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順当に進むトーナメント。
昼挟み若干膨らんだ胃の中のようにスムーズな消化。
『2回戦第9試合! シャーロット隊とブラウン隊の試合を始めます!』
2回戦終盤にてシャーロットたちの登場だ。
相手は見た感じザックリだが防御タイプっぽい。
(相性的にはコッチのが若干不利ってとこか)
シャーロット隊はバランスに主体を置きつつも、速攻技の比重が多い。
即効の連携を重ね、序盤で物言うスタンス。
相手さんに粘られれば粘られるほど後半戦に響いてくる。
そんなこんなで恒例の10カウントは既にノックカウント。
より増大する歓声、神経が張り詰める。
『さあ試合開始です!!』
幕が切って落とされる。
もちろんシャーロット達は先攻、合図とともにスタートラインを飛び越える。
ガンガン先行、後手に回らず削って削って削りまくる。
『やはりシャーロット小隊は特攻! 1回戦と同じスタイル! 流石は変幻の教えを受けし小隊、全攻めだあああああああああああ!』
本来小隊ってのは作戦という存在を軸として行動する。
考え無しの一本調子、見切り発車では何時か必ず潰されるからである。
しかしそんなもの考慮せず、常識を鈍器で殴り飛ばしたのがエイラと俺だった。
ただシャーロットたちは脳筋ではない。
実況の全攻めという表現は間違い、俺が叩きこんだのは半分は確かに本能プレー、しかしもう半分は冷静な観察と理論の上で成り立つベーシックスタイルである。
「青流星!」
力任せだけではない、機動は第3次元、歴史に学ぶ戦の手管。
最もキーになるのはシャーロットの能力『青流星』
なかなか珍しいカテゴライズ不可の力である。
内容としては、青い光のような、もしくは水に似たような粒子を生み出し、剣として弾として盾として展開できるというもの、なかなか多彩な能力である。
その多彩はまさにハナビ灯り、派手で美しく、小隊の大基盤となって戦況を動かす。
(しっかし光系でも水系でも、そもそも変化系ですら怪しい。妙な力を持ったもんだな)
特異といえば特異。
俺のシンクロは支配系能力として確立、エイラの能力も強化系能力の最高峰として有名だ。
ただシャーロットの能力はどこか曖昧。
賢者の書が創った読み取り陣が判別ができなかった謎めいたもの。
『更にじゃ、戦いが加速すればするほど力が増しているのう』
「だよな、いくら何でも成長速度が早すぎる」
『それも実戦でのみ磨かれるタイプ、なんとも真っすぐな力よな』
今なお相手が展開する盾に百のアクセスを。
他4人と連携とりつつ、正面攻撃、側面にシフトしたと思ったらクロスカウンター、確かに練習の時も上達してはいたが、本番での動きは別格。
相手との高め合いなんて生易しいものではなく、突き落とす、一方的な進化論。
及びはしないが、その天才ぶりはエイラを彷彿とさせる。
まさに実戦の麒麟児。
「クラリス! メイジー! 右翼に展開!」
「「了解!」」
「リサは左のねちっこい奴対処!」
「あたしばっかり変な役じゃん!」
シャーロットのリーダーシップは十分するほど効果を発揮。
ハッキリと明確に動きを変化順応させていく。
サファイヤ色の瞳は単調な戦いを見通し、勝利を導き出そうとする。
そのクールで正確かつ独創的な持ち運びは現代のアルキメデス。
『対してブラウン隊は守りの一手のみ! 果たしてどこから攻め返すんだ!?』
やっぱりちょっと違うんだよな実況さん。
ブラウンなにがしは隙を伺っているんじゃない。
一方的に嬲られているだけ、シャーロット達の攻めが激しすぎて対処できていないのだ。
事実表情に余裕なんてものはなく、押されるのみ。
(手を出したらカウンターを喰らうし、放出系の能力に変えたところでシャーロットがすぐ対処、退路なんてものも無い)
『勝負は決したのう』
「ああ、シャーロット達の勝ちだ」
既に的中予測を脳裏に描く。
観客たちも大体察してきただろう、ここの空気はシャーロットたちのものだ。
相手さんは何が出来たわけでもなく足本をぐらりと揺らす。
もう限界なのだろう、1年生ながらよく持ち堪えたと思う。
逆にだ、ここから一発逆転するにはS級連れてくるぐらいしか活路は無い。
さあ終わりだ、実況も終了アナウンスに入りかけた。
しかしその時だ、漂ってた風がその活路、悪意を孕む外敵を察知した。
『ユウ!』
(ついに来たか……!)
