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「最強の脳筋が魔王連合と接触しました!」
仮ながら設置された魔王連合東京対策本部。
長を務めるのはもちろん雷槍。
そして今現在、衛星により、彼らが魔王の元に辿り着いたと確認された。
「さて、ここからだな————」
自分が雷槍として、英雄としての全盛期を思い出す。
それは魔王たちとの血生臭い、真っ赤に染まった記憶である。
体面はクールに、この仏頂面を動かさず。
しかし内心を支配するには焦燥感、恐怖感、期待感。
様々な感情が乱れ混ざり合い脳裏をジリジリと焼いている。
「追加情報! 島の周辺海域に魔物の異常発生を確認!」
「数は?」
「今なお急増中! 暫定ですが1万は軽く超えています!」
「熱源反応の大きさを見る限り、伝説級の怪物までいるようだな……」
「クラーケンとデス・ワームを確認しています! ただべリンダ・ドレイクが食い止めているようです!」
凶暴な魔物さることながら、伝説の生物までもが人類を阻むか。
いやこれ程の規模、おそらく魔王の何れかが操っていると考えるのが妥当。
もしくは1から生み出しているのか。
どちらにせよ海は地獄と化しているはず、だがそれを抑え込んでしまうあたり、やはり彼らも怪物である。
「撃ち漏らしが来るかもしれん、太平洋側の配備を強めろ」
「了解! 各隊に伝達します!」
いかせん万単位の魔物、艦隊の打ち漏らしが来てもおかしくはない。
ただ距離を考えるに、すぐに来ることは無いはず。
ただ、万が一にも抜け穴を造るわけにはいかないのだ。
なにせ旅立つ彼らに、この国は任せろと言ったのだから。
「若き英雄たちよ、頼むぞ」
自分はSSS級を冠しているが、実力の衰えは目に見えている。
序盤中盤は戦えても、終盤、最後の最後のところの根底が違う。
私にはもう無い、死ぬ気で生み出す、つまりは根性、勝利への執念がだ。
若き頃に持った炎は年を重ねるごとに、また戦いをしないことで錆びつき、消沈していった。
(だが彼らは胸に抱いている、真っ赤に燃える豪傑としての輝きを!)
既にあの10人はS級という枠には囚われていない。
エイラ・X・フォードに関しても頭脳を除けばSSS級に果てしなく近い実力を持つ。
(この世代はもはや神の悪戯、それほどまでに歪で、強く煌めいている)
数十年に一度の天災が一気に揃った。
S級の中でも突出して異様な彼ら、その世代を修羅と呼ぶのには十分。
更には魔王連合の復活、まさしく運命、人類の希望として颯爽と現れた。
「新たな伝説は既に始まっている————」
「————空を飛ぶのは楽しいなあ!」
「————俺はバンジー嫌だったんだけど」
「————ユウが考えた作戦です。自分が文句を言ってどうするのです」
「————その通り」
「————ヘルツガー、そろそろ鎖を解いてくれ」
「————っえ、もう少しこのままでもいいんだよ?」
「————まったく僕の服が汚れてしまった」
「————服なんぞどうでもいいだろ」
「————皆さんリアクション薄すぎですよ!」
船は粉砕、断片が辺りに散る。
衝撃によって大気に待った砂煙。
異なる九つの道、それぞれ出でるは力を持った強者共だ。
「くっくっく! 美味そうな魂が勢ぞろいじゃないかあ!」
それに相対するは魔を究めし我らが天敵。
声を発すのは狂気の笑みを浮かべる男である。
しかし奇妙、その発言主、纏うのは魔力というより神力に近い気がする。
『その通りじゃ。アヤツは魔王ではない、まさか現世に現れておるとはな』
(知っているのか?)
