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神を喰らう者  作者: LonelyBell
人間不信な魔神の異世界転生
6/9

黒竜

「お前なら、俺を殺せそうだな。」

そう言って構える。数秒の沈黙の後、どちらからともなく動き出す。

「【アルケム】!」

【錬成】で短剣を鋭くし、切りかかる。それに対し、ドラゴンは爪で応戦した。数回の剣戟の後お互いが後ろにとび距離を取る。たった数回の斬り合いでエイクの短剣は刃こぼれし、使い物にならないほどボロボロになっていた。

(くそっ! やっぱり安物じゃこんなもんか!)

ドラゴンが攻めてくる様子がないのでエイクはドラゴンの力を図るために【神眼】を使った。

「...? おかしい。」

なにも見えない。スキルは確かに発動しているが、やはり何も見えない。こんどは確実に見ようと、ドラゴンと目を合わせ【神眼】を発動させた。バチッ! っとはじかれる音がして視界が一瞬ホワイトアウトする。


―――――――――――――――――――――――――

システムメッセージ。【$&(#’&%#*】による干渉を受けました。

システムメッセージ。【$&(#’&%#*】による干渉の妨害に失敗。

システムメッセージ。固有スキル【神眼】の使用権限が【$&(#’&%#*】により剥奪されました。     

システムメッセージ。固有スキル【神眼】によるスータス値の閲覧が【$&(#’&%#*】により規制されました。

システムメッセージ。ステータス表示時のステータス値が非表示に設定されました。

システムメッセージ。エイク・エイジのステータス値が前世での値にリセットされました。

システムメッセージ。固有スキル【喰】と固有スキル【魔力支配】と称号【すべてを喰らう者】が統合され、固有スキル【神喰】を獲得しました。

システムメッセージ。スキル【再生】が進化し、固有スキル【不老不死】を獲得しました。

―――――――――――――――――――――――――


その一瞬で脳内に響く声。いくつか聞き逃したが、概要はある程度理解できた。

「くそっ! なんなんだ!」

体が急に重くなる。この世界の法則に則って、レベルが上がり、身体能力が強化された体に慣れていたエイクは急に力を得る前の人間だったころの力に戻されたのだ。あらゆる感覚が鈍り、動きが目に見えて遅くなる。そんなエイクの様子を敏感に感じ取ったドラゴンは翼をはためかせ、驚異的な速さで距離を詰める。エイクの目の前で体を反転させ強靭な尻尾による一撃を加えようとする。エイクは身体能力を劇的に落とされはしたが、【神眼】までは失っていなかった。その眼はすべてを見通す神の眼。当然、動体視力も人間とは思えないほどよくなる。その眼で尻尾の一撃を見切り、ギリギリで伏せて回避する。追撃を受けないようにそのまま横に転がり距離を取った。次の瞬間には鋭い爪による斬撃が飛んでくる。それを紙一重で体をひねりながらよけ続ける。このままじゃ、手も足も出ない。それを痛感しながらドラゴンの攻撃をかわし続けた。それでも、身体能力が下がった体では攻撃をかわしきれずに、体中に引っかき傷が出来ていた。

 終わりの見えない攻防を続けていると、不意に背中から視線を感じた。ドラゴンからの攻撃を大きく後ろに飛んで回避し、視線を感じた方へ振り替える。そこにいたのは顔を真っ青にしながらこちらを覗いている、黒髪の少女、カレンの姿があった。カレンは足を震わせながら、そこに立っている。ドラゴンの殺気がカレンに向いたら彼女は死ぬ。そう直感したエイクは声を張り上げる。

「おい! 今すぐここから離れろ! 死ぬぞ!」

エイクが叫ぶと、はっとした顔で震える唇を開き、それに答えた。

「い、嫌です。わ、私が逃げたら、君は死のうとします!」

そう言われはっとする。確かに自分は死を求めて、この世界で戦いに挑んでいた。そのためなら、何を犠牲にしても構わないと思っていたはずだった。しかし今、カレンを巻き込みたくないと、自分がそう思っていることに気付いた。まだ出会って一日と経っていないが、この世界にきて初めて、自分に好意的に、純粋にぶつかってきたカレンに好印象を持っていたことにエイクはこの瞬間自覚した。

(もう、誰も信用しない。そう決めたじゃないか! っていうか、まずそもそもこの森にこんなドラゴンが出るなんて情報はなかったはずだろっ!)

