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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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 「全体系の防御が甘い! 右崩れてる! ほらしっかり守れ!」


 俺は今シャーロット、もといシャーロット小隊にしごきをしている。

 久しぶりの形、1対5の模擬戦。

 傍から見れば俺のハードモードに感じるかもしれないが、実態は真逆。

 逆転的で一方的な戦況。

 今もシンクロで操る風を容赦なく叩きつける。


 「ちょ、ちょっと手加減しなさいよ!」

 「強くしてくれって言ったのはシャーロットだろ」

 「確かに言ったけど————!」


 回避の暇は与えず、追撃追撃追撃。

 耐えうることなく途端に崩れる連携フォーメーション、タクティスもなにもあったもんじゃ無し。

 

 「死ぬ! 死ぬってこれ!」

 「シャーロット、支援入って」

 「わかっ、きゃあ!」


 (ズタボロだなこりゃ、まるでお遊戯だ)


 別にシャーロット達が弱すぎるわけではない。

 ただ俺からしてみれば目の前にいるのは小隊ではなく、集合(・・)にすぎないレベル。

 普通な結果は出せるだろうが、少なくとも予選を勝ち上がれる練度ではない。


 「「「「「ギ、ギブ!!」」」」」


 とうとう音を上げ地面に突っ伏す。

 全身で荒い呼吸をし、意識は飛びかけている。


 (これでホントに新人戦勝てるのかねえ……)


 俺が小隊練習に付き合う理由は先ほど発表されたあるイベントから。

 イベントの名は『新人小隊戦』

 ヒーローズ・アカデミア・ニューヨーク校の伝統らしく、親交を深める意味もあって1年生だけの模擬戦の大会をやるらしい。

 当たり前のことながら俺は不参加。

 しかし護衛対象のシャーロットはもちろん参加、同じく倒れている4人の彼女らと出場するつもり。

 それで『優勝するために練習付き合って』とお願いされたので、こうして訓練してやってるわけだ。


 「ユウ、あん、た、護衛じゃなくて、私を殺しに、きた、の?」

 「呼吸整えてからは話そうな。てかこれぐらい出来なきゃ優勝ないぞ」

 「う、うそ、でしょう、ハードすぎ……」

 

 確かに多少盛ってはいるが、数分の練習でこれでは先が思いやられる。

 1年生のこの姿を見ていると、やはり国際小隊戦に出てきた小隊たちの凄さが分かる。

 

 「とりあえず、一旦休憩にするか」

 「「「「「イエッサー……」」」」」


 俺がシャーロットの練習相手になるということで、他の1年生たちも興味を持って観覧しにきていたようだが残念。

 この光景を見て退いてしまう。 

 共同のはずの練習場も、今や貸し切り状態である。

 しかし、これぐらいでビビるようでは世界で戦えない。

 なんせ国際戦で出会うのは常識を超えた怪物だらけ。

 空間を爆破する奴もいれば、時を止めたり、はたや聖剣で暴れ出したり。

 そういう超上の舞台なのだ。


 「ホントに、強すぎ」

 「お、回復してきたか」

 「ちょっとだけ、喋れるくらいには」

 「それは何よりだ」

 

 シャーロットもそこそこ回復する中で、隊員のクラリスやリサも起き始める。

 やはり名門ニューヨーク校の1年生、ポテンシャルは高そうだ。

 

 「清々しいほどの完敗だわ」

 「敗北を認めるのはいいことだな」

 「でもこれに、ユウの隣には脳筋エイラ・X・フォードも加わるのよね……」

 「うっわ確かに!」

 「そう考えると恐ろしい」

 「戦ったら本当に死ぬ……」

 

 その通り、俺は今手加減しつつ独りで戦っているが、本番になればエイラも隣に居る。

 本物の世界に入ったばかりの1年生には大分ツライ現実だろう。

 だがちょっと勘違い、なにも危険に晒されるのは相手だけではない。

 

 「でもな、死にそうなるのは俺も一緒なんだよ」

 「どういうこと?」

 「エイラの奴は何も考えてなくてな、戦ってる時、普通に俺の顔数ミリ横を聖剣が通過してくんだ」

 「ええ!? 当たらないの!?」

 「なんとかな、だから俺も気を抜けないわけ」

 

