「相当疲弊しているな」

「そりゃそうでしょ。凛銅は運動部所属じゃないんだし」


ほくそ笑みながら久慈川はスマホをタップした。


クジラ:サンキューLL。良いもん見れたわ。これからもサポートしてくれ


すぐに返信は来た。


LL:オールオッケー。てかバレなかったの?

クジラ:馬鹿言え。俺達が東門にいるわけねーだろ。いんのは駐輪場だよ

LL:了解。今後もサポートする

LL:てか言ってるそばから凛銅がそっちに向かい始めたぞ。お前ら逃げろ

クジラ:任せろ。今後もサポート頼んだ


書き込んでから久慈川は駐輪場から少しだけ顔を覗かせた。

なるほど、確かに朗太がこちらへ向かってきている。

しかし


「この情報があれば楽勝だ」

「だな」


久慈川と弁天原は笑みを零しその場を脱した。

LLという凛銅朗太を裏から監視する協力者がいる限り自分たちに負けは無い。


自分たちの勝利は確実だった。



◆◆◆



その後も衣装を巡る鬼ごっこは続いた。


時には彼らは南門でニアミスし


「凛銅の奴、めっちゃ探してるぞ」

「そうだな」


久慈川は肩で息をする朗太を遠目で見て声を殺して笑い、


「どこだ……??」


朗太はいまいちしっぽを掴めない彼らに焦るような呟きを漏らした。


またある時は時には体育館で接近し


「……開いてないのか……」


朗太は施錠されたままの体育館倉庫に肩を落とし


「体育館倉庫なんて開いてるわけないっての」

「全くだな」


久慈川と弁天原は体育館倉庫の施錠を確認する朗太をせせら笑った。


その後も彼らの鬼ごっこは続く。


そうして見当違いの場所を探す朗太を見ていると


「フフ」


自然と笑みが漏れてしまった。

近くに朗太はいる。

だが彼は自分たちに気が付くことができない。

それがとてもいい気分だった。

久慈川は思う。

LLからの情報(アシスト)があれば自分たちは朗太に見つかるわけがない、と。

だからこそ、その圧倒的優位性は胸のすくものだった。

そして時計を見て見れば


(既に14時過ぎ……)


鬼ごっこを始めて、あっという間に一時間が過ぎていた。


そしてこうなってくればこの作戦における自分たちの勝利は確定だ。


「ハハハ」


それを自覚するともう笑いが堪えられなかった。

何度目かの攻防。

その末で再び体育館裏へと逃げ込んだ久慈川は思わず哄笑を漏らした。


最高の気分だった。


かつて自分たちを嵌めた凛銅朗太が、自分たちの策に気が付かず無駄に汗を流しているという事実が。

奴が知る由もないところで奴の情報を吸い上げているという事実が。

奴が自分たちに手も足も出ていないという状況が。


最高に気分が良かった。


だからこそ彼は隠し切れない笑みを漏らした。

横にいた弁天原も口角を吊り上げ、どこか愉悦を感じているようであった。


そうして無二の親友が自分と同じ感性を持っていることに久慈川が口元を緩めた時だ、久慈川のスマホが震えた。

見ると、同じ三年の学祭制覇を目指す女友達である。


何だこんな時に。


「どうした」


速やかな動作で久慈川は電話に出た。すると


『アンタ達、今どこにいんのよ!?』


酷く動転した様子の悲鳴が聞こえてきた。


「どこって、体育館裏だが。どうした?」

『どうしたもこうしたもないわよ!!!』


女生徒がヒステリックにわめく。

そうしてその驚愕の情報はもたらされたのだった。



『2Cは普通に劇やってるわよ!!!!!』



「―――なんだと」



それは青天の霹靂、顔面蒼白の情報だった。

信じられない。

足元から鳥が立つような気がした。

思わず久慈川は自身が握る黒いバックを握り直した。

ここには衣装がある。

なぜ劇が出来ているんだ。


「本当なのか……! それは……!」

「そうよ!! だからアンタたちは早く戻ってきなさいよ!!」


その女子の声はどこか遠い銀河から響いてくるような、どこか現実感の欠けた言葉だった。


その時だ。


――なぜだ……?


久慈川は目を剥いた。


――なぜ、お前がそこにいる……!


