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「————開闢強化!」
「————ガンガン来い!」
エイラが強化を開始する。
肢体に神経、識別に関するものすべてを強く。
自己に留まるはずの黄金粒子が見えないナニカを伝って俺に来る。
「行くぞ————」
脱兎のごとく。
閃光に変化、戦慄のハイスピードラン大地を駆け抜ける。
「まずは私からだな!」
高次元に到達するこの身体、俺より一歩早く聖剣が飛ぶ。
空間を引き裂く、力の落下、人為的な地盤沈下を発生させる。
「起爆《プロ―ジング》!」
「聖剣!」
聖剣を相殺するはクラークの大気爆裂。
焼け焦げる、散った火花が髪を燻る。
弾けた粒子が辺りを散開する。
「ロビン! マイク!」
拮抗にすぐさま入り込む2つの影が。
片方は言わずと知れた『無拳銃』と、あとAAA級の誰か。
クラークと拮抗したがために生まれたエイラの停滞時間を狙う。
テンパることもなく、滑り込むように相棒の首へと迫っていくわけだが————
「速度強化」
「っげ! もう追いついたんかよ変幻!」
「筋力三重強化」
「うっそだろ……!?」
速度を上げる、筋力を重ね重ね重ねる。
目的に瞬間到着、強化された己が拳を放つ。
エイラの影は俺に重なる、交差する、手に入れたんだエイラだけの能力を。
口を開けば心臓に突っ込まれる火薬燃料。
勢いよく燃えてこの脳みそを脳筋へと昇華する。
「なんでお前が脳筋の能力を使えるんだよ!?」
「企業秘密だ————」
お喋りしている暇はない、目下1つの首がすぐそこに。
ただ彼の疑問は爆発で砕け散る。
決して俺の問題放棄ではない。
破裂させたのは歩く核弾頭、これでもう少しだった戦況が振り出しに。
「マイク! 足を動かせ! 首獲られるぞ!」
「す、すまん!」
(エイラ! クラーク抑えとけよ!)
(すまんすまん。なんだか眩しい女が来たものでな)
(閃光か、一旦動きを合わせよう)
(うむ!)
「四重強化!」
「同調、力を回してくれ」
打ち合わせ?
会話は自然に溶け去った。
それで生み出すのは不自然なまでの完結された連携ムーブだ。
相手に息継ぎさせる暇も与えない。
巻きむ、不完全理論を内包したゴチャゴチャの波風。
『進行方向、3秒後右下から鉄砲じゃ』
レネの言葉が俺を抜けエイラにも伝わる。
その弾丸俺に向けてだろうが、まさに未来予知に匹敵、その瞬間だけ面白いようにエイラとポジションチェンジ。
聖剣が何処からか現れた弾丸を弾き飛ばす。
「……クッソが! なんで不可視弾を防げんだよ!」
「化物ってことだろうよ!」
「突っ込んで来んぞ! 頼むキャナリー!」
「任せて。青閃光!」
不可視の鉛玉の次は青い閃光のお出まし。
キャナリー・ホワイトの手に集まった閃光玉、突き出した拳から吐き出される。
(目くらましか)
(頼んだぞユウ!)
