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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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74.5 with Boring and Lonely

 「————退屈だ」


 ユウがアメリカに行ってから数日。

 充実しない日常、冗談を言う相手もいない、この環境での時の経過はとても遅い。

 歴史の呼び起こし、もしくは逆転。

 ユウと出会う前まで過ごしていた億劫な毎日の再臨。

 

 「素振りでもするか」


 身近な変化として、私はなんとか3年へと進級した。

 しかしこれといって良いことも無し、いっそ留年してユウと一緒にアメリカに行きたかった。

 いや文句を言っても仕方なし、嫌なことは忘れる、私の脳はそれに関してエキスパート。

 つまりはフェイクハート、心の吐露を強引に紛らわせる。

 現実に戻れば、既に授業は終え閑散した教室、隣に伴う者も居ず独りで練習場まで向かう。

 聖剣携え暖風身体に、髪が宙に囚われる。

 

 「む……」


 何を考えるわけでもなく闊歩、何時も使う練習場へと辿り着く。

 しかしそこには珍しく先客。

 活力に満ちた表情、まだまだ練度の低い動き、四苦八苦しながらも全力で試行する者たち。

 おそらく1年生、それが10人程度だろうか、なんとも楽しそうに思える練習風景。

 しかし気付く、その中に混ざる知り合いを発見したのだ、そしてどうやら相手も感づいた様子。

 

 「お、フォードじゃないか」

 「……エイガー先生、何をしているのだ?」

 「放課後居残り練習だ。授業じゃ足りないって言われてな、こうして残業というわけだ」

 「それは大変だな。だが喜ばしくもあるか」

 「ああ。今年の1年生は特に意識が高い、これもお前たちのお陰かねえ」


 曰く、実践教科の担当としてエイガー先生が面倒をみているよう。

 これまでの数日間は基礎的なことを教えていたそうだが、もっと強くなりたいと言われ、こうして居残って練習をしているらしい。

 

 「先生、この方ってあの……」


 軽くエイガー先生と談笑していたが、離れたところから1人の女生徒が近づいてくる。

 それに伴い周りの生徒たちも呼応、集団となって現れる。

 

 「そうだな一応紹介しておこう、知らんわけも無いだろうが、3年のエイラ・X・フォードだ」

 「「「「「おおおおお」」」」」


 デカいリアクション、自分で言うのもなんだが私はそこそこ有名なのだ。

 この学園に入学する人間はほぼイタリア人だろうし、同世代ならなおさら。

 きっと良い意味でも悪い意味でも知られているはずだ。

 事実、今相対する1年生たちからは好奇の視線、他にも畏怖や尊敬などあらゆるものが混じったのを感じる。

 絵具の色を合わせれば最終的に辿り着くのは『黒』

 結局私が感じてしまうのは光がない、その真っ黒な混ざり物の感情なわけだが。


 「折角だフォード、こいつらに生の力を見せてやってくれないか?」

 「……別に構わない、ただ何をすればいい?」

 「丁度さっきまで自律機械オートマタで模擬戦をしていた、そいつと戦ってくれ」

 「わかった」


 この練習場の中心にあるのは、白いロボット?

 なんとかかんとかという人物が創ったものだそう。

 まあ要は人工の戦士、冷静な判断を持ち、備え付けられたブレードを得物とする。

 人工物故能力は持っていないが、そのパワーとスキルはなかなか、らしい。


 (私の前ではただの棒立ち人形にすぎんがな)


 皆私の戦いが観れるということで一歩引き目を見張る。

 しかし戦いという戦いにはならないだろう、なんせ私は最強(・・)を目指す者なのだから。

 エンターテイメント性は完全排除。

 戦闘に甘い感情は無く、相手が誰であろうと真剣に。


 「よし、俺の合図で始めるぞ」

 「ああ」


 聖剣を握る、解き放つ光の眩しさ。

 隙なし、油断なし、負ける気なし。

 人外との戦闘機会だし、この溜まった鬱憤をぶつけさせてもらうとしよう。

  

 「それでは、模擬戦開始!」


 相対するロボットに電流奔る。

 おそらく中でごちゃごちゃと考えているのだろう。

 

 「————強化ミラータ


 しかし戦いに深い思考なんて要らんのだよ。

 強化を流し聖剣に勢いを、この身は昇華、一次元上へと。

 機械仕掛けの速戟も意味はなし、人形が刃を振りかぶったとき、私は既に懐へと到達している。

 

