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「俺が持ち得し魂ども! さあ蘇れえええええ!」
邪神アガレスの奇跡を垣間見る。
煌めく黒色、そこに弧状を描き一層輝くものが放たれる。
火をつけるように簡単、闇より出でるは意思なき人形の山。
「おうおう、こりゃスゴイ」
「どうやら英雄や魔王の類まで混ざっているようですね」
「操作、いや蘇生術に近いか」
「……敵いっぱい」
真魔王とアガレス自身を筆頭とし、後方から進撃してくる魑魅魍魎。
中には教科書で見るような偉人悪人までいる始末。
「こんなんよく倒したなエイラ」
「うむ! 死にかけたがな!」
「で、ちなみにそん時は何体だった?」
「邪神含めて10前後だった気がする!」
今はザックリ30体ぐらい。
少なくも感じるが個々の技量が高いのだから、むしろ多い、反則的である。
しかし3分の1の数でもエイラは独りで片付けてしまったという。
頼りになる相棒、しかもだ。
今はこんだけ頼れる面子が揃ってる、まさか蘇った奴等に遅れはとることはないだろう。
「各人、作戦はひとつだけ————」
エイラが口を開く。
最後を予感、隊長から作戦命令下る。
それは非常にシンプル、シングルから個々団体戦になっただけ。
やはり目的一つ、既に存じている。
そう、俺たちの大前提コンセプト————
「叩き潰すぞ!」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
ゴチャゴチャしないコソコソしない。
埃を被ることになろうと、常に誇り高く絶対主義を実行する。
即座に脳内エンジンが青煙を排出。
シンクロ発動、大気と同調を開始、そして終了。
ここら一帯を支配下へと置く。
同じく右方左方で臨界点突破していく脳筋たち、テイク1からテイク2。
瞬間モーメント、最強を冠する部隊が今揃い立つ。
「さあ行くぞ! 私についてこい!」
「隊長が斬り込み役とはな」
「……バカに言ってもしょうがない」
「ドイツは最高!!」
「とりあえずぶっ倒せばいいんだよ」
電光の如く疾走、石火を散らす俺たち脳筋ランナウェイ。
皆そんな傷を負っていてよく走れるもんだ、表情も苦悶どころか笑みすら浮かべている。
だが分かる、鬱憤晴らし、自己顕示、累積暴露、溜まっていたモノを吐きだす。
まるで幽霊、全身全霊が背中に張り付き、この身を前へ前へと押し出す。
その中でも、やはり先陣きるは脳筋隊長のエイラである。
「真開闢強化!」
その手の聖剣に力を重ね掛け、黄金の嵐が巻き起こる。
天上天下、万物薙ぎ払う力の化身、これは決して過信ではない。
有言実行、真魔王までの道を阻む有象無象に黄金の旋風が襲い掛かる。
「聖剣!」
「……ぐぉ」
しかし聖剣を身体張って守る者出現。
それはかつて壁王とまで呼ばれた魔王、アガレスに囚われる魂の1つである。
壁王はその身を崩しながらも聖剣の勢いをなんとか削ぐ。
「超爆発!」
だが安心は束の間、後追いでクラークの爆破が炸裂。
壁王、そして行く手を阻む者を粉砕する。
だが黄泉より蘇った英傑たち、彼らは一枚岩ではない。
『ユウ! 大規模な魔法攻撃が来るぞ!』
「あいよ!」
レネの勧告とほぼ同時、今度は違う魔王より無限とも思える魔弾の雨が降り注ぐ。
それは雨の様でありながら太陽とも、魔法の輝きが辺り一帯を照らす。
(だけど魔女王、師匠の魔法に比べりゃ大したことない……!)
