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「ベックとアリエルは私と前に! サリーとザックは後方支援!」
「「「「了解」」」」
エイガー先生のカウント終了とともに模擬戦が始まる。
開始すると同時、ルチアがよく通る声で指示を送っている。
今回の舞台は練習場。
障害物がないのは当たり前。
正面からの衝突は避けられない。
前衛中心の攻撃型のフォーメーションでくるのがわかる。
「距離が詰まって来たな……」
俺も相手方も走っての移動だ。
200メートルなんて距離はあっという間になくなる。
俺はまだ能力で加速してないが、向こうさんの足は結構速い。
きっと能力だけじゃない、基礎訓練もしっかり行っているからこそのスピード。
接触まで10秒もかからずってところか。
走ってる。
近づいてる。
相手はもう目の前だ。
「いきます! 炎細剣!」
先に仕掛けたのはルチア。
彼女の能力が発動する。
発現したのは『炎』
同時に武器、能力の発現元になるであろう細い剣、レイピアがルチアの手に握られる。
ふと思ったけど、炎を纏うレイピアってなかなかカッコいいぞ。
(カッコいいけど、口頭がトリガーになる武器一体型の能力、ちょっとめんどいな……)
「燃えろ《バール》!」
レイピアに纏わりついた炎が触手のようにうねる。
剣の範囲に入らなくても炎の射程距離にいちゃ意味がないか。
ここは一旦、逃げる。
せめて少しは様子見させて欲しいもんだ。
「……岩砦」
「っうお!」
逃げようと動いたところに岩の壁、 というか岩の砦が生み出される。
俺も最近同じようなことやったな。
これがベックって奴の能力か。
「囲んじゃって妖精さんたち!」
俺が足止めされ動けなくなると上空には光の輝きが生まれる。
ダイヤンモンド・クレバス。
光放つそれすなわち、 妖精
アリエルは妖精使いのようだ。
「「妖精砦」」
ベックとアリエルの声が重なる。
小隊選はこれがめんどくさいんだ。
能力者同士の合わせ技。
現るのは光り輝く壁。
ベックのデカいだけの岩に妖精の輝きが付与されそれは出現した。
そして現在、 寸ででこれに円形となって囲まれたわけだが、おそらく物理然り、妖精のせいで能力も効きにくい。
これで俺は見事捕まったわけだ。
数秒で突破はできるが、こいつらはその『数秒』だけ俺を足止めすることだけが仕事だと伺える。
ただ本質は違うだろう、本当の目的は『合わせること』
「……極炎!!」
俺が中心となっている岩状サークルに、瞬間で極大の炎が放たれる。
周りは壁、これなら炎の火力を分散することなく一点に集中できるというわけだ。
しかも俺を囲んでいる岩は妖精の加護で対能力性が付与されている、籠を心配することもない。
そしてここで大本命ルチアの炎ということ。
この威力だと合間を見て詠唱か、 タメをしていたんだろう。
見事だ。
見事、見事。
同い年でここまで連携できていれば予選もいい結果を残せるはずだ。
さすがはAクラスってことなんだろうか。
ただ、貧弱。
連携見事、通じるだろう周りにいる奴らには。
俺からしたら申し訳ないけど、所詮Aランクってことだ。
「————シンクロ」
初御目見え。
とりあえず炎から同調。
「……能力反応、……きます」
「ルチアちゃん! なんかヤベッぞ!」
「っ!」
どうやら後方にいた2人は支援型のようで俺の能力発動に気づいたようだ。
もう遅いけど。
ルチアの放った炎に、青白い光が宿る。
同調、浸食していくかのように炎が色を青く変えていく。
一瞬だ。
コンマ数秒で炎は俺のものとなった。
(トリガーはえーっと……)
「燃えろ《バール》ってか」