 「穿て、聖剣カリヴァーン


 憂さ晴らし、ストレス発散、大膨張させる聖剣の力。

 膨張の先は破裂、刹那に十字光が輝くが後は淘汰。

 美しくも恰好よくもない、武骨なまでの暴力で胴体中心点へ風穴を空ける。

 だが穴と認識するのも僅かな時、金属は融解、重厚な脚より上は圧倒的熱量で塵と消える。


 「終わりだな」

 「あ、ああ」

 「私はもう行くとしよう、頑張ってくれ先生」


 きっと残業代は出ないだろうがな。 

 それでも生徒は先人を求める、教えを受けれることの幸せ。

 原型無くした人形に背を翻す、エイガー先生に一言残してこの場を去る。

 群衆から出れば再び人無きの世界。

 

 「早く帰って来いユウ————」

 

 この声は空へと、風へ流され消えていく。

 ユウは何をしているだろうか。

 私は退屈で退屈で、そして寂しい。

 願うは時間の経過、早く会いたいという思いだけである。














 「すっげえ……」

 「私たちが10人がかりでも苦戦してたのを一撃だよ」

 「やっぱまじかで見るととんでもない化物だな」

 「試合で当たったらリタイアだわこれ」

 「でもクッソ美人なんだよなあ」

 「それそれ! まじで一瞬女神かと思った!」


 フォードが去った後、静寂だった空間は打ち砕ける。

 各々が思ったことを濁流のように口に出す。

 そりゃさっきまで戦っていた、苦戦していた自律機械オートマタを一瞬で葬られたわけだから、彼らがテンション上がるのも致し方ない。

 

 (しっかしこの機械高いってのに、随分荒れてるなフォードのやつ)

 

 値段云々はフォードには関係なし。

 ただいつもの天真爛漫、いやバカさかげんは薄く、終始俯き気味の様子だった。

 能力の使い方についても荒っぽかった気がする。

 おそらくという推測の言葉付けずとも、理由は明確。


 「……アイツがいないからか」

 

 アイツとは俺の生徒にしてフォードの相棒、現在留年を回避するためアメリカに留学中の男である。

 普段からずっと一緒にいる2人、それこそ離れているのは授業中くらい。


 (なんせ授業の合間、短い10分休みですらフォードはヨンミチに会いにくるしな)


 引っ付きぱなっしの関係、急に乖離すれば心情変化は大きいはずだ。

 俺は教師、生徒の個人的関係にまで口を出すのもあんまりだが、エイラ・X・フォードという人物にはヨンミチはもはや欠かせぬ存在だと感じる。

 あいつらは似ていて、そして互いに依存し支え合う。

 まさに一蓮托生の権化ごんげである。


 「お前ら、フォードは別格だからな。すぐに追いつける存在ではないぞ」

 「心底わかってますよ」

 「うん! まずは目の前のことからだよね!」

 「ならば良し」


 今年の国際小隊戦でフォード小隊が優勝したことで感化、新入生たちの意識は全体的に高い。

 現在進行形で面倒を見ているこの1-Aは特にその傾向。

 ポテンシャルもさることながら、持ち合わせる高い向上精神、非常に将来有望であり、学園長が生きておられたらさぞ喜んだことだろう。


 「てかフォード先輩を怒らせたら大変なことになるよな」

 「ああ。止められる奴いないだろうし」

 「先生でも無理ですよね?」

 

 今なおフォードの強さ打ちひしがれる時間は続く。

 ポンポン新たな話題が展開されていく中で、生徒に尋ねられる。

 曰く、フォードがキレたら学校が潰れるんじゃないか。

 あるいはこのローマごと吹き飛ばされるのではなか。

 そして、それを阻む者は存在するかというものだ。

 

 「教師の俺が言うのもなんだが、戦っても瞬殺されるだろう。止めるのは不可能だな」

 「ですよね……」

 「並みの能力者では話にならんさ、なんせSSS級の聖剣使いだ」


 伝説級の冠は伊達ではない。

 特にフォードは攻撃超特化型、近接戦で敵うわけもなし。

 となれば、あと止められる可能性があるのは万能系の能力者、魔女王を例に出すのもどうかと思うが、そういう数多の手を極めた者ぐらいである。

 だが運命的なことに、そんな万能の能力者がこの学園には1人いる。

 しかも神を連れ、魔槍を所持するというオマケ付きで。


 「なに心配するな、ここにはあの男(・・・)もいる」

 「あの男って……」

 「エイラ・X・フォードの相棒、そして変幻の名を持ち————」


 世界を支配する同調、宿すは銀眼、半身に刻んだという羅刹王の力。

 そして彼女と最も近しい視界を持つ人間。


 「留年するぐらいの不勉強な男、ユウ・ヨンミチという脳筋だよ」

 

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