はるか先の階段。その最上段から凛銅朗太が自分たちを見下ろすように立っていたのだ。


『LL』のサポートがあれば、見つかるわけが()()()()()()()……


凛銅朗太は呆然とする自分を確認すると踵を返すと学習棟へ向かって行った。


一体何が起きている。


だが答えをくれるものは一人とおらず


気が付けば、時刻は14時半。


ゴールデンタイムを迎え辺りには多くの人がいて、今まさに青陽高校は最大の集客を叩き出そうとしていた。



一方で朗太。


『三年生が私たちの階へ来るの止められなかったわ……。風華や纏にも頼んだんだけど』



姫子からそのような連絡を受け


「分かった」


学習棟へ向け退散して行っていた。


◆◆◆



結果は2年C組の圧勝だった。


「最優秀賞、2年C組。演劇、タイトル『金持ちに成りたいと願ったら、鬼ヶ島の鬼に転生していた』」



弁天原が壇上でそう告げた時、暗い体育館の隅で喝采が上がった。

2年C組の生徒が集まり諸手を挙げて喜びあっているのである。

程なくしてC組の少女、梔子祭が喜色満面でやってきた。

その顔はどこか誇らしげで、ダーティーな手を使いまくったというのに最優秀賞を逃した自分たちに言っているようだった。


どうだ、勝ってやったぞ、と。


その得意げな表情を、弁天原は直視することが出来なかった。

だが後になって思えばそこで止まっていれば、まだ良かったのだ。

それどころか梔子はマイクを手にすると言ってしまったのだ。


「様々な妨害がありましたけど、最優秀賞が取れて良かったです!」


と。

その妨害が誰を指すかなど火を見るより明らかで


「……ッ」


後夜祭に集まった生徒たちのニヤニヤ笑いが身に刺さる。

羞恥と屈辱で身が焼けるようだった。


そして文化祭の入賞発表を終えれば、後夜祭の始まりだ。

壇上では軽音部や有志の生徒たちが自分たちの歌を熱唱していた。


だが浮かれた彼らの音楽など今の羞恥に駆られる弁天原は聞く気にはなれず、一人舞台裏の暗がり座り込んでいた。

身を焼くような羞恥で思考もままならないが、それらを振り払い考える必要があった。


どうしてこのような無様な結果になってしまったかを、だ。


答えはすぐに出た。


弁天原は煌々と輝くスマホを見た。



LL:凛銅が動き出したぞ!!



 『LL』



こいつが原因だ。



こいつが『衣装を盗もう』などと言い出したからこのような結果になったのだ。

なぜならそれまでは自分たちの命令なら何でも聞く後輩に頼んで、2Cの劇を破壊する予定だったのだから。

そうすれば妨害は成功したはずだし、見当外れなこともせずに済んだ。

だがコイツが『衣装を盗む』と言い出し自分たちがその計画に乗ってしまったことで全てが狂ったのだ。


なぜなら衣装を奪っても2Cの劇は問題なく()()()()()から。

ならなぜ行えたのか。

それはなぜか偶然桃太郎だけ、偶然替えの衣装が()()()()()()()()()である。


だからこそ彼らは一切の滞りなく劇は行え――

――自分たちはあろうことか替えのある衣装をターゲットにしてしまったが故に、相手の時間を奪おうとしたのに、自分達の時間が奪われてしまっていたのである。


そしてそうなったのはアカウント『LL』が衣装を盗もうと言い出したからで、その言葉が無ければアレほどの票数を開けられることも、あんなにも嘲笑されることはなかったのだ。

2Cの連中は無駄なものを奪って悦に浸っていた自分達を嘲笑って見えた。


そう、この『LL』というアカウントはダーティーな手段を用いてでも勝ちに行く自分達、その脳と言ってもいいグループトークに潜入して、わざわざ予備のある衣装にターゲットを切り替えさせこちらに上手く行っているように見せ掛け騙したのだ。


それにより自分達は2Cの連中に嘲笑されたのだ。


そして『潜入して』となるのにも理由がある。


あの時は気が動転していて気が付かなかった。


弁天原は思う。


なぜこのLLとかいうアカウントは2年が占拠している3階に入り浸れるんだ、と。


なぜこいつは、あそこまで正確に凛銅朗太の動きを把握出来たんだ、と。


そしてようやくその異常は浮上したのだ。


この状況下で二年生がひしめく3階に出入り出来るこの人物、





コイツは、誰だ……ッ!?






「……お前、誰だ……ッ!?」


その言葉は自然と喉から漏れた。

そしてグループトークに声と同じ文字を打ち込むと、しばらくして、画面が更新された。






















LL がグループトークから退室しました











「────ッ!?」



弁天原は目を剥いた。






◆◆◆




一方でここは西日の差し込む教室である。

クラスの殆どが後夜祭のライブに抜け出した、誰もいない教室でスマホの画面が光る。

画面にはこう書かれていた。




グループトーク:3年会を退会しました。








「ふぅ……」






































朗太は溜息をついた。









誤解なきよう一応補足しますがLLの初出は『文化祭抗争(13)』です。

どうしてこうなったのか、などはもろもろ次話で書きます。

多分明日投稿出来るはず……。多分……。



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1巻と2巻の表紙です!
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