5
「ではこれから実技授業を始めるぞ」
俺たちがいるのは校内練習場B。
Bついてるし大したことないなんて思ってたけど、すんませんイタリアなめてました。
広さはどれくらいだろう?
とりあえずメチャクチャ広い。
上は観客席になっていて見学も可能らしい。
建物自体はコンクリートで造られている。
ただシンクロして分かったが、このコンクリート、特殊な鉱物が混ざっているらしく、能力、それから物理的衝撃も吸収するらしい。
ようは頑丈ってことだ。
「今日のこの時間は、ヨンミチとの模擬戦にしようと思う」
「っえ!?」
「「「「「おおおおお」」」」」
おいおい突然だな。
エイガー先生ご乱心召されたか?
流石に無茶だろう。
「正直やりたくないんですけど」
「そう言うな。 みんなお前の実力を見たいんだ」
「そうかもしれないですけど……」
「いいではないですか。 やってくださっても」
話に入ってきたのは、 えーっと……
「ルチア・バレンデッリです」
「ごめんバレンデッリさんだったね」
「ルチアで結構です」
割ってきたのはルチアさん。
自己紹介の時も結構ツッコんでくる様子だったけど、もしかして脳筋か?
でもわかんないこともないなあ。
(身近にSランクいたら戦いたくなるよなやっぱ……)
「俺そんな派手な能力じゃないよ」
「重要なのは中身、です」
「……はあ、エイガー先生、模擬戦やりますよ」
「よしよし! 良い心がけだ」
良い心がけって、アンタ本当は俺の能力見たいだけだろ……
だけど皆1回見たらこの模擬戦やりたいです空気も終わるだろう。
ようは能力お披露目会ってことだ。
ならとっとと済ませるのが先決。
俺は嫌いな食べ物はすぐ食べる派なのだ。
「それで、俺は誰と模擬戦やればいいんですか?」
「私に戦わせてください! いえ私です!」
名乗りを上げたのはルチア。
どうやら脳筋説に真実味が増してきたな。
彼女の今の状態を表すなら、お預けをくらってる空腹の犬ってかんじ。
「私はAAランクですし、この中で私が一番適任だと思います!」
AAランクか。
妙に自信ありげに感じたけど、なるほどランクは高い方だ。
おそらくこのクラスでもトップ、もしくはその次くらいの実力はあるんだろう。
「まあ落ち着けバレンデッリ。今回の模擬戦にはある『条件』をつける」
「条件ですか?」
「そうだ。ハンデといってもいい」
ハンデと来たか。
ある意味賢明な判断といえるだろう。
俺も早く終わりたいし、能力をある程度使うつもりだった。
能力に制限を付ける類は皆嫌だろうし、となると1対2とか人数の類か?
「この模擬戦は小隊選とする」
「……小隊選?」
「ようは1対5。ヨンミチに対しお前たちは5人で挑んでもらう」
「っな!」
エイガー先生の条件は当たらずも遠からず。
ただ斜め上過ぎて予想できなかったな。
「私たち5人がかりで戦えと?」
「そうだ。でなければ数秒ともたないはずだ」
「……そうなんですか?」
ここで俺に振るか普通?
こっちもクエスチョンで返してやりたい。
挑発みたいなことは今後のためにも言いたくなかったんだけど。
「5人でも、特に問題ないかな」
「……っ!」
「おいおい本気かよ」
「流石に舐めすぎだよな」
「でもSランクだし……」
「そういや噂で、小隊選に1人で出ようとしてるって聞いたような」
いろいろ言われてるが最後、最後はデタラメだぞ。
言ったやつ絶対トニーだろ。
「……わかりました。では私の小隊で戦わせてください」
「構わん。ラッキーなことにお前のメンバーは全員このクラスだしな」
「感謝しますわ」
どうやら相手が決まったようだ。
ただ即興チームじゃないなら、連携してくることも視野に入れないとな。
俺の目の前にはルチアに続いて4人の生徒が出てくる。
この4人がルチアのチームメイトなんだろう。
「ベック・クルー、Aランクだ」
「アリエルだよ。ランクはA、よろしく!」
「よっす。ザック・エルフィンだぜ。ランクはBな」
「……サリー・シルファ、……Bです、……よろしくお願いします」
「私がリーダー、ルチア・バレンデッリ。ランクはAA」
俺の前に並んだのは5人の男女。
Aランク以上が3人とはなかなかの顔ぶれだ。
少なくとも高1の時点ではあまりお目にかかれない。
てか、ランクと名前って名乗るのか?
そういう流れ? そういう流れですか?
正々堂々と、ね。
俺の考えとは違うけど、ここは名乗っとく。
「ユウ・ヨンミチ。ランクはS、お手柔らかに」
「模擬戦を開始するぞ。他の生徒は観客席に移動しろ」
エイガー先生に言われ、残りの少ない生徒たちが移動していく。
今思えばイタリアに来てから戦ってばかりだ。
初めて来たときは魔王的な奴に絡まれるし、数日前には脳筋に殺されそうになるし、今日も今日とて理不尽な模擬戦。
これまでそんな悪運強くなかったんだけど、教会に行った意味は無さそうだ。
「お互い定位置まで移動しろ」
小隊選は場所によるが、基本は200メートルお互い離れた位置からスタートする。
ルールは簡単に言うと、どちらかのリーダーがリタイアしたとき、もしくは全員が戦闘不能になったときの2パターンしかない。
(手っ取り早く終わらせるにはリーダーのルチアを倒すことだけど……)
そう易々とは突破できるかどうか。
彼女の性格上どんどん突っ込んできてくれると有難いんだけど。
少し歩き定位置に立つ。
今回は学園の練習所なので障害物はない。
ただ真っすぐ、隠れる場所もなにもない。
真正面の総力戦になるのは必須。
「ルールは大会同様、リーダーもしくは全員の戦闘不能で決着とする」
向こうさんは気合十分ってとこか。
それとめんどくさいのは相手の能力が分からないこと。
こんなことなら模擬戦まで能力のネタバレやめとくべきだった。
「10カウントで始めるぞ」
エイガー先生からカウントダウンが始まる。
やっぱ相手が誰でも緊張してきたな。
どんな形であれ久しぶりの小隊選。
「5、4、3……」
加速していく時間。
減退していく感覚。
1秒1秒が長く感じる。
構える。
見据える彼方。
200先に『敵』がいる。
「2、 1……」
滾る。
滾る。
さあ、いこう。
「————始め!」