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神を喰らう者  作者: LonelyBell
人間不信な魔神の異世界転生
3/9

チュートリアル~護衛編~

「あなたに護衛の依頼をしたい!!」

(誰かこの状況を説明してくれ... )

エイクはとりあえず、目の前の商人と思わしき人物に聞いてみた。

「護衛ならもう雇ってるだろ。しかも、街がもう視界に入る距離にある。俺に依頼する意味がない。」

「護衛の追加です! 見たところあなたはとても強い。あと、街はまだ見えてきませんが...」

「ん? 街なら、ほら、あそこに見えるだろ。」

そう言ってエイクは、街道の先を指さした。

「失礼ですが、私にはまだ見えませんね... しかもここからだと次の街まで馬車で1日はかかる予定です。」

(見えない? そんな事は… もしかして【神眼】のせいか。すべてを見通す神の眼、見えすぎるのもあまり良くないかもしれないな。)

「俺は目がいいからな。しかし、そうか。1日かかるのか...なら、雇われるのも吝かではないな。」

「そ、そうですか! では!」

「報酬はいくらだ?」

逸る商人を宥め、報酬の提示を要求する。

「銀貨5枚ですね。これは今護衛を依頼している彼らと同じ金額です。」

「俺がやつらと同レベルの実力者だと? 俺にはそうは思えないが。」

「まぁ彼らとは日数が違う分あなたの方が報酬は高くなります。それに加えて、街の案内なんてどうでしょうか? 見たところ異国の人のようですが、この街に来るのは初めてではないですか? 」

この商人は、見た目よりしっかりした人間のようだ。観察眼に優れている。

(こういう人間はどの世界にも一定数いそうだ。できれば敵に回したくない人種だな。)

「あぁそうだ。よくわかったな。報酬はそれでいい。街の案内は移動中に頼む。」

「それでは...」

「おう、雇われてやるよ。」

そう言うと商人(仮)はあからさまに胸をなでおろした。

「いやぁよかったよかった。あなたは雰囲気が独特だから変に緊張してしまいますよ~。」

「そうか。とりあえず、馬車が壊れているようだが。あれを直すのも仕事のうちか?」

「そうですね。でも、先に護衛の皆さんと私を交えて自己紹介でもしませんか?」

「そうだな。俺はまだ、依頼主の名前も同僚の名前も知らないからな。」

(【神眼】を使えば一発でわかるんだが、あれは目が疲れるからあまり使いたくない。)


▽▲▽


 依頼主1人と、先に雇われていた護衛5人が馬車の近くに集まっていた。エイクもそれに倣って馬車の方に歩いていく。

「みなさん、新しく護衛を雇いました、改めて街までよろしくお願いします。」

商人(仮)はそう言うと、エイクを護衛のパーティーに紹介した。ここは自己紹介でもしとけばいいか。と思いエイクは必要そうな情報を開示した。

「エイクだ。戦力はさっき見せたとおりだな。短い付き合いだが、よろしく。」

簡単な挨拶をすると護衛パーティーの自己紹介が始まった。

「僕はDランクパーティー『疾風の剣』のリーダー、クレムです。片手剣を使います。よろしくお願いします。」

「ライル、短剣使いだ。職業は盗賊をやってる。」

「リオネルだ。戦斧を使う。タンクをやっている。」

「セリムでーす。弓使いでーす。あと、クレムの弟だよー。」

「ネルア、魔法使い。」

片手剣使いで赤髪のリーダーと、何かとエイクに突っかかってくる盗賊のライル、タンクをやってるっていうドワーフのようなおっさん、ちょっとあほの子っぽい、リーダーの弟の弓使いの少年、無口な魔法使いの少年というなんともありがちなメンバーだ。おそらく普通の駆け出しパーティーっぽい雰囲気を感じた。パーティー名もどこにでもありそうな普通の名前だ。というか、絶対このパーティー以外にも『疾風の剣』は存在しそうだ。エイクはさりげなく【神眼】で確認したが、変な賞罰もついてないし、レベルも低いやつは8高いやつでも12止まりだから、警戒しなくても大丈夫だろうと判断する。

「で、僕が依頼主の、カリエです。商人見習いってとこですかね。」

依頼主は見た目通り商人だった。カリエも特にステータスに変な所はなかった。レベルは5だ。だがそのあとの言葉を聞いて少し不安になる。

「見習い、か。まぁ、報酬がしっかりした依頼ならきっちりこなすさ。」

「見習いと言っても、もうすぐ自分の店を任せてもらえるようになるので一人前より少し前ってとこですね。」

気のよさそうな顔のこの依頼主は常にニコニコしているため、本心が分かりにくい。というより誰にも本心を明かさないタイプの人間だろう。

(こういうやつが一番嫌いだ。)

「ところであの馬車はどうする。見たところ車軸が折れてるぞ。」

俺がそう指摘すると、『疾風の剣』のメンバーが慌てだした。おいおい、こいつらホントに素人かよ。なんかこの依頼一気にやる気がなくなってきた。

「そんな慌てんなよ。おい、カリエ。替えの軸はあるのか?」

「あるにはあるんですが... 少し古いものでして、どうしたものかと...」

(こいつらに見られるのは少し嫌だが、【錬成】を使うか。隠してもいずればれるし、それが今になっただけだな。でも一応言い含めておくか。)

「俺が何とかするから、今見たことは他言無用な。」

「え、エイクさん、修理できるんですか?」

「まぁな。」

『疾風の剣』はもう放っておいて、俺は馬車の車軸が見える位置にしゃがみ込んだ。

「替えの車軸を出してくれ。」

「はい、どうぞ。」

(確かに少し木が痛んでいる。これじゃ一日ももたないだろうな。そもそも、なんで替えの軸がこんなものしか用意できないんだ。…あぁ、だから見習いなのか。)

