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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 5 -New Legend 《最強の脳筋》-
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 「晴れてるなあ」


 8月初旬、真っ赤な恒星が肌を焦がす。

 かれこれ魔王島の出現から4日が経過する。

 正直なところ俺の生活にはさして変化は無かった。

 それこそエイラやシルヴィと駄弁ったり、ヨーゼフに異常なほど絡まれたり、あとはハチャメチャな会議を数回かやったぐらい。

 だがそんな日常はここで新たな転換点を通過し変革される。


 「よし! 皆揃ったな!」


 季節に負けぬエイラの元気すぎる調子。

 両サイドには最強の脳筋アルティメット・パワーズが勢ぞろい。

 中央にて向かい合うエイラが声を張る。

 更に目前に広がるのは地平線臨む青い海。

 潮の風を一点に浴びる。


 「結局、作戦は有耶無耶うやむやですけど……」

 「そう言うな巫女の姫」

 「ええ。もう気にしても仕方ないことです」


 嘆き露わに星之宮さん、それに諦め示す周り連中。

 相変わらず着物姿がお似合いなことで。


 (結局全員意見がバラバラで決まらないって言うね、まあこの面子じゃな……)


 分かってはいた。

 思っていた以上に嚙み合わない。

 行きついたのは今のところ殴り込みのただ一択だ。


 「————では俺から」


 出でるは雷槍マイザー・マルティネス。

 開会式の再来か、この出港式ともいえる場に登場する。

 あの時はボイコットしたが、今回は降ろせないモノを背負っている。

 逃げも隠れも、早引きも決して許されないし、するつもりもない。


 「こうして君たち、いやお前たちの前に立つと、開会式の悪夢を思い出す」

 

 その通り、がしかしその夢は移り変わる。

 幻想のように物語に刻む。

 序章を越え、ページを捲る、伝説の門出にいにしえの大英雄が祝福を。


 「伝えたいことは大会最後の日に言った。よって俺が送る言葉はただ一言」


 恐れるな、前へと進め、歴史を越えろ。

 既にあった感情、だが奮起する、戦いの息吹が一層増すんだ。

 ビリビリと感じる雷槍のオーラ数万ボルト。

 電気ショック与えたみたいに脳みそが痺れる。


 「この国は俺に任せろ。存分に暴れてこい!」


 武者震い、心臓を震源に振動、この手を強く握る。


 (雷槍にそんなこと言われちゃ、奮い立つってもんだよ)


 配置を大まかに説明する。

 魔王島を更に詳しく調査した結果、そこに住まう王の数は暫定で8体。

 挑むのは俺たち最強の脳筋10人と決定する。

 雷槍を筆頭とする残り僅かのS級、及びそれ以下の能力者は、日本の最終防衛ラインを務める。

 ようは万が一俺たちが死んだ時の最後の防波堤、もしくはすれ違ってしまった場合に時間を稼いでもらう役割だ。


 「ユウっち!」

 「ザック、てか皆も!?」

 「まったく一言ぐらい言ってから行きなさいよ」

 「そうだよー」


 ザックにルチア、それだけだと思いつつも気づけばその他諸々大勢と。

 この港に幾人もの人が集結する。

 それは今回の大会に選ばれた学生、中にはアイドルも、中にはお偉いさんも。

 皆と形容するにはあまりに豪華な送り人の人数だ。


 「アーサー! ちゃんとコミュニケーションとるんだぞー!」

 「わかってる……」

 

 はたや思えばイギリスの送り出し。

 アーサーに苦言を言いつつも、その表情に心配を感じさせるものはない。


 「無事に帰ってくるのですよシルヴィ」

 「はいお嬢様。この任務必ずやり遂げてみせます」


 ここには誉ある主従関係が。

 シルヴィがその心臓に命を刻む。


 「クー君も自分勝手しすぎないようにね」

 「なにフォードの方がヒドイだろうさ」

 

 クラークを見送るアメリカ勢。

 本土に残る貴重なS級がその2人、爆発思考に抑制を与える。


 「ユウ」

 「ああ」

 「死んだら、模擬戦のリベンジができなくなるわ」

 「そうだな」


 俺に声をかけるのは代表してかルチアだった。

 その声音は普段と変わって物足りない。

 沈みのあるかんじ。

 

 「ほらルチア、ハッキリ言わないと!」

 「で、でも……」

 「やるときはしっかりやるっすよ!」

 「う、うん」


 なんだ皆してルチアを後押しか。

 それ俺にするんじゃなくて?