俺を襲った炎の動きは新たな蠢きに変わる。
飲み込む。飲み込む。
こいつの使い方は能力自身が教えてくれる。
「……嘘」
「しっかりルチア! 妖精さんお願い!」
アリエルはちょっとアホそうとか思ってたけど、この状況下で冷静な判断をしてる。
実際俺を囲んでいる壁は健在だ。
立て直せる時間はある、 この壁が本当に健在ならだけど。
「バカな俺の砦が……」
すでにベックの造りだした『壁』は俺とシンクロしている。
壁は俺の支持通り地中へと埋まっていく。
ちなみに妖精さんたちにはすでに炎で逝ってもらった。
「燃えろ、燃えろ、燃えろ————」
俺の口から放たれるのは業火を動かす指示。
ルチアが頑張って創ってくれたおかげで後が使いやすい。
威力もさらに上げられそうだ。
標的は目の前。
青く生まれ変わった炎はうねりを増し、すべてを飲み込もうとする。
妖精とか、 突き出てくる岩とか、ルチアの赤い炎とか、出てくるすべてを喰らう。
喰って喰ってその大きさは増していく。
使ってみて思ったけど、ルチアの能力は炎を『操る』ではなく、炎で『喰う』ってとこか。
(本人はバーっと炎出すぐらいだと思ってそうだけど)
ここまでの流れ一通りでまだ4、50秒
やっぱあの脳筋が強すぎたな。
俺の炎はすでにルチアの操るそれとは別物だ。
火力も、範囲も、相性も、俺はコイツを限界領域ギリギリまで使える。
「私の炎が負ける……」
「サリー! なにか弱点ないの!?」
「……見つからない。……ここ一帯すでに彼の支配下」
「シンクロ能力、これほどのものか」
「次元が違うっしょ……」
さあもういいだろう。
観客席も最初とはうって変わって葬式みたいになってる。
となればレア程度に喰らわせて終わりだ。
「……1つ聞かせて」
「ん?」
「私は、いえ私たちには何が足りなかったの?」
「いや、なかなか良かったよ」
「なら——」
敗因は単純だ。
能力を最大限使えてないとか、 連携練度とか、 いろいろあるけど。
答えはもっとシンプル。
「足りないのは、能力の強さだよ」
「……え」
「Sランクに至れない程度の能力、それだけだよ」
「……そんなの、そんなのって」
「世の中不平等なことで溢れてるよ」
「じゃあ私は一生……」
「勝てないね」
残酷だけどこればっかりはしょうがない。
オンリーワンはいいことだけじゃい。
そこにはハッキリとした互換性がある。
「じゃあ、模擬戦は終わりだ」
「……っ」
リタイヤはしないらしい。
なら炎を動かす。
もちろん模擬戦だ、威力はそれ仕様に変える。
ただ後半弱い者いじめみたいになってたし、これじゃあボッチになる可能性絶大だな
「燃やし喰らえ《バーン・バール》」
まあそんときはそんとき。
炎が蠢き5人を飲み込む。
飲みこむ。
いや飲み込もうとしたその時。
「————ぬん!」
俺の炎は二つに割れた。
スイカ割りやったみたいにパッカリと。
突如現れたソレによって。
「……おいおい呼んでねーよ」
残火が舞う。
もう炎は死んだ。
新たに来たのは金色の嵐。
いやただのバカか。
「面白そうな気配を感じてな」
「だからって試合中に飛び入りしていいってもんじゃないぞ」
先生含め、ルチア達もさっきまでと違う意味で唖然としている。
久しぶり、という感じはしない。
なんせ数日前に会った。
正確には死会ったか。
「弱いものイジメがすぎるぞ」
「仕方ねーだろ」
「私なら瞬殺で終わらせる」
「お前もなかなか酷いな!」
一見美少女にみえる彼女、ただ腰にはあの忌々しい剣が携えられている。
忘れもしない。
あのときの聖剣。
「再会を喜ぼう我が相棒、 ユウ・ヨンミチよ」
「相棒になったつもりはないぞ、 エイラ」
俺はエイラ・X・フォードと早すぎる再会を果たした。