 そんなことを考えながら、馬車の下に潜り込んでいく。前の車軸が折れているようなので、それを魔力で包んで浮かせる。真っ直ぐになったところで、替えの車軸をそれにあてがって【錬成】を行使する。飛び散ったであろう破片の分を替えの車軸で補い、元の車軸に戻していく。それは傍から見たら、粘土をいじっているように見えるだろう。数分もかからずに作業を終えたエイクはカリエの所へ戻っていく。

「終わったぞ。」

そう言ったエイクの顔を6人は唖然とした顔で見ていた。その顔はまるで、人以外の何かを見るような顔をしていた。そこでエイクは女神から貰ったこの世界の知識を脳内で探ってみた。するとどうやら、この世界に錬金術というものは存在しないらしい。というのも、錬金術というものは神の秘術として言い伝えられている技術で、今のところそれを使える人物はいないみたいだ。錬金術を研究する者はいるらしいが、胡散臭いものとして認識されている。かくいうエイクも、錬金術のことについては詳しく知らない。漫画やゲームでその存在を知っているだけで、その分野については素人もいいとこだ。【錬成】のスキルをはじめ、固有スキルは結構自由度が高く、イメージ補正でいろいろできるからかなり便利なものであるとエイクは再認識した。

「な、なんの魔法を使ったんですか?」

カリエが、恐る恐る聞いてきた。それはまるで、開けてはならないパンドラの箱を開けようとしているような顔だ。

「秘密だ。」

エイクはこの世界の住人に対しては力の一切をこれで押し通すことを決めた。

 街道を出発できたのが昼過ぎだったのでそれほど距離は進めず、夕方になった。エイク以外の護衛メンバーが野営の準備をしている中でエイクはカリエに街の説明をしてもらっていた。

「エイクさんはこの大陸の地理に疎いという話ですが、どの程度でしょうか?」

「そうだな、今向かっている街がどの国のものかも分からない感じだな。」

ある程度国や街などの情報はこっちに来る時に女神に覚えさせられたから分かるのだが、まず今この場所がどこら辺なのかが分からないと、脳内にある地図に照らし合わせることが出来ない。逆に言うと、ここがどこかわかるとこの世界の地理は大体把握できる。この知識を埋め込むなら、先に転生場所を教えろって話なんだが… 

「なるほど、そうですか。では、ここはリゲル平原です。ナイン王国領ですね。そして今向かっているのはリングという街です。という説明でわかりますか?」

「あぁ、なるほど。リゲル平原か。わかった。把握した。」

「おや、事前にある程度勉強していたのですか? 理解が早くて素晴らしいです。」

現在地が分かれば、転生時に植え付けられた記憶を頼りに脳内で徐々にこの世界の地図が出来上がっていく。しかしそれはもやがかかったような曖昧なものだった。

「ふむ、地理についてはだいたい理解した。リングという街の話を頼みたいんだが?」

「そうですね。ですが、まずは食事にしましょう。」

どうやらカリエと話してるうちに野営の準備が終わったみたいだ。

 魔除けの結界が張れらた範囲内にテントが3張りと馬車が1台並んでおり、その近くには焚火が焚かれていた。焚火の周りに石が積んであり、その上に座れるようになっているみたいだ。

「わかった。」

そう返事をして、7人で焚火を囲む。野営の食事はとても質素だ。固いパンとほぼただのお湯のスープ、後は干し肉だけだ。非常に食べずらいが、まぁ腹に入れば何でもいいと思いエイクは黙々と流し込んでいった。そうやって食事をしながら、6人からリングという街について情報を集めた。おすすめの宿や武器防具屋、スラム街の場所など、有益な情報を集めることが出来た。

「見張りはどうします?」

クレムが夜の見張りについて聞いてきた。今日はエイクがいるから順番はどうするか尋ねに来たようだ。

「俺としては、中途半端な時間に起きるのは面倒だから朝までやってもいいんだが。」

「それだと、エイクさんの負担が大きくなってしまいますけど...」

「かまわねーよ、そっちは交代で1人ずつだせばいいんじゃねぇの?」

エイクは人間をやめてしまったので、基本的に眠る必要がない。食べる必要もないが、必要がないだけでそういう欲求はある。しかしエイクはこの6人に対して欠片ほどしか味方意識がないのでなるべく眠る姿は見せたくなかった。

「そ、それじゃあお言葉に甘えて、こちらからは1人ずつ出しますね。」

「それでいい。」

その言葉通りエイクは一晩見張りを務めた。そして、何事もなく朝を迎えた。

 翌日の昼過ぎごろにリングに到着した。検問では身分証を持ってないことを指摘されたが、丁度エイクは何も荷物を持っていなかったので、その理由として魔物に襲われて荷物をなくし、その中に身分証も入っていたことにした。街に入るのに 銀貨1枚とられたが大した額じゃないので、許容範囲内だろう。身分証は国民登録をするか、何かしらのギルドに属すると貰えるらしいので、それを取得するように言われた。

「では、無事街に着いたということで、依頼は達成ということになります。『疾風の剣』の皆さんは冒険者ギルドで達成報告してきてください。エイクさんはこちらが報酬になります。」

そういってカリエは、布袋を差し出してきた。

「みなさん、お疲れ様でした。」

こうしてエイクのチュートリアルもとい、初の護衛依頼――護衛と言っても半分付き添いだが――は終わりを告げた。『疾風の剣』の面々と解散した後、エイクはとりあえずこの世界の身分証を手に入れるために、冒険者ギルドというものに向かうことにした。

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