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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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 「今日はバンバン買い物するわよ!」

 「そっすね」

 「なによユウ、随分テンション低いじゃない」

 「いや、どうせ荷物持ちにされるんだろうと思って」

 「当ったり前じゃない」

 「ですよねえ……」


 これと言って音沙汰無しの毎日。

 強いていえば新人戦の訓練で音を上げるくらい。

 今日も今日とてボディーガード。

 休日ではあるが、シャーロットが買い物に行くというので付き添ってる次第だ。


 「レッツゴーよ!」


 足取りはニューヨークの市街地へ。

 一層多くなる群衆の中へと身を飛び込ませた。















 「これも可愛い!」

 「まあイケてんじゃないか」

 「微妙な反応ね、いい加減でしょ」

 「そんなことはない。本心さ」


 店を転々と巡る。

 しかし女ってのは恐ろしい、どれだけ動こうともまったく疲労の色無し。

 初めて訪れる場所ってのもあるが、正直クタクタ気味。


 (まあ今まで迂闊に外出てる状況じゃなかったからな、今日は楽しんでもらうとしよう)


 いかんせん彼女は襲われたばかり。

 これまでの護衛のレベルでは買い物なんて出来るはずも無し。

 しかし今は俺がいる。

 例え魔王が出てこようとも、持ち得る力すべてを使って守る所存。


 「でも意外だな」

 「意外?」

 「ああ、こういっちゃなんだが超金持ちだろ? てっきりブランド店ばかり行くもんだと思ってた」

 「んー確かにブランドもいいけど、こういう普通のお店も好きよ」


 シャーロット・エリクソンはお嬢様である。

 なんせ世界に名を轟かしエリクソングループ社長の一人娘なのだから。

 そこで偏見、てっきりブランド物しか興味ないんだろうと思っていた。

 しかし行く店は一般向け、普通の女子高生が訪れそうな所が多い。


 (もちろん少しはブランド店にも入ったわけだが……) 


 ブランド店、一度は聞いたことある有名店へ。

 初めて入る店内は壮観だった。

 まず展示品が少ない、広いスペースあるってのにポツポツと。

 漂ってくる余裕感、おそらくそれが高級店なりの見せ方なんだろうけど。


 「あんまりブランドで全身固めるって好きじゃないのよね」

 「まあ年相応って感じはしなそうだな」


 ちなみに俺の母国、日本の女性なんかブランドものが大好物。

 中学生からおばさんに至るまで、カバンでも財布でも何かしら持ってる人が多い。

 流行に乗せられやすい国柄だと感じる。


 「そういえばユウは何にも買わないのね」

 「特に欲しい物もないんでな」

 「ふーん、ならさ、イタリアで待ってる彼女にプレゼント買って行ってあげなよ」

 「彼女って……」


 現在進行形で何処に行くでもなくブラブラと歩く中。

 シャーロットはエイラにアメリカ土産を買っていけと言う。

 確かにと納得、差し入れでもしなければきっとアイツはご機嫌斜めだろう。


 (となるとやっぱ食べ物系の方がいいか、いやそれとも……)


