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『これより2117年度国際選抜戦! 表彰式を行います!』
激戦制した今日この頃に。
ズタボロの身体、悲鳴を上げている。
更には会場もボロボロ、まあ見るも無残な姿に生まれ変わって。
(ホント、雷槍の能力が無かったら死人が出ていてだろうな)
俺たち滅殺の聖剣と超次元爆発の衝突、それが引き起こす非情なる第二災害の発生。
それは観客席に走る、特殊障壁なぞ打ち砕き一直線に。
だが瞬間に強大な電撃が渦巻いた。
正体は雷槍の能力が伝達と上昇の発動だった。
流石に威力を封殺することは叶わず、しかしまさに達人、まさに神業、力を受けることなく天へ流したのである。
その一連の動作、俺は気付いてなかったが、レネがはなまる送るレベルだそう。
(開会式ナメた態度とってた自分を叱ってやりたいわ)
やりすぎたと反省はしている。
いくら雷槍が観客守ったとはいえ会場は荒れ地に、当分は使えないだろうし、治すにも相当金がかかるはずだ。
(まさかと思うが、もし請求書が来ようもんなら破産する……)
『ではまずは3位! フランス代表! エトワール小隊!』
ボロボロの会場にこの大会に出たすべての小隊が終結する。
臨時で設けられた特別席には姫巫女や各国有力者が座している。
3位はフランス、ようはメイド軍隊、中にはシルヴィの姿も垣間見える。
『準決勝ではイタリアに敗れましたが、3位決定戦では素晴らしい戦いを見せてくれました!』
俺の姿見えてないはずなんだが、なんだかシルヴィに睨まれているような。
寿司の一見以来妙に絡んでくるようになった。
といってもあの準決勝のあと2、3回合ったくらいだが。
(流石に寿司回はひどいことしたからな、今度なんか奢ってやろう)
『続いて第2位! アメリカ代表! 歩く核弾頭クラーク・カヴィル率いるカヴィル小隊です!』
次点はご存知、小隊制の模範生たちの入場だ。
多くの視線が彼らに向く。
歴代最強の面子、完成された連携、今回の優勝候補筆頭だった。
良い意味でも悪い意味でも、この2という数字は衝撃だったはずだ。
『決勝では惜しくもフランスと同じくイタリアに敗北! しかしながら、歴史上類を見ないほどの凄まじい連携と技を見せてもらいました!』
5人の動きはプロ級、実践でも十分、むしろ強すぎるくらい。
戦場第一線でも活躍できる。
その力量に俺たちもかなり苦しめられた。
だからこそ今痛みに嘆く俺の身体が存在する。
『さてさてそれでは! 大波乱の今大会! 優勝した小隊、いえ2人組に登場して頂きましょう!』
暗闇を通過する、ヒビの入った回廊を進む。
隣にはもちろん頼れる相棒、黄金の髪を靡かせる見た目だけは美しい彼女が。
一歩一歩、ここに来るまでズルするように駆け足の時もあった。
だけど今は急がない、堂々と、座すは王の如し、この身を世界に轟と晒す。
『唯一無二の最強タッグ! エイラ・X・フォードと四道 夕の登場だああああ!』
最後に気合入れてくれる、俺たちはクタクタ、だがまあだらしない姿は見せれまい。
基本体にプラス、背筋を少し伸ばす、ミリ単位で上がる視線高度。
『それでは、雷槍ライザー・マルティネス委員長お願いします!』
壇上に登場する。
間に合わせにしては中々立派な階上を一段一段上へと。
デカい。
大きな体躯を持つ、雷の英雄の目の前に立つ。
あらゆる視線は俺たち2人へと集中する。
「まずは、優勝おめでとう」
「ありがとうございます!」
「あざます」
拡大するマイク音、声を拾い周りに届ける。
周りどころか世界一周する範囲で。
「とても素晴らしい試合、いや試合と呼ぶには本気すぎるものだったが」
「ははは……」
「いやしかしだ。まさか本当に2人だけで制覇してしまうとはな————」
感慨深い。
そりゃそう、俺たちが世界の常識をぶっ壊したようなもん。
小隊制含め、戦略やバランス意識、そういう根底をゼロに戻したのだ。
世界創造、破壊と再生、俺たちが歴史を塗り替えたと言っても過言じゃない。
「そして、銀の闘神エレネーガを使役しているなどとは、本当に驚いたよ」
「使役っていうかは、ちょっと世話焼きな友達ですかね」
