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神を喰らう者  作者: LonelyBell
人間不信な魔神の異世界転生
8/9

侵攻

エイクの振るう黒鋼剣が鋭い風切り音を出しながら試験官に迫る。それを受け止めようとした試験官は縦をかざしたところで異変に気付き、後ろに飛んで斬撃を躱した。

 「なんだ、その剣。振るう速度、斬撃の重さ、お前ホントに新人冒険者か?」

今の一撃を躱しただけで既に汗をかき始めていた試験官がエイクに問う。

「冒険者ってのは登録したばっかりだが、戦いは素人じゃないさ。」

身の丈ほどのグレートソードを振るっているとは思えないほどの涼しげな表情でそう答えるエイクは、次の一撃を繰り出そうと地を蹴っていた。試験官は上段から振り下ろされた剣を横に飛ぶことで避ける。体を起こそうとしたら横からの気配を察知し、咄嗟に剣を捨て、盾を両手で構えた。次の瞬間、ドラゴンに体当たりされたかのような衝撃が全身を襲った。試験官は、衝撃を殺しきれずに真横に吹き飛んだ。

「そ、そこまで!」

エイクの最初の斬撃を見た後から動きを止めていた職員が、試験官が吹き飛んだことで気を取り直し、模擬戦の終了の合図を出す。

「身体強化を使えばこんなもんか。」

今の試合、エイクは『身体強化』の魔術を使って戦闘していた。黒鋼剣はエイクの素のステータスでは、常人がグレートソードを振るうような速度でしか触れないが、『身体強化』を使えば今のように長兼を使っているかのように振ることが出来る。黒鋼剣を鞘に戻し、職員に合否を聞いた。

「これは、合格ってことでいいのか?」

すると、訓練場の端に転がっていた試験官が、むくりと起き上がって答えた。

「あぁ、そうだ。文句なしの合格だ。カードの更新は受付でしてもらえ。っていうか、それほどの実力者なら、ちょっとは手加減でもしてくれよ。こっちは3戦目で疲れてんだ。」

試験官は、先ほどの一撃で壊れてしまった盾を腕から外しながらぼやいていた。

「武器を新調したから、加減が分からなかった。すまんな。」

一応、手加減はしていたのだがこの世界での対人戦に慣れていないエイクにはちょうどいい加減が分からなかったのだ。しかし、手加減されていなかったら、恐らく試験官を真っ二つにしていたであろうことはエイクは切った感触から感じ取っていた。

「そいつは確か、ライロのおっさんの店に置いてあった馬鹿みてーに重い剣か。よくそんなのを得物にできたな。っと、自己紹介がまだだったな。俺はバルエロってんだ。今は冒険者を引退して、ここの試験官のバイトをしてるんだ。」

「力には自信があるんだよ。エイクだ。」

試験官、バルエロと話していると案内してくれた職員が近づいてきた。

「エイクさん。受付でカードの更新をしましょう。」

その言葉に従って、受付へと移動した。

 今の時間帯はもうすぐ夕方になろうかという時間だ。ギルドの中は時間帯のせいか、徐々に人が増え始めてきていた。今のうちにと、受付へ赴き、登録したときに貰ったギルドカードの更新を頼んだ。名前とランク、登録番号が書かれたギルドカードは、ドッグタグのような形をしており、首から下げられるようにチェーンもついていた。

「はい、更新は終わりました。現時刻からあなたはDランク冒険者です。」

名前の横のランクの表示がDになって戻ってくる。そのカードを首から下げ、ギルドを出ようとしたとき、依頼が張り出されているボードから職員が慌てた様子で出てきた。

「緊急依頼です!! オークの大群が街に向かって進攻してきています。!! 依頼内容はオークの侵攻の阻止、街の防衛です!!この依頼はDランク以上の冒険者が対象です!! 報酬は大銀貨2枚!! 参加される冒険者の方は今から1時間以内に城門前に集合してください!!」

しんと静まり返ったギルド内にその言葉は響き渡った。職員が依頼内容を説明するとギルド内にいた冒険者たちは徐々にざわざわと話し始めた。エイクはそんな彼らの様子をしばらく観察し、ふらりとギルドを出た。


▽▲▽


 リングの街の城門前、そこには今、屈強な戦士たちが所狭しと並んでいた。その数は約60名。その中にはボロボロの黒ローブを纏った白髪の青年、エイクもいた。エイクは黒鋼剣を背中に携えて、端の方で待機していた。しばらくすると、簡易的な壇上に白髪の混じった金髪の壮年の戦士が上る。その瞬間ざわついていた冒険者たちは、しんと静まり返る。そして、壇上に上った男はよく通る声で冒険者たちに指示を出す。

「よく集まってくれた! 冒険者達よ! 私の名はギベル、この街のギルドマスターだ! 今から行うのは、この街の防衛、ついでにオークの殲滅だ! この街に牙をむいたことを奴らに後悔させてやれ!」

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

この街のギルドマスターと名乗る男の演説に冒険者たちの士気は高くなる。

「ここにいる60人を二つのグループに分ける。城門の前で街を守る防衛部隊と、進攻してきているオーク共に切り込みに行く攻撃部隊だ! 攻撃部隊の討ち漏らしを防衛部隊が援護する作戦だ! 戦力はなるべく均等になるように配置する!」

そういうとギルドマスターのギベルは一人一人を攻撃部隊、防衛部隊に分けていった。それはすぐに終わり、エイクは防衛部隊に配属された。防衛部隊は城門のすぐ外で待機し、攻撃部隊に選ばれた者たちはぞろぞろと街の外へ出ていき、偵察でオークの場所を確認し、そこを正面として、隊列を組んでいた。隊列と言っても、魔法使いは後ろ、剣士は前といった簡単なものだがそれでも、しないよりはずっと効率的にオークを殲滅できるだろう。防衛部隊も同じように城門の前で隊列を組んでいた。

 そうこうしているうちに、草原と森の境目からぞろぞろとオークの群れが出てきた。その数は推定200匹、あまりの数に冒険者たちはしばし唖然としていたが、ギルドマスターの言葉で我に返った。

「攻撃部隊、魔法使いは詠唱を開始しろ! 範囲攻撃魔法を一斉に撃て!」

その言葉を合図に魔法使いたちが詠唱を開始し、様々な攻撃魔法を一斉に放った。次の瞬間、前方で爆発音が鳴り響く。が、しかし、オークの数は全く減っていなかった。それを見て、ギルドマスターは戦士職の冒険者たちに突撃の指示を出した。果敢にオークを斬り倒していくが、数の差が圧倒的だった。いまだオークの群れは森から出てきており、数が増えていた。

 そこから先は絶望だった。一方的な虐殺だった。次々と数を減らされていく冒険者たち。城門もすでに破られ、街の中にオークが侵入していた。

 その日、リングの街は壊滅した。 

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