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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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 「つまりこれが採用テストだったと」

 「ああ、まあ君には物足りなかったようだけど」

 「……貴方酷い人ですね」

 「はっはっは。よく言われるよ」


 エントランスより最上階近くへ移動。

 これでもかという巨大な一室に座す。

 相反、目の前に鎮座するは雇い主チャールズ・エリクソン。


 (俺のディスも笑って一蹴、苦手なタイプだ)


 ここまでそれなりに毒づいたが、様子見た限りじゃゼロダメージ。

 内面もガッチリガード、詮索を許さぬ風体。

 これが世界で名を馳せるトップ企業家、油断も隙もあったもんじゃない。


 『気を付けい、こういう人間は並みの魔族より恐ろしいぞ』

 (気を抜くつもりはないさ)

 

 戦闘ではない、卓上での戦い。

 いや別に火花を散らしているわけではないが、奥底を探られている気分。

 弾き出してくる言葉は理論と倫理のオンパレード、理詰めで俺を飲み込むが勢い。

 理解及ばずだが心配無用、なんせ俺、脳筋なんで。


 「それで今回君が壊したものなんだが……」

 「弁償はしません。貴方の差し金、これは自己防衛の結果なんで」

 「そんなことさせる気はないさ、ただ、もう少し手加減してくれても良かったんじゃないかい?」

 「十分しましたよ、むしろ貴方の部下が弱かった(・・・・)お陰で最小限の損害で済んだ部類です」

 「ははは、厳しいお言葉、痛みいるよ」


 恐ろしいぜ、そのポーカーフェイス。

 口元三日月メイク、出てくるセリフも軽快、この人が敵でなくて良かったと正直安堵する。


 「さて、そろそろ削り合いは止めて仕事の話をしようか」

 「どの口が言うのですかそれ……」

 「なに、これもほんの度胸試しさ」

 

 度胸試しとは言ってくれる、まあ雇う側としたら気になるのだろう。

 俺は能力だけではなく、仕事を行えるだけの精神レベルであるかどうかを。


 (なにせ相棒はアホで有名な脳筋・・なんで、その相方となりゃ心配にもなるわな)

 

 ここからは前述されたような削り合いも無く、仕事内容の再確認。

 契約金や制約、細かいことを打ち合わせしていく。  

 俺は普通に話しているつもりだが、チャールズさんは感心した様子。

 今度は冗談混じりの会話。


 「いやはや随分細部まで読み込めている。その年齢で大したものだよ」

 「脳筋の相棒だから、俺もバカだと思ってました?」

 「そんなことはないさ、ただ留年しているからフォード卿を笑うことはできまい?」

 「っぐ、仰る通りです……」


 痛いところ突いてくれる。

 そうだとも、俺は今のところ留年生だとも、だからこそこの仕事でチャラにしてみせる。

 そのためにグレーゾーンは出来る限り排除。

 効率化して対象の生存率上昇、あらゆる面で最適化していく。

 そんなこんなで話は大詰め、大体まとまったというところで、この部屋の重厚な扉が開けられる。


 (うわ……メイドさんだ……)


 扉を開け入ってきたのは白いユニフォーム来た、ずばりメイドさん。

 ただシルヴィで見慣れていたため驚きは少ない。

 にしても金持ちはどうしてこうメイドを雇うのか。

 時代は進んでいるはずなのに、この光景は2、3世紀前のよう。

 ちょっと大人びたそのメイドさん、俺に上手いこと口元を見せずチャールズさんに言葉を伝える。


 「さてユウ君、どうやら娘が帰って来たようだ」

 「そうですか……」


 どうやらシャーロット嬢が帰宅した様子。

 さてさて、エイガー先生からはじゃじゃ馬と聞かされたがはたして実体いかに。

 

 「シャーロットをここに呼んでくれ」 

 「かしこまりました」


 新たな託を得て下がっていくメイドさん。

 既に写真でシャーロットさんのことは大体把握しているが、これが初体面。

 緊張しないといえば嘘になる。

 ドタドタと鳴らして来るフローリングの対抗音。

 接近、接続、接触。

 開け放たれる扉、姿現すのはマロン色のショートカット揺らすお嬢様。

 俺が守る者、シャーロット・エリクソンである。


 「ただいまお父様」

 「お帰りシャーロット、この人が……」

 「知ってるわ。ユウ・ヨンミチでしょ」

 