 考えてみるがハッキリとは決まらず。

 好みはある程度把握しているが、いざ決めるとなると難しい。

 いや独りで考える必要もあるまい。

 なんせ隣には現役の女子高生がいるのだ。


 「なあシャーロット……」

 「ふっふっふ、分かっているわよ」

 「頼みます……」

 「任せて! さあ私についてきなさい!」


 どうやら心中察した様子。

 なんて漢らしい表情なんだ。

 これほどシャーロットが頼りな存在と思えたのは初めてだ。


 「プレゼントでもっとも大切なのは『愛』よ」

 「あ、愛か」

 「ええ! まずは気持ち! それから物を選ぶの!」

 「なるほど……」


 なんか急に勢いが強くなった気がするが、言わんとすることは理解。

 そうだな、まずは質よりどう思っているかだよな。

 流石は今を生きる女子高生だ。

 頼りがいあることこの上なし。


 「改めて聞くけど、ユウって聖剣使いのことが好きなのよね?」

 「ん……」

 「ハッキリしなさい。そんなんじゃ告白うまくいかないわよ?」

 「ま、まあ……」

 「はあ、とりあえず好きと、ならアレ(・・)がピッタシね」


 どうやらシャーロットの脳裏には既にベストなプレゼントが構想済みの様子。

 そして今はそれを売っている店へと移動中。

 こういう色恋沙汰になると、母親然り、シャーロット然り、クラスメイト然り、やはり女ってのは目が活き活きしてるな。

 そんなこんなで潜り込む高層ビル、中は店が所狭しと並んでいる。

 しかしだ、やけに高級感がある、行きかう人もみな上流階級の雰囲気。


 「あのーなんかヤバい所に来ているような……」

 「いいから黙ってついてきなさい」

 「は、はい」


 何を言っても通用はせず、ここは大人しく従っておこう。

 有無言わない旅も終点へ。

 シャーロットお目当ての店へと辿り着いたわけだが————


 「あれシャーロットさん? ここって……」

 「ウィンストンよ」

 「いやいや俺でも知ってるわ! 聞いてるのは何で来たかだよ!」

 「声がデカいわ。なにってそりゃプレゼント(・・・・・)を買いに来たからに決まってるじゃない」


 ニューヨーク生まれの超ブランド店。

 入口から既にオーラがヒシヒシと伝わってくる。

 今日で幾つも似たような店に入ったが、ここがダントツで凄い。

 戦闘力だったら53万、俺はまだ修行中、まず戦える相手ではないぞ。


 「さ、入るわよ」

 「ちょ待てって」

  

 スタスタと入店するシャーロット、流石場慣れしているな。

 いや関心している暇はなし、俺も彼女に続く。

 やはり中は余裕感じさせる高級造り、2人しかいない店員さんは女性で、どちらも洗練されたイメージを抱かせる。


 「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか?」


 なんと丁寧な物腰だ、エイラにも習わせたいくらい。

 だがそれも一旦保留、何故ってここまで教えてくれなかった品が開示されるからだ。

 一体シャーロットは何を求めてきたのだろうか。


 「今日は『指輪』を買いに来たわ」

 「指輪ですか、それは……」

 「エンゲージリングね」

 「っぶ!」

 「ちょっと汚いわよユウ」

 「いや普通にビックリしたんだよ!」


 こんな所まで来て、溜めに溜めに明かされた品は結婚指輪だと? 

 シャーロットは漢らしくて頼りになると評したが、前言撤回、ただのバカである。


 「前も言ったが、そもそも俺たちは付き合ってすらいないんだぞ?」

 「いいじゃない別に。気持ちは確かにあるんでしょ」

 「それとこれとは話が別だ! しかもまだ結婚出来る年齢でもないし……」

 「はあ、こういう時だけ常識者ぶるのね」

 「こ、こういう時って……」


 一体俺をなんだと思っているのか、何時も規則に従って真っ当に過ごしているつもり。

 まあたまにハッチャけることもあるが。

 なんにせよ、いくらなんでも過程を吹っ飛ばしすぎだ。


 「まだ臆するの? 誰もが、いや世界が貴方たちを認めてるのに」

 「…………」

 「私のために1ヵ月半も彼女を待たせておいて、決めるなら一発で決めなさいよ」

 「一発、か」

 「ユウも脳筋の端くれなんだし、深く考えるは止めて、それで常識もぶっ壊しちゃいなさい」


 俺も日本人、流れに流れてしまいそう。

 いや流されるわけにはいかない。

 この日こそは、この事だけは自分自身で決めなければいけない。

 抱いた覚悟は軽くない、一生を通して貫き通せる自信がある。

 

 「指輪のほう幾つかご用意致しました」

 「ありがとう」

 