(了解。どうせそのあと攻めてくるんだろうけど————)
「能力同調!」
輝きをを更に濃く。
端から端を浸透していくシンクロ能力、全てを乗っ取る。
輝く前に消滅させる。
眼は眩まない、目の前に迫ってくる漢の姿をハッキリと捉える。
「二段起爆《プロ―ジング・2》!」
これまた一瞬で熱気発生、突風が襲う。
「魔槍! 嵐を起こせ!」
右腕に集まる黒き風、形無きを形成し、爆発を押し返す。
嵐と爆が衝突する。
活路を創り出すために。
無彩限に彩る能力の到来、この場を華の戦場へと変えるのだ。
「白閃光 赤閃光」
「ピカピカピカと目障りなんだよ!」
「それが私の能力だからね!」
白と赤が螺旋を描く。
まさに紅白に交差、動きを拘束される。
左右、隙ある逃げ場を他の奴等らが埋めてくる。
「薙ぎ払え聖剣!」
再三言う、活路を創りだすのだ。
はなから退路などという後ろ向きな考えは存在しない。
エイラは俺事巻き込むぶっとい一振りを圧し掛かる。
ただそれはアドリブであるが、俺には先行流出している。
「大気同調、重ねて強化!」
生み出す、上げに上げた凄まじい走りの切れ味を。
木っ端みじん、縦横無尽にこの体を操る。
頭と足先逆転、身体が逆転しこの身に炎の熱さが降り注ごうとも、この本能は正解へと近づいていく。
「エイラ! あっぶねえよ!」
「なに、ユウなら避けられると思っていた」
「まあ来る瞬間に伝わってはきたけど……」
身体にかかる薬でもキメてるんじゃないかってバフの掛け合い。
俺とエイラの肉体は既にこの世を飛び越える。
鉛を弾く鋼の身体、沈むことのない不屈の闘心、相棒との回線接続。
俺たちはそれこそ人外級、これを打ち倒せるのは勇者とその仲間ぐらいなもん。
「————随分派手にやってくれるな」
そしてヒーローの候補がすぐそこに。
まさに漢、膨張した筋肉、自己犠牲を含んでいそうな英雄気質、それに付き添うは手練れの仲間たち。
「やはりあの程度では倒れないか!」
「いやいやクラークの相殺爆破が無かったら死んでたっつーの!」
「ん? 誰だったか?」
「ロビン・マズレールだ!」
「拳銃使いだエイラ」
「ああ! 鉄砲男だったか! 焦げていて判別できなかったぞ!」
「て、てんめええええええええ」
エイラの一撃相殺する爆破の大きさ。
それに伴って発生した火花がナニカを焦がす。
それは髪であったり、それは服であったり、それは戦う意思であったり。
「落ち着けロビン。脳筋に悪気はない」
「よくおわかりで」
「変幻も彼女相手によくついて行く。 しかしまあ、最初脳筋に相棒が出来たと聞いた時は驚いたが————」
舞台を破壊。
既に観客の声も気持ちも飲み込んだ。
外部遮断、真に耳に入るのは目下とエイラぐらいなもん。
「だが納得する! お前は彼女に相応しい!」
勝手に整えられていく全ての戦闘準備。
その中でクラークは認め、叫んだ。
「はっはっは! そうとも! 私の隣にはユウの席しかないのだ!」
「そうだな」
「なんだ照れているのか?」
「て、照れてねーよ!」
別にツンデレになったわけじゃない。
改めて世界は、溢れるライバルたちが俺たちを、俺たちという存在で確定する。
もう改変することのできない。1度動かせば2度と止まることのない永久機関級に。
「俺は感謝してるよ」
「そうだな! 私もそう思うぞ!」
言葉は未だ語らずともエイラは分かっているし、そもそも考え同意。
感謝するは俺たちと戦った戦士たちにだ。
礼を述べるとも。
なんせ俺たちの力に真向からぶつかって敵対してくれる。
そして地に沈み、力の誇示をさせてくれた。
最後には、最強の称号もくれさえする。
最初に言った通りなんだ。
客も世間も相手も全部たいらげる。
かける言葉は————
「「いただきます!」」
勝利をこの手にいただきます。
感謝を表し根こそぎ搔っ攫う。
強化同調は今だ衰えの色をまったく見せない。
むしろここまで調子よく刻めるとは自分たちでも驚いている。
力は廻り廻り、そのたびに真価を見出す。
より一層、俺たちは強くなっていく。
「最終ラウンドと行こうか————」
このまま拮抗して持久戦?
そんなものはつまらない。
後先考えずに突っ走る、フル回転する毛細血管。
生み出す血液また加速する。