『その名はアガレス、元はソロモンに使えし悪魔だった者よ。今は転神しているようじゃがな』
なるほど、だから神性を感じたわけか。
しかし悪魔が神へと大出世とは、世も末だ。
カテゴリー的には『邪神』に分類、いやはやまさか実物を見ることになるとは。
ただ敵はその邪神だけではない————
「ほほう! これはまた豪傑揃いですなあ!」
その邪神を筆頭に、続々と登場する魔王たち。
様々な魔族的特徴から推測、衛星からの画像も合わせ、大体はその正体を見破っている。
(獣王、武天王、呪縛王、影王、そして魔女王)
5体は既に世界が観測済み、残る3体については1体は邪神アガレスと判明。
あと2体については、何処の魔王か、何の魔王か不明。
これまで世界に居たのかもわからない、新たな魔王である。
(この2体のどっちかが、海域の魔物操る本体ってところだろうな)
どちらか倒せばべリンダもこの戦いに加勢ができるというもの。
今なお主砲の轟音が耳に響いている状況だ。
「よし! では全員決めたやつと戦うんだぞ!」
おいおいエイラ、だからネタバレするなって。
だが言う通り、俺たちは事前に誰がどいつを相手にするか決めていた。
因みにどうやって決めたかというと、ずばり『クジ引き』であった。
それで自分の戦う相手が決まったわけだ。
(そして俺が引いたのは魔王連合の中でも特大のハズレという……)
「あら、私の相手は変幻がしてくれるのね」
「ホントは他の魔王が良かったんだけどな」
「レディの前で失礼なことを言うものじゃないわよ」
俺の相手は幾千の魔法を究めし者、魔女王その人である。
トンガリ帽子から流れ出る紫がかった髪、醸し出る妖艶さ、まさに絶世の美女。
しかしその実、魔王の中でも特に人類史に傷痕をつけた人物であり、まともに戦えたのは『賢者の書』ぐらい。
しかし結局のところ彼女も敗北、つまりは魔女王を倒せる者は人類には未だ存在しない。
(他の魔王は復活だから一度は死んでるわけで、勝てる見込みが少しはあるってもんだが、いかせん負け無しの現役最強の魔法使い、邪神もいるが俺にとってはこの中で一番厄介な相手だ)
操る魔法は千差万別、この世に存在する全てを扱えるとのこと。
手数は無限に等しい、まあ逆に言えば俺のシンクロと相性はいい方、いや逆、悪い方かもしれない。
なにせ根競べ、根性勝負であり、俺が少しでもシンクロを緩めた瞬間にこの勝負にはカタがついてしまうからだ。
「なにやら色々考えているようね」
「……思考さえ魔法で見透かせるってか?」
「そうね、確かに心を読む星魔法を会得してはいる。だけどその銀眼に潜む神様に阻まれているわ」
『ふん! こんな密度で見つめておって良く言うわ!』
どうやら無意識ながら、星魔法なるものを既にかけられていたよう、曰く心を読む魔法。
しかし流石レネ、それを弾いてくれている。
「私に見せてみなさい、全てを操る変幻の能力を————」
「ひっさしぶりだねえええええ! 聖剣使いちゃああああああん!」
「久しぶり? 私は貴方と会ったことは無いと思うが」
「ん、そうか! 確かにそうだ! 確かにこの感情は一方通行だったああああああああああ!」
コイツはもしかしてバカなのか?
少しおかしい奴だ。
先ほどから独りで叫び、独りで納得している。
「お前ことはねえ! 前から狙っていたんだ! この姿を見れば、どうだ思い出すだろう!?」
そういうと見た目服装が急転する。
その見た目は何処にでもいそうな男へと。
自信満々な表情を浮かべているが————
「……誰だ?」
「レイザーだ! レイザー先生! 授業もしてやっただろう?」
「すまないが、本当に記憶にない」
「くっそがああああああああああああああああああああああああああああああ」
レイザー先生?
いかせん授業は寝て、いや自主勉強をしていたものでしっかり覚えていない。
いや無論担任のミレアム先生や、仲の良いエイガー先生のことは覚えているぞ。
「めんどくせえ! 俺の名はアガレス! 神だ!」
「私はエイラ・X・フォード。セント・テレーネ学年2年Aクラス所属、出席番号は、えっと……」
「4番だろうが!」
「そ、そうだ。良く知っているな」
「だから学校に潜ってたって言ってんだろう! ほんとバカだなおめえは!」
この神名乗る者はエレネーガ様と違って落ち着きがない。
『情緒不安定』という言葉に相応しい、どうだ難しい言葉だろう、ユウに教わった。
曰く可笑しい奴、よく怒る星之宮などにも使える言葉らしいが、彼女にそれを言ったら余計に怒られてしまった。
「まあ兎にも角にも、アイザックの次はてめーだ」
「アイザック……、まさか学園長を殺したのは貴様だと言うのか……?」
「そうだぜえ! いやあアイツの魂はクソ美味か————」
(この体を強くしろ。強化)
言葉はこれ以上語らせぬまい。
ここからはこの聖剣、この肉体で聞いてやるとしよう。
「なんだ脳筋、怒ってるのか?」
「怒っているぞ」
「くっくっく! 良い闘気出すなあおい!」
学園長にはそれなりに世話になった。
自分で言うのもなんだが、私はよく校舎を壊す、それでも何時も学園長は笑って許してくれていた、と思う。
それ以外でも世話になったこともある。
我が学園の長、その仇はセント・テレーネの生徒であり、『学園最強』を名乗る私が行わねばなるまい。
珍しく思考は動いて、いやこれも本能が指示すること。
私はそれに従うのみだ。
「死をもって償わせよう、邪神……」
「アガレスだあああああああああああああああああああ」
再び名乗るアガレスという者にこの剣を振るう。
成し得てみせよう。
償いの行わせ。
そして、人間は神を殺せるのだということを。