「そうか、神を友と呼ぶか……」
「おかしいですか?」
「いいや懐かしくてな、シズハも同じことを言っていた」
『……シズハ』
雷槍は苦笑する。
まるで昔話をするように、いやこれは確かに過去の話しだ。
天へと飛び立った銀に愛された彼女のこと。
「シズハは結局その神の名を明かさなかった。だが、その神を生涯最高の友だと言っていた」
「生涯最高……」
「まるで君と銀神のようだなと思ってな。いやこの場で話すべきことでもないかもしれんが————」
これも確かにそう、この場は思いで浸る場所でもなんでもない。
勝利を称える場に違いない。
周りも俺とエイラ以外はクエスチョンマーク多めか。
しかして有難い、いや待っていた。
もう決して口を開くことない彼女の言葉を、ようやく友は受け取ることができたのだから。
『そうか、シズハは我を友と呼んだか』
「しかも最高だってさ」
『我もそうじゃったよ。いやはや神にこのような運命が廻ってくるとはな』
ちょっと愚痴り気味、この縁に。
レネは実体無し俺の中に居る、だがなんとなくだが、レネは笑っている気がする。
口調もテンションもいつも通り、だけどその口元は優しく儚く笑っている気がするのだ。
「さて世間話はここまでとしよう」
その手に持つのは本来5つのメダル。
しかし今回は2つだけ、首に通す、勝者の証だ。
人類史越え、アカシックレコードに刻む。
地球創造から現在に至るまで、これが最強のタッグ、俺とエイラの始まりであると。
始まりの1ページ、プロローグは十分書いた、これよりが本編の到来である。
「若人たちに俺は喝采する! よくここまで来た! よくここまで強くなった!」
叫ぶはライザー・マルティネス。
俺たちに檄をぶつける。
届ける先は黄金改変、修羅の世代へと。
スラスラと読むことは叶わない、一癖二癖、歴代稀に見る特異性のオンパレードの連中に。
ここに居る猛者たちは、何処かで勝ち、どこかで負けた、しかしその眼差しに淀みは一切無い。
「恐れるな! 前へと進め! そして越えろ、俺たちを越えて行け!」
修羅たちは重んじている、自分たちの成すべきこと、守りたいもの、貫きたいプライド、どれかを根底としながらもビジョンを描いている。
それは彼の英雄10人の伝説を自分たちで塗り替えることである。
始まりのページは俺たちが書き込んでやった、後に続く波乱の物語は誰が主人公かわからない。
(やっぱ、俺はこの時代に生まれて良かったな……)
縄文、戦国、江戸、それよりも生きる今この時を。
かつては能力故に虐げられる時もあった、シンクロ上手くいかず闇を味わったときもあった。
それを考えても、強者との出会い、それに勝って得た瞬間の感情、エイラの隣で味わえる心地よさ。
俺は、俺にもっともマッチする居場所は地球上でここなのだ。
『マルティネス委員長ありがとうございました! それではこの後の————』
古代英雄の言葉は己が心に染み込み消えた。
大会の終了、長かったような短かったような、いよいよ最後の終止符をうつ。
誰もがそのつもり。
一色の感情線。
ここに混ざる闇など皆無、あるわけないと思っていた。
しかし異変は起こる。
地震大国日本、それを考慮しても強すぎる揺れが起こる。
体幹揺らす、体感シンドローム、錆びれた会場が一層悲鳴を上げる。
『まさか、嘘じゃ、この魔力は……!』
「震度幾つだよこれ!」
『奴じゃ! 奴が蘇った! あの魔王が!』
「レネ? お、おい落ち着けって……」
レネは声を荒げる、揺れが増して口頭不調、膝をつく。
どんどん強くなる大地震、いやこれは地震と呼べるのか。
周りも足を取られ地に伏せる。
「ユウ!」
「俺は大丈夫だ! ただレネが……」
そうこうしている間に会場崩壊が進行する。
シンクロを発動、落ちそうな建物その全体をなんとか支える。
他の奴等もうまいこと動き始め対抗、その身を文字通り震い立たせる。
「一体この揺れは————」
俺の疑問はすぐに返ってことになる。
海の向こうからこちらまで。
勝利つかの間、俺たちは大波乱の渦中へと身を投じることになる。
始まったのは俺とエイラの脳筋伝記だけではなかった。
人類敵対するは闇の出現。
魔王たちとの戦いが再び幕を上げたのだった。