「魔法同調!」
シンクロ領域を侵す魔弾に介入、魔法を解析分解再構築。
更に重ね掛け、貰った分を倍返し。
「刻印! 風を起こせ!」
刻まれた印に神力を回す。
魔風を追い風、魔弾と共に打ち返す。
まさに天災乱舞、黄金と爆音、黒風が入り乱れる。
「……さっきの魔王の方が強かった」
「数だけだねえ。ネタ切れかなあ?」
「無駄口叩かず働いてください」
「そ、そうです! ってスサノオ助けてえ!」
『かっかっか! 楽しくなってきたね!』
魔法を能力を掌握、銀眼を輝かせ乗っ取る。
どんどん詰まっていく距離感、瞬く間にエイラが先行、そこに流れ込む俺たち。
ウイルスと一緒、一片の傷口から侵入、中から浸食。
それも凶悪ウイルス、抗生物質存在なしの、一方的蹂躙に等しい。
「くそが! もっと働け魂ども!」
「醜いものだなアガレス」
「なんだと……!」
「最初は奇抜な能力と楽しめたが、いかせん飽きた」
「飽きた、だと……!?」
「退屈なのだよ。私にとって貴様はただの人形遣いと同義、邪神とはこの程度なのか?」
真魔王は動作不調、今も強力な魔法を放ってはいるが十分見極められるスピード。
エイラの言う通り、あいつらは弱い。
俺たちのゴリ押しがバンバン決まってく、蘇った者たちが地に伏せる。
綱は俺たちが引くのみ、既に奴等はズルズルと引きずられるのみだ。
「鎖よ時を縛れ!」
「流転」
時には鎖が時を止め、時には事象を飛ばし。
このシンクロも空間支配、敵方から放たれる攻撃を撃退。
戦場を殺戮へと変化、立場逆転虐げる。
ここが地獄だとするなら、俺たちは鬼、ひたすらに奈落落とし、パワーとパワーで粉砕する。
「いいぜ! わかった! わかったよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
邪神アガレスが叫ぶ、声量でないナニカが大気に響く。
その狂気はおそらくエイラに一点集中、挑発に応えるのだろう。
その怒りの如くグラグラと揺れる大地、震源は目の前から。
「こいつはアレ用に取っておくつもりだったんだがなあ————!」
憂さ晴らし人形となった魂群はほとんど壊滅状態。
しかし邪神はこれをピンチと捉えないよう、その瞳には敗北の色は宿っていない。
『……そうか、そういうことじゃったか!』
「どうしたレネ」
『この島が、ここに創られた意味じゃよ……!』
「意味?」
『時と時の狭間! これは次元転移じゃ! 聖剣使いが飲み込まれるぞ!』
この島の現在地、それは日付変更線、人間にとってレネの言う通り時と時の中間点。
そこから起こる事象は『次元転移』
危険信号が高鳴る、ここから先は神域と化してしまう。
「聖剣使いだけはこの手で潰す! 真魔王! てめえの魂を対価にするぜ!」
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」
真魔王の身体が粒子と変わる、黒く莫大な魔力がアガレスへと吸い込まれる。
未体験なる奇跡が発動。
「エイラ!」
未体験が飲み込むは相棒。
アガレスの奴エイラを仕留める気、歪む空間、狂ったベクトルが黄金を上から食う。
(このままじゃエイラだけ何処かに飛ばされちまう……! シンクロも効かねえ……!)
次元転移という大技に同調は出来そうもない。
ならば走る、走って走って、前へ突き進む。
いかせん奇跡の進行速度は速い、飲み込まれるのはエイラだけ。
相棒が消える、この脚は途中挫折、間に合わな————
「超爆破!」
諦め刹那の瞬間、クラークの起こす爆風が近くで発生。
俺を異次元へと吹き飛ばす。
(クラーク……!)
「吹き飛ばされる過程を飛ばします! 流転!」
今度はシルヴィから。
この空飛ぶ身体を更に先へと飛ばす。
「鎖よ! 奇跡を縛れ!」
「神の技まで縛るつもりか! 不届きもんがああああああ!」
「不届き者で結構! 僕はドイツ人そして、ユウの友達なんでね!」
次元転移が一旦停止、活路は開く。
だがそう甘くはない、神速の身、それを襲う魂の残党たち。
移動に一点集中、防御できるような余力は————
「Ⅳ・棺」
「スサノオ!」
「死者よ出でよ!」
「……反射反撃」
みんなが襲い来る脅威を撃退。
シンクロ全開、全力疾走、前進するのみ。
「ユウ!」
「エイラ!」
一方的からの状況転覆。
やっと目前にエイラが迫ったとき、ついにヨーゼフの鎖も限界を迎える。
再び動きだす時間、現実に奇跡が行われる。
ギリギリで伸ばすこの手。
関節が外れるくらいに無我夢中、そして指先がなんとか交差、握ったその時。
真っ白な光が俺とエイラを包み込んだ。