上手すぎる気配遮断、レネが気付く、すぐさま神眼を共有して敵影を把握。
10、11、12、いや13か、なかなかの数だ。
しかしまだ近くに侵入したばかりの配置、どうやら潜入開始と同時に気づけたようだ。
まさに神がかり、これならまだ対処の方法は多い。
『ここでついにシャーロット隊が相手のブラウン隊長を討ち取ったああああ! よって勝者は————』
試合中心には予想通り勝利をもぎ取った彼女らが。
凄まじい攻撃姿勢、烈火の如き熱いスタイルに観客もヒートアップ、その声量に実況も負けじと声を張っている。
このまま試合が順調に運べばシャーロット隊が優勝を飾れたかもしれない。
申し訳ないと思う、ここまで努力をしてきた姿を俺は知っているから。
(だがな、テロリストが突入してきてんのに、それを見過ごすってことはねえよ)
四方八方、どんどん迫っていく暫定敵と思われし者。
観客も多く放っておけば被害がもっと出るかもしれない、なら少しでも最小限に、そして彼女を守るために。
この新人戦を潰すことになったとしても、俺は俺にとっての最善を取る。
デカい声の観客と実況、それを上から飲み込むのはより大きな力だ。
「大気同調!」
範囲をあえて縮小、この会場への同調密度を最高潮に。
限定領域において全ての空間を支配。
この会場は俺の手に掌握される。
埋め尽くすは青い粒子、シャーロットとは色異なり、そして圧倒的な質量差。
突如現れ覆いつくす光に観客たちが違う意味で騒めきだす。
『な、何故か急に会場が青い光で包まれております! これは一体……』
セコンドたる舞台裏からこの身を晒す。
敵が現れた以上徹底的に叩き潰す。
シンクロの中心点たるシャーロットのもとへ迅速移動、体感領域360度を支配する。
『へ、変幻が壇上へ登場しました! この青い光は彼による仕業なのでしょうか!?』
あらゆる視線が突き刺す中で、本命だけを詳細に把握。
敵はまだ手出しはしない様子、気付かれたことに気付いていないのか、悠長な奴等だ。
既にこの手は風となり襲撃者どもの首を殆ど抑えた。
「————潰れろ」
皆が俺の登場に疑問符を浮かべる中で、天高く伸ばしたこの手を握りしめる。
まるで果実を潰すように、躊躇いなく、吐く言葉は現実に。
俺の動作に連鎖、風という鎖に圧殺が伝播する。
「きゃ、きゃああああああああああああああああああああ」
すると悲鳴が観客席内から、女性の恐怖が迸る。
それもそのはず、その女性のすぐ傍にいた何の変哲も無い男の頭が弾けたのだ。
モザイク無しの言葉通り、まるでトマトを潰す感覚、脳内からミソと血液をまき散らす。
「ユウ! これは……!」
「敵だ。俺から離れるな」
しかしそのトマト潰しは何もその1人に対してだけではない。
観客席、舞台裏、ゲート近く、敵と100%で確定せし者すべての脳天を血に曝す。
だが確認した全てを全て排除出来たわけじゃない。
(2人、いや3人逃したか……!)
俺のシンクロ支配から逃れた能力者が少なくとも3人。
間違いなくS級以上の力量の持ち主だ。
そしてその逃れし者は何処にいるかというと————
「空間崩し!」
「っくそ!」
「これ防ぐんか! てかやっぱ真正面からの戦いになったなあ!」
突撃してきたのは目元以外包帯を巻いた長身男。
ただ口唇は雄弁、むしろ狂気を帯びている。
「蒸発させない、炎煙」
分かってはいたが今度は後方から、ハッキリとした女の声。
女の子なんて軽々しい表現では収まりきれず、持ち出されるのは超高圧の煙、いや蒸気か。
風の比重を偏らせ何とか跳ねのける。
「っけっけっけ! まさか突入早々、いや突入した瞬間に見破られるとはビックリだぜ!」
「ホントね。死線を見るは確実、お給料に見合わない仕事だわ」
「あんたらは何者だ? 誰の命令で動いてる?」
「っか! 答えるバカはいねえっつーの」
「まあそうだろうな。俺だって建前で一応聞いただけ、結局は殺せばいいだけの話だ」
「あっそうかよ…‥‥」
言葉は飾りで、答えは要らず。
バカ正直に応えてくれる可能性もあるかと正直思ったが、相手はそんなアホじゃなさそうだ。
(レネ、あと1人は何処に行った?)
