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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 5 -New Legend 《最強の脳筋》-
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 「それでなんだ! 皆ドイツのことをジャガイモしかない国って言うんだ!」

 「お、おう……」

 

 俺が会話する、どちらかと言えば聞いているだけみたいなもんだけど。

 相手はドイツS級『鎖』ヨーゼフ・ヘルツガー。

 グレー色の少し長めの髪、小柄な体躯、見た目は完全に美少女……

 なのだが正真正銘、男である。

 いわゆる『男の娘』というやつだろうか。


 「それでね、それでね————」


 ヨーゼフは嬉々として語り出す。

 大会中に見た感じだと、無口っぽい印象だったが、てんでそんなことはない。

 むしろコッチが受け身になるくらい饒舌に。

 目の前の姿からは『ドイツ最高、ドイツ最高』と虚ろな瞳で吐露していた人間とは到底思えない。


 (それに笑顔が眩しすぎる……!)


 まさに美少女、いや男なんだけども。

 ここに至るまで、それは1時間くらい前のことに遡る————













 「では今日はここまでとしよう!」


 星之宮説得後、具体的な攻撃手段を出し合う。

 そのどれもが最終的には気合と自分の能力でなんとかするという、まさに巫女姫が頭を抱えるものばかりだったわけだが。


 (だけど魔王島までのアクセスは無事に確立したことだし、進展したっちゃ進展したな)


 太平洋上に新たに生み出された国土、飛行場なんてものはない。

 それに並みの飛行機や船を使おうものなら簡単に撃ち落とされるだろう。

 ならばこそ、どうやって島に辿り着くか、流石に気合で行ける距離でもない。

 そこがネックだったが、ある奴の能力で何とかできそうである。


 (あとは伏せってる、ドイツ代表のヨーゼフだな……)


 小さく後ろんで1つ結んだグレーの髪、小柄相成って美少女に見える彼。

 さっきまで意見を出し合っていたわけだが、まあ皆が恐ろしいほどヨーゼフに当たりが強い。

 俺とおない年だが、なんかこう押しに弱いというか、気が弱いというか。

 ちょっとでもドイツ弄りされると、眼が虚ろになり自分だけの世界にレッツゴー。


 (今日もボソボソ呟いてるし、なんか祖国に帰りたいとかずっと言ってるし)

 

 この部隊では俺と唯一のおない年のヨーゼフ。

 なんだかんだ他8人は年上なのだ。

  

 (流石にかわいそうだし、一言ドイツ最高だよなとでも言っておくか)

 

 弄られキャラ扱い、しかも今日はエイラがトドメを刺した。

 内容は『ドイツってどこだっけ?』だ。

 いやはや、これを聞いたときのヨーゼフといったら、まさに抜け殻の風貌だった。

 この場での相棒エイラの不祥事は俺ぐらいしかフォローしてやれないからな。


 (しかし当の本人は終わった瞬間べリンダとどっか行っちまうし、他の連中もヨーゼフと俺以外は即時帰宅する始末……)


 唯一の良心たる星之宮さんも緊急の用事とやらで行ってしまった。

 この広い会議室は無言空間、正確にはヨーゼフの呪文が一方的に流れている。

 エイラの相棒、唯一の同い年、これも何かの縁、せめて俺ぐらいは優しくしてやろう。


 「えーっと、ヨーゼフ」

 「あの魔王たちのせいで帰国するのが遅くなっちゃったんだ、アイツらのせいだ、さっさと殺して帰国して……」

 

 (重くないか!? これもはや病んでるぞ……!)


 俺の呼び声は彼奴に届かず。

 眼光は暗く、行方は知れず、目下机へと目を伏せる。

 いや話せばわかる、わかるはずだ。

 

 「ヨーゼフ」

 「ドイツが大好きドイツが大好きドイツが大好き……」

 「ヨーゼフ・ヘルツガー!」

 「は、はい!」


 軍隊風に一つ声を上げる。

 能力発現したあの日以来、ドイツは軍国国家として再臨した。

 それは学校教育に及び、ヨーゼフも十分に訓練を受けている。

 この呼びかけに人が変わったようにシャキッと起立する。

 まさに規律という鎖に縛られたが如く。


 「変幻君……?」

 「ユウでいい」

 「う、うん」

 「なんか目が死んでたからな、ちょっとは気が締まっただろ?」

 「ちょっとどころじゃないよ。まさか教官が来たのかってビックリした」

 

 輝きをその視界に呼び戻す。

 打って変わって人間味を体感できるくらいには。

 苦笑してはいるが、教官に叱られたと思って意識が飛び起きたようだ。


 「随分ドイツに帰りたいんだな」

 「……そりゃね」

 「ドイツ、良い国だよな」

 「へ?」

 「料理も美味いし、観光地も結構あるし、礼儀正しい人も多そうって、おいなんで泣くんだよ!」


 俺の持ち得る生半可知識のオンパレードなんだが。

 まさかそれを悟られて逆に傷つけたか?