 当たったことはない、だが掠るくらいはよくあった。

 最近ではもう危機感を感じなくなってきた、一体化しているというか、意識が繋がっているというか、強化同調しなくとも行動は予想できるくらいに。


 「そういえば、ユウさんは脳筋さんとどんな出会いをしたんですか?」

 「あ! それ気になる!」

 「私も。是非ともお聞かせ願いたい」

 「アイツとの出会い、か……」


 休憩がてらに昔話。

 そんな前の事でもない、ほんと半年ぐらい前のこと。

 だというのに、思い返せば濃すぎる日々、波乱万丈の物語かもしれない。


 「エイラとは、そうだな、まず出会った瞬間に殺し合いをしたかな」

 「「「「「殺し合い!?」」」」」

 「あの時はマジで死を垣間見たよ、これはヤバいやつだって」

 

 濃すぎて濃すぎて、細かい味など忘れてしまいような記憶。

 しかし、話せばつらつらと口から這い出てくる。

 出会って、なんとなくタッグを組んで、気付いたら意気投合でロシアの魔王倒しに、そっから国際戦にも挑んだな。

 ロシアの空から落ちてからなんて、1ヵ月半はアイツと寝食共に過ごした。

 大切なことからしょうもないことまで、メモリーの容量は無限とばかりに刻まれている。

 

 「旅して食料に困った時なんかな、大食いのくせに腹いっぱいだとバレバレの嘘ついて————」


 エイラは大食漢、胃袋四次元ポケットと錯覚するくらい。

 だけどそんな胃袋比にならないくらい、でっかい器、そして優しさを持っている。

 だからこそ、旅の食糧危機では腹鳴らしながら食欲無いと言う、無理してんの見え見えだってのに。

 しかし食い物あるなら話は別、俺の家来た時なんかはこれでもかって食っていた。

 ラーメン巡に付き合わされて死にそうになった日もある。

 イタリアで過ごした日々も、小学生かよっていうバカバカしいことを一緒にやった。

 離れて気づく、なんて楽しい毎日だっただろうかと。


 「今の目標は、アイツに追いつくことかな」

 「追いつくって、脳筋さんはもっと強いんですか?」

 「ああ。俺なんかよりずっと、ずっとだ」

 「ひええ……」

 「でも、いつかは追い越してみせる。それが俺がアイツに出来る、最高の恩返しなんだ」

 

 同世代にエイラ以上の能力者はいない。

 それ故にあいつは孤独だった、ずっと先頭に立って、誰もいない道を進んでた。

 今もそう、あいつが俺をずっと引っ張ってくれている。

 何年後、何十年後になるかは分からない。

 でも、今度は俺がエイラを引きずれるくらいの男になってみせる。


 「ユウは、フォードさんが好きなんだね」

 「だねー。愛が無ければこんなに語れないもん」

 「世間でも公認の関係だし」

 「お似合いです」

 「というかもう結婚とかあ?」


 語りは反転、目の前の少女らは恋愛んだと目を輝かせている。

 この反応はどこの国に行っても変わらないな。


 「結婚てか、まだ付き合ってすらいないし」

 「「「「「ええ!?」」」」」

 「声でかいって」

 「本気で言ってるのユウ?」

 「ああ」

 「信じられない……」


 このパターンもどこいっても同じ、周りは俺たちが既に付き合っていると思っているらしい。

 メディアの影響だろうか、なんせアイツら勝手に色々報道するし。


 「誰かに彼女をとられることはないと思いますけど、早く告白した方がいいんじゃない?」

 「告白って、余計なお世話だ」

 「いやいや気になる! てかもう実はいつ言うか決めてたり!?」

 「…………」

 「あ、図星だー! 図星ですよこれー!」

 「死にたいようだなリサ」

 「あ、ちょっと止め! シャーロット助けてえ!」


 リサの頭に両手でグリグリしつつも脳内は曇天。

 俺が一番わかっているとも。

 遅咲きの花も、そろそろ咲くか枯れるか選ばなければいけない。

 この感覚に自覚あり、覚悟は決まっている。


 「さあて、そろそろ練習を再開するぞ」

 「ええー」

 「まあ仕方ないね」

 「始めましょうか」


 崩れかけの甘い箇所を指摘、穴を少しずつ埋める。

 埋めはするが、実践でぶち抜く方が多い現状なわけだが。 

 怠惰はつくが悪態つかず、無知を打開するムチ100%のハード訓練。

 俺は今こいつらに戦いを教えている。

 このニューヨークから海を越えた先、イタリアの地でアイツは今何をしているのだろうか———— 

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