エイクの葛藤と困惑とは裏腹に、カレンはここから逃げ出す様子はない。そうやっている間にも、ドラゴンの猛攻は止まらない。エイクはそれを紙一重で躱していくが段々余裕がなくなってきた。身体能力が急に落ちたため、まだ自分の体に慣れていないからだ。それに加え、自分の決意が揺らいでいる。これでまともな動きをするのは無理があった。

(なにか、何か起死回生の一手は無いのかっ! もうさっき獲得したスキルとやらを使ってみるしかないのか!)

 このままじゃ確実にやられる。そう思ったエイクは先ほど獲得したスキルを使うことにした。まだその効果や、代償が分からないスキルをぶっつけ本番で使うことは相当な賭けではあるが、もはや残された選択肢は少ない。このまま抵抗せずにやられる。それだと、後ろにいる少女も巻き込まれる。彼女を自分の願望に巻き込むのは気が引けるし、なにより、彼女を守るか守らないか迷っている自分に気付いたのだ。そんなことで迷うのは、彼女を死なせたくないと心のどこかで思ってしまっているということにも気づいてしまった。そうなると残された選択肢は一つしかない。何が何でもここを生き延びることだけだ。そのためには、効果が名前からしか想像できないスキルに頼らざるを得ない。覚悟を決めたエイクは、スキルを使用する。

「っ!【神喰】!!」

その瞬間、視界が赤く染まった。理性という人間を縛り付ける鎖が緩む。自分の中にいるナニカが自我を支配しようとしている。それを理解している自我は自分の外にいるようだ。一つの体の中に二つに意識があるように、体が言うことを聞かない。理性に縛られた本能がその鎖から抜け出ていく。

「が、があぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

抑えきれないほどの闘争本能があふれ出てきたかのような雄たけび。ドラゴンがそんなエイクの変貌に何かを感じ取り今までの猛攻をやめ、距離を取った。


―――――――――――――――――――――――――


システムメッセージ。【$&(#’&%#*】による侵蝕が開始されました。


―――――――――――――――――――――――――


脳裏に響く謎の声。その声さえ今ははるか遠くで聞こえているようだ。底なしに漲ってくる力が体を支配していく。獣のように唸りながらドラゴンを見据えるエイク。

 今まで四足歩行で戦っていたドラゴンが立ち上がった。自身の魔力を圧縮し人間の数倍もあった体を大柄な人間ほどの大きさまで縮んでいく。その姿は先ほどよりも小柄に見えるが、体が小さくなった分小回りが利くようになり、力より早さに重きを置きた姿にも見える。ドラゴンが纏う雰囲気も先ほどとは一変し、濃厚な殺気と魔力を漲らせ、見るものに死を与える死神のような存在に感じられた。それを遠くで見ていたカレンは腰を抜かし、そこから逃げることさえ許されなかった。

「ぐっっ! ぐぁっ!! がぁぁぁぁぁぁっ!!」

吠えるエイクの瞳にはすでに理性の色はなかった。次の瞬間、鎖から解き放たれた獣のように走り出した。限界まで筋肉を収縮させ、爆発させるかのようにして出された力はヒトの限界を超えているように見えた。ドラゴンにすさまじい勢いで飛び掛かり、殴る。武器も何も持たず、身一つで無謀に飛び掛かるエイクをドラゴンは両手で軽々と掴み取り、投げ捨てた。素早く受け身を取り、またしても飛び掛かるが、グサッ! という音とともに鮮血が舞った。エイクの腹部からはドラゴンの右手が突き出ていた。

「っぐぅ!!」

腹に攻撃を受けたことを認識し、ドラゴンを蹴って距離を取るエイク。武人のような動きをするドラゴンと獣のように本能に従って戦うエイクの姿は、対照的である。

 次第にエイクの動きが隙がなくなっていく。それはまるで戦闘行為に最適化されていく機械のようだ。殴る、蹴るの応酬が続く。時折ドラゴンが魔力を宿した爪でエイクを引き裂こうとするが、それを紙一重で避け手刀で反撃する。エイクの手刀にもドラゴンの爪攻撃から学んだのか、うっすらと魔力が宿り始めていた。戦いは膠着する。焦るエイクはだんだんと攻撃が単調になっていく。ドラゴンは終始余裕を感じさせる動きでエイクを翻弄していた。

(モット、スルドク、モット、ハヤク...)

