52
一線上に炸裂する力の息吹、この場を戦場へと変える。
更に変わるはこの身体、戦火に飲まれより燃える。
最終ラウンドと決め込んだ今現在。
剣戟は熾烈を極め、ここを激戦の死地へと向かわせている。
「————聖剣!」
「————四段起爆!」
光が襲えば破裂が迎える。
クラークは空間を爆破、エイラの剣閃を右へ左へ流していく。
そこで間に合わねば仲間がカバーする。
まさに小隊制の鏡と言える連携、そしてそれに見合った速度で体現している。
(十字聖剣はあとどれくらいかかる!?)
(あと7分、いや5分くれ!)
(ならそれまでは……)
(ああ! この距離での殴り合いだ!)
本能に従いこの体を動かす。
目を合わせずとも次の行動を伝達する。
ミクロレベルに最深部へ、連携を超えた神的なまでの一体化。
生命の神秘へと近づく、2つを宿す魂の誕生を祝おうか。
「強化!」
「まったく、変幻君まで強化使えるのは反則だよね!」
「あんたこそ、そのピカピカかなり目障りだ」
「キャナリーって呼んでくれていいよ!」
キャナリー・ホワイトの閃光能力、これは光に関する力は他の群を抜いている。
目を眩ます方、光を打ち出す方、他を飲み込む方、1人で十色。
だがその中でも、大本命ともいえる使い方が————
「黄閃光!」
「それも十分反則だっての……!」
キャナリーの身体は変色する。
正確に言うならば光と成っていくのだ。
己が体を文字通り『閃光』とし、光の速度を体現、そして一時的な不死身を得るのである。
「形作れ閃光! 剣をこの手に!」
「魔槍! 嵐を起こせ!」
不死身は当然。
光に攻撃することは不可能、剣も銃弾も通り抜ける。
閃光になるということはそういうこと。
(ただ部分的縛り、時間の縛り、弱点は多い————)
全てを全て、永久に不死にはもちろん出来ない。
どうしたって斑模様、成りきれない、制約が発生する。
そこを一点に狙う。
「無弾……!」
「あ! ローちゃん!」
「ローちゃんは辞めろ」
「……っ、俺大人気かよ」
尽きることのない薬莢、撃鉄落としその砲身から放つ。
拳銃スタイルでありながら連射速度はMGに匹敵するだろうか。
弾数は尽きず、空間を縫っての射撃可能、不可能な連射速度、常識の範疇をとうに超えた原理不明の拳銃。
そんな現代兵器の見た目をした謎兵器、俺に向けて放つ万単位の赤い弾道、この身を削る。
「大気同調!」
「速度強化!」
「サンキュー、エイラ!」
少しでも隙があれば俺の大気はエイラと相対するクラークへ。
そしてまるでお返しの如くエイラからの強化の呪い。
無限弾数と閃光の化身に対応するための速度をくれる。
『鉄砲は頭上からじゃ! 閃光の方は左上腕を狙えい!』
ただ俺とエイラの関係性には、もう1人、いやもう1柱頼れるやつがいる。
レネだ。不可視の弾道を察知、閃光化出来ていない部分を即座判別、やることなすこと神がかり的に。
「右はキツイ、なら左に回りこ……」
『ユウ! 足元爆弾じゃ!』
「っしま! まじで————」
音ならない地雷がここに、踏んでカチリと言わず無言の爆発起こる。
その仕掛け人はクラーク・カヴィルしかいない。
完全に虚を突かれた、いつ仕掛けられたのかもわからない。
いくら皮膚硬度、速度を強化していても、この四肢は耐えきれない程の熱量を発生させている。
腕は伸ばせない、手は届かない、この両脚は宙を舞う、リタイヤまでの一方通行ルール。
「————銀世界!」
限定解除、爆発地点Xを銀世界へと革命変化。
決められたルールを粉砕する。
不発で終了、足本半径数メートル円であらゆる外的能力を封じ込める。
「ったく、普通はあれを回避できるはずはねーんだが」
「脳筋さんの相棒なんだし、普通なんて言葉は存在しないでしょ」
「お前らのチートぶりも大概だぞ」
(銀世界を使っちまった、小規模範囲であと使えて……)
『あと2回じゃ』
(少ないなあ……)
『まあ神力を回復にも回しておるからのう、仕方あるまいよ』
多勢に無勢とまでは言わないが、相手が人数で有利なことは間違いない。
向かってくるすべてを捌き切れるわけではないのだ。
首を下せば無数の傷と流れ出る赤いもの。
強化を使ってなおこのダメージ、逆にエイラは俺のシンクロで調子良さそうだし、むしろ傷を負ってもそのまま突き進んでるかんじ。
「爆ぜろ! 連鎖起爆!」
「ユウ!」
「わかってる! 能力同調!」
更なる大規模テロリズム、繋がった炎が辺りを飲み込む。
クラークの仲間たちは発動前に即座理解、死角へと回避している。
(お、重すぎんだろこの能力……!)