 言葉が詰まる、思考がうまく回らないか、はたまた声帯でも失ったか。

 沈みかけの声、その顔を上げ俺へと向かい合う。

 紅の髪は潮風に揺られる。


 「……生きて帰ってきて」

 「なんだそんなことか」

 「そ、そんなこと!?」

 「いや言い淀んでたからさ。もっと重い話かと思った」

 「十分重いわよ!」


 紅蓮が彩る、灼熱に反射する熱き思い。

 さっきまでの曇り空は何処かへ飛び去ったようだ。


 「私には!? 私には何かないのか!?」

 「ふぉ、フォード先輩も頑張ってください」

 「うむ! 頑張るぞ!」

 

 エイラさん、言わせてませんか?

 そんなこんな、いやはや有難いことで、また随分無茶をしたとも思う。

 俺たちの出航は99%の国民は知らない。

 それは戦力不在になるということへの不安発現の防止、さらには魔王への情報伝播を考慮してだった。

 だというのに、こんな目立つようなことを。

 これは表れか、自分の想像以上に、自分たちを信じていてくれているのからこそ。

 それに男気ないこと、細かいことを脳筋の相棒が考えていては笑い者か。


 (おそらく雷槍の計らいだな。まったく無茶を、しかし粋なことしてくれるもんだ)


 少し頭の悪いことするあたり、やはりSSS級だ。

 年老いてなお、力衰えてなお、その本能は錆びつくことなくソコにあるようだ。


 「では、そろそろ出発するとしよう!」

 

 仲間と別れの挨拶、いやいや再会の約束だ。

 死ぬつもりは更々ないし、死ぬとも思えない。

 俺にはエイラ、それに頼れるかは微妙だが強い奴がたくさんついてる。

 孤独ではない、共に海を見る連中がすぐ傍に、確かに居るのだ。

 

 「べリンダ!」

 「あいよ!」


 エイラの声にべリンダ・ドレイクが応と。

 俺たちはこの大海原を突き進む。

 その道のりに待つのは幾多の荒波、物質と魔王による魔法の嵐が予測される。

 並みの移動機体じゃ沈むは必須。

 だからと言って期待に応えられるような、完璧なモノを未だ人類は創り出せていない。

 つまり、現実にある物体ではダメなのだ。


 「歴史再現ページ・ワン!」

 

 べリンダ・ドレイクの能力『歴史再現』が発動する。

 彼女が持つ限定時代領域の代名詞、無敵艦隊、その主戦艦が登場する。

 さざ波が騒めく、大気が震える、ガラスが割れるような音が響く。


 「無敵艦隊・旗艦アルマダ・フラッグシップ出航だよ!」

 

 この世界に歴史が再現される。

 あるはずのない巨大質量、古めかしい旗の大きいことよ、備え付けられた大砲に錆びは見当たらない。

 無敵を名乗る戦艦、その主艦が日の出を浴びる。


 (まさか島までの移動が無敵艦隊になるとはな————)


 あれやこれやと意見している内に、思いついた策。

 べリンダの能力で船を出せばよくない?

 これは画期的、なにせ燃料なんてものは無く、風が無くとも不思議な力で勝手に進んでくれる。

 しかもだ、例え沈没させられようとも、べリンダが新たに創り出せばいいだけのことだ。

 無敵艦隊というよりは、無限艦隊と言った方が的確かもしれない。


 (この船を簡単に沈ませる気は更々ないんだけどね)


 俺含めS級10人、若きの最高峰がいる。

 むしろ逆に送り返す、あの世に沈めてやるぐらいな気概。

 高い船体、梯子階段がなければ乗り込めない高さ。


 「よっと」


 その空いたメートル、同調した大気がこの身を押し上げる。

 エイラも強化で大跳躍、その他諸々簡単に飛び乗る。

 教科書でしか語られぬ歴史に俺は足を踏み入れた。

 旗が靡く、べリンダが操作、少ない風でも速いスピードを生み出す、この船は全て彼女が操る武器なのだ。


 「さて各々、最強の脳筋アルティメット・パワーズ最初の任務だ」


 全員が目線を交差する。

 今からやるのは降参無しの一発勝負。

 ブレーキ外れた大車輪、火の車になって突き進むのみ。


 (予想通りいけば到着まで僅か数日たらず、こりゃ気合入るな)


 風は追い風、海は潮の匂いを。

 見送り見送られる。

 それぞれが持つ不屈の信念。

 数世紀ぶりの大航海時代へ。

 英雄を乗せた黄金の船、東へと進む。


 

 

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