理性が薄くなった思考の中でエイクは求めた。それに応えるかのように、エイクの体に体に異変が生じた。

「ぐっ! う、ぅおおおおあああああ!!」

右肩のあたりから禍々しい雰囲気を纏った、細く鋭い触手のようなものが生えてきた。触手は肩から下の腕を完全に覆い、右腕を異形へと変えた。指はすべて刃物のように鋭く、腕全体を黒く禍々しい筋繊維のようなものに覆われていた。その異形の腕を軽く振るだけで空気が切り裂かれるような音がした。相当な力を持っていることが見て取れる異形の腕でドラゴンに攻撃する。その爪はドラゴンの鱗を豆腐のように切り裂いた。均衡状態が崩れ、状況は圧倒的にエイクに有利になっていた。爪で引き裂き、腕力で殴打する。それは一方的な処刑だった。全身に裂傷や打撲を負うドラゴン。既にエイクの攻撃を受け流すことも回避することもできなくなったドラゴンはエイクの猛攻に一瞬怯んだ。その一瞬で勝負が決まった。ズサッ! と胸を引き裂かれた黒いドラゴンはその瞳から殺気と闘志を霧散させ、地に沈んだ。


▽▲▽


 どれくらい気を失っていただろうか。黒いドラゴンの雰囲気が豹変したあたりからの記憶がなくなっていることに気付いたカレンは、周囲を見渡す。そこは荒れ果てていた。数分前までは木々が鬱蒼と生い茂っていた様子は見る影もなく、すたすたに切り裂かれ吹き飛ばされた木や草葉が散乱していた。もう少しこの状況を確認しようと立ち上がろうとしたその時、不気味な咀嚼音が耳に入った。クチャックチャッと、生の肉を食っているような音だ。近くに魔物でも出たのかとその音の出所に視線を向けた。そこにいたのは、ヒトの形をしたナニカだった。ボロボロの黒服を着た白髪の男が、生き物の死体をむさぼっている。

その姿を視認した直後、全身に悪寒が走った。無意識に数歩後ずさる。不意に白髪の男が動きを止めた。自分の存在に気付かれたと悟ったカレンはその場から立ち去ろうとするが、足が震えて言うことを聞かなかった。

「ひっ...!」

っという小さな悲鳴が漏れた。その音は耳を澄ましていなければ聞こえないような声だったが、目の前の白髪の男には聞こえたようだ。男は動きを止め、ゆっくりと振り返った。カレンはぎゅっと目を瞑った。しかし、少し待っても何も起こる気配はない。意を決して目を開くと、白髪の男がじっとこちらを見ていた。裂けたかのように大きく開かれた口の周りには血や肉片が付着している。大きく見開かれた目は赤黒く変色していた。右手から首筋までは魔物のように変化している。その男は一目見ただけで恐怖に支配されてしまいそうな異形のヒトだったが、カレンはその男を見ても恐怖に襲われることはなかった。

「え...。エイクさん?」

異形の男の頬に伝う一筋の涙を、カレンは見逃さなかった。その寂しそうな顔を見て、目の前の白髪の男は、自分の兄に似ているという理由だけでこんな所まで追いかけてきてしまった自分と相部屋の彼だと確信した。

彼の名前を呼びかけると、目の前の男はピクッと反応した。

「カ、カレン?」

そう発する彼の言葉は、とてもぎこちなかった。そしてその顔は、とても哀しそうだった。なんて声を掛ければいいか分からなかったカレンは、彼をそっと抱きしめた。

「......。」

荒れ果てた森の中、2人は暫く、動くことは無かった。

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