まさにメガトン級、見たまんまの威力を持った能力的な重さ。
エイラが弾いたらむしろ隙を生むほどに。
ならばこそ俺が根こそぎ掻っ攫う、同調はなにもの消滅させるだけではない、同調した能力を操ることも可能なのだ。
「お返しだ! 連鎖起爆!」
クラークの連鎖、そのまんまにどんでん返し。
空に翻る真っ赤な印、その旗のように翻るこの大地、アメリカへの逆襲熱風波。
「五段起爆……! マイク! グレイ!」
「応よ!」
「了解っすわ!」
この猛威の逆襲に向かうは3人の勇者たち。
爆破漢とその他2人の付添人。
相殺の爆発、飛び散った火線を後が抑える、その動きのまあ上手いことよ。
一定を空けさせたこの距離感の丁度よさ。
俺とエイラ、それに相対する敵のポジション、まさに俺たちにとっての黄金比率だ。
ここが見せ場であり決め場、滅びの黄金剣を使える絶好にして唯一かもしれないタイミングだ。
「エイラ!」
「ああ!」
「「解放! 十字聖剣!!」」
否応なく空気を変革する超絶なる波動が解放される。
力、力、力。
パワー、パワー、パワー。
純粋までの強さ、イングリッシュでストロング。
封じられられしエイラの聖剣能力、その力の権化が今解き放たれる。
「神よ! この声が届くならば、この願いが届くならば! 私たちに力を!」
エイラの強化は最高潮、その祝詞は天へと昇華していく。
フルで滑動するはシンクロの真価発揮への回転機関、暴走この手に収めんと奮起する。
「クラーク!」
「はっはっは! 面白い! なんて高密度のエネルギー! お前たちは人の道をとうに外れたな!」
「笑ってる場合じゃねえぞ! 今は隙が多い、すぐにでも————」
「つまらん!」
「は……?」
俺たちはパワーを溜めに溜める、起動したものにガソリンを注ぐように。
1回転、2回転、3回転、グルグルと回る。
十字聖剣への抑えで僅かな隙は生まれてしまう、しかしそこを突かれようものなら————
「突っ込んだところで、どうせ銀の世界で封じられるだろうさ」
「そ、それでもよ……」
「それにだ! もし仮に隙を突き勝ったとしても、それは俺たちが臨む完全勝利ではないだろう————?」
俺は攻めて来ない理由が分かるきがする。
これに正解もなにもないけれど、思うのだ、小賢しい手ではない、見栄えある最高の力で完封しなければ真の最強は名乗れないと。
「また、俺は我儘を言っているか?」
「はあ隊長が言うんじゃが仕方ねえな……」
「うんうん。私もクー君の意見に賛成」
「俺もっすわ! やるんならとことんバカみたいにやりましょう!」
「こりゃ思った以上の大仕事だなあ」
相手に異変あり。
既に固まっていた絆と連携、さらに凝固する。
力の奔流、アメリカから吹くは一撃の新風。
『どうやら、あやつらも一発で決めるそうじゃな』
「ありがたいことだよ。ホントにクラークは漢らしいわ」
「ならば全力でぶつかるのが私たちの使命というものだな!」
合成能力ってのは非常に難易度が高い。
そもそも個性あるオンリーワンを合わせるなんてのが無茶な話なんだ。
水と油、そういう関係性を理解したうえで、人は切磋琢磨、汗水流してようやく完成するかというもの。
個々の能力が強ければ強いほど、その合体は不可能の事象を多く含むのだ。
(S級が3人もいる中、それで5人で能力を合わせるなんてこと、不可能に近い、でももし可能にしたとしたら————)
「エイラ」