『それが反応を見失った。寸でまで会場内に居たはずなんじゃが……』
(まさか逃げたのか?)
『それはあるまい。目の前のこやつらは時間稼ぎじゃろうに』
敵影1人ロスト、レネが見逃すなんて相当、ホントに人間か?
また現実に戻れば、先ほどトマトみたいに弾けた人間に対し、観客は悲鳴を上げ狂気の場となりかけたこの会場。
しかし逃げ惑う暇もなく、超上の者同士が醸し出す気に飲み込まれ動けなくなる。
立ちすくむ、腰が抜ける、畏怖する、目を見張る。
これはルールある大会とは違う、平和に浸った観衆が肉眼で見るのは全力の殺し合い。
負けた方が死ぬという修羅の世界なのだ。
「名前ぐらいは名乗っといてやる! 俺は首無し!」
「私は炎煙」
「……首無しに炎煙、確かブラック・リスト認定されているS級能力者だったか?」
「ほう! 良く知ってるじゃんか! 偉い偉い!」
世界にS級以上は400人といない、しかしその中の全員が善行を働く者ではない。
その卓越した能力で私欲のままに、闇の住人になる者もいる。
目の前にいる2人もそう、うろ覚えだが国際指名手配されている能力者だったはず。
金を貰って殺しの任を行う、悪い意味でのお雇い能力者だ。
「先に言っとくけど、素直にシャーロット・エリクソンを明け渡すというのなら、私たちは何もせずにここを去るわ」
「バカか? そんな要求飲むわけないだろう」
「そうね。そう言うと思ったわ」
「でもよ変幻、こんだけの人間を守りながらじゃ流石のお前も分が悪いんじゃないかあ? それともお嬢様以外は見殺しにするかあ?」
「…………」
会場に居る殆どの人間は恐怖で動けなくなった。
中には目を覚ました者もいるだろうが、タイミングは完全にスルー、逃げるべき時を見出せない。
動いたら殺されると思っているのかも。
だが目の前の連中はやりかねない。
俺はとられたんだ、シャーロットだけじゃない、何百何千という人質を。
(だがな、そんな作戦布いてくることくらいとっくに想定してるんだよ————)
「シャーロット、それからお前4人、よく見とけ」
これは滅多に見せない奇跡の行い、ここは特等席だ。
シャーロット、クラリス、リサ、メイジー、マーサ。
現状物理的に俺に最も近い人物たちであり、短期間ながらも教えを授けた者たち。
俺はシャーロット以外を見殺しにする気ははなからなし。
俺が見捨て男じゃ、エイラの評判下がるってもの、それに俺自身寝覚めも悪くなりそうだしな。
「戦を愛し、銀を愛し、王道を行く」
「おいおい変幻! 神の業なんて使っちゃ人死ぬぜええええ!?」
「それは力として使えばの話だろ?」
「力として? 何を言ってやがる?」
「なら刮目しろ。不倶戴天が神の姿を今ここに————」
確かに銀世界を使っている中で武器や爆弾でも持ち出されたら状況的には俺の不利。
確かに銀刀を振るえば一瞬で何百という人間が銀に変わり果てる現状。
しかしだ、それはあくまで扱いきれてない俺が使えばという話。
本来の持ち主、それこそ神自身なら十分加減して扱える。
「おいおい冗談止めてくれよ……」
「神と戦うとは聞いてないんですが……」
銀瞳をギラリと輝かせる。
神力を爆発的に放出、敷地は整った。
そして舞台が整えばこの身より出でる最強の闘神。
「————顕現、銀神エレネーガ」
銀風渦巻く中で、世界に現る絶世の美しさ。
靡く銀髪、染まった銀眼、そして全身から溢れ出る絶対なるオーラ。
観客守るのは俺1人では敵わない、ならば頼りになる助っ人を。
助っ人というか神様なわけで、人ではないのだが。
「久しぶりの現世じゃ、楽しませてもらおうかの」
観衆の視線をロックオン。
今回俺の隣歩く相棒はうってかわり最強武神。
銀色美しいエレネーガの登場だ。