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「痛ってえ……」
ボロボロからズタボロに。
使い古した雑巾のように酷い恰好。
アチコチ骨が折れ、火傷多数、無数の傷口から血が落ちる。
俺は天を仰ぐ、仰向けの心は完敗を実感する。
「まだまだね」
「あんた、いや、師匠が強すぎるんだ」
教授から実践へ、一線を飛び越えた先の戦い。
この左半身に刻まれた刻印、確かにテンペストの性能は上がった。
シンクロも山ほど使ったし、数少ない銀世界で仕掛けもした。
(まさかここまで差があるとは、いやはや現実を思い知らされるな)
戦いの後半はもはやイジメ、一方的に攻撃喰らうだけだった。
魔法自体の強さ、バリエーションもあるが、第一に敵わなかったのが『経験値の差』
まさに百戦錬磨、意識読みの魔法はレネが弾いているはずなのに、行動を読まれてしまう。
行動を読まれ繰り出さるクロスカウンター。
結局のところ、俺の攻撃は2、3発しか入らかなった、しかも与えたのは掠り傷程度、そんなものはすぐに回復魔法で治ってしまった。
こんなボロボロな姿になっても、見える戦果は得られなかった。
(でも体感した伝説級との格差、この経験は黄金よりも価値がある)
「トドメは刺さない、より精進を重ねなさい」
「頑張りますよ、それで師匠はこれからどうするんだ?」
「私はもう行くわ、この島もどうやらハズレのようだし」
「ハズレ……?」
どうやら師匠はこの島から去るようだ。
俺を仕留めないのは弟子という身分があるというのもあるが、もとより誰が相手でも殺す気は無かったそう。
曰く誰の味方でもないから。
しかしハズレとは、どういう意味なのか、まあ師匠にそんな問いかけしたところで教えてくれるはずもない。
なにせ名前すら教えてくれない、謎だらけの人なのだから。
「だけど醜い贋作は出来上がったようね」
「贋作、偽物か……」
「そう、でも意外とその偽物は強い、気を抜くんじゃないわよ」
「気を抜くって、俺もう起き上がれないくらい重体なんですが……」
全身を支配する痛みと痛み、呼吸するだけでも内臓が軋む。
神力も刻印に現在進行形で持ってかれており、回復に回すような精神的余裕も無い。
「ふふふ、これじゃあ彼とは戦えそうにないわね」
「彼と戦うって、その偽物って奴とだよな?」
「まあそれは自分の眼で確かめなさい、もう目覚めるようだし、直ぐに戦うことになるわ」
「ここからまだ戦うのか……」
要は偽物とかいうラスボスがこの島にいるんだろう。
師匠にしてはだいぶネタバレしてくれた方。
しかしてキツイ、もう疲労でへとへと、まだ戦いとか苦行以外のなんでもない。
精神面については気合に気合を重ねればなんとか、しかし身体的には限界、ホントに無理なやつで間違いない。
(そういや他の連中はどうなったんだか……)
俺がこの調子だと皆もだいぶ堪えてるんじゃないか?
いやでも俺は魔王連合で一番強い魔女王が相手だったからで、他の戦いついては幾分マシだろう。
船でのレネの話を合わせると、どうやら他の魔王も偽物のようだし。
「まったく、世話の焼ける弟子だこと」
「おお……!」
「感謝なさい。私の回復魔法を受けれるなんて一国の王でも無理なんだから」
身体を包む緑色の魔法。
優しく、温かく、ジワジワと浸透していく。
みるみる内に傷が治る、折れていた骨が再生する、臓器も正しい姿へ、これが魔女王の回復魔法。
浴びて実感、この魔法はチート以外の何でもない。
(こいつを常時展開出来てきるなんて反則だろ……)
たった数秒、それで俺の受けたダメージは何処かへ飛び去った。
むき出しの刻印皮膚、流石に服までは治っていないが、神業と言える回復技。
身体は大体復活、疲労感は残っているがそこは気合で押し切れる。
「これで戦えるでしょう」
「十分いける。でもその回復魔法っていうのデタラメすぎるぞ」
「今度機会があれば教えてあげるわ」
「まじで!?」
「機会があれば、ね」
軽くウインク、本気かどうかは、やはり分かりづらい。
しかし理論的には可能、俺の血液には師匠の魔力が流れているから。
それは刻印を刻む際に流入したもの、しかし師匠の魔力はかなり濃いらしく、鍛錬を積めば俺の持つ魔力量でもそれなりの魔法を使えるようだ。
いやはや是非ともご教授願いたい。
「無駄話はここまで、少しの別れといきましょう」
「そうだな、今度会ったら魔法を教えてもらうからな」
「ふふふ、分かったわ。なにせ可愛い弟子の願いだもの」
「じゃあな師匠」
「ええ、また会いましょう」
間を駆け抜ける一迅の風。
瞬きする瞬間、瞬く間に白色陣が発動発光。
気付いた時には師匠の姿は消えていた。
『ユウは変わった奴ばかりに気に入られるのう』
「それ自虐と思っていいか?」
『どういう意味じゃ?』
「レネも十分変わり者って意味だ」
『な、なんじゃと!?』
確かに俺には不思議な巡り合わせが多い。
エイラと出会ってからはその運命、縁も加速している気がする。
脳筋、神、魔女王、これ以上のものなんているかと疑問を持つ。
はてさて未来のことなど俺には分からない、やるべきは目の前の障害を打ち砕くこと。
『ぬ! どうやら魔女が言うところの偽物が出てくるようじゃ!』
「嫌でも感じてる、師匠、これ滅茶苦茶ヤバい奴ですって……」
少し遠方、レネが言うには島の中心から莫大な魔力の放出を察知。
俺ですらシンクロ使わずとも感じ取れる量、その禍々しさといったら、魔女王の魔力色が芸術的だとすれば、偽物野郎の魔力色は暴力性の塊といったところか。
近づく者すべてを叩き潰す、そういう殺気がビンビン出てる。
『なるほどのう、やはり真魔王にしては魔力が薄い』
レネは師匠の話で大体の事を理解したようだ。
スサノオと共に疑問視した問題の回答は得たらしい。
得たというより裏付け、やはり真魔王は誰かによって創造、もしくは意図的に復活させられたものであると。
『じゃが真魔王であることは変わらん。油断すれば死ぬぞ』
「気を許すつもりは無いさ」
『ならば良し! では魔王退治と行こうか!』
授かりし新たな力、生き返ったこの身体。
巨大な魔力渦巻く島の中心点へと向かう。
果たしてそこに辿り着くのは何人か。
(どうせ皆いるんだろうけど)
なんだかんだと頼れる仲間たち。
これでも最強の脳筋を名乗っている連中だ。
そこらの贋作魔王に負けるなんて恥ずかしいことはするまい。
これより大本命、『真魔王アレクセレス』討伐戦の始まりである。