 私服の出立、お父様と言いつつ挨拶は極薄、素通りして此方へ一直線。

 俺は座したこの身をゆっくり起こす。

 スタンドアップ、視線を上昇、下角度20度で交差。

 真っすぐ見開いた瞳孔、この銀の瞳と真向対峙。

 身体と身体の空いた距離を視界が詰める。

 

 「異例の速さでSS級に認定された男、まさかあの(・・)変幻が私の護衛だなんてね」

 「自己紹介の必要は、無さそうだな」

 「ええ。私のことも大体調べてあるんでしょう?」

 「もちろんさ、シャーロット嬢」

 「シャーロットでいいわ、形式は要らない」

 「まあそれでいいなら、俺も呼び捨てで構わない」


 ハッキリした口調、曲がっているところが無い一本太刀。

 ホントにここまで論争したチャールズ氏の娘かと疑うくらい真っすぐ。

 その点ではある意味エイラに近しいともいえる。


 「「…………」」

 

 無言点を刻む、言葉なき言葉、会ってから未だに視線を外さない。

 向こうはズラさない、なら俺が背けるわけにも。

 シルバーとサファイヤ、彩った瞳はお互いに一歩も譲らず。

 続く拮抗、しかしその停滞空間に終わりを告げる者が現る。


 「シャーロットが男の子とそんな熱い視線を交わすなんて、お父さんショックだよ」

 「あ、熱い視線!?」

 「冗談止めてくださいよチャールズさん」

 「ははは」


 バチバチの熱空間から解放、どうやらシャーロットは現実に戻ってきた様子。

 これでようやく視線を外せる。

 そして場を収めるのが上手いこと、俺はともかく、今のでお嬢様の方はだいぶガス抜きになったかんじ。

 

 「すまないねユウ君、シャーロットは負けん気が強い子でね、すぐ対抗心を燃やしてしまうんだよ」

 「同世代でSS級の俺ならなおさらと」

 「そこが娘の可愛いところでもあるんだけど、ね!」

 「ね、じゃないです! はあ、もう部屋に戻ります……」


 シャーロットは拗ねて部屋へ戻るという。

 いやはや彼女は少し怒りっぽいだけで、思ったほどじゃじゃ馬していない。

 これぐらいのヒステリック、クレイジーマインドならエイラに比べてマシなもの。

 

 「怒っちゃいましたよ娘さん」

 「いつものこと、しかし本当に妻に似てきた。彼女もすぐ怒る人だったよ」


 少し衝撃、ここに来て初めて人間らしい人間性をチャールズさんが出した気がする。

 事前学習から余計なおさらい。

 チャールズ・エリクソンの妻、オリヴィア・エリクソンはシャーロットを出産と同時に亡くなった。

 メイドを咬みしなければ、ここは娘1人の父子家庭である。

 

 「そうだ、あとこれを渡さないと」

 「これは……」

 「ヒーローズ・アカデミアの制服、用意しておいたよ」

 「ありがとうございます」


 手渡されるブレザータイプ、胸元にはニューヨーク市旗も刺繍されている。

 なんでもアメリカでは珍しく、ヒーローズ・アカデミアには制服が実装されているよう。

 流石は名門の能力者学校、体面も要視しているようだ。

 

 (見た感じサイズはピッタシ、よく出来てるもんだ)

 

 特に身体情報を開示した記憶はないが、こうも正確にできていると恐ろしい。

 超一流の企業ともなれば、その辺の情報などおちゃのこさいさいか。

 

 「それと君のタトゥーのことなんだが」

 「マズいですかね……」

 「学校的には完全アウトだ、ただね」

 「ただ?」

 「もう手は回しておいたよ」

 「……はは、ありがとうございます」

  

 満面の笑みで怖いこと仰る。

 確かにこの刻印のことは気になっていた、気がかりは解決。

 

 (どうせこれで借り1つってことなんだろうけど……)


 「では、約2ヶ月よろしく頼むよ」

 「はい。全力を尽くします」

 

 結局大事な案件とやらの内容は俺にも教えてはくれなかった。

 それでも結構、俺は俺がやるべきことをやるだけ。

 チャールズさんと手を交わす。

 その交わしは思った以上にしっかりと、この人のシャーロットへの愛は確かにあると感じられる。

 まあ相変わらず心読めない爽やかな笑顔も付属しているんだけども。


 (だけど任されたもんは最後までやり抜き通す)

  

 有名なアメリカ映画で、アルマゲドンというものがある。

 簡単に言えば男たちが死ぬ気で家族を、地球を救った話。

 その誇示に従うというわけでもないが、俺も死力を尽くす。

 この身をかけて、彼女を守護してみせよう。

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