 目の前に並ぶ円周数センチ。

 その存在はとても重い。

 海を知らない人間が、そこに飛び込む勇気。

 しかしシャーロットが翼を見せる、1つの飛び方を教えてくれる。

 その羽はもっと先に使うと思ってた、むしろ訪れるのかさえ不安であった。

 しかしプロセスを放棄、端から端へ飛び越える。


 「……これ」


 並んだプラチナリング、その中から1つ目についた物。

 両隣がダイヤモンドでキラキラと輝く中、それだけは装飾殆ど無しのシンプルチック。

 華が無いように見えて、何よりもストレートに感情を伝える。

 挑むなら裸一貫、やるなら突撃、嘘偽りが存在しない。

 思いを広げすぎだろうか、いやだが、俺は俺としてそう感じる。

 

 「気に入ったみたいね」

 「……だけど現実的な話、これを買える程の金持ってないぞ」


 俺は今こそこうしてボディーガードの仕事をしているが、これまで能力者として仕事を受けたことは1度だって無い。

 だから貯金は他の同年代と大して変わらず、ちゃっかり値段を確認するが、少なくとも一介の高校生が買える代物ではなし。

 むしろ平均の3、4倍以上するんじゃないかというレベル。


 「なら私が先に払っておいて、後で給料から差し引いておくわ」

 「なるほど……」

 「それなら買えるでしょ」


 確かに今やってる仕事、この報酬はかなりの額。

 一流のスポーツ選手かっていう好待遇設定だ。

 まだ受け取ってはいないが、少なくとも指輪ぐらいなら余裕で買えるぐらい。


 「じゃあこれを買うわ」

 「ありがとうございます。少々お待ちください」


 下がっていく店員さん。

 それに同調するわけでもないが、俺のテンションも下降線。

 いや下がってはいないか、どちらかと言うと停滞、決断はハッキリ自覚しているというのに、意識はフワフワと浮いているよう。


 「今のうちにプロポーズのセリフ考えておきなさいよ」

 「ぷ、ぷろ、でもそうか、これプロポーズになるのか」

 「はあ、ホントに大丈夫?」

 「もちろん。ただビビってるつもりはないんだけど、なんか緊張する」

 

 ゴチャゴチャと考えていても(らち)明かず。

 突っ込むなら突っ込む。

 ダメならダメで潔く玉砕しようと思う。


 「あれ、大分開き直ってきた?」

 「開き直るって、まあ、ここまで来たらなんか吹っ切れたよ」

 「ふふ、ならよかったわ」

 

 シャーロットに誑かされたわけではない、指輪も選ばされたわけではない。

 これは全て俺の意志である。

 覚悟も感情もひっくるめて殴るようにぶつけるつもり。

 これこそハードパンチャー、これぞ脳筋スタイル。

 

 「お待たせしました」

 「ありがとうございます」

 「頑張ってくださいね」

 「ええ」


 会計は済み、ロゴの入った高そうな袋を受け取る。

 この三辺数センチの箱は魂の具現化。

 店員さんにも応援され、店を後にする。


 「ちゃんとタイミングは選ぶのよ、それから服装とか……」

 「シャーロット」

 「それからって、なによ」

 「一番大事なのは恰好じゃなくて、気持ち(・・・)だろ?」

 「あら、良くわかってるじゃない」


 この答えにお嬢も笑って返す。

 そうとも、俺はまだ脳筋見習いであった。

 しかしステージアップ。

 常識を吹っ飛ばす、この時だけでも、アイツにふさわしい脳筋としてぶつかるさ。


 「ただ学校の連中に言うなよ」

 「っそ、そんなことするわけないじゃない……」

 「守らなかったら訓練追加だ」

 「分かった。分かったわ。成功するまで黙っておく。だからこれ以上のは勘弁して————」


 やはり言いふらすつもりだったよう。

 釘を刺さなければどうなっていたか。

 

 (こりゃ一番に報告する相手はシャーロットになりそうだな)


 結果どうあれ、ここまで振り切った選択になったのは彼女に出会ったからこそ。

 俺にとって今年最大級のイベントが決定。

 考え要らずに本能で語る所存である。


 

  

 



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