 ボロボロと落ちる滴をその黒い軍服で拭う。


 「な、なんか変なこといったか……?」

 「ううん。いやまさかそんな事言ってくれる人がいるだなんて。嬉しくってさ……」

 「まあ確かに、シルヴィやアーサーはヒドイことばっか言うからな」

 「変幻、いやユウ君の相棒さんにもね」

 「あれは……」

 「脳筋だからかな。でももう気にしてないよ」


 (本当か……? そんな良い笑顔で言われたら逆に怖いんだが……)


 「この部隊で唯一の同い年なんだし、なにかあったら気にせずに言ってくれ」

 「……うん!」

 

 (こいつ本当に男か……? 滅茶苦茶可愛いんだが……)


 いや騙されてはいけない。

 俺たちフレンド、俺たちメンズ、性別同一の存在なのは間違いないのだ。

 しかし、この容姿じゃナメられても仕方ない気さえする。


 「僕のこともヨーゼフって呼んで!」

 「ああ。よろしくヨーゼフ」

 「よろしく!」

 

 (なんだ意外と活発じゃないか。最初からこの調子で話せればいいのに)


 1対1なら話せるタイプなのだろうか。

 奥手で公の前で発表するのが苦手なタイプ。

 しかし打ち解け、関わってみればヨーゼフは非常に生き生きとしている。


 「それじゃあ祖国ドイツの話でもしようかな」

 「おう、聞かせてくれよ」

 「任せてよ!」


 ガッツポーズするくらい意気揚々と。

 ヨーゼフは溜まっていたモノを晴らすように口を動かす。

 刻んだ歴史記憶、情熱的に、それは嬉しそうに語るのだった————















 わけなのだが。

 既にそこから1時間ほど。

 長い、お国自慢が長すぎる。


 「それでドイツには隣国がたくさんあるおかげでね……」


 一般オープン情報から豆知識まで、津々浦々と。

 その一生懸命さ、言葉嚙みながらもその気概は十分伝わる。

 伝わってはくるんだが————


 「よ、ヨーゼフ」

 「なんだい?」

 「結構喋ったし、そろそろ帰らない、か……?」


 この会話にピリオドを。

 別に大変だとか、疲れたとか、ドイツ話飽きたとか、いやいやそんなことはない。

 ただ、いやそう、今日は用事があって早めに帰らねばならないのだ。


 「まだまだ話すことはいっぱいあるよ!」

 「いやあ、きょ、今日はもういいんじゃないかなー」

 「まさかユウもドイツを嫌うの……?」

 「嫌ってない! 嫌ってない! ドイツ大好き!」

 「なら最後まで聞いてくれるよね……?」

 「さ、最後って何時間後?」

 「うーん。とりあえず1週間はかかるかな」

 「すいません帰らせてください!」


 1時間でも長いと思った俺が1週間も耐えられるわけないだろうに。

 今回でヨーゼフが基本良い奴ということが判明したが、祖国愛が強すぎる。

 むしろ重すぎるくらい。

 ここは足早に去って有耶無耶うやむやにしてしまうが戦法である。


 「やっぱり、やっぱりユウも逃げるんだね」

 「すまん今日は用事がって……」

 「チェーン————」


 入口を埋めるは何処からか現れた無限の鎖群。

 鋼の重なりが重なり合って部屋中を埋め尽くす。

 まさに牢屋、地下牢に続く鋼地獄、ここに狭き牢が完成する。


 「よ、ヨーゼフ?」

 「逃げないでよ。僕たちせっかく分かり合ったんだし」

 

 眼がヤバい、ヤバいってそれ。

 虚ろから活気、そこから病んでるものへシフトチェンジ。

 ガラッと変わる雰囲気。

 飲み込まれる。

 

 (これまずい! 直ぐにでもここから退散しねえと!)


 もはや構いはしない。

 そしてこの今はシンクロを発動するしか乗り越えられるまい。

 即座に準備、コンマで発動、しようとしたが————

 

 「しまっ!」


 俺の腕に一本の鎖が巻き付く。

 頑丈な細い牢が存在近く。

 二つ名は『鎖』だ。

 鎖はナニカを拘束するためにある。

 それは肉体であったり、無機物であったり。

 ヨーゼフの鎖は全てを縛る、一度絡まれば最後、なにせこいつの鎖は、時さえも縛るのだから。


 「時を止めろ。時縛る鎖タイム・ロック・チェーン


 思考停止、見ていた景色が停滞する、現実から切り離される感覚。

 意識を失ったわけではない、ただ止まる。

 まるで録画した映像を一時停止したように、一瞬もブレず手足硬直、まさに一枚画。

 巻き付いた鎖が心臓を止める、呼吸さえも————


 『震えよ! 銀世界シルバー・レイ!』


 一点晴れる。

 鋼の停滞空間が一瞬にして染め上げられる。

 ハッと呼吸を戻す。

 死を垣間見た走馬灯なみの早さ、なんとかして状況を飲み込む。


 「……助かったレネ!」 

 『危ういのう。我がいなかったら死んでおるぞ』

 「ほんとにな……」

 『しかし時を止める能力者が存在するとは。もはや人はその領域を超え始めておるな————』


 レネが感嘆の声を漏らす。

 そりゃ鎖を絡ませなければいけない、決められた距離内でという条件はあるけれど、それがクリアされれば時間停止の餌食。

 よっぽどの力量持つ格上、それこそレネみたいな神様ぐらいしかこれには反応できないだろう。

 

 「そしてとっとと逃げる」

 「あ! 待ってよユウ!」

 「今度話聞いてやるから! 今日は勘弁してくれ————!」


 俺は一目散に解放された扉、勢いよく飛び出す。

 エレベーターなんか待たず非常階段を進む。


 『まためんどくさい奴と知り合ったのう』

 「ほんと変わり者が多すぎる!」

 『かっかっか! 愉快や愉快!』

 「笑い事じゃねーよ!」


 駆け降りながらもレネに愚痴漏らす。

 確かに、S級以上ってのは変人ばかっりだ。

 まるで死神に追われているんじゃないかって勢いで走り去る。

 全身汗流しやっと家に着いた時には、ヨーゼフから聞いたドイツのうんちく話は頭から何処かに飛び去っていた。

 変わり者ヨーゼフの代わりに俺を迎い入れるは、饅頭まんじゅう貪るエイラの姿。

 家に帰っても変人はいるが、やはりバカの話はヨーゼフより幾分も楽だった。

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