「感じているとも、ただそれすら超えればいいだけの話だ」
「ごもっともで……!」
『強い収束反応、死ぬでないぞ! 打ち勝ってみせい!』
アメリカ勢はクラークを中心に、並び立った5人の姿で反り立つ。
思い返せば刻まれた無数の傷痕のぶり返し、今更気付くは荒れ狂った会場と観客たち。
そんなものは捨てる、再び奈落の底、思考の外に弾き飛ばす。
熱狂乱舞、俺たち踊らされはしない、ひたすらに勝利を求めた過程とその先へ進む。
「————俺は別に神様に運命どうこう願うわけじゃない。むしろ願望は自分で叶えるつもりだ」
エイラは神への祈りを捧げるが、俺は心を露わに、不信を聖剣へ、天へ吐露する。
近頃の神様は実体ある、すごい力を持ってる、だがさっきも言った、踊らされはしないと。
神様の手の平で幸福へ向かってだけのダンスは御免被る、手の平じゃない、あんたたちの目の前を躍ってやる。
求めるのは力だ、あくまで手段、あくまで武具、もしくはレネとのような友情の力。
レネの手の平にはいない、しっかりと隣に立っている、そういうビジョンを目指す。
「————だからさ聖剣の神様、アンタの力俺にもくれよ」
人が持ち得し尽きることのない無限の欲望を。
いろいろ持っていながらまだ欲す。
聖剣とつながった時に感じた、この剣の真価、本気はこんなもんじゃないと。
もっと、もっと上へ昇れるとわかっている。
エイラ1人じゃ完全発揮は出来ない、ならばこそ、俺は此処に立ったのだ。
「ゆ、ユウ……」
『ほほう! 光神め認めよったな!』
俺から迸る新たな光、それはエイラの放つ黄金色と同じだ。
黄金の煌めきが内底から溢れ出る。
新たな聖剣の担い手の誕生。
聖剣は生まれ変わる、俺を含めた更なる高みへと。
「なんだユウも結局ここに来てしまったな」
「気持ちは既に来てたさ。それに力が伴っただけのこと」
「やはりお前はバカだ」
「バカって言ったやつがバカなんだ、知ってたか?」
無駄口叩く。
その無駄1つ1つは此処まで重ねてきた絆の確固たる証。
形無き証拠に他ならない。
消滅の聖剣、淀みは無い、一点集中の溜めがついに終わりを迎える。
「頼むぞ相棒!」
「相棒こそ腰浮かせんなよ!」
2人して担う聖剣の柄、周りからは輝く粒子が嵐のごとく渦巻く。
溜めに溜めた、ミリ単位のズレも無し、満を持して強く踏み出す。
天高く光の剣を掲げ、勝利をいま仰ぐ。
「————真十字聖剣!」
放つは絶対の一振り。
これより後は存在しない、触れるものすべてを滅ぼす破滅の導き。
それに相対する、燃えるが如くの反発数。
「行くぞ!」
「「「「イエッサー!」」」」
俺たちが敵にして、立ったライバルのような存在。
その幾つもの手に手を重ねる。
急上昇する熱量、歩く核弾頭は連鎖する。
その5人が勇者は決める、その完成で。
「「「「「核爆発」」」」」」
真向激突、真向衝突する。
相反する、まさに龍と虎の如く。
贈る言葉は必要なし、この剣にすべて乗せた。
それこそ俺たちが勝つという脳筋たらしい単純な思いのみで。
「爆ぜろ! 脳筋共!」
クラーク吠えた先、爆破の勢いで押される?
いやいや盛り返す、それこそ何十倍返しで。
拮抗に拮抗、一刀を一投、ただ我武者羅に、ただひたすらに。
「「うおおおおおおおおおおおお」」
光の剣は真価を見出した。
青と銀混じった天上座す黄金の灯。
螺旋描き全てを飲み込み、消滅させる。
俺たちの一直線は熱を穿ち、この戦いに誇り高き終止符をさした。